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月下の桜(二)
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スマートフォンはしまって、向かい合わせであかりさんと料理を食べながら、いくつかの取り決めをする。セックスフレンドの契約みたいなものだ。
主に、あかりさんから俺に向けたセフレの条件みたいなものだったけど。
「私は彼女にはなりません。セフレです」
「セフレは常に複数人います」
「彼女ができたり、結婚したりするときは、関係は解消します」
「私を束縛するようになったら、関係は解消します」
「避妊はしなくて良いです。妊娠しない体なので」
「体臭で病気持ちかどうかはわかるので、性病の心配はありません。気になるようなら、検査を受けますし、翔吾くんも受けてください」
なるほど。好条件ばかりだ。
性病の下りは信憑性が疑わしかったけど、三ヶ月前の診断書を見せられて納得した。常に持ち歩いている女は、普通はいない。そういうことを常に想定しているということか。
「翔吾くんからは?」
「……ホテル代は割り勘?」
「あ、もちろん、私が全部払うよ」
その瞬間に、俺の心は決まった。
ラブホ代を渋る女はいるけど、全額出すと言う女はそういるもんじゃない。彼女は「本物」だ。本当に、セフレだけを欲している。
それは、俺にとっても都合が良かった。彼女なら、結婚を求めてきたり、高価なものをねだってきたりは、しないだろう。
「あ、鯛、美味しい」
「カンパチも美味いよ」
「私、マグロ苦手なのに、美味しいね、このお店のお刺身」
美味しそうに食べてくれるので、頼み甲斐がある。でも、少食だと言っているので、多くは頼まず、俺のオススメだけ注文する。
「天ぷらも美味しい! 抹茶塩は初めて!」
「案外イイでしょ?」
「案外どころか! すごく好きかも」
和食が、魚介類が、好きで良かった。
俺、和食が好きなのに、由加はいつもイタリアンやフレンチばかりをリクエストしてきたから、胃が疲れていたんだよな。
食の好みは大事。笑顔が見られることは大事なのだ。
「明太子の揚げ春巻き……!」
「それも好き?」
「好き!」
でも、そろそろお腹いっぱい、とあかりさんは苦笑する。確かに少食のようだ。残ったものは俺が全部食べるから、いいけど。
「あかりさんはクリスマスイブは予定ある?」
「えーと、木曜日? 木曜日はなかったかなぁ。クリスマスも仕事だし」
早速カレンダーを起動して曜日を確認している。
ホテルのスイート、キャンセルしなくても良さそうだ。他のカップルに恵んでやるくらいなら、俺たちが使いたい。
「じゃあ、予定入れておいて。俺と過ごしてよ」
「いいよ。プレゼントはどうする? 買ってきたほうがいい? あ、でも、そういうのはないほうがいいかな?」
「あかりさんがいい」
あかりさんの箸が止まる。聞こえなかった? まぁ、そんなわけないか。もう一度、言おう。
「あかりさんが欲しい」
ぼん、と音が出そうなくらいに一気に赤面したあかりさんがかわいい。箸を置いて、頬をペタペタ触っている。そんなことで、真っ赤になった顔が戻るわけじゃないのに。
「あかりさんとセックスしたい」
「いや、そんなに言わなくても! わかったから! わかった! けど!」
けど?
不安になるような接続詞、使わないでよ。
あかりさんが真っ赤になりながら紡いだ言葉は、俺の心を、簡単に撃ち抜いた。
「……私、明日は休みなの」
「……え?」
「今から、じゃダメかな?」
木枯らしが吹き荒いでいた心に、いきなり春がやってくる。
目の前に、女神がいる。
え、いいの? 本当に? 夢じゃなくて? ドッキリじゃなくて? 出会ったその日で、いいの?
「……クリスマスまで待てない、私」
……勃った。
そんなこと、上目遣いで言われたら、勃たないわけがない。二十歳の男が、我慢できるわけがない。
今すぐこの座敷で押し倒して、突っ込んで、掻き混ぜて、中を白いもので汚してやりたい。ダメだって言われても、泣かれても、何度も何度も、犯して――。
「……行こう、ホテル」
「え。まだ残ってるよ?」
「ダメ。もう我慢できない」
会計をするために立ち上がった俺の股間を見て、あかりさんは苦笑した。そして、スーツのジャケットと、ダサいダウンジャケットを着始める。
応じてくれた。
それだけで、はちきれそうだ。
「充電器、忘れないでね」
「はぁい」
割り勘のことなんてすっかり忘れて、いつも通りカードで支払う。頭の中は、近くのラブホへどう行けば近道になるだろうかと、それしか考えられない。
サンタクロース、良い仕事してくれたなぁ! 本当に、最高のプレゼントだ。
「いくらだった?」
店の外で財布を出してきたあかりさんの手を引く。ひやりと冷たい手。すべすべで柔らかい手。
値段なんか、見ていなかった。適当に「二千円」と言っておく。たぶん、半分には全然足りないけど。
「翔吾くん、お会計……財布から出せないよ!」
「あとでいいよ」
そんなの、あとでいい。なくてもいい。忘れてもいい。
早く。
早く。
早く――あなたを抱きたい。
◆◇◆◇◆
通りから少し離れた裏通りに、ピンクと青のネオンライトが見える。あかりさんの手を引いて、さっさとエントランスへ向かう。
空きは、あった。二部屋。安いほうを選ぼうとするあかりさんの指より先に、高いほうのボタンを押す。二〇二号室、か。
「私が払うのに」と笑っている彼女の手を引きながら、俺も笑う。女の子にラブホ代を出させるほど、俺は馬鹿じゃない。
エレベーターを待つのももどかしく、階段を登る。あかりさんは文句も言わずについてくる。あとで文句くらい、言われてもいい。いいから、早く。早く。
早く――。
点滅している部屋番号を見つけ、二〇二号室に先にあかりさんを押し込む。
パンプスをポイと脱ぎ捨て、荷物とダサジャケットをソファに投げて。あかりさんは、手を大きく広げ、大きなベッドの前に立っていた。
「おいで、翔吾」
その笑顔に、誰が逆らえるだろう。俺もすぐにジャケットを脱いで、放り投げて――彼女をぎゅうと抱きしめた。
あぁ……。
華奢で、柔らかくて、いい匂いがして、触れるだけでイキそうなくらい、勃ってしまっている。
でも、抱きたくてたまらないのに、本当にいいのかと、自問自答する。
由加の代わり?
セックスをしたいだけ?
本当に、いいの?
俺はあかりさんで、あかりさんは、俺で。本当にいいのか?
「あかりさん」
「ん、なぁに?」
「本当に俺で」
疑問を彼女にぶつける直前で、言葉が遮られた。温く柔らかな唇が、二度三度と俺の唇を塞ぐ。いつの間に口にしたのか、爽やかな清涼タブレットの味。
「翔吾がいい」
俺でいいのか、の答えは、簡単に明確に返ってきた。それで、その一言だけで、ただ安心する。緊張が解けていく。腰が砕けそうなくらい、嬉しい。
「っわ!?」
いきなり、あかりさんが俺に抱きついたままベッドに体重を傾ける。慌ててあかりさんを潰さないように両手を張ったけど、ベッドのスプリングが跳ねてうまく力が入らなくて、結局、彼女の上に倒れ込む。
「ちょっと、あかりさん! 大丈夫!?」
「ん、大丈夫」
真下に見える笑顔。冷たい指が、俺の頬を撫で――誘う。請われるままに、俺は顔を近づけ、柔らかい、花のような唇に、自身の唇を重ねる。
薄く開いた唇の中に舌を挿れ、彼女の舌を探す。恐る恐る侵入したのに、あかりさんはすぐに舌を絡めてくる。頬に添えられていた指は、いつの間にか首の後ろに回り、俺の頭ごと固定されている。
……ダメだ。理性が保たない。
このままだと優しくできない。欲望のままに抱いて、犯して、泣かしてしまう。嫌われてしまう。
「翔吾」
「……はい……っ!?」
股間に、柔らかな感触。腰を引いてあかりさんには当たらないようにしていた俺の凶悪な部分を、あろうことか彼女が膝を使って刺激してくる。幾重もの布が隔てているはずなのに、直接膝で触られているかのように甘やかな熱だ。
「硬いね」
「あかりさんのせいでしょ」
「うん、ごめん。すぐ出したい?」
「……もちろん」
何を、当たり前なことを。すぐにでも、出したい。
ここで寸止めされても、俺は――。
「じゃあ、おいで」
首に回っていた両手が、いつの間にか俺のベルトを外そうとしている。俺もタイトスカートのファスナーを見つけ出し、引き下げる。しかし、まだストッキングが、ある。さすがにAVみたいに引きちぎったら、あかりさんは怒るだろう。
「着たままするのが好き? それとも、脱がす?」
「どっちも好きだけど、初めてだし、裸のほうがいいかな」
うん、その「初めて」が行為のことじゃないことくらいはわかっている。わかっているけど、ドキッとする。
「ボクサーパンツ派なんだね」
「うん」
「何か運動してる?」
「……サッカーを、小学生から」
腹の周りをペタペタ触りながら、あかりさんは「なるほど、腹筋がすごい」と微笑む。まぁ、一応、割れているけど。
「ストッキングだけ、脱いで。破れそうで怖い」
「はぁい」
あかりさんはタイトスカートごとパンツストッキングを脱ぎ去り、ポイと床に落とす。……スカートは、俺が脱がせたかったなぁ、と残念に思いながら、俺は肉感のある足に釘付けとなる。細すぎず太すぎず、程よく長い足。
あかりさんは、スタイル抜群じゃないのか、もしかして。モデルや女優のように「魅せる」スタイルではなく、男を誘うスタイルの良さ。男好きのする体。
パステルイエローのショーツには目がいかないくらい、足をじっくり眺める。うん、いい。舌を這わせたいくらい、美味しそうだ。
「バンザイして」
あかりさんのニットのインナーを脱がし、キャミソールも脱がす。パステルイエローの上下セットの下着。リボンがかわいい。
そして、その体は、やはり、エロい。白い肌。柔らかそうな肉。程よく締まった腹。俺の手のひらにおさまるくらいにちょうどよい胸。
彼女は、本当にエロい体をしている。
あかりさんにシャツとデニムを脱がせてもらい、お互い下着だけになる。グレーのボクサーパンツの中身は既にカチコチで、先走りで濡れて黒く変色している。パステルイエローのショーツも、同じ。色が濃くなっている。
「翔吾、あっためて」
寒がりなあかりさんに布団をかぶせて、俺もその中に入り込む。真っ白な世界の中で、お互いの味を求めるようにキスをする。
あかりさんの内股からショーツに手を伸ばし、上から下へゆっくりと指を這わせる。
「っふ」
ヌルヌルとした愛液が染み出して、俺の指を濡らす。濡れている、その事実が嬉しい。
キスをしながら、ショーツを膝まで引き下げ、抜き去る。あかりさんも一生懸命ボクサーパンツを脱がそうとするが、上手にいかない。彼女のリーチは短いらしい。どうするのかと思っていたら、太腿までボクサーパンツを何とか下ろし、次は足でふくらはぎまで無理やり押しやった。
俺は苦笑しながら、最後は自分で脱ぐ。
「足癖悪いね」
「手を使ったら、目の前のそれを食べたくなっちゃうから」
「変な言い訳」
割れ目に指を添えると、既に蜜で溢れている。ヌルリとした粘液が指に絡み、滑りをよくしていく。
花弁のその先、小さな花芽は起ち上がっている。濡れた指で擦ると、あかりさんの体が震え、甘い吐息が漏れてくる。
「あ、っん」
「すごい濡れてる」
「翔吾、だって、濡れて」
「早く挿入りたいからね。あかりさんは?」
羞恥に悶えながら、あかりさんは俺にキスをしてくる。そして、小さな声で、俺の理性を吹き飛ばしに来た。
「欲しい」
左手だったので手間取ったけど、何とかブラのホックを外し、ふるんと揺れた双丘の頂きに吸いつく。舌で突起を転がすと、あかりさんが大きく啼いた。その声を合図に、俺は指を彼女の中へと侵入させた。
中指が熱い隘路を進む。中は思った以上に狭く、キツい。しかし、かなり濡れているので、挿入することはできるだろう。
問題は、動けるかどうかだ。これだけキツいと、締め付けられたらすぐに射精してしまいそうだ。
「しょーご、っ、あっ」
「狭いね、中。ちゃんと解さないと」
「や、っおねが、しょーごっ」
何をお願いしているのか。あかりさんの声は途切れ途切れでわからない。まぁ、イヤだとお願いされても、もう止まらないけど。
胸に舌を這わせて、唾液まみれにしながら、膣壁に中指をゆっくりと往復させる。彼女が一番反応がいいところは、ちょうど中指で届く範囲にある。ありがたいことだ。
「おねが、しょーご」
「何、あかりさん」
潤む目で俺を見上げてくる彼女の手のひらは、俺の先走りで汚れている。俺が彼女の中を解している間ずっと扱いていてくれたから、かなり硬い。
「欲しい、の」
「何が?」
「……挿れて欲しい」
いいの? そう、目で尋ねて。
いいの。そう、目で応えて。
あかりさんの膝の間に割り入り、腰を落として、屹立した肉棒を蜜口の寸前で止めて。改めて尋ねる。
「本当に、生、で?」
「うん」
「中に出しても?」
「うん。お願い。中に出して」
煽らないでよ。優しくできなくなる。
「あかり、挿入るよ」
うん、と頷いた彼女の笑顔が忘れられなくなるなんて、このときの俺はまだ知らない。
蜜口から中指を抜いて、代わりに、雄々しく反り立った俺の欲望を、ゆっくりと彼女の中へと押し進めるのだ。
主に、あかりさんから俺に向けたセフレの条件みたいなものだったけど。
「私は彼女にはなりません。セフレです」
「セフレは常に複数人います」
「彼女ができたり、結婚したりするときは、関係は解消します」
「私を束縛するようになったら、関係は解消します」
「避妊はしなくて良いです。妊娠しない体なので」
「体臭で病気持ちかどうかはわかるので、性病の心配はありません。気になるようなら、検査を受けますし、翔吾くんも受けてください」
なるほど。好条件ばかりだ。
性病の下りは信憑性が疑わしかったけど、三ヶ月前の診断書を見せられて納得した。常に持ち歩いている女は、普通はいない。そういうことを常に想定しているということか。
「翔吾くんからは?」
「……ホテル代は割り勘?」
「あ、もちろん、私が全部払うよ」
その瞬間に、俺の心は決まった。
ラブホ代を渋る女はいるけど、全額出すと言う女はそういるもんじゃない。彼女は「本物」だ。本当に、セフレだけを欲している。
それは、俺にとっても都合が良かった。彼女なら、結婚を求めてきたり、高価なものをねだってきたりは、しないだろう。
「あ、鯛、美味しい」
「カンパチも美味いよ」
「私、マグロ苦手なのに、美味しいね、このお店のお刺身」
美味しそうに食べてくれるので、頼み甲斐がある。でも、少食だと言っているので、多くは頼まず、俺のオススメだけ注文する。
「天ぷらも美味しい! 抹茶塩は初めて!」
「案外イイでしょ?」
「案外どころか! すごく好きかも」
和食が、魚介類が、好きで良かった。
俺、和食が好きなのに、由加はいつもイタリアンやフレンチばかりをリクエストしてきたから、胃が疲れていたんだよな。
食の好みは大事。笑顔が見られることは大事なのだ。
「明太子の揚げ春巻き……!」
「それも好き?」
「好き!」
でも、そろそろお腹いっぱい、とあかりさんは苦笑する。確かに少食のようだ。残ったものは俺が全部食べるから、いいけど。
「あかりさんはクリスマスイブは予定ある?」
「えーと、木曜日? 木曜日はなかったかなぁ。クリスマスも仕事だし」
早速カレンダーを起動して曜日を確認している。
ホテルのスイート、キャンセルしなくても良さそうだ。他のカップルに恵んでやるくらいなら、俺たちが使いたい。
「じゃあ、予定入れておいて。俺と過ごしてよ」
「いいよ。プレゼントはどうする? 買ってきたほうがいい? あ、でも、そういうのはないほうがいいかな?」
「あかりさんがいい」
あかりさんの箸が止まる。聞こえなかった? まぁ、そんなわけないか。もう一度、言おう。
「あかりさんが欲しい」
ぼん、と音が出そうなくらいに一気に赤面したあかりさんがかわいい。箸を置いて、頬をペタペタ触っている。そんなことで、真っ赤になった顔が戻るわけじゃないのに。
「あかりさんとセックスしたい」
「いや、そんなに言わなくても! わかったから! わかった! けど!」
けど?
不安になるような接続詞、使わないでよ。
あかりさんが真っ赤になりながら紡いだ言葉は、俺の心を、簡単に撃ち抜いた。
「……私、明日は休みなの」
「……え?」
「今から、じゃダメかな?」
木枯らしが吹き荒いでいた心に、いきなり春がやってくる。
目の前に、女神がいる。
え、いいの? 本当に? 夢じゃなくて? ドッキリじゃなくて? 出会ったその日で、いいの?
「……クリスマスまで待てない、私」
……勃った。
そんなこと、上目遣いで言われたら、勃たないわけがない。二十歳の男が、我慢できるわけがない。
今すぐこの座敷で押し倒して、突っ込んで、掻き混ぜて、中を白いもので汚してやりたい。ダメだって言われても、泣かれても、何度も何度も、犯して――。
「……行こう、ホテル」
「え。まだ残ってるよ?」
「ダメ。もう我慢できない」
会計をするために立ち上がった俺の股間を見て、あかりさんは苦笑した。そして、スーツのジャケットと、ダサいダウンジャケットを着始める。
応じてくれた。
それだけで、はちきれそうだ。
「充電器、忘れないでね」
「はぁい」
割り勘のことなんてすっかり忘れて、いつも通りカードで支払う。頭の中は、近くのラブホへどう行けば近道になるだろうかと、それしか考えられない。
サンタクロース、良い仕事してくれたなぁ! 本当に、最高のプレゼントだ。
「いくらだった?」
店の外で財布を出してきたあかりさんの手を引く。ひやりと冷たい手。すべすべで柔らかい手。
値段なんか、見ていなかった。適当に「二千円」と言っておく。たぶん、半分には全然足りないけど。
「翔吾くん、お会計……財布から出せないよ!」
「あとでいいよ」
そんなの、あとでいい。なくてもいい。忘れてもいい。
早く。
早く。
早く――あなたを抱きたい。
◆◇◆◇◆
通りから少し離れた裏通りに、ピンクと青のネオンライトが見える。あかりさんの手を引いて、さっさとエントランスへ向かう。
空きは、あった。二部屋。安いほうを選ぼうとするあかりさんの指より先に、高いほうのボタンを押す。二〇二号室、か。
「私が払うのに」と笑っている彼女の手を引きながら、俺も笑う。女の子にラブホ代を出させるほど、俺は馬鹿じゃない。
エレベーターを待つのももどかしく、階段を登る。あかりさんは文句も言わずについてくる。あとで文句くらい、言われてもいい。いいから、早く。早く。
早く――。
点滅している部屋番号を見つけ、二〇二号室に先にあかりさんを押し込む。
パンプスをポイと脱ぎ捨て、荷物とダサジャケットをソファに投げて。あかりさんは、手を大きく広げ、大きなベッドの前に立っていた。
「おいで、翔吾」
その笑顔に、誰が逆らえるだろう。俺もすぐにジャケットを脱いで、放り投げて――彼女をぎゅうと抱きしめた。
あぁ……。
華奢で、柔らかくて、いい匂いがして、触れるだけでイキそうなくらい、勃ってしまっている。
でも、抱きたくてたまらないのに、本当にいいのかと、自問自答する。
由加の代わり?
セックスをしたいだけ?
本当に、いいの?
俺はあかりさんで、あかりさんは、俺で。本当にいいのか?
「あかりさん」
「ん、なぁに?」
「本当に俺で」
疑問を彼女にぶつける直前で、言葉が遮られた。温く柔らかな唇が、二度三度と俺の唇を塞ぐ。いつの間に口にしたのか、爽やかな清涼タブレットの味。
「翔吾がいい」
俺でいいのか、の答えは、簡単に明確に返ってきた。それで、その一言だけで、ただ安心する。緊張が解けていく。腰が砕けそうなくらい、嬉しい。
「っわ!?」
いきなり、あかりさんが俺に抱きついたままベッドに体重を傾ける。慌ててあかりさんを潰さないように両手を張ったけど、ベッドのスプリングが跳ねてうまく力が入らなくて、結局、彼女の上に倒れ込む。
「ちょっと、あかりさん! 大丈夫!?」
「ん、大丈夫」
真下に見える笑顔。冷たい指が、俺の頬を撫で――誘う。請われるままに、俺は顔を近づけ、柔らかい、花のような唇に、自身の唇を重ねる。
薄く開いた唇の中に舌を挿れ、彼女の舌を探す。恐る恐る侵入したのに、あかりさんはすぐに舌を絡めてくる。頬に添えられていた指は、いつの間にか首の後ろに回り、俺の頭ごと固定されている。
……ダメだ。理性が保たない。
このままだと優しくできない。欲望のままに抱いて、犯して、泣かしてしまう。嫌われてしまう。
「翔吾」
「……はい……っ!?」
股間に、柔らかな感触。腰を引いてあかりさんには当たらないようにしていた俺の凶悪な部分を、あろうことか彼女が膝を使って刺激してくる。幾重もの布が隔てているはずなのに、直接膝で触られているかのように甘やかな熱だ。
「硬いね」
「あかりさんのせいでしょ」
「うん、ごめん。すぐ出したい?」
「……もちろん」
何を、当たり前なことを。すぐにでも、出したい。
ここで寸止めされても、俺は――。
「じゃあ、おいで」
首に回っていた両手が、いつの間にか俺のベルトを外そうとしている。俺もタイトスカートのファスナーを見つけ出し、引き下げる。しかし、まだストッキングが、ある。さすがにAVみたいに引きちぎったら、あかりさんは怒るだろう。
「着たままするのが好き? それとも、脱がす?」
「どっちも好きだけど、初めてだし、裸のほうがいいかな」
うん、その「初めて」が行為のことじゃないことくらいはわかっている。わかっているけど、ドキッとする。
「ボクサーパンツ派なんだね」
「うん」
「何か運動してる?」
「……サッカーを、小学生から」
腹の周りをペタペタ触りながら、あかりさんは「なるほど、腹筋がすごい」と微笑む。まぁ、一応、割れているけど。
「ストッキングだけ、脱いで。破れそうで怖い」
「はぁい」
あかりさんはタイトスカートごとパンツストッキングを脱ぎ去り、ポイと床に落とす。……スカートは、俺が脱がせたかったなぁ、と残念に思いながら、俺は肉感のある足に釘付けとなる。細すぎず太すぎず、程よく長い足。
あかりさんは、スタイル抜群じゃないのか、もしかして。モデルや女優のように「魅せる」スタイルではなく、男を誘うスタイルの良さ。男好きのする体。
パステルイエローのショーツには目がいかないくらい、足をじっくり眺める。うん、いい。舌を這わせたいくらい、美味しそうだ。
「バンザイして」
あかりさんのニットのインナーを脱がし、キャミソールも脱がす。パステルイエローの上下セットの下着。リボンがかわいい。
そして、その体は、やはり、エロい。白い肌。柔らかそうな肉。程よく締まった腹。俺の手のひらにおさまるくらいにちょうどよい胸。
彼女は、本当にエロい体をしている。
あかりさんにシャツとデニムを脱がせてもらい、お互い下着だけになる。グレーのボクサーパンツの中身は既にカチコチで、先走りで濡れて黒く変色している。パステルイエローのショーツも、同じ。色が濃くなっている。
「翔吾、あっためて」
寒がりなあかりさんに布団をかぶせて、俺もその中に入り込む。真っ白な世界の中で、お互いの味を求めるようにキスをする。
あかりさんの内股からショーツに手を伸ばし、上から下へゆっくりと指を這わせる。
「っふ」
ヌルヌルとした愛液が染み出して、俺の指を濡らす。濡れている、その事実が嬉しい。
キスをしながら、ショーツを膝まで引き下げ、抜き去る。あかりさんも一生懸命ボクサーパンツを脱がそうとするが、上手にいかない。彼女のリーチは短いらしい。どうするのかと思っていたら、太腿までボクサーパンツを何とか下ろし、次は足でふくらはぎまで無理やり押しやった。
俺は苦笑しながら、最後は自分で脱ぐ。
「足癖悪いね」
「手を使ったら、目の前のそれを食べたくなっちゃうから」
「変な言い訳」
割れ目に指を添えると、既に蜜で溢れている。ヌルリとした粘液が指に絡み、滑りをよくしていく。
花弁のその先、小さな花芽は起ち上がっている。濡れた指で擦ると、あかりさんの体が震え、甘い吐息が漏れてくる。
「あ、っん」
「すごい濡れてる」
「翔吾、だって、濡れて」
「早く挿入りたいからね。あかりさんは?」
羞恥に悶えながら、あかりさんは俺にキスをしてくる。そして、小さな声で、俺の理性を吹き飛ばしに来た。
「欲しい」
左手だったので手間取ったけど、何とかブラのホックを外し、ふるんと揺れた双丘の頂きに吸いつく。舌で突起を転がすと、あかりさんが大きく啼いた。その声を合図に、俺は指を彼女の中へと侵入させた。
中指が熱い隘路を進む。中は思った以上に狭く、キツい。しかし、かなり濡れているので、挿入することはできるだろう。
問題は、動けるかどうかだ。これだけキツいと、締め付けられたらすぐに射精してしまいそうだ。
「しょーご、っ、あっ」
「狭いね、中。ちゃんと解さないと」
「や、っおねが、しょーごっ」
何をお願いしているのか。あかりさんの声は途切れ途切れでわからない。まぁ、イヤだとお願いされても、もう止まらないけど。
胸に舌を這わせて、唾液まみれにしながら、膣壁に中指をゆっくりと往復させる。彼女が一番反応がいいところは、ちょうど中指で届く範囲にある。ありがたいことだ。
「おねが、しょーご」
「何、あかりさん」
潤む目で俺を見上げてくる彼女の手のひらは、俺の先走りで汚れている。俺が彼女の中を解している間ずっと扱いていてくれたから、かなり硬い。
「欲しい、の」
「何が?」
「……挿れて欲しい」
いいの? そう、目で尋ねて。
いいの。そう、目で応えて。
あかりさんの膝の間に割り入り、腰を落として、屹立した肉棒を蜜口の寸前で止めて。改めて尋ねる。
「本当に、生、で?」
「うん」
「中に出しても?」
「うん。お願い。中に出して」
煽らないでよ。優しくできなくなる。
「あかり、挿入るよ」
うん、と頷いた彼女の笑顔が忘れられなくなるなんて、このときの俺はまだ知らない。
蜜口から中指を抜いて、代わりに、雄々しく反り立った俺の欲望を、ゆっくりと彼女の中へと押し進めるのだ。
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