ハッピーエンドをさがして ~バッドエンドを繰り返す王子と令嬢は今度こそ幸せになりたい~

千咲

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二章 サフィール○○エンド

019.仮面舞踏会での再会

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 上流貴族の、社交界デビューをした者たちだけが招かれた、フランペル王家主催の仮面舞踏会は、会場を二つに分けて開催されている。そのため、ジョゼは早々に両親と離れて、独身者用の小さな広間へと向かうことになった。
 小広間では仮面をつけた男女がダンスをしている。壁際のテーブル近くで飲食をしている男女もいれば、既に親密そうに顔を近づけておしゃべりを楽しんでいる男女もいる。
 仮面をつけているとは言え、体格や髪の色などで誰なのかは何となくわかるものだ。

 ――あれはポーラ嬢。あちらはコロンブ様。リュシエンヌ嬢は婚約が決まったばかりではなかったかしら。

 リュシエンヌがダンスを踊っている相手は、どうやら彼女の婚約者のようだ。互いに初対面のふりをしてダンスを踊り、仲を深めるという高度な楽しみ方をしているらしい。
 ジョゼは仮面をつけた給仕人から杏ソーダをもらい、少しずつ飲みながら遠巻きに彼らを眺める。

「サフィール王子殿下もこの中にいらっしゃるんですって」
「まあ、王子殿下から誘われてしまったらどうすればいいの」
「誘われるわけないじゃないの。きっとわたくしたちのことをどこかで眺めておられるのだわ」

 令嬢たちの会話に、ジョゼも納得する。サフィールなら確かに興味なさそうに広間を眺めていそうだ。

 ――あの髪は、違う。彼も微妙に違う。彼は、背が低すぎるから違う。

 気がつけば、藍色の髪の青年を探している。それに気づいて、ジョゼは苦笑する。会っても意味がないとわかっているのに、会いたくて仕方がない。
 矛盾した感情を持て余しながら、ジョゼは壁にもたれるために一歩下がった。しかし、そこは壁ではなかった。

「いたっ」
「つめたっ」

 ジョゼがぶつかったのは、燕尾服を着た青年だ。どうやら、ジョゼより先に壁に寄りかかっていたらしい。
 ジョゼは彼の足を踏んでしまい、彼が持っていたグラスから果実水がジョゼの肩にビシャリとかかったのだ。

「大丈夫ですか? あぁ、すまない。ドレスが台無しだ」
「わたくしは大丈夫です。あなた様のほうこそ、足に怪我は――」

 仮面越しに視線が合う。濃藍色の瞳に、聞き慣れた声に、ジョゼは思わず息を止める。仮面の下で、彼の唇が笑みを作る。

「……また、会えたね」
「ひ、人違いではございませんか?」
「いいや、杏の令嬢。今宵は波打ち際の妖精かな?」
「人違いでございます」

 逃げようとしたジョゼの腕を、仮面の青年が掴んで離さない。力強く握られているため、左腕がピリピリする。あのしびれるような感覚かどうかが、わからない。
 彼は引きずるようにジョゼを引っ張っていく。自然、ジョゼは早足になる。

「ど、どちらへ?」
「葡萄水できみのドレスを台無しにしてしまった。そのお詫びをしなければ」
「必要ありません」

 それでも、青年は強引にジョゼを引っ張っていく。叫んで、誰かに助けを求めることはできる。だが、そんなことをしたら、舞踏会の場が白けてしまう。空気を壊したくないため、ジョゼはおとなしく従う。
 青年は小広間の角の扉を開き、奥の廊下へと進む。警備をしている騎士は、彼に向かって頭を下げる。
 そうして、青年は廊下の中の一つの扉を乱暴に開け、すぐさま扉にジョゼを押しつけ、鍵をかけた。

「……は、離してくださいませ」

 ずっと恋い焦がれていた人の腕の中に閉じ込められながらも、ジョゼは何とか平静を保とうとした。なるべく彼のほうを見ないようにと、目を伏せて。

「誰が、離すものか」

 ジョゼの予想以上に切ない声音が、頭上から降ってくる。その意味に気づいた瞬間に、ジョゼの体はすっぽりと青年の腕の中に入っていた。

「もう二度と、離すものか」
「サ、フ……?」
「もうきみを失いたくない、ジョゼ」

 ぶわりと涙が溢れる。ジョゼはそのまま仮面の青年――サフィール第一王子に抱きつく。焦がれて仕方がなかった彼の体を抱きしめる。

「サフ、サフ……サフィール」
「ジョゼ、すまない。遅くなった」

 サフィールは仮面を取り、ジョゼの仮面を外す。現れた懐かしい顔に、サフィールは破顔する。

「ドレスだけじゃなくて、化粧もひどいことになっているぞ」
「だ、誰のせいでっ」
「ははっ、すまない。浴巾タオルを持ってこよう。ドレスも弁償しよう。……しかし、うん、綺麗だな」

 サフィールはジョゼをぎゅうと抱きしめ、耳元でささやく。

「相変わらず、ジョゼが一番美しい。ホールに入ってきた瞬間に、わかったよ。あぁ、ジョゼフィーヌだと」

 怒ろうとしたジョゼは、毒気を抜かれてその場にへたり込む。そんなジョゼを見下ろし、サフィールは悪戯っ子のように笑う。

「久しぶり、ジョゼ」
「ええ、久しぶり、サフ」

 そんなふうに、今回、二人は再会したのだった。


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