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番外編
大和御門の初恋2
「クラブは人が多いから、適度に霊もいるしね。東雲さんが特別だよって」
如月は大和御門の名前が書かれた免許証を差し出した。御門の生まれ年より2年早い年が記載されていた。
「俺教習所とか通ったことないんだけど」
「車には乗っちゃだめだよ。乗りたかったら僕が教えてあげるから、今度本庁においで。後、くれぐれもお酒はだめだからね。君はまだ18歳なんだから」
如月はしつこく念を押していたが、御門の手には甘いカクテルが入ったグラスが握られていた。
初めて飲んだ酒は、悪くない味がしたが、大人達はなんでこれをうまいと言って飲むのかわからなかった。
ダンスフロアでは男女がよくわからない踊りらしきものを踊っている。踊っているというより、音楽に合わせて体を動かしているというのが正しい。
バーカウンターにもたれている御門の見た目は人目を引くらしく、さっきから御門の周りには女が群がっていた。
御門に話しかける者もいれば、声をかけられるのを待っているようにチラチラと視線を送ってくる者、ただじっと見つめて嘆息する者など、様々だった。
街中でナンパしてくる女達より肉食獣の気配がして怖い。御門は一人で来た事を後悔していた。せめて如月についてきてもらうべきだった。しかし、そんな事を言えば東雲が嬉しそうな顔で「御門君はまだ子供だからねぇ」と言ってしゃしゃり出てくるに違いない。
一人でやってやると思っても、女性達の勢いに押されて御門はどうする事も、どうしたらいいのかもわからなかった。
それでも、話しかけてくる女達は決まって御門の体に触れてくれるため、彼女らに憑いているモノを喰うには困らなかった。
霊力も触れるだけで喰えたらいいのにと、御門は嘆息した。
女性達を避けてトイレに逃げると、今度は男が絡んできた。
「ここは初めて?めっちゃイケメンじゃん」
手を洗っている御門の鏡越しに話しかけてきた男は、なぜか御門の腰をまさぐっている。
「さっきから女には興味ない感じだけど、もしかしてこっちの人?」
御門の腰に自分の股間を密着させると、その男は御門の耳元に息を吹きかけるように囁いた。
男の股間は形が分かるほど固くなっていて、御門は全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった。
「いや――俺はそっちの方じゃないんで」
必死に男を振り切ると、御門は急いでフロアに戻った。
バーカウンターにはさっきの女達がいるかも知れない。
御門はダンスフロアの人混みに紛れると、漸く安心した。馬鹿みたいにでかい音量が耳に流れてくる。
真神が何か話しかけて来ているが、聞こえない。周りの人間も踊るのに夢中で御門に気が付かない。
御門は漸く一人になれた気がした。
その時、御門の背中に誰かがぶつかってきた。この人混みだ。ぶつかる事もあるだろうと、御門は気にも留めずやり過ごそうとしたが、肌で感じた霊力に覚えがあった。
振り返ると、昼間にキスを交わした女性だった。
「あ、昼間の少年」
女性も御門を覚えていたらしい。
クラブには有料で座れるVIP席と言うのがある。
このクラブのVIP席は、カーテンで覆われていて、外から見る事はできない。
御門はそこに連れ込まれて緊張していた。
「そんな緊張しなくても取って食ったりしないわよ」
さつきと名乗る女性は、御門にオレンジジュースを勧めると、自分はシャンパンを飲んでいる。
クラブでは名字は言わないのだろうか。みんな下の名前だけを告げていたので、御門もさつきに名前だけ名乗った。
「昼間見た時は死にそうだったけど、大丈夫そうね。――もう霊力の補充は必要ない?」
さつきは御門の顔を覗き込むように見つめた。
真神にはたらふく喰わせた。しばらくは大丈夫だろう。その間に御門も霊力を取り戻せばいい。何も焦って手を出さなくても――しかし、御門はなぜかさつきに触れたいと思った。その視線を察したのか、さつきはゆっくりと体を寄せると、御門の唇に自分の唇を重ねた。
依り代になってから、何度か女性と交わしてきた行為だったが、御門の胸に不思議な充足感が広がった。霊力ではなく、別の感情で満たされる――そんな感覚だった。
気が付くと、御門はさつきの体に腕を回し、抱きしめていた。
その日から、御門の頭からさつきの事が離れなかった。
『ふむ……お前はあの女が良いのか』
真神が御門の前に姿を現し、呆れた様に鼻を鳴らす。
「お前出てくんなよ。霊力の無駄遣いだろうがよ」
御門が言うと、真神は後ろ足で耳を掻く仕草を見せた。――すっとぼけやがって。
『あのクラブとか言う場所のおかげで足りておるのだからよいではないか』
御門はあの日から毎日クラブに通っていた。さつきに会えるのではないかと淡い期待を込めて。
しかし、あの日以来さつきには会えていない。
「最後までヤッときゃよかった……」
御門は真神がいる事も忘れて独り言ちた。抱きしめたさつきは、霊力を渡し切るとさっさと御門から体を離し、「オトナの関係になるには君は若すぎるわ。あと2年したらね」と言って、荷物を手に取ると引き留める間もなく出て行ってしまった。
真神は『情けない……』と呆れて御門に背を向けて横になった。
『あの女はそのうち嫌でも会うことになろう。気にするな。それより東雲と会う日だろう。行かなくてよいのか』
時計を見ると如月が迎えに来るまで15分しかなかった。
御門は溜息をつくと出かける準備を始めた。
如月に連れられて、特殊捜査課に到着すると、東雲がどこかで見た後ろ姿と話していた。
「御門君、いらっしゃい――紹介しよう。今日から配属になった東雲さつき巡査部長だ」
東雲の言葉と共に振り返ったその女性は、あの日であったさつきその人だった。
「し――ののめ?」
「ああ。僕の妹だ。年は離れているが、これで中々の霊力の持ち主でね。御門君の助けになるのではと、うちに転属させたんだ」
柔和な笑顔で嬉しそうに語る東雲に、御門の中から真神が『ほら見た事か』と呟いたが無視した。
どこか懐かしいと思ったのは東雲に似ていたからだったのか。俺は……。
御門は本気で、あの時山の中で東雲を殺しておくべきだったと後悔した。
如月は大和御門の名前が書かれた免許証を差し出した。御門の生まれ年より2年早い年が記載されていた。
「俺教習所とか通ったことないんだけど」
「車には乗っちゃだめだよ。乗りたかったら僕が教えてあげるから、今度本庁においで。後、くれぐれもお酒はだめだからね。君はまだ18歳なんだから」
如月はしつこく念を押していたが、御門の手には甘いカクテルが入ったグラスが握られていた。
初めて飲んだ酒は、悪くない味がしたが、大人達はなんでこれをうまいと言って飲むのかわからなかった。
ダンスフロアでは男女がよくわからない踊りらしきものを踊っている。踊っているというより、音楽に合わせて体を動かしているというのが正しい。
バーカウンターにもたれている御門の見た目は人目を引くらしく、さっきから御門の周りには女が群がっていた。
御門に話しかける者もいれば、声をかけられるのを待っているようにチラチラと視線を送ってくる者、ただじっと見つめて嘆息する者など、様々だった。
街中でナンパしてくる女達より肉食獣の気配がして怖い。御門は一人で来た事を後悔していた。せめて如月についてきてもらうべきだった。しかし、そんな事を言えば東雲が嬉しそうな顔で「御門君はまだ子供だからねぇ」と言ってしゃしゃり出てくるに違いない。
一人でやってやると思っても、女性達の勢いに押されて御門はどうする事も、どうしたらいいのかもわからなかった。
それでも、話しかけてくる女達は決まって御門の体に触れてくれるため、彼女らに憑いているモノを喰うには困らなかった。
霊力も触れるだけで喰えたらいいのにと、御門は嘆息した。
女性達を避けてトイレに逃げると、今度は男が絡んできた。
「ここは初めて?めっちゃイケメンじゃん」
手を洗っている御門の鏡越しに話しかけてきた男は、なぜか御門の腰をまさぐっている。
「さっきから女には興味ない感じだけど、もしかしてこっちの人?」
御門の腰に自分の股間を密着させると、その男は御門の耳元に息を吹きかけるように囁いた。
男の股間は形が分かるほど固くなっていて、御門は全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった。
「いや――俺はそっちの方じゃないんで」
必死に男を振り切ると、御門は急いでフロアに戻った。
バーカウンターにはさっきの女達がいるかも知れない。
御門はダンスフロアの人混みに紛れると、漸く安心した。馬鹿みたいにでかい音量が耳に流れてくる。
真神が何か話しかけて来ているが、聞こえない。周りの人間も踊るのに夢中で御門に気が付かない。
御門は漸く一人になれた気がした。
その時、御門の背中に誰かがぶつかってきた。この人混みだ。ぶつかる事もあるだろうと、御門は気にも留めずやり過ごそうとしたが、肌で感じた霊力に覚えがあった。
振り返ると、昼間にキスを交わした女性だった。
「あ、昼間の少年」
女性も御門を覚えていたらしい。
クラブには有料で座れるVIP席と言うのがある。
このクラブのVIP席は、カーテンで覆われていて、外から見る事はできない。
御門はそこに連れ込まれて緊張していた。
「そんな緊張しなくても取って食ったりしないわよ」
さつきと名乗る女性は、御門にオレンジジュースを勧めると、自分はシャンパンを飲んでいる。
クラブでは名字は言わないのだろうか。みんな下の名前だけを告げていたので、御門もさつきに名前だけ名乗った。
「昼間見た時は死にそうだったけど、大丈夫そうね。――もう霊力の補充は必要ない?」
さつきは御門の顔を覗き込むように見つめた。
真神にはたらふく喰わせた。しばらくは大丈夫だろう。その間に御門も霊力を取り戻せばいい。何も焦って手を出さなくても――しかし、御門はなぜかさつきに触れたいと思った。その視線を察したのか、さつきはゆっくりと体を寄せると、御門の唇に自分の唇を重ねた。
依り代になってから、何度か女性と交わしてきた行為だったが、御門の胸に不思議な充足感が広がった。霊力ではなく、別の感情で満たされる――そんな感覚だった。
気が付くと、御門はさつきの体に腕を回し、抱きしめていた。
その日から、御門の頭からさつきの事が離れなかった。
『ふむ……お前はあの女が良いのか』
真神が御門の前に姿を現し、呆れた様に鼻を鳴らす。
「お前出てくんなよ。霊力の無駄遣いだろうがよ」
御門が言うと、真神は後ろ足で耳を掻く仕草を見せた。――すっとぼけやがって。
『あのクラブとか言う場所のおかげで足りておるのだからよいではないか』
御門はあの日から毎日クラブに通っていた。さつきに会えるのではないかと淡い期待を込めて。
しかし、あの日以来さつきには会えていない。
「最後までヤッときゃよかった……」
御門は真神がいる事も忘れて独り言ちた。抱きしめたさつきは、霊力を渡し切るとさっさと御門から体を離し、「オトナの関係になるには君は若すぎるわ。あと2年したらね」と言って、荷物を手に取ると引き留める間もなく出て行ってしまった。
真神は『情けない……』と呆れて御門に背を向けて横になった。
『あの女はそのうち嫌でも会うことになろう。気にするな。それより東雲と会う日だろう。行かなくてよいのか』
時計を見ると如月が迎えに来るまで15分しかなかった。
御門は溜息をつくと出かける準備を始めた。
如月に連れられて、特殊捜査課に到着すると、東雲がどこかで見た後ろ姿と話していた。
「御門君、いらっしゃい――紹介しよう。今日から配属になった東雲さつき巡査部長だ」
東雲の言葉と共に振り返ったその女性は、あの日であったさつきその人だった。
「し――ののめ?」
「ああ。僕の妹だ。年は離れているが、これで中々の霊力の持ち主でね。御門君の助けになるのではと、うちに転属させたんだ」
柔和な笑顔で嬉しそうに語る東雲に、御門の中から真神が『ほら見た事か』と呟いたが無視した。
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