悪役令嬢の神様ライフ

星宮歌

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第一章 帰還と波乱

第四十八話 賞味期限(ミーシャ視点)

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 作戦は成功した。成功、したのだが……いかんせん、少しばかり見過ごせない事態が発生していた。


「セ、セイ!? 鋼!? ちょっ、しっかりして!?」


 お姉様に渡された気付け薬は、こんな、一時間経ってもピクリとも動けなくなるような効果はなかったはずだ。意識はあるようなのだが、声すら出せず、ピクリとも動かないセイと鋼の姿を見れば、さすがに、罪悪感が凄まじい。


(作戦では、ほんの一時的に動けなくなる程度だったはずなのにっ)


 もちろん、セイ達を巻き込んでしまうことは後で誠心誠意謝罪するつもりだった。
 アメリアに協力してもらうことで、セイ達に千偽隊の存在を気づかせることなく侵入させて、気付け薬をばら撒いて、全部上手くいったと思ったのに、セイ達の症状は明らかにおかしい。


「……ミーシャさん。その薬は、お母様からもらったものなんですよね?」

「そう、ですけど……」


 セイ達の様子に狼狽える私へ、フィオナちゃんは小さく眉間にシワを寄せる。ちなみに、アメリアは完全に大人しくなった邪神を神界へと護送しているため、不在だ。


「賞味期限って、見ました?」

「……賞味、期限……?」


 フィオナちゃんの質問に、頭の中ではクエスチョンマークが大量に浮かぶ。よくよく考えれば、薬には使用期限があったはずだが、賞味期限というものはないはずだ。恐らくは、フィオナちゃんは賞味期限と消費期限を言い間違えたのだろうと判断して、首を横に振る。


「確認、してません」

「……お母様の薬、特に、気付け薬は、なぜかある一定の期限を過ぎると、その不味さに拍車がかかるんです」

「……え?」

「それは時を経るほどに酷いものになってしまって、一年も過ぎれば、天使くらいなら殺せる代物になっちゃうそうなんです」

「え゛っ!?」


 どうやら、フィオナちゃんは何も間違えていなかった。お姉様の薬には、『賞味期限』があるのだと理解すると同時に、私は、慌てて薬に関する説明書を取り出す。


「……賞味期限、約一年前、です……」

「なら、最初は丸一日放心して、二日目は口の中の不味さにひたすら悶絶、三日目は神にもよりますが、疲れ果てて動けなくなり、四日目はゲッソリとしながらもどうにか動けるまでに回復っていうのが平均的なデータですね」

「……どうにか、助ける方法は……?」

「お母様じゃないので、無理です」


 その一言を聞いて、私は、まだ放心しているらしいセイと鋼に向かって、誠心誠意土下座する。


「賞味期限切れを使って、ごめんなさいぃいっ!!」


 次からは、ちゃんと賞味期限を確認しようと決意しながらの絶叫だった。
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