付喪神狩

やまだごんた

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心霊番組編

36.管狐

「ああ、伺ってますよ。こんな古い神社にご苦労様です。管理人の田中です」
 田中は頭を下げると、御門から名刺を受け取った。
 名刺だと――?
 亨は、目玉が落ちるのではないかと思うほど、御門と田中のやり取りを見ていたが、驚いていたのは野木たちもだった。
「調査が終わりましたら、またお声がけさせていただきますが――」
 御門は言葉を切って少女を見た。
「彼女はこの辺りの?」
 御門の問いに、田中は首を振った。
「いやいや。初めて見る子ですわ。この辺の子はこんなとこには来んからね」
 その答えに、御門がニヤリと笑ったのを見て、亨は嫌な予感がした。
 まさか、御門さん。未成年に手を出したりしませんよね――?
 そう言いたいのをぐっと堪えていると、御門は続けた。
「学校の宿題かなんかで神社を調べてるのかな?よかったら私達が引き受けますよ」
「え、お邪魔やないですか?」
「将来を担う学生さんの役に立つのも、国家公務員としての職務ですよ」
 目の前の爽やかに笑う男は誰なのだ。「私」とか言っている。
 それより、宮内庁職員がジーンズとパーカーで来るはずないだろ。疑え、田中。
 亨は御門になにか悪い霊でも取り憑いたのかと思ったが、残念ながらそんな痕跡はひとかけらも見当たらなかった。

「く……宮内庁職員だと?」
 田中が少女を置いて帰って行くと、織田か野木が呟いた。
「あ?言ってなかったっけ?」
 田中の姿が消えると、御門はいつもの面倒臭そうな態度に戻った。
「聞いてませんよ……」
 思わず亨までもが口に出してしまった。
「んー。まぁその話はまた後でね。とりあえずお前」
「はあ?」
 急に態度が変わった御門を、少女はあからさまに睨みつける。
「管狐か?おおかた、テレビでも観て使役しに来たんだろうけど、やめとけ」
 御門の言葉に、少女は顔を赤くした。
「なんでわかったんよ。あんた何者?あと、あたしは『お前』じゃなくて飯山ひかりってちゃんとした名前があるんに」
「ちょ――ちょっと待って下さい。私らを忘れんでくださいよ」
 織田が慌てて割って入る。
 次のターゲットは自分かも知れないのに、なんでこいつらは痴話げんかみたいなことを始めてるんだ。
 前に来た時とは段違いに禍々しい気配に、織田は焦っていた。
「ああ、そうだったな。とりあえずひかりはここの精霊が狙いなんだろ?」
 挑発的な笑みに、亨は絶対にろくなことにならない未来しか見えない。止めなければ。
「やってみな。お前が使役出来たら、ここの精霊はくれてやるよ」

「管狐って、伝承やマンガに出てくるアレですか?」
 羽柴の言葉に、張っていた亨の気が緩んだ。
 たしかに、自分も修行を始める前まではそんな認識だった。
 どうも、この羽柴という男は憎めない。だから芸能界でも生き残ってこれたのだろう。亨はそう思った。
「そうですね。媒介となるもの――だいたいは竹筒や瓢箪なんかの入れ物が多いんですが、僕の知り合いはシウマイ弁当についてくる醤油入れを愛用してましたね」
「え?あの――陶器の?」
「はい。なんでもいいんですよ」
 亨の言葉に、羽柴は思わず吹き出してしまった。
「だからって、醤油入れ――」
 気持ちはわかる。亨も初めて見た時大笑いしたものだ。
 亨は、落ちていた棒で地面に大きな円を描き終えると、羽柴達に伝えた。
「みなさんを守る結界を張りますから、この中に」
「また護符使うのかよ――もったいねぇ」
「経費で計上できますから!」
 御門のヤジをいつも通りいなすと、亨はポケットから護符を取り出して霊力を通す。
 
「左が青龍は万兵まんぴょうを避け
 右が白虎は不祥を避け
 さきが朱雀は口舌こうぜつを避け
 後が玄武は万鬼を避くる
 前後を扶翼す、乾坤元亨利貞げんこんげんこうりてい急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 亨の声が木々の間に響くと、札が手を離れ空中に浮いたまま固定される。
「どうなってるんですか?これ」
「知らん。私も初めて見た」
「カメラ……持ってきたらよかった」
「カメラなんか持ってきても撮影させませんよ――この結界からは絶対に出ないでくださいね」
 亨は呆れた表情で言うと、御門とひかりを見た。
 ひかりは、亨の結界に驚いているようで、亨と御門を交互にみて眉をひそめている。
「なにやってんだよ。早くやんな」
 御門が顎で促すと、ひかりはウエストポーチからストーンでデコレーションした片手程の大きさの容器を取り出した。
 大笑いする御門を尻目に、ひかりは右手で印を組んだ。
「お狐さんお狐さん、洞より出でてきまっしゃり」
 ひかりが唱えると、蓋を開けた容器から2匹の管狐が飛び出すように現れた。
「おー。なかなかいいじゃん」
 御門の言葉に、ひかりは得意げな顔をした。
「お狐さん、その社じゃ」
 ひかりの言葉に、管狐たちは一瞬怯んだように見えた。
 そして、ひかりの周囲をうろうろと飛び回るようだ。
「おいおい。手持ちの奴らすら言うことを聞かせらんねーとかギャグかよ」
 ひかりは御門を睨むが、御門はおかしそうに笑っているだけだ。
「おい、来るぜ――」
 軽薄で挑発的な笑みはそのままに、目線だけは社を睨んでいる。
 だが、野木たちには何が起きているのか全く分かっていない。
 ただ、不穏な空気が結界の外に渦巻いていることだけは、理解できた。
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