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013.聖女、王家の事情にドン引きする。
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「明日で葉栄え月が終わりますね! ユリアン王子の成人の儀、楽しみですねぇ!」
メリナの明るい声に、私は「そうだねぇ」と目を閉じたまま頷く。もちろん、未だにホフマンさんからは成人の儀のことだけでなく様々な儀式のことを教わっている。しきたりや進行や口上や……あぁ、本当に、覚えることが多すぎる! 面倒くさくてたまらない! 《透視》で復習しても追いつかない! 逃げ出したい!
でも、ウェローズ王国の王子王女が十五歳になると行なう成人の儀は、日本で言うところの元服や成人式のことみたいだから、下手に間違えるわけにはいかないとも思う。私も成人式楽しみにしていたし。ハレの日に来賓の偉い人が失言、語り継がれるほどの失態、なんて絶対嫌だし。
……あぁぁ、振袖、着たかったなぁ! 藤色の落ち着いた感じの振袖、借りる予定だったのになぁ! あやめが綺麗だったのになぁ……!
「そういえば、レオニーさん。ユリアン王子の結婚相手が決まったかどうか聞いています?」
メリナは母親のエミリアがいなくてもかなり饒舌だ。しかも、恋愛話が大好き。レオニーは興味なさそうなのだけど、情報収集自体は好きな様子。彼女の母親が社交的で情報通なんだそうだ。何しろ、貴族の家では定期的に持ち回りで茶会が実施されているらしい。貴族のご婦人方は本当に噂好きなのねぇ。
だから、この二人がいると、貴族内の情報がかなり集まる。聖務官に聞きに行かなくてすむので、大変助かっている。まぁ、二人の仕事であるはずの刺繍は全然進まないみたいだけど。
「未だに相手選びは難航しているようですよ。他国の公爵家も侯爵家も難色を示しているようです」
「もう十五年も見つからないんですねぇ。かわいそうに」
「え、王子様なのに? そんなに見つからないもんなの?」
一国の王子様なんでしょう? 三男だけど、王位を継ぐ可能性だって十分あるわけじゃない? めっちゃ優良物件じゃん! 他国の令嬢に打診するより、ウェローズ王国だけでも探せそうだけどなぁ。
「ユリアン王子の場合、色々と特殊なんです」
「特殊?」
メリナとレオニーは顔を見合わせる。言ってもいいものかどうか、考えているのだろう。
いやいやいや、言おうよ。そこまで来たら、つるっと言っちゃおうよ。口をうっかり滑らせちゃおうよ! めっちゃ気になるじゃん!
「ユリアン王子の《透視》の結果はご覧になられましたか?」
レオニーの質問に、私は目を閉じる。《透視》の結果を先に確認するあたり、レオニーは賢いわね。ええと、ユリアン王子……ね。
《ユリアン・ウェローズ……十四歳。ウェローズ王国現国王の三番目の子。第三王子。人前に出ることを嫌がるため、彼の顔を見たことがある国民は少ない。赤すぎる髪の色を気にしている》
うーん、どのあたりが特殊なのか、さっぱりわからない。人前に出たがらないあたり? 私の即位式にも出席していないみたい。確かに、ウェローズ国王陛下と女王陛下、二人のお兄さん王子には挨拶をした記憶はあるけれど、第三王子には会ったことがないかもしれない。引きこもり、なのかな?
地球でも赤毛は差別されるって聞いたことがある。こっちの世界でも同じなんだろうか? そういえば、神殿内で赤毛の人は見たことがないかも。
え、それが理由? そんなことが理由?
「赤毛だから結婚相手が見つからないの?」
「聖教会は青色を神聖な色としています。赤は青と正反対の色なので、忌むべき色と見なされることが多いのです」
「マジで? バカみたいな理由だねぇ!」
私の言葉に二人は目を丸くする。
いやぁ、私だって黒髪だよ? 神殿内で見たことないよ? それと同じなんでしょ?
「生まれ持った色なんだから、別にいいじゃん。染毛すれば髪の色くらい変えられると思うけどさ」
「生まれ持った色だからこそ、問題だったんですよー、アーヤ様!」
え? 女王陛下の不倫問題とか? そっち系? 赤毛は不倫相手の色とか? やだぁ、いきなりドロドロしてきちゃった! 復習なんてしている場合じゃない。噂話は、他人事だから楽しいのだ。
「当時、先代聖女様の《祝福》が失敗したのではないかという噂がありました」
「先代聖女様、先代国王と仲が良かったですからね。先代女王に内緒で、何度も逢瀬を重ねていたみたいですし。先代女王の味方をしていた現国王陛下を恨む気持ちがあったんじゃないかって、今でもまことしやかに噂されてますよ」
めっちゃドロドロじゃないの、それ!
男と不倫関係にあった愛人が、男の息子から責められたのを逆恨みして、息子の子ども――男の孫に呪いをかけた、って? どこの童話よ!
にしても、フジ様、意外とえげつないことしてんのね。不倫なんて、聖女様ってイメージからかけ離れてるじゃん。呪うだなんて、完全に魔女じゃん。
マジかー。フジ様を完全無欠の聖女様だと思っていたから、私、ちょっとショックだわ。
「つまり、聖女に呪われた王子様だから、結婚相手が見つからないのね? 気の毒な話じゃないの、それ」
「まぁ、噂ですから」
「国内外で噂されていますけどね」
なるほど、公然の秘密ってやつね!
国民が知っているということは、信徒が知っているということ。信徒の中から結婚相手を見つけるのは至難の業だろう。かといって、王子という立場上、信徒以外の人間とは結婚することもできない。本当に気の毒な話だよねぇ。
「メリナは? 王子様、どう?」
「残念ながら、私にはもう恋人がいるので!」
「レオニーは?」
「もったいないお話です。我が家では釣り合いが取れません」
ユリアン王子、こんな感じで断られ続けてんのね。十五年も。めっちゃかわいそうなんだけど! 会ったこともないのに、同情しちゃうわ。
「アーヤ様はいかがですか?」
「わぁ、レオニーさん、良いですね、その案!」
「私?」
「はい。ユリアン王子とのご結婚は良いと思いますよ」
「王子と聖女、結婚相手としては申し分ないですね!」
え? そんなもん? 私、王子様と結婚できちゃう? やだぁ、全然想像できない! 十五歳でしょ? ウェローズ王国では成人かもしれないけど、日本なら犯罪だよ。
「あぁ、でも、アーヤ様にはたくさん縁談が来ていますもんね。ユリアン王子を含めると、選り取り見取りですね」
「ちょっと、メリナ、何それ? 縁談? 私、全然聞いていないんだけど?」
「聖女様と結婚するのは出世への近道ですから、そういう野心を持つ者との縁談は、聖務官が止めるでしょうね」
「なるほど、出世か……私がモテるわけじゃなかったのね」
数多の男たちから「結婚してください!」と花束を差し出されたとしても、それは私こと「清里あやめ」が好きなのではない。彼らは「聖女」という地位や肩書きが欲しいわけだ。
つまり、「モテ期が来た!」と勘違いをしてはいけない、図に乗ってはいけない、ということだ。なるほどね。
やだ、もー、知らなかったら勘違いしちゃうところだったわ。美味しい話はそのあたりに転がっているわけじゃない、ということね。肝に銘じておこう。
「フジ様は、先代国王と結婚したの?」
「いいえ。先代女王がお亡くなりになってから、先代国王は現国王陛下に譲位をいたしました。先代国王とフジ様は地方に移住なさり、今もそちらで一緒に過ごされていますが、結婚はなさらないかと」
「先代女王は心労で身罷ったのではないかという噂ですから、現国王陛下が二人の結婚を許すことはないでしょうねぇ」
《透視》を使い、ユリアン王子の項目から年表を引っ張り出す。ユリアン王子が誕生したのが一八〇六年、先代女王陛下が逝去なさったのが一八〇八年。二年かぁ。それは、心労がたたったのではないかと噂されるのも納得できる気がする。
先代女王の性格はわからないけど、自分の孫が夫の愛人によって呪われたのではないかと考えていたなら、息子やその妻に申し訳ないと自分を責める気持ちも芽生えるだろう。自分を裏切った夫や聖女を憎む気持ちもあったかもしれない。でも、女王として、その気持ちを外に出すわけにはいかなかった……うわぁ、ストレス、溜まりまくりじゃん! 寿命、縮むよね、そりゃ。
そして、そんなふうに苦しむ母親を見続けた息子が、父親とその愛人を許すことがないだろうという理屈もわかる。わかるなぁ。先代国王と先代聖女の移住も、「追放してやりたいができないので、せめて自分たちの目の前から消えてほしい」なんていう現国王陛下の思いがあるのかもしれない。
めっちゃドロドロ! 妄想は捗るけど、王族怖い! 期待以上の泥沼じゃないの! お腹いっぱいだわ!
「いやぁ、怖い、怖い。ねぇ、何かいい話はない? 後味の悪いお家騒動の話じゃなくて」
「そうですねぇ」
「そういえば、東区の酒場に美味しい料理が誕生したって、皆噂していますよ! 今度恋人と一緒に行こうと思っているんです」
メリナが嬉しそうに手をぽんと打った。
東区の……カーチェの酒場のことかな? ちゃんとマヨネーズ、作れるようになったんだなぁ。私は数日前のことを思い出す。
試作したときは食用魔獣の玉子と果実酢しかなかったから、私の知っているマヨネーズではなかったけど。そのあたり、料理好きのカーチェさんがうまくアレンジして、ちゃんとガッツリ系肉料理メニューを完成させたんだろうな。すごいなぁ。
でも、新メニューが決まったようで良かったわ。また五日板、見に行かなくちゃ。新しい願い事もあるだろうし。……まぁ、寄付板もちゃんとチェックするけどさ。
「あと、成人の儀のあとの晩餐会のときに、アーヤ様がお召しになるドレスの仕立てがそろそろ終わる頃かと」
「え? ドレス? 着られるの?」
「はい。楽しみですね」
いつの間にサイズを測ったのか、聞かないほうがいいみたい。たぶん、召喚直後、私がまだ眠っている間に計測されたんだよね……複雑な気分だわぁ。
振袖は着られなかったけど、ドレスが着られるなら、いいかぁ。
「来月からはダンスの練習が始まりますので、頑張ってくださいね、アーヤ様!」
……ダンス?
「楽しみですねぇ!」
メリナとレオニーは来賓客のドレスの色の予想なんかを話し始めたけれど、私の頭の中はそれどころではない。
ちょっと待って。ダンス? あの、踊るやつ? 中学のときにフォークダンスしかしたことないよ、私。オクラホマミキサーとマイム・マイムしか知らないよ?
ドレスを着てダンス?
盆踊り、じゃ、ダメだよね? ドレスを着て炭坑節……会場中がドン引きする未来しか見えないわ。盆踊りはダメ、絶対。
いや、ほんと、どうすんの? 踊らないという選択肢は? ない? 都合よく病気にならないかな!? インフルエンザとか! 疫病はないんだっけ? 感染症は? 何なら、腹痛でも頭痛でもいい! 私の体、頑張れ! ちょー頑張れ!
ドレスは着てみたいけど、ダンスは、絶対に、イヤだ! イヤだぁぁ!
メリナの明るい声に、私は「そうだねぇ」と目を閉じたまま頷く。もちろん、未だにホフマンさんからは成人の儀のことだけでなく様々な儀式のことを教わっている。しきたりや進行や口上や……あぁ、本当に、覚えることが多すぎる! 面倒くさくてたまらない! 《透視》で復習しても追いつかない! 逃げ出したい!
でも、ウェローズ王国の王子王女が十五歳になると行なう成人の儀は、日本で言うところの元服や成人式のことみたいだから、下手に間違えるわけにはいかないとも思う。私も成人式楽しみにしていたし。ハレの日に来賓の偉い人が失言、語り継がれるほどの失態、なんて絶対嫌だし。
……あぁぁ、振袖、着たかったなぁ! 藤色の落ち着いた感じの振袖、借りる予定だったのになぁ! あやめが綺麗だったのになぁ……!
「そういえば、レオニーさん。ユリアン王子の結婚相手が決まったかどうか聞いています?」
メリナは母親のエミリアがいなくてもかなり饒舌だ。しかも、恋愛話が大好き。レオニーは興味なさそうなのだけど、情報収集自体は好きな様子。彼女の母親が社交的で情報通なんだそうだ。何しろ、貴族の家では定期的に持ち回りで茶会が実施されているらしい。貴族のご婦人方は本当に噂好きなのねぇ。
だから、この二人がいると、貴族内の情報がかなり集まる。聖務官に聞きに行かなくてすむので、大変助かっている。まぁ、二人の仕事であるはずの刺繍は全然進まないみたいだけど。
「未だに相手選びは難航しているようですよ。他国の公爵家も侯爵家も難色を示しているようです」
「もう十五年も見つからないんですねぇ。かわいそうに」
「え、王子様なのに? そんなに見つからないもんなの?」
一国の王子様なんでしょう? 三男だけど、王位を継ぐ可能性だって十分あるわけじゃない? めっちゃ優良物件じゃん! 他国の令嬢に打診するより、ウェローズ王国だけでも探せそうだけどなぁ。
「ユリアン王子の場合、色々と特殊なんです」
「特殊?」
メリナとレオニーは顔を見合わせる。言ってもいいものかどうか、考えているのだろう。
いやいやいや、言おうよ。そこまで来たら、つるっと言っちゃおうよ。口をうっかり滑らせちゃおうよ! めっちゃ気になるじゃん!
「ユリアン王子の《透視》の結果はご覧になられましたか?」
レオニーの質問に、私は目を閉じる。《透視》の結果を先に確認するあたり、レオニーは賢いわね。ええと、ユリアン王子……ね。
《ユリアン・ウェローズ……十四歳。ウェローズ王国現国王の三番目の子。第三王子。人前に出ることを嫌がるため、彼の顔を見たことがある国民は少ない。赤すぎる髪の色を気にしている》
うーん、どのあたりが特殊なのか、さっぱりわからない。人前に出たがらないあたり? 私の即位式にも出席していないみたい。確かに、ウェローズ国王陛下と女王陛下、二人のお兄さん王子には挨拶をした記憶はあるけれど、第三王子には会ったことがないかもしれない。引きこもり、なのかな?
地球でも赤毛は差別されるって聞いたことがある。こっちの世界でも同じなんだろうか? そういえば、神殿内で赤毛の人は見たことがないかも。
え、それが理由? そんなことが理由?
「赤毛だから結婚相手が見つからないの?」
「聖教会は青色を神聖な色としています。赤は青と正反対の色なので、忌むべき色と見なされることが多いのです」
「マジで? バカみたいな理由だねぇ!」
私の言葉に二人は目を丸くする。
いやぁ、私だって黒髪だよ? 神殿内で見たことないよ? それと同じなんでしょ?
「生まれ持った色なんだから、別にいいじゃん。染毛すれば髪の色くらい変えられると思うけどさ」
「生まれ持った色だからこそ、問題だったんですよー、アーヤ様!」
え? 女王陛下の不倫問題とか? そっち系? 赤毛は不倫相手の色とか? やだぁ、いきなりドロドロしてきちゃった! 復習なんてしている場合じゃない。噂話は、他人事だから楽しいのだ。
「当時、先代聖女様の《祝福》が失敗したのではないかという噂がありました」
「先代聖女様、先代国王と仲が良かったですからね。先代女王に内緒で、何度も逢瀬を重ねていたみたいですし。先代女王の味方をしていた現国王陛下を恨む気持ちがあったんじゃないかって、今でもまことしやかに噂されてますよ」
めっちゃドロドロじゃないの、それ!
男と不倫関係にあった愛人が、男の息子から責められたのを逆恨みして、息子の子ども――男の孫に呪いをかけた、って? どこの童話よ!
にしても、フジ様、意外とえげつないことしてんのね。不倫なんて、聖女様ってイメージからかけ離れてるじゃん。呪うだなんて、完全に魔女じゃん。
マジかー。フジ様を完全無欠の聖女様だと思っていたから、私、ちょっとショックだわ。
「つまり、聖女に呪われた王子様だから、結婚相手が見つからないのね? 気の毒な話じゃないの、それ」
「まぁ、噂ですから」
「国内外で噂されていますけどね」
なるほど、公然の秘密ってやつね!
国民が知っているということは、信徒が知っているということ。信徒の中から結婚相手を見つけるのは至難の業だろう。かといって、王子という立場上、信徒以外の人間とは結婚することもできない。本当に気の毒な話だよねぇ。
「メリナは? 王子様、どう?」
「残念ながら、私にはもう恋人がいるので!」
「レオニーは?」
「もったいないお話です。我が家では釣り合いが取れません」
ユリアン王子、こんな感じで断られ続けてんのね。十五年も。めっちゃかわいそうなんだけど! 会ったこともないのに、同情しちゃうわ。
「アーヤ様はいかがですか?」
「わぁ、レオニーさん、良いですね、その案!」
「私?」
「はい。ユリアン王子とのご結婚は良いと思いますよ」
「王子と聖女、結婚相手としては申し分ないですね!」
え? そんなもん? 私、王子様と結婚できちゃう? やだぁ、全然想像できない! 十五歳でしょ? ウェローズ王国では成人かもしれないけど、日本なら犯罪だよ。
「あぁ、でも、アーヤ様にはたくさん縁談が来ていますもんね。ユリアン王子を含めると、選り取り見取りですね」
「ちょっと、メリナ、何それ? 縁談? 私、全然聞いていないんだけど?」
「聖女様と結婚するのは出世への近道ですから、そういう野心を持つ者との縁談は、聖務官が止めるでしょうね」
「なるほど、出世か……私がモテるわけじゃなかったのね」
数多の男たちから「結婚してください!」と花束を差し出されたとしても、それは私こと「清里あやめ」が好きなのではない。彼らは「聖女」という地位や肩書きが欲しいわけだ。
つまり、「モテ期が来た!」と勘違いをしてはいけない、図に乗ってはいけない、ということだ。なるほどね。
やだ、もー、知らなかったら勘違いしちゃうところだったわ。美味しい話はそのあたりに転がっているわけじゃない、ということね。肝に銘じておこう。
「フジ様は、先代国王と結婚したの?」
「いいえ。先代女王がお亡くなりになってから、先代国王は現国王陛下に譲位をいたしました。先代国王とフジ様は地方に移住なさり、今もそちらで一緒に過ごされていますが、結婚はなさらないかと」
「先代女王は心労で身罷ったのではないかという噂ですから、現国王陛下が二人の結婚を許すことはないでしょうねぇ」
《透視》を使い、ユリアン王子の項目から年表を引っ張り出す。ユリアン王子が誕生したのが一八〇六年、先代女王陛下が逝去なさったのが一八〇八年。二年かぁ。それは、心労がたたったのではないかと噂されるのも納得できる気がする。
先代女王の性格はわからないけど、自分の孫が夫の愛人によって呪われたのではないかと考えていたなら、息子やその妻に申し訳ないと自分を責める気持ちも芽生えるだろう。自分を裏切った夫や聖女を憎む気持ちもあったかもしれない。でも、女王として、その気持ちを外に出すわけにはいかなかった……うわぁ、ストレス、溜まりまくりじゃん! 寿命、縮むよね、そりゃ。
そして、そんなふうに苦しむ母親を見続けた息子が、父親とその愛人を許すことがないだろうという理屈もわかる。わかるなぁ。先代国王と先代聖女の移住も、「追放してやりたいができないので、せめて自分たちの目の前から消えてほしい」なんていう現国王陛下の思いがあるのかもしれない。
めっちゃドロドロ! 妄想は捗るけど、王族怖い! 期待以上の泥沼じゃないの! お腹いっぱいだわ!
「いやぁ、怖い、怖い。ねぇ、何かいい話はない? 後味の悪いお家騒動の話じゃなくて」
「そうですねぇ」
「そういえば、東区の酒場に美味しい料理が誕生したって、皆噂していますよ! 今度恋人と一緒に行こうと思っているんです」
メリナが嬉しそうに手をぽんと打った。
東区の……カーチェの酒場のことかな? ちゃんとマヨネーズ、作れるようになったんだなぁ。私は数日前のことを思い出す。
試作したときは食用魔獣の玉子と果実酢しかなかったから、私の知っているマヨネーズではなかったけど。そのあたり、料理好きのカーチェさんがうまくアレンジして、ちゃんとガッツリ系肉料理メニューを完成させたんだろうな。すごいなぁ。
でも、新メニューが決まったようで良かったわ。また五日板、見に行かなくちゃ。新しい願い事もあるだろうし。……まぁ、寄付板もちゃんとチェックするけどさ。
「あと、成人の儀のあとの晩餐会のときに、アーヤ様がお召しになるドレスの仕立てがそろそろ終わる頃かと」
「え? ドレス? 着られるの?」
「はい。楽しみですね」
いつの間にサイズを測ったのか、聞かないほうがいいみたい。たぶん、召喚直後、私がまだ眠っている間に計測されたんだよね……複雑な気分だわぁ。
振袖は着られなかったけど、ドレスが着られるなら、いいかぁ。
「来月からはダンスの練習が始まりますので、頑張ってくださいね、アーヤ様!」
……ダンス?
「楽しみですねぇ!」
メリナとレオニーは来賓客のドレスの色の予想なんかを話し始めたけれど、私の頭の中はそれどころではない。
ちょっと待って。ダンス? あの、踊るやつ? 中学のときにフォークダンスしかしたことないよ、私。オクラホマミキサーとマイム・マイムしか知らないよ?
ドレスを着てダンス?
盆踊り、じゃ、ダメだよね? ドレスを着て炭坑節……会場中がドン引きする未来しか見えないわ。盆踊りはダメ、絶対。
いや、ほんと、どうすんの? 踊らないという選択肢は? ない? 都合よく病気にならないかな!? インフルエンザとか! 疫病はないんだっけ? 感染症は? 何なら、腹痛でも頭痛でもいい! 私の体、頑張れ! ちょー頑張れ!
ドレスは着てみたいけど、ダンスは、絶対に、イヤだ! イヤだぁぁ!
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