62 / 90
61.出立
イレリアはカインの出立を部屋から眺めていた。
なぜカインは昨日、急に席を立ったのだろう。自分が感情的になったからではない事は確かだ。
確認したくても、昨夜のあの表情を思い出すと、怖くてカインの前に立てなかった。
それに――。
さっきの事だ。ジルダが魔力吸収を終えて、帰って行く姿を窓から見ていたイレリアは自分の目を疑った。
いつもはサロンで別れると、すぐにイレリアの部屋に来ていたカインが、ジルダを車寄せまでエスコートして獣車を見送っていたのだ。
なぜ?カインはジルダ様を嫌っていたんじゃ――
それに、ジルダには求婚している男がいるはずだ。確か北方の民族の……
なのに、遠目から見たカインはジルダと離れ難い雰囲気に見えた。
そもそも二人は今年結婚を囁かれている婚約者同士だ。もしかしたら侯爵の口添えで関係を改善するような動きがあったのかもしれない。
そうなったら自分は――
イレリアの心にはっきりと、嫉妬と憎悪と言う感情が生まれた瞬間だった。
「イレリア嬢の見送りはなかったね」
隊員が乗り合わせる獣車の中で、隣に座ったティン=クェンが言ったが、カインは答えなかった。
正直、イレリアが見送りに来なくてよかったと思っている自分がいる。
イレリアの事は愛している。
その気持ちに変わりはないはずなのだが、昨晩のあの笑みを見た瞬間、カインの心は凍り付いた。
まるで貴族じゃないか――
貧民街にいたイレリアは貧しくとも美しく、精一杯生きていた。どんな表情も活き活きとして輝いていた。
だからカインはイレリアに心惹かれたのだ。
なのに、昨日見たイレリアは、まるで貴族のように上っ面だけの笑みを浮かべて取り繕おうとしていた。
カインは思い出しても不快感が拭えなかった。
「イレリア嬢と言えば」
ダーシー卿が口を開いた。
「社交界でもちきりだそうですよ。イレリア嬢の素晴らしさは」
「ほお。例えばどんなだい?」
カインの代わりにティン=クェンが聞き返す。
「私の妻から聞いた話ですが、なんでも貧民街の救済事業をなさっているとか――」
カインは自分の耳を疑った。
イレリアが?彼女はずっと侯爵家で教育を受けて、披露目を終えてからは社交に忙しいし、夜は自分と一緒にいたはずだ。
そんな話は一度も聞いていない。
「その話を詳しく聞かせてくれないか?」
「え?そうですね、人の噂は脚色が入ったりしますからね」
ダーシー卿はカインがイレリアの噂が、自分の知っている事実と合っているか心配しているのだと勘違いして、笑顔になった。
「昨年の秋の月の中頃から、貧民街で定期的に炊き出しが行われるようになったそうなんです」
去年の秋の月の中頃というと、カインがイレリアを侯爵邸に連れ帰った後のことだ。
カインは貧民街のマルコという老人に食糧などを差し入れるよう、アレッツォに頼んでいたが、アレッツォからも炊き出しなどの報告は受けていない。
ダーシー卿は続けた。
「冬の月が始まる頃には、倒壊した建物の瓦礫を撤去する仕事が始まりまして、残った建物の補修や、空いた土地に簡易的な住居がいくつか建てられてんです」
そんな大掛かりなことが起きていたなんて、カインは知らない。いや、その頃はイレリアに夢中になって、仕事以外のことは完全に無関心だった。
横目でティン=クェンを見ると、当然知っていたと言いたげな顔で話を聞いている。
「それから、大量の麻や綿花が持ち込まれて、希望する人間に糸作りの技能を教えたと。おかげで、農作業や焚き木拾いができない冬の間の手仕事ができるようになって、寒さや飢えて死ぬ人間が大幅に減ったそうなんです」
確かに、この冬は行き倒れの死体処理の件数が少なかったと、カインは思い出した。
治安維持はカインの部隊の管轄ではない為、さほど気にも留めていなかったが、例年に比べると大幅に減っていたことは分かる。
「春にはシトロン伯爵の農地を借りて綿花や麻が植えられたそうですよ」
ダーシー卿の言葉にカインは驚いた。
シトロン伯爵家が貧民街のために農地を貸し出すなんて。そんな人間ではないはずだ。
「新しい農具も貸し出されまして――それも魔石がはめ込まれた高価なものです。農園の手伝いの連中が大喜びしていましたよ」
話を聞いていたカルマイ卿が口を挟んだ。
「結界の巡回の時に聞いたんです。――分不相応な高価な農具を持っていたので、てっきり盗んできたのかと思ったんで……」
しかし、それらは正体不明の支援者が貸し出したのだという。
「そういえば結界の外で魔獣を狩ってた奴らも、魔石の入った高価な武器を持ってましたね」
ラエル卿も思い出したように会話に参加した。
カインは、今年は魔獣による農地の被害報告が少なかったことを思い出した。
「妻はこんなに潤沢な資金を提供なさる侯爵家と、素晴らしい支援を指揮されたイレリア嬢を女神のように崇めています。まさに貧民街の女神だと――実際、そのお姿も女神のようにお美しいし」
隊員たちが口々にイレリアを賛美する様に、カインは何も答える事が出来なかった。
それだけ大がかりな事業をしているのなら、かなりの金額が動くはずだ。自分が気が付かないはずはない。
侯爵家の予算は父が管理しているが、首都の屋敷とイレリアに割り当てられた予算はカインが管理しているのだから――
支援内容の報告を受けて、イレリアは愕然とした。
せいぜい炊き出し程度だと思っていたのに、ここまで大掛かりで見事な支援とは。
「支援の本人ですが――かなり探らせてみたのですが、正体は全く分かりませんでした」
侍従のヨルジュは申し訳なさそうに頭を下げた。「しかし――」ヨルジュは続けた。
「巷では全てイレリア様の功績となっています。黙っておいでになればよいのでは?」
「その篤志家とやらの気が変わって正体を明かしたらどうするのよ――私は嘘つきとして社交界の笑い者だわ」
「ですが、イレリア様はしかとお認めになったわけではありません。ただ曖昧に返事をなさっただけではないですか」
カインの信頼を失う事より社交界の評判を気にするとは――ヨルジュは内心呆れたが、口にはしなかった。
侍従を命じられた当初は、イレリアはまだここまで貴族然とした態度ではなかった。
元は使用人達よりも身分の低い貧民街の住民だったことが彼女の中で遠慮として残っていたのだろう。
しかし、社交を開始してから少しずつ変わっていった。
羨望と崇拝の眼差しで見られるようになり、自信がついたのだろうと、その時は好ましく思っていた。
だが、そこからは違った。
社交界で注目を浴びるのと比例して、彼女は特権を得たかのように、使用人への態度を傍若無人なものへと変えて行ったのだ。
――それでも、主人として仕えるよう命じられたのだ。己の本分を全うせねば。
ヨルジュは頭を上げると、イレリアに提案した。
「それならば、嘘ではなく本当にすればよいのです」
なぜカインは昨日、急に席を立ったのだろう。自分が感情的になったからではない事は確かだ。
確認したくても、昨夜のあの表情を思い出すと、怖くてカインの前に立てなかった。
それに――。
さっきの事だ。ジルダが魔力吸収を終えて、帰って行く姿を窓から見ていたイレリアは自分の目を疑った。
いつもはサロンで別れると、すぐにイレリアの部屋に来ていたカインが、ジルダを車寄せまでエスコートして獣車を見送っていたのだ。
なぜ?カインはジルダ様を嫌っていたんじゃ――
それに、ジルダには求婚している男がいるはずだ。確か北方の民族の……
なのに、遠目から見たカインはジルダと離れ難い雰囲気に見えた。
そもそも二人は今年結婚を囁かれている婚約者同士だ。もしかしたら侯爵の口添えで関係を改善するような動きがあったのかもしれない。
そうなったら自分は――
イレリアの心にはっきりと、嫉妬と憎悪と言う感情が生まれた瞬間だった。
「イレリア嬢の見送りはなかったね」
隊員が乗り合わせる獣車の中で、隣に座ったティン=クェンが言ったが、カインは答えなかった。
正直、イレリアが見送りに来なくてよかったと思っている自分がいる。
イレリアの事は愛している。
その気持ちに変わりはないはずなのだが、昨晩のあの笑みを見た瞬間、カインの心は凍り付いた。
まるで貴族じゃないか――
貧民街にいたイレリアは貧しくとも美しく、精一杯生きていた。どんな表情も活き活きとして輝いていた。
だからカインはイレリアに心惹かれたのだ。
なのに、昨日見たイレリアは、まるで貴族のように上っ面だけの笑みを浮かべて取り繕おうとしていた。
カインは思い出しても不快感が拭えなかった。
「イレリア嬢と言えば」
ダーシー卿が口を開いた。
「社交界でもちきりだそうですよ。イレリア嬢の素晴らしさは」
「ほお。例えばどんなだい?」
カインの代わりにティン=クェンが聞き返す。
「私の妻から聞いた話ですが、なんでも貧民街の救済事業をなさっているとか――」
カインは自分の耳を疑った。
イレリアが?彼女はずっと侯爵家で教育を受けて、披露目を終えてからは社交に忙しいし、夜は自分と一緒にいたはずだ。
そんな話は一度も聞いていない。
「その話を詳しく聞かせてくれないか?」
「え?そうですね、人の噂は脚色が入ったりしますからね」
ダーシー卿はカインがイレリアの噂が、自分の知っている事実と合っているか心配しているのだと勘違いして、笑顔になった。
「昨年の秋の月の中頃から、貧民街で定期的に炊き出しが行われるようになったそうなんです」
去年の秋の月の中頃というと、カインがイレリアを侯爵邸に連れ帰った後のことだ。
カインは貧民街のマルコという老人に食糧などを差し入れるよう、アレッツォに頼んでいたが、アレッツォからも炊き出しなどの報告は受けていない。
ダーシー卿は続けた。
「冬の月が始まる頃には、倒壊した建物の瓦礫を撤去する仕事が始まりまして、残った建物の補修や、空いた土地に簡易的な住居がいくつか建てられてんです」
そんな大掛かりなことが起きていたなんて、カインは知らない。いや、その頃はイレリアに夢中になって、仕事以外のことは完全に無関心だった。
横目でティン=クェンを見ると、当然知っていたと言いたげな顔で話を聞いている。
「それから、大量の麻や綿花が持ち込まれて、希望する人間に糸作りの技能を教えたと。おかげで、農作業や焚き木拾いができない冬の間の手仕事ができるようになって、寒さや飢えて死ぬ人間が大幅に減ったそうなんです」
確かに、この冬は行き倒れの死体処理の件数が少なかったと、カインは思い出した。
治安維持はカインの部隊の管轄ではない為、さほど気にも留めていなかったが、例年に比べると大幅に減っていたことは分かる。
「春にはシトロン伯爵の農地を借りて綿花や麻が植えられたそうですよ」
ダーシー卿の言葉にカインは驚いた。
シトロン伯爵家が貧民街のために農地を貸し出すなんて。そんな人間ではないはずだ。
「新しい農具も貸し出されまして――それも魔石がはめ込まれた高価なものです。農園の手伝いの連中が大喜びしていましたよ」
話を聞いていたカルマイ卿が口を挟んだ。
「結界の巡回の時に聞いたんです。――分不相応な高価な農具を持っていたので、てっきり盗んできたのかと思ったんで……」
しかし、それらは正体不明の支援者が貸し出したのだという。
「そういえば結界の外で魔獣を狩ってた奴らも、魔石の入った高価な武器を持ってましたね」
ラエル卿も思い出したように会話に参加した。
カインは、今年は魔獣による農地の被害報告が少なかったことを思い出した。
「妻はこんなに潤沢な資金を提供なさる侯爵家と、素晴らしい支援を指揮されたイレリア嬢を女神のように崇めています。まさに貧民街の女神だと――実際、そのお姿も女神のようにお美しいし」
隊員たちが口々にイレリアを賛美する様に、カインは何も答える事が出来なかった。
それだけ大がかりな事業をしているのなら、かなりの金額が動くはずだ。自分が気が付かないはずはない。
侯爵家の予算は父が管理しているが、首都の屋敷とイレリアに割り当てられた予算はカインが管理しているのだから――
支援内容の報告を受けて、イレリアは愕然とした。
せいぜい炊き出し程度だと思っていたのに、ここまで大掛かりで見事な支援とは。
「支援の本人ですが――かなり探らせてみたのですが、正体は全く分かりませんでした」
侍従のヨルジュは申し訳なさそうに頭を下げた。「しかし――」ヨルジュは続けた。
「巷では全てイレリア様の功績となっています。黙っておいでになればよいのでは?」
「その篤志家とやらの気が変わって正体を明かしたらどうするのよ――私は嘘つきとして社交界の笑い者だわ」
「ですが、イレリア様はしかとお認めになったわけではありません。ただ曖昧に返事をなさっただけではないですか」
カインの信頼を失う事より社交界の評判を気にするとは――ヨルジュは内心呆れたが、口にはしなかった。
侍従を命じられた当初は、イレリアはまだここまで貴族然とした態度ではなかった。
元は使用人達よりも身分の低い貧民街の住民だったことが彼女の中で遠慮として残っていたのだろう。
しかし、社交を開始してから少しずつ変わっていった。
羨望と崇拝の眼差しで見られるようになり、自信がついたのだろうと、その時は好ましく思っていた。
だが、そこからは違った。
社交界で注目を浴びるのと比例して、彼女は特権を得たかのように、使用人への態度を傍若無人なものへと変えて行ったのだ。
――それでも、主人として仕えるよう命じられたのだ。己の本分を全うせねば。
ヨルジュは頭を上げると、イレリアに提案した。
「それならば、嘘ではなく本当にすればよいのです」
あなたにおすすめの小説
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
王女を好きだと思ったら
夏笆(なつは)
恋愛
「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。
デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。
「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」
エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。
だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。
「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」
ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。
ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。
と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。
「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」
そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。
小説家になろうにも、掲載しています。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。