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第一章 ドラグニル竜国へ
第四話 ベラの思惑
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ドラグニル竜国では、寵愛を受けた妃に手を出すことは固く禁じられている。それは、竜人族の王が怒りで我を忘れると、国が滅びてしまうからなのだそうだ。そして、私は、建前上とはいえ、そんな寵妃として、ここで暮らすこととなった。
その方が安全だからというのは分かるものの、やり過ぎな気がしないでもない。
私用の部屋だと案内された部屋は、シンプルながらも、見る者が見れば、その高級さが目につく部屋で、緻密な花の模様が描かれた毛足の長いカーペットに、天蓋つきのベッド、上が半円の棚になった小物入れ用のタンスに、大きなクローゼットがあった。そこで、私を案内してきたベラは、私と向かい合う。
「改めまして、自己紹介させていただきます。シェイラ様の専属侍女となりました、ベラ・フォークスと申します。よろしく。シェイラ様」
「よ、よろしくお願いします」
自己紹介をした後に、人懐っこい笑みを浮かべたベラ。私は、戸惑いながらもとりあえず返事をする。
「私は、平民上がりのため、何かと至らない点があるかもしれませんが……精一杯努めますっ」
「は、はい」
貴族が纏う愛想笑いとは違う、本心からの笑みだと分かる笑みを浮かべるベラに、私は調子が狂うのを感じる。
「それで、ですね……シェイラ様は、『絶対者』様の血縁者なのですよねっ!?」
「そ、そうですけど……」
「ならっ、どうか、『絶対者』様の好みを教えてもらえないでしょうかっ!」
「好み?」
「どんな男性が好きだとか、どんなことに憧れているとか、どんなものが好きだとか、その他諸々ですっ」
なぜ、そんなことを聞くのか分からない私は、ここで警戒心を示せば良いのか、それとも多少打ち解けた方が良いのかを考えて、後者を選ぶ。
(お姉様が紹介してくださった場所で、そうそう変なことが起こるとは思えませんものね)
もちろん、警戒心をなくすわけではないので、話す情報は断片的なものを選択する。
「男性の好みは……そうですね。誠実な人じゃないとまず無理みたいですね」
「ほうほう、なるほど?」
「憧れは……分かりませんが、犬は好きでした」
「犬好きは、こちらでも把握していましたが、やはり、そうなのですねっ」
「他に聞きたいことはありますか?」
「えぇっ、えぇっ、もちろんっ! 具体的には、男性の好みをもっと掘り下げてほしいところですっ」
「……それは、なぜか聞いても?」
あまりに熱心なその様子に、私はさすがに不思議に思って尋ねてみる。
(まさか、お姉様に惚れた男が居るとか?)
そうだとするならば、私はその相手をしっかりと見定めなければならない。少なくとも、ルティアスのように、お姉様を笑顔にできる相手でなければ話にならない。
「はいっ、実は、アルム陛下は『絶対者』様のことがお好きならしくて、周りには隠してらっしゃいますが、バレバレで……ぜひとも、良い情報を仕入れて差し上げたいのですっ」
そう言われて、私はアルム様の態度がお姉様の前と今とで違うことを思い出す。
「アルム様の態度って……」
「そうなんですっ。『絶対者』様の前だと、お優しい感じになられるでしょう? だから、皆陛下のお心には気づいているんです」
「や、優しい?」
(あれが?)
ベラの言葉に、私は思わず問いかける。
「そうですよ。優しい口調になってたでしょう?」
確かに、アルム様の口調は違う。しかし、あれは優しいというよりも……。
(チャラい、ですね)
どこか妖艶な容姿もあいまって、アルム様のあの口調は、チャラチャラした感じを醸し出していた。しかし、それを伝えて良いものかどうか、悩みどころだった。
「他にも、色々な依頼をして、好意のアピールをしていましたしねっ」
「依頼……」
それは、ただのビジネスパートナーとしか見てもらえないのではないだろうか。
「報酬はもちろん、『絶対者』様が欲していた素材の数々です。いやぁ、それらを集めるのに苦心なさっている陛下を見ると、こちらも応援したくなりますよね」
(……どうしよう。お姉様が、アルム様に好意を持てる要素が見当たらない。お姉様は、ただチャラチャラしてて、それなりに取引できる依頼人、くらいにしか思ってなさそう。しかも、チャラチャラしてるのって、お姉様の好みの正反対だしっ)
この事実は、アルム様に伝えるべきなのかどうか、本当に悩ましいところだ。
「と、いうわけですので、どうかっ、どうかっ、陛下のために情報をくださいっ」
そんなベラの熱意に負けて、私は、少しだけ、お姉様の情報を話す。男性の好みについては、誠実で優しい人と答え、趣味に関してはレース編みだと、良く読む本は、歴史書が大半だったと答えて、その後も続く質問の嵐を、何とか乗り切るのだった。
その方が安全だからというのは分かるものの、やり過ぎな気がしないでもない。
私用の部屋だと案内された部屋は、シンプルながらも、見る者が見れば、その高級さが目につく部屋で、緻密な花の模様が描かれた毛足の長いカーペットに、天蓋つきのベッド、上が半円の棚になった小物入れ用のタンスに、大きなクローゼットがあった。そこで、私を案内してきたベラは、私と向かい合う。
「改めまして、自己紹介させていただきます。シェイラ様の専属侍女となりました、ベラ・フォークスと申します。よろしく。シェイラ様」
「よ、よろしくお願いします」
自己紹介をした後に、人懐っこい笑みを浮かべたベラ。私は、戸惑いながらもとりあえず返事をする。
「私は、平民上がりのため、何かと至らない点があるかもしれませんが……精一杯努めますっ」
「は、はい」
貴族が纏う愛想笑いとは違う、本心からの笑みだと分かる笑みを浮かべるベラに、私は調子が狂うのを感じる。
「それで、ですね……シェイラ様は、『絶対者』様の血縁者なのですよねっ!?」
「そ、そうですけど……」
「ならっ、どうか、『絶対者』様の好みを教えてもらえないでしょうかっ!」
「好み?」
「どんな男性が好きだとか、どんなことに憧れているとか、どんなものが好きだとか、その他諸々ですっ」
なぜ、そんなことを聞くのか分からない私は、ここで警戒心を示せば良いのか、それとも多少打ち解けた方が良いのかを考えて、後者を選ぶ。
(お姉様が紹介してくださった場所で、そうそう変なことが起こるとは思えませんものね)
もちろん、警戒心をなくすわけではないので、話す情報は断片的なものを選択する。
「男性の好みは……そうですね。誠実な人じゃないとまず無理みたいですね」
「ほうほう、なるほど?」
「憧れは……分かりませんが、犬は好きでした」
「犬好きは、こちらでも把握していましたが、やはり、そうなのですねっ」
「他に聞きたいことはありますか?」
「えぇっ、えぇっ、もちろんっ! 具体的には、男性の好みをもっと掘り下げてほしいところですっ」
「……それは、なぜか聞いても?」
あまりに熱心なその様子に、私はさすがに不思議に思って尋ねてみる。
(まさか、お姉様に惚れた男が居るとか?)
そうだとするならば、私はその相手をしっかりと見定めなければならない。少なくとも、ルティアスのように、お姉様を笑顔にできる相手でなければ話にならない。
「はいっ、実は、アルム陛下は『絶対者』様のことがお好きならしくて、周りには隠してらっしゃいますが、バレバレで……ぜひとも、良い情報を仕入れて差し上げたいのですっ」
そう言われて、私はアルム様の態度がお姉様の前と今とで違うことを思い出す。
「アルム様の態度って……」
「そうなんですっ。『絶対者』様の前だと、お優しい感じになられるでしょう? だから、皆陛下のお心には気づいているんです」
「や、優しい?」
(あれが?)
ベラの言葉に、私は思わず問いかける。
「そうですよ。優しい口調になってたでしょう?」
確かに、アルム様の口調は違う。しかし、あれは優しいというよりも……。
(チャラい、ですね)
どこか妖艶な容姿もあいまって、アルム様のあの口調は、チャラチャラした感じを醸し出していた。しかし、それを伝えて良いものかどうか、悩みどころだった。
「他にも、色々な依頼をして、好意のアピールをしていましたしねっ」
「依頼……」
それは、ただのビジネスパートナーとしか見てもらえないのではないだろうか。
「報酬はもちろん、『絶対者』様が欲していた素材の数々です。いやぁ、それらを集めるのに苦心なさっている陛下を見ると、こちらも応援したくなりますよね」
(……どうしよう。お姉様が、アルム様に好意を持てる要素が見当たらない。お姉様は、ただチャラチャラしてて、それなりに取引できる依頼人、くらいにしか思ってなさそう。しかも、チャラチャラしてるのって、お姉様の好みの正反対だしっ)
この事実は、アルム様に伝えるべきなのかどうか、本当に悩ましいところだ。
「と、いうわけですので、どうかっ、どうかっ、陛下のために情報をくださいっ」
そんなベラの熱意に負けて、私は、少しだけ、お姉様の情報を話す。男性の好みについては、誠実で優しい人と答え、趣味に関してはレース編みだと、良く読む本は、歴史書が大半だったと答えて、その後も続く質問の嵐を、何とか乗り切るのだった。
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