私、竜人の国で寵妃にされました!?

星宮歌

文字の大きさ
2 / 97
第一章 ドラグニル竜国へ

第二話 入国審査

しおりを挟む
 お姉様の計らいによって、私はドラグニル竜国の国王、アルム様の元へと預けられることとなった。
 転移によって一瞬にして変化した景色。褐色の石畳が敷き詰められたその場所で、私は不安を押し隠すように拳を握る。


「ひとまずは、入国審査を受けてもらう。人を手配しておくから、その者とともに城へやって来ると良い」


 ハーフアップにした緋色の長髪に、蒼い瞳を持つ竜人、アルム・ドラグニルは、お姉様と一緒に居た時とは全く別の口調と無表情で私にそれだけを告げると、入国の列に並ばせてさっさと転移していってしまう。


(えっ、ここで置いてきぼり、ですか?)


 現在の私は、お姉様に貸してもらったワンピースを着用しており、ドレス姿ほど目立つわけではないものの、女性一人でこの列に並んでいる者は居ないように見受けられる。


(大丈夫、でしょうか?)


 いきなり一人にされてしまった私は、初めて城の舞踏会に招かれた時以上の不安感にうつむいてしまう。そうして、列に並んだままゆっくりと進んでいくと、前に居た明らかに竜人と分かる体格の良い男がふいに振り向いて、私を見て黄色の瞳を丸くした後、声をかけてくる。


「おっ? 嬢ちゃん、人間か? 珍しいな、こんなところに人間が来るなんて」

「え、えっと……」


 自分よりも遥かに身長の高い竜人に見下ろされながら声をかけられた私は、つい、言葉に詰まってしまう。


「何かわけありか? 嬢ちゃんみたいに可愛い奴は、悪い奴に捕まりかねないからな。あんまり一人で出歩くんじゃないぞ? 夫は近くに居ないのか?」

「その、居ません」


 何と答えて良いのか分からず、とりあえずそれだけを答えると、ポリポリと頭を掻いて黒に近い灰色の眉をハの字にする。


「そりゃあ、危ないな。嬢ちゃん、それなら、誰か知り合いに早めに保護してもらった方が良いぞ。この国では、嬢ちゃんみたいに可愛いのは狙われやすい」

(私が、可愛い? 狙われやすい?)


 私の顔立ちは、つり目のきつい顔立ちで、可愛いという言葉とは程遠いものだ。それなのに、この竜人は私のことを何度も『可愛い』と言ってくる。


(竜人の美的感覚は、人間のものとは違うのかしら?)


 後に、その推測は当たっていたことを知るのだが、今はわけも分からずただ彼の言葉にうなずく。


『ベルドー! 次、私達だってよー!』

『おぉっ、今行く!』

「じゃあな、嬢ちゃん!」


 他の竜人の女性に呼ばれた目の前の男は、私では分からない言葉で返事をした後、私に手を振って入国審査のためにさっさと進んでしまった。


(……そういえば、言葉も違うんでした)


 アルム様も先程の竜人も、私の国の言葉を使ってくれていたから問題はなかったものの、この先、言葉が通じないこともあることを考えると憂鬱だ。きっと、私がこの国で最初にすることは、言葉を覚えることだろう。

 そんなことを考えながら、私は目の前に迫る入国審査にも不安を抱く。実は、入国審査がどのようなことをするものなのか、私は知らない。他国に行く機会が全くなかったわけではないものの、貴族であった私は、いつも従者に入国審査を任せていたし、そもそも貴族用の審査所を通っていたはずなので、こんなに並ぶこともなかった。


(色々と聞かれたりするのかしら?)


 どんなものなのか想像のできない私は、不安ばかりが募る。


『次の方ー!』

「あ、次の方ー!」

「は、はいっ」


 そして、ようやく私の番になり、恐らく私を見て言い直した女性の竜人の元へと向かう。


「えーっと、人間、ですよね? この国への入国経験はありますか?」

「いいえ」

「なら、この書類にお名前と連絡先、滞在目的を書いて置いてください」

「あ、あの、連絡先と滞在目的って……」

「あぁ、連絡先が決まっていないなら、空欄で構いませんよ。どこに連絡すれば良いか決まったら、また報告に来てください。その際は、あちらの窓口で受け付けております。後、滞在目的は、例えば出稼ぎに来たとか、観光に来たとか、ですかね?」


 そんな言葉に、私は一瞬悩む。滞在目的に関しては、ただの成り行きでこの国に保護してもらうことになっているだけであったため、どう書けば良いのか分からない。
 とりあえず、名前のところだけを埋めていると、門の内側から誰かがやって来る。


「あぁ、間に合った。貴女が、シェイラ様?」

「えっ、あ、はい」


 まだ、滞在目的の部分で悩んでいると、新たに現れた女性の竜人に声をかけられる。


「陛下の命により参りました。あぁ、ちょうど審査内容を書いていたのですね? 滞在目的のところはこちらで記入しますので、お貸しください」


 何が何やら分からないものの、とりあえず書いていた紙を渡せば、彼女はスラスラと何事かを書いて、職員の竜人へと渡してしまう。


「ここからは私、ベラが案内役を務めます。ようこそ、ドラグニル竜国へ」


 そう言われ、一緒に門を潜り抜けると、そこには、巨大な白い建物が立ち並ぶ、美しい町が広がっていた。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...