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第一章 帰還と波乱
第六十四話 エゲツない罠3(三人称視点)
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そこは、何の変哲もない部屋。爆発があったはずではあるが、この部屋ではなかったのか、何かが破壊された様子もない。
「う、うぅ……早く、人が居るところに行きたいけど、何か、身を守るもの……」
残念ながら、彼女は最初の爆発の際に、モップを手放してきていた。とはいえ、モップが武器になるのかと問われれば微妙なところだが、何もないよりはマシだった。
「……でも、普通、部屋に武器なんてない、し……」
あまり使われない部屋が並ぶ一角。何度も掃除で出入りしている彼女は、そこに武器になりそうなものが存在するわけがないと理解していた。それ、なのに……。
「えっ……?」
真っ白なシーツがかかったベッドの上。爆発が始まる前に、もうすぐ使用する人間が出るかもしれないとのことで替えたばかりのそのシーツは、中央が赤く染まっていた。ポツンと放り出されたナイフとともに……。
「ひっ……」
武器がほしいと願いはしたものの、明らかに殺人か傷害かの事件の後に放置されたらしい凶器がほしいわけではなかった彼女は、頬を引き攣らせて後退る。
(な、何で? 私が、掃除をした時は、誰も……それに、悲鳴だって……)
誰かが襲われたであろう現場は、彼女の掃除区域。どんなに人気がないとはいえ、悲鳴が聞こえれば気づくはずだ。
一歩、二歩と後退した彼女は、壁にかかとが当たり、ビクッと振り向く。
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁあっ!!」
壁一面に書かれていたのは、明らかに先程の赤と同じ赤で描かれた殺意のみの言葉。悲鳴をあげて逃げ出そうとした彼女は、その瞬間、『ゴトリ』という音を聞く。それは…………彼女が逃げようとした前方にあった、クローゼットの中からのようだった。
「っ!?」
前方にはクローゼット、そして、ちょうどその側に出入り口の扉がある。つまりは、クローゼットに近づかなければ、彼女は、この部屋から出られない。
「ぁ……ぁ…………」
ここは三階。窓から飛び降りて逃げるにはそれなりに高いし、そもそも、飛び降りれるような大きな窓ではない。つまりは、逃げ道は扉しかない。
ズル、ズズッ……と、クローゼットの中でナニカが蠢く。ガタガタと震える彼女は、恐怖のためか、逃げなければならないと思ってはいるのに、動くことができない。
ズズッ、ズズズズ、ズルッ、ズルッ。
ゆっくり、ゆっくり、ナニカが蠢く。しかし、彼女はこのままでは危険だと思ったのか、恐怖に支配されながらも走る態勢に入る。
(大丈夫、走って、すぐに扉を開けて、逃げるだけ)
間違っても、クローゼットの中身に関しての想像を巡らせることはしない。もしかしたら、殺人鬼かもとか、悪霊かもとか、そんなことは一切思い描いてはいけない。
(うぅ……お母さん……)
ガクガク震えながら、彼女は故郷の母を想い、決死の思いで走り出す。
(早くっ、早くっ)
走る距離はとても短いのに、その時間がとても長く感じられる瞬間。しかし、彼女は見事、扉のノブを掴んで回すことに成功する。
(やった!)
しかし、次の瞬間、バタン、という音とともに、背後でクローゼットが開く音がする。どうにか、部屋から出られる。そんな希望を抱いた直後、彼女は、黒い手に首根っこを掴まれ、悲鳴をあげる間もなく、クローゼットの中に引き込まれ……。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
憐れな侍女の絶叫が響き渡った。
「う、うぅ……早く、人が居るところに行きたいけど、何か、身を守るもの……」
残念ながら、彼女は最初の爆発の際に、モップを手放してきていた。とはいえ、モップが武器になるのかと問われれば微妙なところだが、何もないよりはマシだった。
「……でも、普通、部屋に武器なんてない、し……」
あまり使われない部屋が並ぶ一角。何度も掃除で出入りしている彼女は、そこに武器になりそうなものが存在するわけがないと理解していた。それ、なのに……。
「えっ……?」
真っ白なシーツがかかったベッドの上。爆発が始まる前に、もうすぐ使用する人間が出るかもしれないとのことで替えたばかりのそのシーツは、中央が赤く染まっていた。ポツンと放り出されたナイフとともに……。
「ひっ……」
武器がほしいと願いはしたものの、明らかに殺人か傷害かの事件の後に放置されたらしい凶器がほしいわけではなかった彼女は、頬を引き攣らせて後退る。
(な、何で? 私が、掃除をした時は、誰も……それに、悲鳴だって……)
誰かが襲われたであろう現場は、彼女の掃除区域。どんなに人気がないとはいえ、悲鳴が聞こえれば気づくはずだ。
一歩、二歩と後退した彼女は、壁にかかとが当たり、ビクッと振り向く。
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁあっ!!」
壁一面に書かれていたのは、明らかに先程の赤と同じ赤で描かれた殺意のみの言葉。悲鳴をあげて逃げ出そうとした彼女は、その瞬間、『ゴトリ』という音を聞く。それは…………彼女が逃げようとした前方にあった、クローゼットの中からのようだった。
「っ!?」
前方にはクローゼット、そして、ちょうどその側に出入り口の扉がある。つまりは、クローゼットに近づかなければ、彼女は、この部屋から出られない。
「ぁ……ぁ…………」
ここは三階。窓から飛び降りて逃げるにはそれなりに高いし、そもそも、飛び降りれるような大きな窓ではない。つまりは、逃げ道は扉しかない。
ズル、ズズッ……と、クローゼットの中でナニカが蠢く。ガタガタと震える彼女は、恐怖のためか、逃げなければならないと思ってはいるのに、動くことができない。
ズズッ、ズズズズ、ズルッ、ズルッ。
ゆっくり、ゆっくり、ナニカが蠢く。しかし、彼女はこのままでは危険だと思ったのか、恐怖に支配されながらも走る態勢に入る。
(大丈夫、走って、すぐに扉を開けて、逃げるだけ)
間違っても、クローゼットの中身に関しての想像を巡らせることはしない。もしかしたら、殺人鬼かもとか、悪霊かもとか、そんなことは一切思い描いてはいけない。
(うぅ……お母さん……)
ガクガク震えながら、彼女は故郷の母を想い、決死の思いで走り出す。
(早くっ、早くっ)
走る距離はとても短いのに、その時間がとても長く感じられる瞬間。しかし、彼女は見事、扉のノブを掴んで回すことに成功する。
(やった!)
しかし、次の瞬間、バタン、という音とともに、背後でクローゼットが開く音がする。どうにか、部屋から出られる。そんな希望を抱いた直後、彼女は、黒い手に首根っこを掴まれ、悲鳴をあげる間もなく、クローゼットの中に引き込まれ……。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
憐れな侍女の絶叫が響き渡った。
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