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小咄(二)
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【女子会】
「あんた、美山さんのどこがいいわけ? 顔? 性格? 体型?」
「頭です」
「……ハゲが好きなの?」
「セクシーじゃないですか、ハゲ」
「せくしー……」
「撫で回したいじゃないですか、頭頂部」
「撫で回す……」
「やだ、舐め回す、だなんて! 恥ずかしい!」
「……目だけじゃなくて耳もおかしいなんて、重症だね」
「でも、できるなら舐め回してみたいですねぇ」
「……陽子ちゃんて相当おかしいね」
このあともハゲの魅力についてひたすら語る日向陽子のフェチに、ドン引きの佐々木良子。
「じゃあ、良子さんは完璧な人がいいんですか!? 多少ハゲていたって、太っていたって、ブサイクだって、好きなら構わないじゃないですか!」
「……身体的な欠点がダメだって言うわけじゃないわよ」
「欠点だって好きなんです、私は!」
「そうね、欠点も引っくるめて愛するものよね」
「でしょう!?」
「体がしんどいけどね……」
「?」
さすがに彼氏が巨根だとは言い出せなかった良子だった。
◆◇◆◇◆
【双子】
「……またパスタ? たまには和食が食べたいな、俺」
「嫌なら食うなよ」
「嫌じゃないよ。食べるよ。でも、あかりの手料理が恋しいなぁ」
「……わかったよ。夕飯は和食にしてやるから」
「っしゃあ!」
自分で作るという選択肢はない翔吾。そんな翔吾に甘い健吾。
「親子丼……」
「和食だろ?」
「親子丼は和食なの?」
「和食」
「……和食かぁ。炊き込みご飯とかが良かったなぁ」
でも、「美味しい」と食べる翔吾に、「だろ?」と笑う健吾。仲良し。
◆◇◆◇◆
【双子】
「健吾さぁ、彼女早く作ってよ」
「今はダメ」
「今? 何がダメなの? 何でダメなの?」
「……コスプレが楽しいから」
「なんっ!? 何それ!? 聞いてない!!」
「言ってないから」
「えっ、あかりと!? 何それ、ちょー羨ましいんだけど! 羨ましいんだけどっ!!」
「じゃあ、翔吾もすれば? あかりさんは結構ノリノリでしてくれるよ」
「……ナース服も?」
「うん」
「スク水も!?」
「うん」
「メイド服も!?」
「うん。あかりさんのロング、かわいかったよ」
「何言ってんの!? メイド服はミニスカでしょ!?」
「ロング以外は邪道」
「ミニスカ一択!」
双子であっても趣味は違う二人。
健吾こそ、結構ノリノリでプレイを楽しんでいるようである。
◆◇◆◇◆
【どら猫亭】
「水森先生、最近彼女さん連れてこないですね?」
「……彼女ではありませんよ」
「ツッキーはいい子だぞー? ウチの奥さんのほうが別嬪だけどな!」
「ですから、別にそういう関係では」
「いい感じだと思うんですけどね、二人」
「うんうん」
「でも、月野さんは友人の彼女なので」
「ええええっ! やだ、三角関係!?」
「ツッキー、モテモテだなぁ!」
「三角どころか……まぁ、モテモテですね」
「水森先生、奪っちゃえばいいのに」
「……」
「俺もフジちゃんをゲットするの大変だったからなぁ」
「だからー、何回も謝ってるじゃないの!」
「未だにフジちゃんが包丁持っていると恐怖で震えてしまうんだよなぁ」
「嘘よ、嘘! そんなことないでしょ!」
「……あの」
「あのときのフジちゃんは怖かった! マジ怖かった!」
「謝ってるでしょー!」
「俺、死ぬかと思ったもん」
「死ななかったから良かったじゃない!」
「……だし巻き……」
「あのとき着ていたシャツ、気に入っていたんだけどなぁ」
「新しいシャツ、買ってあげたじゃない!」
「腹の傷は、名誉の負傷、男の勲章だな!」
「まぁ、あなたがそう言うなら」
「……だし巻きが欲しいのですが」
「水森先生も早くいい嫁さんもらえよー」
「そうそう、早く紹介してくださいね!」
「……だし巻き」
水森康太が無事にだし巻き卵を食べられたかどうかは、不明。
(永田夫妻の馴れ初めは「スパイス」にて。露骨な宣伝ですみません。笑)
◆◇◆◇◆
【どら猫亭】
「私、水森さんのこと嫌いれす」
「それはどうも」
「怒ららいんれすか?」
「酔っ払いに怒っても仕方ないでしょう。酒に弱いのにこんなに飲んで。湯川に会えないからって」
「その顔! すっごくムカつきまふ! やめてくらはい!」
「この顔、生まれつきなんですが」
「生まれたときからムカつく顔なんれすよ!」
「そうですか、それはすみません」
「あー! もう! ムカつくー!」
「具体的には?」
「水森貴一の子孫らってらけれムカつく!」
「親も祖先も選べませんからね」
「得意気なのがムカつく!」
「別に得意気ではありませんが」
「鍛えてるのもムカつく!」
「……なぜ?」
「美味しく見えるからムカつくんれす!」
「……あぁ、なるほど。食べられませんからね」
「れも、絶対セックスしないれすから!」
「そうですね」
「しないんれすよ!」
「はいはい。湯川に悪いですからね」
「うぅ、湯川せんせーに会いたい……」
「今日は京都です」
「会いたいよぅ……」
「……寝ないでくださいよ、ちょっと」
「……せんせー……」
「ちょっ、どうするんですか、この酔っ払い! 終電に突っ込みますよ!?」
あかりは案外絡み酒。そして、よく寝落ちする。
康太は結構な世話焼き。そして、自制心は強い。
「あの二人、どうなってるのかしら」
「お似合いなんだけどなぁ」
永田夫妻は興味津々。
◆◇◆◇◆
【文化祭】
「わ、あかりちゃん来てくれたの? 嬉しい!」
「……来てくれないと一日中縛るって脅されたからね」
「ありがとー! ね、似合う? 似合う?」
「ん、似合ってる、似合ってる」
「やっぱりメイド服は膝丈が一番だよね!」
「……で、オススメは?」
「あんみつオススメだよ! 暖かいのがいいなら抹茶オレのセットがいいよ!」
「じゃあ、それで」
「ありがとー!」
化粧とウィッグで女装したケント(とクラスメイト)がメイド服姿で給仕する。そんな喫茶店は、長蛇の列で入室が困難。あかりはケントからもらったチケットで並ばず入室。
「はい、あんみつ。あかりちゃん」
「ありがとう……なんでケントくんがサクランボの軸を咥えているのかな?」
「ん? サービス。ほら、サクランボ咥えて、実を食べて」
「……」
「目、開けててね」
「……」
「……食べてくれないと空き教室で犯すよ?」
渋々赤い実を食べようと口を開け、周りからの黄色い声を聞いて、あかりは長蛇の列の理由を知る。普通にキスするよりエロい「サービス」目当てなのだと。
「上手にできたから次はたくさん犯してあげる」と耳元で微笑まれ、こんなに色気のある男子中学生はどうなのとあかりは苦笑するしかない。
ちなみに、あとで担任にバレてケントはめちゃくちゃ叱られる。
◆◇◆◇◆
【女子会】
「ねえねえ、あかりさん、こちらの紺鼠はどうかしら?」
「んー……千恵子さんには灰色なら小町鼠とか灰桜の薄めの色……あ、でも、若草色とか若い色も似合うと思います」
「そう? 若すぎないかしら? 無地がいいと思っていたけど、江戸小紋もいいわねぇ」
「あ、東雲色の江戸小紋、ありますよ」
「あら、素敵。だけど、若すぎないかしら?」
「千恵子さんなら若すぎることはありませんよ。あ、じゃあ、私と出かけるときに着てきてくださいよ」
「それはいいわねぇ。今日はありがとう。私の友達は誰も映画に誘えなくて。また誘ってもいいかしら?」
「もちろん。千恵子さんの年代の方だと真知子巻きのほうが有名ですもんね」
「そうなのよ! わかってくださる?」
「岸さん、綺麗でしたもんねぇ」
「本当に」
「昔の女優さんだと、原節子さんとか、司葉子さんとかもお綺麗で」
「あかりさん、よくご存知ねぇ」
「あ、ええと、昔の映画が好きなんです。黒澤明監督や小津安二郎監督の」
「……あかりさんが康太の恋人ならどんなに良かったことか」
「す、すみません」
「湯川くんと別れたら、是非康太と!」
「千恵子さん、それは無理ですー!」
水森千恵子はあかりのメル友。
甘いものや世間で話題になっているものが好きな千恵子に付き合って、よく出かける仲になる。
ちなみに、あかりのほうが歳上。
◆◇◆◇◆
【水族館】
「……」
「……」
「あかり、楽しい? もう三十分も見てるけど」
「楽しい。めちゃくちゃ楽しい」
「そう? なら、良かった」
「……」
「……」
巨大水槽をボーッと見上げるあかりと、その横顔を見つめ続ける望。
お互い、目に映るものは違っても、それぞれ満足している様子。
「はい、チンアナゴのぬいぐるみ」
「湯川先生!? なんでっ!?」
「かじりついて見ていたじゃん。好きなんでしょ?」
「好き! 大好き! わぁ、かわいい! めちゃくちゃ嬉しい!! ありがとう、望!」
今まであげたプレゼントの中で一番喜んでくれたなぁと望は苦笑し、あかりは子どものように喜ぶ。
そんな、水族館デート。
……チンアナゴが(文字も形も)チン○に見えて「似てるなぁ、かわいいなぁ」と見つめていたとは口が裂けても言えないあかりだった。
◆◇◆◇◆
【サッカー】
「赤いユニフォームが翔吾のチーム、白いユニフォームが敵のチーム。ボールを敵のゴールに蹴り込んで、無事に入ったら得点。点数の高いほうが勝ち」
「……見ていればわかる? 健吾くん、解説してくれる?」
「わかる範囲なら。とりあえず、赤いほうが味方。赤いほうを応援して」
「わかった。赤いほうだね!」
翔吾のサッカーの試合を健吾と観戦するあかり。
「黒い人は?」
「審判」
「あっちの青い人とこっちの黄色い人は?」
「ゴールキーパー。ボールを入れられないようゴールを守る人」
「皆よく走るねぇ」
「それがサッカーだからね」
「え、何で今ので笛吹かれるの?」
「オフサイドっていうルールがあって」
「……オフサイド?」
「敵よりもゴールの近くに」
「あ、あ、あ! 翔吾くん、ねえ、あれ、翔吾くん!」
「そうだね、翔吾だね」
「あ、ね、翔吾く、わ! わ! わ!?」
「そうだね、アシスト……ゴールだね」
「わぁぁ! 健吾くん! 赤いほうがゴールしたよ!」
「そうだね。翔吾がパスしたね」
「ひゃぁー! すごーい! 翔吾くんすごーい!」
冷静な健吾と、興奮するも語彙力のないあかり。
「……クソ健吾っ、あかりと抱き合いやがって!」
観客席であかりに抱きつかれている健吾の姿を見つけて、若干嫉妬する翔吾。健吾が迷惑そうにしているのはもちろん見えていない。
その夜の「お仕置き」はたぶん激しめ。
◆◇◆◇◆
【バレる】
「……先生」
「いや、だから、それは、その」
「なに、これ?」
「んんんっ、まぁ、なんて言うか、うん」
「のーぞーむーさーんー?」
「……すみませんでした!!」
「消去!!」
「それは勘弁して!! それがなかったら、俺! あかりだって、知ってるだろ、俺があかりじゃなきゃイケないことくらい!」
「それとこれとは話が違うでしょ!」
「同じだよ! 俺だって、動いてるあかりを――」
「だからって! なんで、よりによって、この動画なの!?」
「……翔吾がくれるって言うから」
「……翔吾くん……ほんと、あの子は!」
「かわいいじゃん、あかり。メイド服、よく似合ってる」
「やめて! 消して!」
「制服姿もかわいい」
「やだ、もう、死にたい! 消して!!」
スマートフォンに保存してあるコスプレ動画を消すよう迫られた望だが、本当に見せられない双子とあかりの3P動画はDVDの中だから、ちょっとホッとしている。
ちなみに、パッケージはちゃんと偽装済み。あかりが絶対に見そうにない「心臓血管外科 手術集」が増えるかどうかは、未定。
◆◇◆◇◆
【祝電】
「ねぇ、いただいた祝電を見ていたんだけど、名前が書いてなくて……これ、あなた宛のものかしら?」
「どれだろう?」
「この、クマの祝電。式場の方に聞いても、誰が受け取ったか覚えていないらしくて、伝票もなかったみたい。宛名もないし、御礼ができなくて困ってしまって」
「……うん、これは俺の友達だよ。御礼は俺からしておくから、気にしないで」
「そう? じゃあ、お願いね」
ソファに腰掛け、友を思う。……想う。
「……『月の明かりに照らされた道を行く、二人の前途に幸多からんことを』……ねぇ。普通に名乗ってくれて構わなかったのに」
宮野潤は、「友」を想う。
祝電に込められた、精一杯の愛に気づいて。
彼女の、幸せを願う。
「あんた、美山さんのどこがいいわけ? 顔? 性格? 体型?」
「頭です」
「……ハゲが好きなの?」
「セクシーじゃないですか、ハゲ」
「せくしー……」
「撫で回したいじゃないですか、頭頂部」
「撫で回す……」
「やだ、舐め回す、だなんて! 恥ずかしい!」
「……目だけじゃなくて耳もおかしいなんて、重症だね」
「でも、できるなら舐め回してみたいですねぇ」
「……陽子ちゃんて相当おかしいね」
このあともハゲの魅力についてひたすら語る日向陽子のフェチに、ドン引きの佐々木良子。
「じゃあ、良子さんは完璧な人がいいんですか!? 多少ハゲていたって、太っていたって、ブサイクだって、好きなら構わないじゃないですか!」
「……身体的な欠点がダメだって言うわけじゃないわよ」
「欠点だって好きなんです、私は!」
「そうね、欠点も引っくるめて愛するものよね」
「でしょう!?」
「体がしんどいけどね……」
「?」
さすがに彼氏が巨根だとは言い出せなかった良子だった。
◆◇◆◇◆
【双子】
「……またパスタ? たまには和食が食べたいな、俺」
「嫌なら食うなよ」
「嫌じゃないよ。食べるよ。でも、あかりの手料理が恋しいなぁ」
「……わかったよ。夕飯は和食にしてやるから」
「っしゃあ!」
自分で作るという選択肢はない翔吾。そんな翔吾に甘い健吾。
「親子丼……」
「和食だろ?」
「親子丼は和食なの?」
「和食」
「……和食かぁ。炊き込みご飯とかが良かったなぁ」
でも、「美味しい」と食べる翔吾に、「だろ?」と笑う健吾。仲良し。
◆◇◆◇◆
【双子】
「健吾さぁ、彼女早く作ってよ」
「今はダメ」
「今? 何がダメなの? 何でダメなの?」
「……コスプレが楽しいから」
「なんっ!? 何それ!? 聞いてない!!」
「言ってないから」
「えっ、あかりと!? 何それ、ちょー羨ましいんだけど! 羨ましいんだけどっ!!」
「じゃあ、翔吾もすれば? あかりさんは結構ノリノリでしてくれるよ」
「……ナース服も?」
「うん」
「スク水も!?」
「うん」
「メイド服も!?」
「うん。あかりさんのロング、かわいかったよ」
「何言ってんの!? メイド服はミニスカでしょ!?」
「ロング以外は邪道」
「ミニスカ一択!」
双子であっても趣味は違う二人。
健吾こそ、結構ノリノリでプレイを楽しんでいるようである。
◆◇◆◇◆
【どら猫亭】
「水森先生、最近彼女さん連れてこないですね?」
「……彼女ではありませんよ」
「ツッキーはいい子だぞー? ウチの奥さんのほうが別嬪だけどな!」
「ですから、別にそういう関係では」
「いい感じだと思うんですけどね、二人」
「うんうん」
「でも、月野さんは友人の彼女なので」
「ええええっ! やだ、三角関係!?」
「ツッキー、モテモテだなぁ!」
「三角どころか……まぁ、モテモテですね」
「水森先生、奪っちゃえばいいのに」
「……」
「俺もフジちゃんをゲットするの大変だったからなぁ」
「だからー、何回も謝ってるじゃないの!」
「未だにフジちゃんが包丁持っていると恐怖で震えてしまうんだよなぁ」
「嘘よ、嘘! そんなことないでしょ!」
「……あの」
「あのときのフジちゃんは怖かった! マジ怖かった!」
「謝ってるでしょー!」
「俺、死ぬかと思ったもん」
「死ななかったから良かったじゃない!」
「……だし巻き……」
「あのとき着ていたシャツ、気に入っていたんだけどなぁ」
「新しいシャツ、買ってあげたじゃない!」
「腹の傷は、名誉の負傷、男の勲章だな!」
「まぁ、あなたがそう言うなら」
「……だし巻きが欲しいのですが」
「水森先生も早くいい嫁さんもらえよー」
「そうそう、早く紹介してくださいね!」
「……だし巻き」
水森康太が無事にだし巻き卵を食べられたかどうかは、不明。
(永田夫妻の馴れ初めは「スパイス」にて。露骨な宣伝ですみません。笑)
◆◇◆◇◆
【どら猫亭】
「私、水森さんのこと嫌いれす」
「それはどうも」
「怒ららいんれすか?」
「酔っ払いに怒っても仕方ないでしょう。酒に弱いのにこんなに飲んで。湯川に会えないからって」
「その顔! すっごくムカつきまふ! やめてくらはい!」
「この顔、生まれつきなんですが」
「生まれたときからムカつく顔なんれすよ!」
「そうですか、それはすみません」
「あー! もう! ムカつくー!」
「具体的には?」
「水森貴一の子孫らってらけれムカつく!」
「親も祖先も選べませんからね」
「得意気なのがムカつく!」
「別に得意気ではありませんが」
「鍛えてるのもムカつく!」
「……なぜ?」
「美味しく見えるからムカつくんれす!」
「……あぁ、なるほど。食べられませんからね」
「れも、絶対セックスしないれすから!」
「そうですね」
「しないんれすよ!」
「はいはい。湯川に悪いですからね」
「うぅ、湯川せんせーに会いたい……」
「今日は京都です」
「会いたいよぅ……」
「……寝ないでくださいよ、ちょっと」
「……せんせー……」
「ちょっ、どうするんですか、この酔っ払い! 終電に突っ込みますよ!?」
あかりは案外絡み酒。そして、よく寝落ちする。
康太は結構な世話焼き。そして、自制心は強い。
「あの二人、どうなってるのかしら」
「お似合いなんだけどなぁ」
永田夫妻は興味津々。
◆◇◆◇◆
【文化祭】
「わ、あかりちゃん来てくれたの? 嬉しい!」
「……来てくれないと一日中縛るって脅されたからね」
「ありがとー! ね、似合う? 似合う?」
「ん、似合ってる、似合ってる」
「やっぱりメイド服は膝丈が一番だよね!」
「……で、オススメは?」
「あんみつオススメだよ! 暖かいのがいいなら抹茶オレのセットがいいよ!」
「じゃあ、それで」
「ありがとー!」
化粧とウィッグで女装したケント(とクラスメイト)がメイド服姿で給仕する。そんな喫茶店は、長蛇の列で入室が困難。あかりはケントからもらったチケットで並ばず入室。
「はい、あんみつ。あかりちゃん」
「ありがとう……なんでケントくんがサクランボの軸を咥えているのかな?」
「ん? サービス。ほら、サクランボ咥えて、実を食べて」
「……」
「目、開けててね」
「……」
「……食べてくれないと空き教室で犯すよ?」
渋々赤い実を食べようと口を開け、周りからの黄色い声を聞いて、あかりは長蛇の列の理由を知る。普通にキスするよりエロい「サービス」目当てなのだと。
「上手にできたから次はたくさん犯してあげる」と耳元で微笑まれ、こんなに色気のある男子中学生はどうなのとあかりは苦笑するしかない。
ちなみに、あとで担任にバレてケントはめちゃくちゃ叱られる。
◆◇◆◇◆
【女子会】
「ねえねえ、あかりさん、こちらの紺鼠はどうかしら?」
「んー……千恵子さんには灰色なら小町鼠とか灰桜の薄めの色……あ、でも、若草色とか若い色も似合うと思います」
「そう? 若すぎないかしら? 無地がいいと思っていたけど、江戸小紋もいいわねぇ」
「あ、東雲色の江戸小紋、ありますよ」
「あら、素敵。だけど、若すぎないかしら?」
「千恵子さんなら若すぎることはありませんよ。あ、じゃあ、私と出かけるときに着てきてくださいよ」
「それはいいわねぇ。今日はありがとう。私の友達は誰も映画に誘えなくて。また誘ってもいいかしら?」
「もちろん。千恵子さんの年代の方だと真知子巻きのほうが有名ですもんね」
「そうなのよ! わかってくださる?」
「岸さん、綺麗でしたもんねぇ」
「本当に」
「昔の女優さんだと、原節子さんとか、司葉子さんとかもお綺麗で」
「あかりさん、よくご存知ねぇ」
「あ、ええと、昔の映画が好きなんです。黒澤明監督や小津安二郎監督の」
「……あかりさんが康太の恋人ならどんなに良かったことか」
「す、すみません」
「湯川くんと別れたら、是非康太と!」
「千恵子さん、それは無理ですー!」
水森千恵子はあかりのメル友。
甘いものや世間で話題になっているものが好きな千恵子に付き合って、よく出かける仲になる。
ちなみに、あかりのほうが歳上。
◆◇◆◇◆
【水族館】
「……」
「……」
「あかり、楽しい? もう三十分も見てるけど」
「楽しい。めちゃくちゃ楽しい」
「そう? なら、良かった」
「……」
「……」
巨大水槽をボーッと見上げるあかりと、その横顔を見つめ続ける望。
お互い、目に映るものは違っても、それぞれ満足している様子。
「はい、チンアナゴのぬいぐるみ」
「湯川先生!? なんでっ!?」
「かじりついて見ていたじゃん。好きなんでしょ?」
「好き! 大好き! わぁ、かわいい! めちゃくちゃ嬉しい!! ありがとう、望!」
今まであげたプレゼントの中で一番喜んでくれたなぁと望は苦笑し、あかりは子どものように喜ぶ。
そんな、水族館デート。
……チンアナゴが(文字も形も)チン○に見えて「似てるなぁ、かわいいなぁ」と見つめていたとは口が裂けても言えないあかりだった。
◆◇◆◇◆
【サッカー】
「赤いユニフォームが翔吾のチーム、白いユニフォームが敵のチーム。ボールを敵のゴールに蹴り込んで、無事に入ったら得点。点数の高いほうが勝ち」
「……見ていればわかる? 健吾くん、解説してくれる?」
「わかる範囲なら。とりあえず、赤いほうが味方。赤いほうを応援して」
「わかった。赤いほうだね!」
翔吾のサッカーの試合を健吾と観戦するあかり。
「黒い人は?」
「審判」
「あっちの青い人とこっちの黄色い人は?」
「ゴールキーパー。ボールを入れられないようゴールを守る人」
「皆よく走るねぇ」
「それがサッカーだからね」
「え、何で今ので笛吹かれるの?」
「オフサイドっていうルールがあって」
「……オフサイド?」
「敵よりもゴールの近くに」
「あ、あ、あ! 翔吾くん、ねえ、あれ、翔吾くん!」
「そうだね、翔吾だね」
「あ、ね、翔吾く、わ! わ! わ!?」
「そうだね、アシスト……ゴールだね」
「わぁぁ! 健吾くん! 赤いほうがゴールしたよ!」
「そうだね。翔吾がパスしたね」
「ひゃぁー! すごーい! 翔吾くんすごーい!」
冷静な健吾と、興奮するも語彙力のないあかり。
「……クソ健吾っ、あかりと抱き合いやがって!」
観客席であかりに抱きつかれている健吾の姿を見つけて、若干嫉妬する翔吾。健吾が迷惑そうにしているのはもちろん見えていない。
その夜の「お仕置き」はたぶん激しめ。
◆◇◆◇◆
【バレる】
「……先生」
「いや、だから、それは、その」
「なに、これ?」
「んんんっ、まぁ、なんて言うか、うん」
「のーぞーむーさーんー?」
「……すみませんでした!!」
「消去!!」
「それは勘弁して!! それがなかったら、俺! あかりだって、知ってるだろ、俺があかりじゃなきゃイケないことくらい!」
「それとこれとは話が違うでしょ!」
「同じだよ! 俺だって、動いてるあかりを――」
「だからって! なんで、よりによって、この動画なの!?」
「……翔吾がくれるって言うから」
「……翔吾くん……ほんと、あの子は!」
「かわいいじゃん、あかり。メイド服、よく似合ってる」
「やめて! 消して!」
「制服姿もかわいい」
「やだ、もう、死にたい! 消して!!」
スマートフォンに保存してあるコスプレ動画を消すよう迫られた望だが、本当に見せられない双子とあかりの3P動画はDVDの中だから、ちょっとホッとしている。
ちなみに、パッケージはちゃんと偽装済み。あかりが絶対に見そうにない「心臓血管外科 手術集」が増えるかどうかは、未定。
◆◇◆◇◆
【祝電】
「ねぇ、いただいた祝電を見ていたんだけど、名前が書いてなくて……これ、あなた宛のものかしら?」
「どれだろう?」
「この、クマの祝電。式場の方に聞いても、誰が受け取ったか覚えていないらしくて、伝票もなかったみたい。宛名もないし、御礼ができなくて困ってしまって」
「……うん、これは俺の友達だよ。御礼は俺からしておくから、気にしないで」
「そう? じゃあ、お願いね」
ソファに腰掛け、友を思う。……想う。
「……『月の明かりに照らされた道を行く、二人の前途に幸多からんことを』……ねぇ。普通に名乗ってくれて構わなかったのに」
宮野潤は、「友」を想う。
祝電に込められた、精一杯の愛に気づいて。
彼女の、幸せを願う。
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※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
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完読しましたー!
エブリスタでサキュバスちゃんに出会って、ツイッターからこちらに飛んできました。官能だけじゃなく、切なくなったり、涙が出たり、素敵な作品でした!!出会えた事に感謝です。これからの作品も楽しみにしてますね?
あみ様
エブリスタから!?( ;∀;)ありがとうございますー!
登録までしてくださって……!
重ね重ねありがとうございますm(_ _)m嬉しいです!
「サキュバスちゃん」以降も長編やらオムニバスやら書いていますし、「サキュバスちゃん」以前の作品にもクロスオーバーしているキャラが出てくるので、ちょこちょこ楽しめると思います。
お時間のあるときに読んでみてくださいませ(*´ω`*)
とても好きな作品になりました!!こんな素敵な小説をありがとうございます!!
ついつい何回も読み返しちゃいます(*'-'*)
他の作品も全て一気に読んでしまいました!
これからも忙しいとは思いますが新作または続編期待して待ってます!
Meitoyo様
感想ありがとうございます!
わぁ、「好き」いただきました!嬉しいです(*´ω`*)
他の作品も読んでいただいたようでありがとうございますm(_ _)m
何回読んでも大丈夫なくらい、スルメな感じの小説になっていたか心配ですが、今後もそういう話を書いていきたいと思います。
ありがとうございました!
完結してしまった~~!!
お疲れ様です!! めっちゃ良かったです!!
読みたいが読めない……もう職場で読んじゃえ!⇒エロエ「すいませーん」お客さん来店(ぎゃーー!!いま、ちょ、いいとこ……)⇒本編は後回しにしてあとがきを読む⇒家に帰って最終話読む⇒泣く⇒むせび泣く⇒小咄を読んで泣きながらニヤニヤする⇒瀬戸内の海に聖地巡礼に行きたくなって葛藤する(今)
最高でした!! いい話でした!! ぼろぼろ泣きました~~。
では、スパイス読みます。
さよっぷ様
いつも感想ありがとうございます!
終わっちゃいましたよーぅ(*´ω`*)
ラスト2話あたりでお客様なら、本当にもうっっ!て感じになりますね、私もさすがに人前では読めません(笑)
最終話の冒頭は、もう、皆様から「泣いた」の感想ばかりで本当にありがたいことです。逆に、小咄はくすっとでも笑っていただけたら幸いです。
楽しんでいただけたようで嬉しいです(*´∀`)
スパイスは初のR18作品だったので、ちょっと稚拙なところも多いのですが、伏線も気にしながら読んでいただけると幸いです。
感想ありがとうございました!