付喪神狩

やまだごんた

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人形編

21.後朝の朝

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 とおるが目を覚ますと、自宅ではない所だった。
 自宅――と言っても御門みかどとのマンションの一室なのだが、とにかくそこにある自分の部屋ではなかった。
 
 昨日は居酒屋で如月きさらぎと御門の3人で閉店まで飲んで、御門に引きずられるようにクラブに連れて行かれてからの記憶が途切れ途切れだ。
 体を起こすと、服を着ていない事に気が付いた。
 ――下着は――履いている。汚れた気配もない。
 痛む頭を回すと、どうも所謂ラブホテルの一室のようだった。
 ベッドの横の台には、亨がいつも飲むペットボトルのミネラルウォーターが置いてある。手に取るとまだ冷たい。
 新品であることを確認して一息に飲み干すと、ベッドの隣を確認したが、亨は一人だった。
 御門が一緒ならマンションに戻っているはずだ。あの人の帰巣本能はこの3年で熟知している。
 しかし、御門は居ない。そうだ、クラブに入って早々に寄ってきた女とどこかに消えたんだ。
 ――あの女好きめ。
 飲み干したペットボトルを握りつぶす。それより、ここはどこだろう、なぜ一人なんだ。
 ベッドから起き出ようとしたその時、部屋のドアが開いて、バスタオル一枚を纏った女が部屋に入ってきた。
 亨よりいくつか年下だろうか。メイクのない顔は長いまつげが魅力的な美人で、体に視線を落とすとくびれたウエストが立派な胸を強調させている。
 亨は慌てて下半身を布団に隠した。
「あれ?起きてたの?」
 あっけらかんと女は微笑むと、ベッドにやってきて亨の隣に腰掛けた。
「昨日はかっこよかったよ。覚えてる?」
 女の問いかけに亨は黙って首を左右に振った。自分の吐息が酒臭い。

 御門が「すぐ戻るね」と言って女と消えてから、亨はしばらくバーカウンターでタバコを吸いながらビールを飲んでいた。
 クラブに来たのは初めてだったが、とにかくうるさい。酒を注文するにも大声で喚かないといけない。
 腹に響く低音が酔いを加速させるような気がした。
 ――もう帰ろう。御門なんか放っておいても勝手に帰ってくる。そう思ってグラスをカウンターに置いた時だった。
「いい加減にしてよ!離せよ!」
 周囲の音楽に負けない女の怒声が耳に入った。
 声の方向を見ると、女性が壁際で男に迫られている。あれがクラブで有名なナンパってやつかと、亨はぼんやりと眺めていた。
 男は所謂壁ドンの体勢で、手に持ったジョッキを女に無理矢理飲ませようとしている。女は嫌がっているように見えた。
 今日は休日だが、亨は警察官だ。
 そして生真面目な性格だったので、放っておけなかった。
 男の背中に近づくと、肩に手をかける。
「嫌がってるんだからやめなさい」
 つい職務中のような口調になるのは酔っている証拠だろう。若干呂律が回っていないのは愛嬌としてほしい。
 男は振り向くと、亨の顔に一瞬見とれたような様子を見せたが、すぐに気を取り直して「関係ないだろ。なんだよお前」と、お決まりのセリフを吐いた。
「酒を飲ませてどうしようっていうんだ?もし酔わせて前後不覚の時に性交渉をした場合、君は準強姦に問われるがいいのか」
「わけわかんねー事言ってんなよ。ノリの悪い奴だな」
「遊ぶのは構わないけど、嫌がる女の人に絡むのは迷惑行為と思わないのか?御門さんなんか嫌がる女性には絶対に無理矢理しないぞ。あの女好きは一応の礼儀ってもんを弁えてる。いや、俺を放置してる時点で礼儀もクソもないんだが」
 亨は酔っていた。目の前の男が怒鳴っているのもよく聞こえない。ただ、目の前にいるのが御門ではない事に苛立っていた。
「そもそも俺はクラブとか嫌だって言ったのに何で連れてきて放置なんだよ。遊びたいなら一人で遊んでくれよ。俺を巻き込むな。俺は帰ってミケさんと戯れたいんだ!」
 亨はそう言うと壁に手をついた。男の顔が亨の腕の横にある。
 いつの間にか女性は亨の後ろに回っており、男はさっきと逆の姿勢で亨に迫られる形になっていた。
「さ……さっきから何言ってんだお前。大丈夫かよ……」
 亨の権幕と愚痴に男がトーンダウンしている。
「大丈夫なのかはお前の方だ。嫌がる女性に無理矢理迫るのは御門さん以下だ。あれはあれで最低だと思っていたけど、更に最低な奴がいたとかどうなってるんだ」
「なんだと――」
 亨の言葉に男は気色ばんで亨のシャツの胸倉を掴んだ。
 その瞬間、亨は男の手首を極めると、男はあっという間に壁に押し付けられ、手にあったジョッキはひっくり返る形で中身を亨と女性の全身にぶちまけた。
「2時35分。公務執行妨害で現行犯た――あ、俺今日休みだわ」

 つまり、目の前の女性は亨に助けられたが、亨のおかげで全身に酒を被り、服を着替えるためにこのホテルに来たのだが、部屋に入るなり亨は服を脱いで布団に入って眠りこけたのだと説明した。
「――申し訳ありませんでした」
 亨は下半身を布団で隠したまま土下座した。
「いやいや。助けられたの私だし――それより、どーする?」
 女はバスタオルの胸元を押さえると、亨に熱っぽい視線を送っている。
「ど――どうすると言われましても」
「ホテルで男女が二人きりなわけだし、やる事って言ったら1つでしょ?――ってか、なんでそんなに緊張してるの?まさかその顔で童貞?」
「そ――そんなわけ……とにかく僕は帰りますから」
 女を押しのけると、亨は急いでソファに掛けてあったズボンを履き、シャツを羽織ると入口へと急いだ。
「――そのドア、清算しないと開かないやつだよ」
 部屋の中から女の声が聞こえるのと、靴も履き切らない亨がドアノブを回せずにドアに激突するのは同時だった。
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