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第六章 建国祭
第百話 ハミルトンの両親
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「まぁあっ、こちらがハミルトン様の片翼ちゃんです?」
「おぉ、これはまた随分と可愛らしいお嬢さんじゃあないか」
現在、私はエーテ城のやたらと豪華な部屋で、二人の美男美女にとっても構われている。美男の方は、ハミルさんがもう少し年を取ったような姿で、瞳の色だけが淡い緑という人物。対して、美女の方は、ふんわりと長い金髪に赤い瞳を持つ女性で、顔立ちはアマーリエさんに似ているけれど、アマーリエさんとは違っておっとりしているように見える。そう、彼らは、ハミルさんとアマーリエさんの両親だった。
「父上、義母上、ユーカが困ってるから」
「むっ? そうか?」
「あらあら、ハミルトン様、あまり嫉妬をしていては嫌われますよ?」
なぜか頭を撫でてきていた二人は、ハミルさんの言葉に、一応手を引いてはくれる。けれど、その様子を見ても、ハミルさんは険しい表情のままだ。
「義母上。ユーカは僕の大切な人なんだ。嫉妬くらいするよ」
「余裕がないのな。お前」
「父上にだけは言われたくないね」
「えっと……ハミルさん、時間は大丈夫ですか?」
今日は、建国祭初日。確か、これからハミルさんは挨拶をしなければならなかったはずだ。私の言葉に唸っているところを見る限り、そんなに時間はないのだろう。
「ハミル。ユーカさんは私達で見ておくから、お前は式典に出てきなさい」
「ユーカちゃん。わたくし達と一緒にハミルトン様を待ちましょうねっ」
「お兄様。ユーカはわたくしがお守りいたしますわ。ですので、早く式典を終わらせて帰ってきてくださいまし」
「……分かったよ。でも、ユーカに変なことを吹き込んだら、ただじゃおかないから」
どうにか納得した様子のハミルさんは、最後に牽制だけして私を名残惜しそうに見つめた後、退出していく。そうして私とともに残されたのは、ハミルさんの両親とアマーリエさん達という状態になった。
正直、初めて出会ったハミルさんの両親を前に、私はどうして良いのか全く分からない。ジークさんはハミルさんと一緒に式典に出席するための準備に忙しいらしく、ここに来ることもないため、今、私が頼れるのはアマーリエさんだけだった。
「お父様、お母様。まずは自己紹介をなさいませんと、ユーカも困っていますわ」
「おぉっ、そうであったな。私は、リアン魔国の先代魔王。デルトラ・リアンだ」
「わたくしは、デルトラ様の片翼であり、ハミルトン様の義母、アマーリエの母になります、リュナ・リアンです」
「義母?」
「はい、デルトラ様は、わたくしと出会う以前にパミーユ様とご結婚なさっておいででしたので、パミーユ様のお子がハミルトン様なのですよ」
つまりは、ハミルさんとアマーリエさんは、腹違いの兄妹ということなのだろう。何だか複雑そうな家庭環境に、私は突っ込んで聞くのをためらう。先程のやり取りを見る限り、家族間での確執は感じられなかったものの、世の中、何がどうなっているのかなんて分からない。
「ささっ、ユーカちゃん。ハミルトン様が帰って来るまではお茶をしてましょう」
「は、はいっ」
豪華な部屋の中には、入室した時からテーブルのセッティングがなされているのは確認していた。席に誘導された私は、落ち着かないながらもとりあえず座って、オロオロする。そして、リュナ様がアマーリエさんに目配せすると、アマーリエさんは扉の外に控えていた侍女達に声をかけ、たちまちポットやお菓子類が運ばれてきた。
「お菓子はヴァイラン魔国には劣るが、それなりのものを用意してある。さぁ、遠慮なくお食べなさい」
「えっと、それじゃあ、お言葉に甘えていただきます」
ハミルさんそっくりのデルトラ様にそう言われると、何だかハミルさんに言われているみたいで、少しだけ力を抜くことができた。そうして始まったお茶会。話題はもちろん、ハミルさんのことだった。……最初は。
「ユーカさん。ハミルは何か無理を言ったりしていないだろうか?」
「まぁっ、知りませんの? お父様。お兄様は、ユーカを監禁していた過去があるんですのよっ」
「何と!? それは、本当に申し訳ない。ハミルにはきつく言っておこう」
「あらあら、デルトラ様も昔、わたくしを監禁しておりましたし、親子はやはり似るのですねぇ」
「リュ、リュナ!? それは内緒だとあれほどっ」
「お父様が、お母様を監禁……?」
「ち、違うんだっ、アマーリエ! 私は、ただリュナのことが好きで――――」
「婚約者にフラれて傷心中だったわたくしを、デルトラ様は一目見た瞬間に連れ去ったのですよ」
「……お父様……」
「ち、違うっ! 違うんだぁっ!」
途中から、デルトラ様とリュナ様の出会いの話になって、何やら怪しい方向に話が展開していく。デルトラ様は、必死にその話題から逃れようとするものの、リュナ様はおっとりとしながら的確にデルトラ様を追い詰めていく。
「アマーリエさん、リュナ様は、デルトラ様に何か怒ってたりするんですか?」
あまりにも哀れな暴露話が続く様子に、思わずこっそり尋ねれば、アマーリエさんは首をかしげる。
「今朝は何ともなかったと思いますが……確かにあれは、何かに怒ってますわね」
アマーリエさんも何も知らないのでは対処のしようがない。結局、デルトラ様が『私が何をしたというのだ!』と嘆き出して、ようやく、『ハミルトン様の片翼がいらっしゃることを一時間前に知ったばかりのわたくしの気持ちになってください』との言葉で謎が解けた。どうやら、リュナ様は私に会いたかったのに、その知らせを一向に持ってこなかったデルトラ様に腹を立てていたらしい。
「あ、あの、デルトラ様のお話より、私とお話しませんか?」
そして、私のその言葉によって、リュナ様はようやくデルトラ様いじめを止めるのだった。
「おぉ、これはまた随分と可愛らしいお嬢さんじゃあないか」
現在、私はエーテ城のやたらと豪華な部屋で、二人の美男美女にとっても構われている。美男の方は、ハミルさんがもう少し年を取ったような姿で、瞳の色だけが淡い緑という人物。対して、美女の方は、ふんわりと長い金髪に赤い瞳を持つ女性で、顔立ちはアマーリエさんに似ているけれど、アマーリエさんとは違っておっとりしているように見える。そう、彼らは、ハミルさんとアマーリエさんの両親だった。
「父上、義母上、ユーカが困ってるから」
「むっ? そうか?」
「あらあら、ハミルトン様、あまり嫉妬をしていては嫌われますよ?」
なぜか頭を撫でてきていた二人は、ハミルさんの言葉に、一応手を引いてはくれる。けれど、その様子を見ても、ハミルさんは険しい表情のままだ。
「義母上。ユーカは僕の大切な人なんだ。嫉妬くらいするよ」
「余裕がないのな。お前」
「父上にだけは言われたくないね」
「えっと……ハミルさん、時間は大丈夫ですか?」
今日は、建国祭初日。確か、これからハミルさんは挨拶をしなければならなかったはずだ。私の言葉に唸っているところを見る限り、そんなに時間はないのだろう。
「ハミル。ユーカさんは私達で見ておくから、お前は式典に出てきなさい」
「ユーカちゃん。わたくし達と一緒にハミルトン様を待ちましょうねっ」
「お兄様。ユーカはわたくしがお守りいたしますわ。ですので、早く式典を終わらせて帰ってきてくださいまし」
「……分かったよ。でも、ユーカに変なことを吹き込んだら、ただじゃおかないから」
どうにか納得した様子のハミルさんは、最後に牽制だけして私を名残惜しそうに見つめた後、退出していく。そうして私とともに残されたのは、ハミルさんの両親とアマーリエさん達という状態になった。
正直、初めて出会ったハミルさんの両親を前に、私はどうして良いのか全く分からない。ジークさんはハミルさんと一緒に式典に出席するための準備に忙しいらしく、ここに来ることもないため、今、私が頼れるのはアマーリエさんだけだった。
「お父様、お母様。まずは自己紹介をなさいませんと、ユーカも困っていますわ」
「おぉっ、そうであったな。私は、リアン魔国の先代魔王。デルトラ・リアンだ」
「わたくしは、デルトラ様の片翼であり、ハミルトン様の義母、アマーリエの母になります、リュナ・リアンです」
「義母?」
「はい、デルトラ様は、わたくしと出会う以前にパミーユ様とご結婚なさっておいででしたので、パミーユ様のお子がハミルトン様なのですよ」
つまりは、ハミルさんとアマーリエさんは、腹違いの兄妹ということなのだろう。何だか複雑そうな家庭環境に、私は突っ込んで聞くのをためらう。先程のやり取りを見る限り、家族間での確執は感じられなかったものの、世の中、何がどうなっているのかなんて分からない。
「ささっ、ユーカちゃん。ハミルトン様が帰って来るまではお茶をしてましょう」
「は、はいっ」
豪華な部屋の中には、入室した時からテーブルのセッティングがなされているのは確認していた。席に誘導された私は、落ち着かないながらもとりあえず座って、オロオロする。そして、リュナ様がアマーリエさんに目配せすると、アマーリエさんは扉の外に控えていた侍女達に声をかけ、たちまちポットやお菓子類が運ばれてきた。
「お菓子はヴァイラン魔国には劣るが、それなりのものを用意してある。さぁ、遠慮なくお食べなさい」
「えっと、それじゃあ、お言葉に甘えていただきます」
ハミルさんそっくりのデルトラ様にそう言われると、何だかハミルさんに言われているみたいで、少しだけ力を抜くことができた。そうして始まったお茶会。話題はもちろん、ハミルさんのことだった。……最初は。
「ユーカさん。ハミルは何か無理を言ったりしていないだろうか?」
「まぁっ、知りませんの? お父様。お兄様は、ユーカを監禁していた過去があるんですのよっ」
「何と!? それは、本当に申し訳ない。ハミルにはきつく言っておこう」
「あらあら、デルトラ様も昔、わたくしを監禁しておりましたし、親子はやはり似るのですねぇ」
「リュ、リュナ!? それは内緒だとあれほどっ」
「お父様が、お母様を監禁……?」
「ち、違うんだっ、アマーリエ! 私は、ただリュナのことが好きで――――」
「婚約者にフラれて傷心中だったわたくしを、デルトラ様は一目見た瞬間に連れ去ったのですよ」
「……お父様……」
「ち、違うっ! 違うんだぁっ!」
途中から、デルトラ様とリュナ様の出会いの話になって、何やら怪しい方向に話が展開していく。デルトラ様は、必死にその話題から逃れようとするものの、リュナ様はおっとりとしながら的確にデルトラ様を追い詰めていく。
「アマーリエさん、リュナ様は、デルトラ様に何か怒ってたりするんですか?」
あまりにも哀れな暴露話が続く様子に、思わずこっそり尋ねれば、アマーリエさんは首をかしげる。
「今朝は何ともなかったと思いますが……確かにあれは、何かに怒ってますわね」
アマーリエさんも何も知らないのでは対処のしようがない。結局、デルトラ様が『私が何をしたというのだ!』と嘆き出して、ようやく、『ハミルトン様の片翼がいらっしゃることを一時間前に知ったばかりのわたくしの気持ちになってください』との言葉で謎が解けた。どうやら、リュナ様は私に会いたかったのに、その知らせを一向に持ってこなかったデルトラ様に腹を立てていたらしい。
「あ、あの、デルトラ様のお話より、私とお話しませんか?」
そして、私のその言葉によって、リュナ様はようやくデルトラ様いじめを止めるのだった。
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