悪役令嬢の神様ライフ

星宮歌

文字の大きさ
5 / 132
第一章 帰還と波乱

第五話 陛下の苦難

しおりを挟む
 テロリスト達への拷問は、案外早く終了した。私はただ、神としてしばらく暮らしていたせいで、人間の耐久性を忘れてしまったかもしれないと少し実験をしていただけで、実際、まだ拷問を始めてすらいなかったのだが、私が実験をしている間にミーシャが全て聞き出してしまったらしい。


(うーん、もうちょっと実験したかったんだけど……)


 ジーっとテロリスト達を見れば、彼らはビクゥッと肩を跳ね上げて、ガクガクと震え出す。


「ユ、ユミリア嬢、あ、いや、ユレイラ様? そ、その、もう、十分だぞ?」


 ついでに、陛下もその場に居た……というか、謁見の間に到着して、テロリストを見せたところ、拷問の許可が下りたのでそのまま先に実験を終わらせてから拷問に移ろうとしていたのだが、なぜか、何もしていないのに顔面蒼白だ。


(何でだろう……?)

「……お姉様? 謁見の間で拷問をするものじゃあありません」

「え? まだ、実験しかしてないよ?」

「……実験も、ダメです。他の方が待つことになるでしょう?」

「何言ってるの? ここの時間を操作してることくらい、ミーシャなら分かるでしょう? 外では一秒も経ってないよ」

「……それでも、ダメです。貴族としての常識をどこに置いてきちゃったんですかっ」

「貴族……あっ、そういえば、そうだったね」


 貴族としての振る舞いなど、遠い過去に置いてきてしまったものだから、神様感覚で振る舞ってしまっていたかもしれない。確かに、実験だろうが何だろうが、その場に合った行為というものはあるのだと思い出した私は、一生懸命過去の記憶をさらって、常識を確保しようとする。


「……まぁ、お姉様に常識がないことは知っていましたが」

「失礼な! 私にだって、常識はあるよ! 変態は滅すべし、とか! 穴に埋めて出てこないようにすべしとかっ!」

「…………」

「…………」


 そんな私の言葉に、なぜかミーシャと陛下は顔を見合わせる。


(うん? 何だか、二人で通じ合ってるような気がするけど……気のせい?)


 何一つ、おかしなことは言っていないはずだ。他にも、子供を拐う犯罪者は爆発させるべしとか、人の夫に色目を使うやつの目は抉るべしとか、色々と大切な常識は兼ね備えているはずだ。


「お姉様が、ちょっと離れた間に悪化しました……」

「ミーシャ嬢。余は、どうすれば良いと思う? アルトに王位を譲るべきか?」

「待ってくださいっ。まだ、アルトには荷が重すぎますっ! せめてっ、せめてっ、もうちょっと落ち着いてからっ!」

「はっはっはっ……隠居先はどこが良いか、調べねばな」

「陛下ぁぁあっ!!」


 突如始まった茶番に、私は首をかしげる。


「もうっ、余の頭には、ストレスが重くのしかかりっ、どんどんその存在を薄くさせているのだ! これ以上は死滅してしまう!」

「大丈夫ですっ! それくらいなら、きっとお姉様が何とかしてくれますからっ! きっと、フッサフサになれますからっ!」

「フッサフサ……はっ、いや、騙されんぞ! 余はっ、余はっ、頭も胃も心配せずとも済む、穏やかな隠居生活を送るぅぅうっ!!」


 見ない間に、陛下は随分と愉快な性格になった気がするなぁと思いながら、テロリストは用済みということで、さっさと地下牢に送り、ミーシャに声をかける。


「ミーシャ、あんまり失礼なことを言っちゃダメよ? では、陛下、御前、失礼します」


 とりあえずは、ミーシャやアルト様と話をした後、この世界の様子を見て回るのも良いかなと考え、早く退出してしまうのだった。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

処理中です...