付喪神狩

やまだごんた

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心霊番組編

37.贄

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「なんで?なんで言うこと聞かんの?」
 ひかりの泣きそうな声が響いたその時だった。

 「諸々禍事罪穢つみけがれを祓い給ひ清め給ふたまえきよめたもうと申す事の由を天つ神地つ神あまつかみくにつかみ八百万やおよろず神達共に聞食きこしめ畏み畏みかしこみかしこみもうす」

 早口で御門が祓詞はらえのことばを唱えた。
 御門の体から巨大で神々しい狼が姿を現すと同時に、社から黒くおぞましい気配を持つ何かが現れた。
 これがここのマガツヒ……
 亨が狼とマガツヒを見比べて唖然としている。
 なるほど、管狐が怯むはずだ。
 その姿は女神――宇迦之御魂ウカタノミタマを模していた。
『祓詞を省略するなと何度――』
「うるせーよ。ほら、飯の時間だ」
 御門がそう言うと、真神は仕方なさそうにマガツヒと向かい合う。
「ちょっと――そんなん反則やし!」
 ひかりが御門に掴みかかろうとしたが、ひかりの周囲を飛び回っていた管狐が急に意思を持ったようにひかりに襲い掛かった。
「宇迦之御魂は狐を使役する、いわばお稲荷さんってやつだ」
「御門さん何やってんですか」
 亨は結界のために動けない。
「何が起きてるんですか」
 羽柴がおろおろと尋ねる。
「あの女の子が使役している管狐が……あの子を攻撃してるんだ。このままじゃ、あの子狐に呪い殺されるぞ」
 織田の言葉に、羽柴は顔面を蒼白にしたが、野木はむしろ喜んでスマホで撮影している。
「そんな事あるんですか?」
「あるんだよ。飼い主よりもカミサマの言うことの方が絶対でしょうが」
 羽柴の声に御門が笑いながら答える。
「助けてやんないのかよ」
 羽柴が言うと、御門は亨をちらりと見た。
 今結界を解くと、マガツヒは間違いなくこいつらの命を狙いに来るだろう。
 祓詞を省略してしまったせいか、真神の力が半減している。
 しくじった――と、御門は思ったがフル詠唱していては絶対に間に合わなかったのだから仕方ない。
 今は真神とマガツヒの力は均衡しているが、管狐を通してひかりの霊力を奪われると面倒だ。
 ひかりを喰らったら、次は絶対に亨を狙うことは目に見えている。
 そうなると、今の真神では勝てない。
「しゃーねぇなぁ……可哀想だけど」
 御門は小さく呟くと、ポケットから護符を出した。
「おい、クソ犬。俺が隙を作るから、アレを喰え」
『わかった』
 御門は一瞬だけ、憐みに満ちた目をひかりに向けたが、すぐに宇迦之御魂に視線を戻した。

「のうまくさんまんだばさらだん かん」
 
 御門の声が響くと、札はマガツヒを目掛けて飛んでいく。
 入れ替わりに真神はひかりごと管狐に牙を立てると、瞬く間に管狐を腹の中に収めた。
 ひかりがその場に崩れ落ちるのと、マガツヒが札を黒く染めるのは同時だった。
 真神は、身を翻すと神々しい毛並みをうねらせてマガツヒに喰らいつき、見る間にマガツヒを腹に収めた。

「さて、次はあんたらのお祓いだ」
 倒れているひかりを尻目に、御門が軽薄な笑みを浮かべて言った。
 結界を解かれたことで、御門の戦いが終わった事を理解した3人は困惑した。
「祟りの根源は大和さんがなんとかしてくれたんでしょう?なんでお祓いが必要なんですか」
 野木が不満げに返すと、御門はそれを鼻で嗤った。
「祟りの根源は解消しましたが、神様との縁は残ってしまってますからね。それを取り払わないと同じなんですよ」
 ひかりの体を抱き上げて戻ってきた亨が申し訳なさそうに言うと、3人は顔を見合わせた。
「季節が夏でよかったよなぁ」
 御門は楽しそうに笑っている。

 本来であれば、いつかの時に亨がしたような断食や写経の清めを行うのだが、代わりに滝行と塩抜きをすることで清めを1日に圧縮できる事を伝えると、3人は大喜びで滝に打たれている。
 いつまでもつかねぇ……真神で食っちまえばすぐなんだけどなぁ
「とーるちゃんがいるしなぁ……」
「僕がどうしました?」
 独りごちた御門の背後から、亨が声を掛けると、御門はいつも通り軽薄な笑みで「別に。とーるちゃんはかわいいなぁって思っただけ」と言った。
 また殴られるかな。
 御門が覚悟を決めたのに、亨の拳は飛んでこない。
 亨の顔を見ると、真っ赤になっている。
 あら、かわいい。
 御門はくすくすと笑うと、亨の肩を抱いた。
「羽柴の祓いが終わったら、片桐もよくなるかもしんねぇな」

 「ちょっと!大和御門!」
 旅館に一泊した朝、部屋に飛び込んできたのはひかりだった。
「おいおい。その年で男の部屋に忍び込むとか将来怖いよ?あと2年したら相手してやるから我慢しとけ」
 亨が入れてくれた備え付けの緑茶を飲みながら、魅力的な笑顔で言う御門の横っ面を、ひかりは遠慮のない拳で殴りつけた。
「あたしのお狐さんらどないしよった!!」
「食ったけど?俺の犬が」
 しれっと言い切る御門の胸元を、ひかりは力一杯締め上げた。
「なにしてくれとんのや!このあんごたれがぁ!」
 亨は、二人を見ながら静かに茶を飲んでいる。
「落ち着けって。ちゃんと説明するから」
 御門は、そう言うとひかりを座らせると、見計らったようなタイミングで、亨が茶を出す。
「お前の管狐は、マガツヒに指揮権を奪われてたんだよ。つまり主替えだ。そうなったらもう戻らねぇ」
 珍しく優しい声だな、と亨は思ったが、感心はしない。
「うまかったぜ。お前の狐」
 ほらな?御門はクズなのだ。
 亨は目の前で御門がもう一発殴られるのを見て、少しだけ胸がすく思いだった。



###あとがき###
次回の更新より、週1回の更新に変更いたします
毎週金曜日に更新を予定しています

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