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番外編
大和御門の初恋1
付喪神狩を始めて2年が過ぎていた。
付喪神と言っても、厄介な奴らばかりでもなく、静かに依り代や家族を守る「神のような」者もいる。禍つ神と呼ばれる者も、そうそう頻繁に暴れ回る事もない。
御門たちが狩るのは人間に害を及ぼす禍つ神だけだ。
したがって、真神に喰わせる付喪神は年間でも10体あればいい方だった。そうなると困るのは御門だ。
油断するとすぐに霊力を喰われる。
「お前さあ、俺を依り代にして霊力を集めたいんだったらちょっとは自重しろよな」
御門は体の怠さを日増しに感じ、真神に文句を言った。
ここ十日ほど風邪をひいて寝込んでいた為、外出もできず真神の餌を補充できていない。
その為、御門の中にいるこの駄犬は遠慮なく御門の霊力を喰っていた。
今日は漸く街に餌を狩りに出たのだが、霊力を喰われすぎたのに加え、真夏の日差しが病み上がりの体にはきつく、とても体が重く感じる。
『我の神力が削られると勝手にお前の霊力を喰うのだ。我の意思ではどうにもならん』
嫌ならさっさと付喪神を見つけるか、それなりの量の悪霊を喰えと、真神は鼻でせせら笑う。
以前、御門が俺が死んだらどうするんだと詰め寄った時、真神はしれっと『次の依り代を探すに決まっている』と言ってのけた。
『お前は確かに常人よりも高い霊力を持ち、見目も我が主が認めるほどに美しい。しかし、お前とていずれは死ぬ。そうなれば神力が戻るまで繰り返し依り代を移り変わるよりなかろう』
我が主という時はでっかい尻尾をぶんぶんと嬉しそうに振りながら真神が言うと、御門は目の前が真っ暗になる気分だった。
「俺じゃなくてもいいんだったら他の奴のところに行けよな」
こいつのせいで俺は学校も行けず、毎日こうやって街をうろついては悪霊を探して喰わなきゃいけない上、おっさんにファーストキスを奪われるなんて不幸を背負ってるっていうのに……
『お前は我が主日本武尊に選ばれた唯一の人間だ。それにもうお前の魂と我は結びついておる。お前が死ぬまでか我の神力が安定するまでは離れられんわ』
そう言ってのけた真神に、御門はこいつこそ禍つ神なんじゃねぇのかと思った。
御門は体の怠さに加えて真夏の日差しに体力を奪われ、意識が朦朧とし出すのを感じた。――これはやばい。
『東雲を呼んだ方がいいのではないか?』
「断固として断る」
御門の中から真神が心配そうに声をかけたが、御門は即座に拒絶した。もうおっさんにキスされるのは嫌だ。東雲は初めは無機質に霊力を分けているだけだったが、次第に御門が嫌がるのを見て楽しんでいるようにも見えた。
挙句に、御門の童貞も東雲に奪われたようなものだ。
修行を終えた山からの帰り路、東雲からの霊力を拒否し続けた御門は、霊力が枯渇し、いよいよ命を喰われるという危険な状況だった。
意識が朦朧とする御門に、東雲は車の中からどこかに電話をかけると、目的地を変更して山の中腹にある神社に到着した。
動けないほど消耗している御門を抱き上げると、東雲は神社の裏にある社に入った。
そこは小さな旅館の部屋のようで、真新しい畳の上に、寝心地のよさそうな清潔な布団が一組敷かれていた。
「すまないが、頼むよ。――多分初めてだろうから優しくリードしてあげてくれ。ついでに今後の手ほどきも」
東雲は御門をその布団に寝かせると、後ろをついてきた巫女服の女性にそう言った。巫女は静かに頷くと、東雲は御門に向かって「すまないね」と頭を下げた。
巫女服の女性は静かに頭を下げると、「大口真神様と交わえる機会をいただき、こちらこそ感謝いたしますわ」と言って御門の隣に腰を下ろし、東雲に部屋から出るよう言った。
御門は唇に柔らかい感触と、霊力が流れ込んでくるのを感じ、薄く目を開いた。
東雲ではない、見知らぬ女性が寝ている御門にキスをしている。
――なんで?
状況が飲み込めない御門は慌てて女性を引き離そうとして、彼女の肩を掴み、彼女が裸である事、そして自分も裸で寝かされている事を理解した。
「お目覚めですか。御門様。大丈夫ですので、全て私に任せてください。――ああ、真神様……」
20代半ばだろうか。黒髪が美しい凛とした表情の美人が、うっとりと妖艶な眼差しで見つめている。それも裸で。
混乱する御門を無視して、女性は御門の体を撫でまわし、やがて一番敏感な場所を刺激し始めた。
16歳の少年がその状況に抵抗できるはずもなかった。
それから一週間の間、三人の女性が代わる代わる御門の中の真神に霊力を捧げに、御門と夜を共にし、御門の中で真神は至極満悦と言った状況だった。
普通の高校生男子なら夢のような状況でも、東雲のお膳立てだった事が何よりも許せなかった。
なんで俺がこんな目に……御門はビルの陰に座り込むと、苛立たしい気持ちを早く霊力を補充しなければという焦りで頭が痛かった。
「――大丈夫?」
座り込んだ頭の上から、涼し気な女性の声が聞こえてきた。
頭を上げると20代前半だろうか。長い髪を肩に垂らして、どこか懐かしい顔をした女性が心配そうに御門を見下ろしていた。
かなりの霊力を持っている。それも修行をした者と同じように研ぎ澄まされた霊力だ。こっち側の人間か?だったら話が早い。
「おねーさん……ちょっとキスさせてくんない?」
御門がそう言うと、女性は口の端を上げて御門の前にしゃがみ込むと、唇を合わせてきた。
心地よい霊力が御門に流れ込む。
「このくらいあげれば大丈夫でしょ。ちゃんと適度に補充しないと喰われるわよ。気をつけなさい」
女性はそう言って立ち上がると、何事もなかったように歩き去った。
その後ろ姿を御門は呆然と見つめていた。
その夜、御門はクラブにいた。
夏休みだからか、平日だと言うのに人で溢れかえっている。そして、真神の餌も。
『まったく、情けない。もっと早くに来ていればお前も死にかける事もなかっただろうに』
御門の中から真神が言うと、御門は心底面倒だと言う顔で「俺はまだ18だぞ。酒場に入れるのは20歳からだ」と言って、今日の夕方に如月が渡してきた20歳の身分証明書を見つめた。
――偽造だろこれ。警察がこんな事していいのかよ。
付喪神と言っても、厄介な奴らばかりでもなく、静かに依り代や家族を守る「神のような」者もいる。禍つ神と呼ばれる者も、そうそう頻繁に暴れ回る事もない。
御門たちが狩るのは人間に害を及ぼす禍つ神だけだ。
したがって、真神に喰わせる付喪神は年間でも10体あればいい方だった。そうなると困るのは御門だ。
油断するとすぐに霊力を喰われる。
「お前さあ、俺を依り代にして霊力を集めたいんだったらちょっとは自重しろよな」
御門は体の怠さを日増しに感じ、真神に文句を言った。
ここ十日ほど風邪をひいて寝込んでいた為、外出もできず真神の餌を補充できていない。
その為、御門の中にいるこの駄犬は遠慮なく御門の霊力を喰っていた。
今日は漸く街に餌を狩りに出たのだが、霊力を喰われすぎたのに加え、真夏の日差しが病み上がりの体にはきつく、とても体が重く感じる。
『我の神力が削られると勝手にお前の霊力を喰うのだ。我の意思ではどうにもならん』
嫌ならさっさと付喪神を見つけるか、それなりの量の悪霊を喰えと、真神は鼻でせせら笑う。
以前、御門が俺が死んだらどうするんだと詰め寄った時、真神はしれっと『次の依り代を探すに決まっている』と言ってのけた。
『お前は確かに常人よりも高い霊力を持ち、見目も我が主が認めるほどに美しい。しかし、お前とていずれは死ぬ。そうなれば神力が戻るまで繰り返し依り代を移り変わるよりなかろう』
我が主という時はでっかい尻尾をぶんぶんと嬉しそうに振りながら真神が言うと、御門は目の前が真っ暗になる気分だった。
「俺じゃなくてもいいんだったら他の奴のところに行けよな」
こいつのせいで俺は学校も行けず、毎日こうやって街をうろついては悪霊を探して喰わなきゃいけない上、おっさんにファーストキスを奪われるなんて不幸を背負ってるっていうのに……
『お前は我が主日本武尊に選ばれた唯一の人間だ。それにもうお前の魂と我は結びついておる。お前が死ぬまでか我の神力が安定するまでは離れられんわ』
そう言ってのけた真神に、御門はこいつこそ禍つ神なんじゃねぇのかと思った。
御門は体の怠さに加えて真夏の日差しに体力を奪われ、意識が朦朧とし出すのを感じた。――これはやばい。
『東雲を呼んだ方がいいのではないか?』
「断固として断る」
御門の中から真神が心配そうに声をかけたが、御門は即座に拒絶した。もうおっさんにキスされるのは嫌だ。東雲は初めは無機質に霊力を分けているだけだったが、次第に御門が嫌がるのを見て楽しんでいるようにも見えた。
挙句に、御門の童貞も東雲に奪われたようなものだ。
修行を終えた山からの帰り路、東雲からの霊力を拒否し続けた御門は、霊力が枯渇し、いよいよ命を喰われるという危険な状況だった。
意識が朦朧とする御門に、東雲は車の中からどこかに電話をかけると、目的地を変更して山の中腹にある神社に到着した。
動けないほど消耗している御門を抱き上げると、東雲は神社の裏にある社に入った。
そこは小さな旅館の部屋のようで、真新しい畳の上に、寝心地のよさそうな清潔な布団が一組敷かれていた。
「すまないが、頼むよ。――多分初めてだろうから優しくリードしてあげてくれ。ついでに今後の手ほどきも」
東雲は御門をその布団に寝かせると、後ろをついてきた巫女服の女性にそう言った。巫女は静かに頷くと、東雲は御門に向かって「すまないね」と頭を下げた。
巫女服の女性は静かに頭を下げると、「大口真神様と交わえる機会をいただき、こちらこそ感謝いたしますわ」と言って御門の隣に腰を下ろし、東雲に部屋から出るよう言った。
御門は唇に柔らかい感触と、霊力が流れ込んでくるのを感じ、薄く目を開いた。
東雲ではない、見知らぬ女性が寝ている御門にキスをしている。
――なんで?
状況が飲み込めない御門は慌てて女性を引き離そうとして、彼女の肩を掴み、彼女が裸である事、そして自分も裸で寝かされている事を理解した。
「お目覚めですか。御門様。大丈夫ですので、全て私に任せてください。――ああ、真神様……」
20代半ばだろうか。黒髪が美しい凛とした表情の美人が、うっとりと妖艶な眼差しで見つめている。それも裸で。
混乱する御門を無視して、女性は御門の体を撫でまわし、やがて一番敏感な場所を刺激し始めた。
16歳の少年がその状況に抵抗できるはずもなかった。
それから一週間の間、三人の女性が代わる代わる御門の中の真神に霊力を捧げに、御門と夜を共にし、御門の中で真神は至極満悦と言った状況だった。
普通の高校生男子なら夢のような状況でも、東雲のお膳立てだった事が何よりも許せなかった。
なんで俺がこんな目に……御門はビルの陰に座り込むと、苛立たしい気持ちを早く霊力を補充しなければという焦りで頭が痛かった。
「――大丈夫?」
座り込んだ頭の上から、涼し気な女性の声が聞こえてきた。
頭を上げると20代前半だろうか。長い髪を肩に垂らして、どこか懐かしい顔をした女性が心配そうに御門を見下ろしていた。
かなりの霊力を持っている。それも修行をした者と同じように研ぎ澄まされた霊力だ。こっち側の人間か?だったら話が早い。
「おねーさん……ちょっとキスさせてくんない?」
御門がそう言うと、女性は口の端を上げて御門の前にしゃがみ込むと、唇を合わせてきた。
心地よい霊力が御門に流れ込む。
「このくらいあげれば大丈夫でしょ。ちゃんと適度に補充しないと喰われるわよ。気をつけなさい」
女性はそう言って立ち上がると、何事もなかったように歩き去った。
その後ろ姿を御門は呆然と見つめていた。
その夜、御門はクラブにいた。
夏休みだからか、平日だと言うのに人で溢れかえっている。そして、真神の餌も。
『まったく、情けない。もっと早くに来ていればお前も死にかける事もなかっただろうに』
御門の中から真神が言うと、御門は心底面倒だと言う顔で「俺はまだ18だぞ。酒場に入れるのは20歳からだ」と言って、今日の夕方に如月が渡してきた20歳の身分証明書を見つめた。
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