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第一章 ドラグニル竜国へ
第三話 ドラグニル竜国
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ベラと名乗った竜人に連れられて、私は馬車に乗り込む。ベラが、私の対面に座ると、すぐに馬車は動き出す。
顔面以外のほとんどに茶色い鱗があり、その耳は、皮膜を張った爬虫類系のもの。手は鋭いかぎ爪があるベラの姿は、目の前で眺めると何とも珍しい。
「この姿が気になりますか?」
「えっ? あ、あぁ、すみません。不躾に見てしまって」
「いえ、人間の方のほとんどは、そのような反応をするものです」
表情を変えずに淡々と告げるベラに、私は素直にこの国に来る人間も居るのだなという感想を抱く。
「シェイラ様には、まず、陛下との謁見を行ってもらいます。詳しい話はそこでされるでしょうが、シェイラ様の立場は、陛下の寵妃ということになります」
「寵妃!?」
「あくまでも建前ですので、ご安心を。ただ、部屋はそれに準じたものとなりますので、ご不便をお掛けすることもあるかもしれません」
『寵妃』の一言に、私は唖然とするものの、恐らくそれは、お姉様と話し合った結果なのだろうと納得してうなずく。
(部屋で不便というのは、きっと、中々外に出られないことくらいかしら?)
王からの寵愛を受けたものは、囲われ、外に出られないようにされてしまうのが常だ。この国が、どこまでそれを徹底しているかは知らないが、街に簡単に出掛けられるとは思わない方が良いだろう。
「部屋に着きましたら、まずは採寸を行いたいと存じます。この国の既製品の中に、人間用のものがないとは申しませんが、立場上、それなりの格好をしていただくことになります」
「分かりました」
寵妃として、粗末な格好ではいられないということくらい、私にも分かる。
「なお、恋愛は自由とのことです。できることなら、自身を守ってくれる者を見つけるようにと言付かっております」
「……そう」
確かに、いつまでもアルム様のお世話になるわけにはいかない。寵妃という立場だって、本当にそれを名乗る人物が登場してしまうまでしか使えない立場だ。私にできることは、さっさと好きな相手を見つけて、その相手とともに暮らすことだろう。
「着きましたね。では、ご案内させていただきます」
しばらくして馬車が停止すると、私はベラに手を取ってもらって馬車から降りる。
(……魔王城?)
ろくに景色も見ずにいた私は、目の前に漆黒の巨大な城があるのを見て、思わずそんな感想を抱く。
「さぁ、こちらです」
「は、はい」
魔王城と見まごうほどの城に足を踏み入れるのには度胸が必要だったが、私は覚悟を決めて歩き出す。周りを確認してみれば、使用人は皆竜人で、キビキビとした動きで廊下を行き来している。
「陛下。シェイラ様をお連れしました」
「入れ」
その言葉を受けて入室すると、そこには、竜人としての黒い鱗に覆われた姿となったアルム様が居た。
「来たか」
「はい」
何も、置いていかなくても良かったのではないかと文句を言いたいところをグッと我慢して、私は返事だけをする。そして、入って気づいたことだが、どうやらここは、アルム様の執務室らしかった。
(やはり、人に聞かれたくない話になりそうですから、ここに呼んだのでしょうか?)
寵妃が偽物だなんて話、公にできるものではない。となると、機密性が保持できるような部屋を選ぶはずで、執務室はうってつけと言えよう。
「置いていったことは、すまなかった。緊急の討伐の仕事が入って、すぐにでも離れなくてはならなかったからな。大事なかったか?」
「っ、は、はい。何事もありませんでした」
「そうか」
少し申し訳なさそうにするアルム様に、わざと置いていったのではないことが分かりホッとする。もし、あれがわざとであれば、今後のことが思いやられるところだった。
「その、討伐、というのは……?」
「辺境の方に、キリングドールの大群が出て、その討伐に赴いていた。今は、討伐も終わり、街の復興作業のために騎士を置いてきたところだ」
「キリングドール……」
キリングドールといえば、記憶違いでなければ災害級の魔物だったはずだ。EランクからSランク、そして、その上に、災害級、国家滅亡級、神罰級とあり、災害級は少なくとも、街が一つ滅びるレベルのものだ。つまり、こんな短時間で討伐できるような魔物では、まずあり得ない。
「多少手こずったが、『絶対者』に比べれば断然弱い。災害級とはいえ、『絶対者』を知るボクからすれば、大したことなかったな」
「お姉様って、一体……」
災害級よりも強いお姉様という存在に、私はさすがに混乱してしまう。
「そういえば、シェイラ嬢は『絶対者』の活躍を知らなかったのか……」
そうして、なぜか目を輝かせたアルム様。対して、私の方も、もしかしたら、お姉様の活躍を聞けるかもしれないとワクワクし出したところで……。
「ごほんっ。そろそろ、本題に入ってはいかがでしょうか?」
ベラのその言葉に、私とアルム様は二人同時に意気消沈しながら、『はい』と応えるのだった。
顔面以外のほとんどに茶色い鱗があり、その耳は、皮膜を張った爬虫類系のもの。手は鋭いかぎ爪があるベラの姿は、目の前で眺めると何とも珍しい。
「この姿が気になりますか?」
「えっ? あ、あぁ、すみません。不躾に見てしまって」
「いえ、人間の方のほとんどは、そのような反応をするものです」
表情を変えずに淡々と告げるベラに、私は素直にこの国に来る人間も居るのだなという感想を抱く。
「シェイラ様には、まず、陛下との謁見を行ってもらいます。詳しい話はそこでされるでしょうが、シェイラ様の立場は、陛下の寵妃ということになります」
「寵妃!?」
「あくまでも建前ですので、ご安心を。ただ、部屋はそれに準じたものとなりますので、ご不便をお掛けすることもあるかもしれません」
『寵妃』の一言に、私は唖然とするものの、恐らくそれは、お姉様と話し合った結果なのだろうと納得してうなずく。
(部屋で不便というのは、きっと、中々外に出られないことくらいかしら?)
王からの寵愛を受けたものは、囲われ、外に出られないようにされてしまうのが常だ。この国が、どこまでそれを徹底しているかは知らないが、街に簡単に出掛けられるとは思わない方が良いだろう。
「部屋に着きましたら、まずは採寸を行いたいと存じます。この国の既製品の中に、人間用のものがないとは申しませんが、立場上、それなりの格好をしていただくことになります」
「分かりました」
寵妃として、粗末な格好ではいられないということくらい、私にも分かる。
「なお、恋愛は自由とのことです。できることなら、自身を守ってくれる者を見つけるようにと言付かっております」
「……そう」
確かに、いつまでもアルム様のお世話になるわけにはいかない。寵妃という立場だって、本当にそれを名乗る人物が登場してしまうまでしか使えない立場だ。私にできることは、さっさと好きな相手を見つけて、その相手とともに暮らすことだろう。
「着きましたね。では、ご案内させていただきます」
しばらくして馬車が停止すると、私はベラに手を取ってもらって馬車から降りる。
(……魔王城?)
ろくに景色も見ずにいた私は、目の前に漆黒の巨大な城があるのを見て、思わずそんな感想を抱く。
「さぁ、こちらです」
「は、はい」
魔王城と見まごうほどの城に足を踏み入れるのには度胸が必要だったが、私は覚悟を決めて歩き出す。周りを確認してみれば、使用人は皆竜人で、キビキビとした動きで廊下を行き来している。
「陛下。シェイラ様をお連れしました」
「入れ」
その言葉を受けて入室すると、そこには、竜人としての黒い鱗に覆われた姿となったアルム様が居た。
「来たか」
「はい」
何も、置いていかなくても良かったのではないかと文句を言いたいところをグッと我慢して、私は返事だけをする。そして、入って気づいたことだが、どうやらここは、アルム様の執務室らしかった。
(やはり、人に聞かれたくない話になりそうですから、ここに呼んだのでしょうか?)
寵妃が偽物だなんて話、公にできるものではない。となると、機密性が保持できるような部屋を選ぶはずで、執務室はうってつけと言えよう。
「置いていったことは、すまなかった。緊急の討伐の仕事が入って、すぐにでも離れなくてはならなかったからな。大事なかったか?」
「っ、は、はい。何事もありませんでした」
「そうか」
少し申し訳なさそうにするアルム様に、わざと置いていったのではないことが分かりホッとする。もし、あれがわざとであれば、今後のことが思いやられるところだった。
「その、討伐、というのは……?」
「辺境の方に、キリングドールの大群が出て、その討伐に赴いていた。今は、討伐も終わり、街の復興作業のために騎士を置いてきたところだ」
「キリングドール……」
キリングドールといえば、記憶違いでなければ災害級の魔物だったはずだ。EランクからSランク、そして、その上に、災害級、国家滅亡級、神罰級とあり、災害級は少なくとも、街が一つ滅びるレベルのものだ。つまり、こんな短時間で討伐できるような魔物では、まずあり得ない。
「多少手こずったが、『絶対者』に比べれば断然弱い。災害級とはいえ、『絶対者』を知るボクからすれば、大したことなかったな」
「お姉様って、一体……」
災害級よりも強いお姉様という存在に、私はさすがに混乱してしまう。
「そういえば、シェイラ嬢は『絶対者』の活躍を知らなかったのか……」
そうして、なぜか目を輝かせたアルム様。対して、私の方も、もしかしたら、お姉様の活躍を聞けるかもしれないとワクワクし出したところで……。
「ごほんっ。そろそろ、本題に入ってはいかがでしょうか?」
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