悪役令嬢の神様ライフ

星宮歌

文字の大きさ
42 / 132
第一章 帰還と波乱

第四十二話 行きたくない症候群(ミーシャ視点)

しおりを挟む
 陛下からの書状は、ひとまず鞄に詰め込んで、真っ先に行うのは千偽隊の召喚。彼らに頼むのは、陛下に頼んだ偽装工作の手伝いと、ティアルーン国への入国のための偽装。
 もし、書状を見せることになった場合、入国日が明らかにおかしいとなれば、当然、疑いの目を向けられる。私は今すぐにでもティアルーン国に入国するつもりだが、普通は馬車で何日もかかる行程なのだ。つまり、私が入国した後、もし、書状を見せる事態が発生し、それが本来の行程で向かった際に問題なく到着しているであろう瞬間であれば、後に、私の姿をした千偽隊の一人が入国することで、その偽装は真価を発揮する。要するに、打てる手は全て打っておこうということだ。


「聖女であり、トラップマスター……。でも、まさか、自分でこの罠を使うことになるとは思わなかったです……」


 小さな半透明の人型である千偽隊に持ってこさせたのは、直径5センチほどのバネ。少し太めの特殊な金属で作ったそのバネは、それを踏みつけた人物が、もっとも行きたくないと思う場所へ跳ばすなんていうトラップだ。それは、私がミーシャではなく、マリフィーであった頃に、ユレイラお姉様に作ってもらったもので、マリフィーの姉である二人の神がとっておいてくれたそれを、今、ため息混じりに見ることとなっている。


「……一番行きたくないのは、絶対に何かあるであろうティアルーン国。それは間違いないから、きっと、跳ばす場所もそこのはず」


 これから、私は、この罠を故意に発動させ、ティアルーン国へと向かうつもりだった。もちろん、罠そのものは、残った千偽隊に回収させる予定である。


「行きたくないけど、行かなきゃいけない……あぁ、出国手続きも、千偽隊にやっておいてもらわなきゃですね」


 一通りの指示を出して、迅速に行動しながらも、やはり、行きたくないという気持ちは変えられない。そして……全ての指示を数秒で行き渡らせた私は、人間に姿を認識されないように神力を自らへ纏わせ、バネを踏んで……次の瞬間には、ティアルーン国の首都、バルクシリアの一角に居た。
 それとともに、目の前で崩れ落ちる、ティアルーン国最古の時計台が爆破される瞬間の目撃者にもなってしまう。


「……だから、来たくなかったんです」


 時計台の爆破の瞬間、そこから感じ取れたのは、セイの魔力。何かあったに違いないのだが、あの、常識神なセイがどうにも荒れ狂っているとしか思えない魔力の暴走を起こしていると気づいて、遠い目をする。しかし、私はこの場に来てしまった。見て見ぬフリはできない。
 キリキリと痛み出すお腹を押さえながら、ひとまず、冷静そうな鋼かアメリア辺りに会いに行こうと、一歩、足を踏み出した。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

処理中です...