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寄り道もしてみるもんだ
だけど、次の日もその次の日もまどかさんと挨拶はできなかった。
見かけるたびに、とても難しい顔をして、考え事をしているようだったから、邪魔しちゃいけないのかなと思ったんだよ。
そうしているうちに、2週間が経って11月も最終週になっていた。
足のギプスも取れて、ぎこちないながらも松葉杖なしで歩けるようになっていた。
本当なら営業に戻されるところだったけど、佐藤さんがこのままシステム担当に置いていて欲しいって社長に直談判してくれたそうで、俺は引き続きシステム担当でいる事になった。
つまり、まだまどかさんと仕事ができるという事だ。ありがとう佐藤さん。
姉ちゃんの原稿もいよいよ追い込みで、それに比例して俺も手伝わされていて疲れも寝不足も溜まっていた。真っすぐ家に帰るのは気乗りしなかったので、適当に理由を付けて遅くなる連絡を入れて駅のすぐそばにあるコーヒーショップに入った。
店内は相変わらず、マックブックを開いてコーヒーを飲む意識高い系男女で溢れていたけど、窓際に並んだカウンター状の一人席に、見慣れた姿を見つけた。
まどかさんだ。
タブレットPCで何かをしているように見える。持ち帰った仕事だろうか。
偶々まどかさんの左側の女性が席を立ったので、俺はすかさずその席に座った。
まどかさんは気が付いていない。
PCの画面を覗き見る趣味はない。作業が終わったら声をかけるつもりで、俺もスマホを取り出してゆっくりとコーヒーを啜りだした。
10分くらいした頃だろうか。コーヒーを半分も飲んでいないくらいの時間だ。
「終わったー」
と、小さな声でまどかさんが言った。
安堵したのかため息をついて、タブレットPCを足元のカバンに仕舞おうとして、俺の右側にぶつかった。
「すみませ――あ」
やっと僕の存在に気が付いたのか、まどかさんが驚いている。
「お疲れ様です。いつ声をおかけしようと迷ってたんですが」
僕は偶然見かけて、隣しか空いていなかったからここに座っただけで、決して狙ったわけじゃない事を説明した。
「偶然――ですね」
まどかさんはサラサラの髪の毛を揺らしながら、微笑んでくれた。
「お仕事ですか?」
手に持っているタブレットPCを指さすと、まどかさんは少し顔を赤くしてから、慌ててカバンの中にPCをしまい込んだ。
「個人的な用事――のようなものです。自宅のネットが調子悪かったので、ここで作業をしてたんです」
「そうなんですね。お家はお近くなんですか?」
「ええ。三駅以内だと会社から家賃補助がでるので、うちの社員はこの辺に住んでる人、多いんですよ」
なるほど。だからいつも歩いてきてたんだな。
「柏木さん、この後ご予定は?」
「え?」
「せっかくですし、もう少しお話しませんか?近くに美味しい店沢山ありますし」
「すみません。お誘いいただいて嬉しいんですが、今日はこの後行くところがありまして」
申し訳なさそうにしているけど、本当に用事があるのか、警戒しているのかはわからないな。
「いえいえ。俺もいきなりでしたし。またお誘いしていいですか?」
「あ、はい。でもしばらく忙しくて、またお断りする事になるかもしれません」
「なるほど。じゃあ、お嫌でなければ、連絡先の交換をしていただいてもいいですか?連絡先が嫌ならSNSでも」
俺が携帯を取り出すと、まどかさんは少し悩んでから携帯を取り出して、連絡先を教えてくれた。
それだけで満足だ。
次の朝、地下鉄の出口から出ると、いつもの時間にいつもの場所でまどかさんとすれ違ったけど、俺は敢えて声をかけなかった。
その代わり、スマホを取り出すと昨日聞いたばかりの彼女のメッセージアプリのアカウントにメッセージを送った。
『おはようございます。さっき柏木さんとすれ違いましたよ。僕に気付いてませんでしたね』
送信すると、すぐに返事がきた。
『本当ですか?私無視しちゃいました?すみません』
かわいい。
あまりしつこくしてもいけないので、スタンプだけ送って会話を終了した。
見かけるたびに、とても難しい顔をして、考え事をしているようだったから、邪魔しちゃいけないのかなと思ったんだよ。
そうしているうちに、2週間が経って11月も最終週になっていた。
足のギプスも取れて、ぎこちないながらも松葉杖なしで歩けるようになっていた。
本当なら営業に戻されるところだったけど、佐藤さんがこのままシステム担当に置いていて欲しいって社長に直談判してくれたそうで、俺は引き続きシステム担当でいる事になった。
つまり、まだまどかさんと仕事ができるという事だ。ありがとう佐藤さん。
姉ちゃんの原稿もいよいよ追い込みで、それに比例して俺も手伝わされていて疲れも寝不足も溜まっていた。真っすぐ家に帰るのは気乗りしなかったので、適当に理由を付けて遅くなる連絡を入れて駅のすぐそばにあるコーヒーショップに入った。
店内は相変わらず、マックブックを開いてコーヒーを飲む意識高い系男女で溢れていたけど、窓際に並んだカウンター状の一人席に、見慣れた姿を見つけた。
まどかさんだ。
タブレットPCで何かをしているように見える。持ち帰った仕事だろうか。
偶々まどかさんの左側の女性が席を立ったので、俺はすかさずその席に座った。
まどかさんは気が付いていない。
PCの画面を覗き見る趣味はない。作業が終わったら声をかけるつもりで、俺もスマホを取り出してゆっくりとコーヒーを啜りだした。
10分くらいした頃だろうか。コーヒーを半分も飲んでいないくらいの時間だ。
「終わったー」
と、小さな声でまどかさんが言った。
安堵したのかため息をついて、タブレットPCを足元のカバンに仕舞おうとして、俺の右側にぶつかった。
「すみませ――あ」
やっと僕の存在に気が付いたのか、まどかさんが驚いている。
「お疲れ様です。いつ声をおかけしようと迷ってたんですが」
僕は偶然見かけて、隣しか空いていなかったからここに座っただけで、決して狙ったわけじゃない事を説明した。
「偶然――ですね」
まどかさんはサラサラの髪の毛を揺らしながら、微笑んでくれた。
「お仕事ですか?」
手に持っているタブレットPCを指さすと、まどかさんは少し顔を赤くしてから、慌ててカバンの中にPCをしまい込んだ。
「個人的な用事――のようなものです。自宅のネットが調子悪かったので、ここで作業をしてたんです」
「そうなんですね。お家はお近くなんですか?」
「ええ。三駅以内だと会社から家賃補助がでるので、うちの社員はこの辺に住んでる人、多いんですよ」
なるほど。だからいつも歩いてきてたんだな。
「柏木さん、この後ご予定は?」
「え?」
「せっかくですし、もう少しお話しませんか?近くに美味しい店沢山ありますし」
「すみません。お誘いいただいて嬉しいんですが、今日はこの後行くところがありまして」
申し訳なさそうにしているけど、本当に用事があるのか、警戒しているのかはわからないな。
「いえいえ。俺もいきなりでしたし。またお誘いしていいですか?」
「あ、はい。でもしばらく忙しくて、またお断りする事になるかもしれません」
「なるほど。じゃあ、お嫌でなければ、連絡先の交換をしていただいてもいいですか?連絡先が嫌ならSNSでも」
俺が携帯を取り出すと、まどかさんは少し悩んでから携帯を取り出して、連絡先を教えてくれた。
それだけで満足だ。
次の朝、地下鉄の出口から出ると、いつもの時間にいつもの場所でまどかさんとすれ違ったけど、俺は敢えて声をかけなかった。
その代わり、スマホを取り出すと昨日聞いたばかりの彼女のメッセージアプリのアカウントにメッセージを送った。
『おはようございます。さっき柏木さんとすれ違いましたよ。僕に気付いてませんでしたね』
送信すると、すぐに返事がきた。
『本当ですか?私無視しちゃいました?すみません』
かわいい。
あまりしつこくしてもいけないので、スタンプだけ送って会話を終了した。
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