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第二章 目論む者達
第十八話 始動(三人称視点)
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「人間が竜王陛下の寵妃だなんて、あり得ませんわっ!」
金髪の竜人の女性は、そう言いながら手近にあった花瓶を投げる。
「おっ、お嬢様っ! どうか落ち着いて「うるさいわねっ!」ひぐっ」
止めようとした侍女を殴り付けると、お嬢様と呼ばれた女性は爪を噛む。
「何とかしませんと。……お父様なら、きっと……」
ここ、ドラグニル竜国で、寵妃の地位は案外高い。竜王と王妃、そして、その子供達に次ぐ地位と言えば、それは良く分かるだろう。竜王の兄弟姉妹さえも凌ぐその地位は、いずれは心が離れるだろうと思っていても、魅力的だ。それに、心が離れて寵妃で居られなくなったとしても、有力貴族に下賜されるのは確実で、将来が約束されたようなものだ。だからこそ、そんな誰もが羨む地位に、人間の女ごときが納まったという事実が許せない。
「お父様! あの寵妃を何とかしてくださいましっ!」
女性は、ノックもなしにその扉を開け放つと、唐突に黒髪の竜人の男へそう宣う。すると、その黒髪の竜人は、机で何かを書いていたペンを止めて、顔を歪め、彼女を見る。
「またか、リリーア。無理だと言っただろう」
彼女が、リリーアがこの件について話すのは、今回が初めてではないらしく、男は眉にシワを寄せる。
「お父様は、わたくしにあんな女が寵妃になっている事実を容認せよとおっしゃるのっ!?」
「彼女は、竜王陛下が認めた女性だ。お前がどうこう言う問題ではない」
「しかしっ!」
「下がれっ。寵妃に何かすることは許さない」
「っ……」
キツく退出を命じられたリリーアは、ギリッと歯を食いしばり、しばらく男を睨み付けると、そのまま出ていく。
リリーアが出ていく様子を、じっと眺めていた男は、その気配が遠ざかったことを確認した後、そっと息を吐く。
「……よろしかったのですか?」
部屋の隅から、ぬっと出てきた新たな竜人の男に、黒髪の竜人はチラリと視線を向けてうなずく。
「あれも、そこまで愚かではないはずだ。寵妃に手を出すことが、どれだけ危険なのかを知らぬわけでもあるまい」
それを知っているからこそ、己に助けを求めたのだろうと告げた黒髪の男に、現れた青髪の男は、『だと、良いのですが……』と呟く。
「陛下は、寵妃へ深い愛情を注いでおられる。それこそ、彼女を害する可能性のあった家を、どんどん潰してしまうほどに」
もちろん、そこには確かな不正の証拠があったのだが、最近潰れる家は、特に寵妃への敵意が剥き出しだった場所が多い。
「私は、この家を潰すつもりはない」
黒髪の男の目には、強い光が宿っており、ともすれば、それは、全てを切り裂きそうなほどの力強さを見せていた。
「リリーアの監視を強めろ。不審な動きは、全て報告するように」
「はっ」
寵妃は確かに、羨ましい地位だろう。しかし、だからといって手を伸ばすことはできない。そんなことをすれば、待つのは破滅のみだ。
「馬鹿な真似はしてくれるなよ?」
扉を睨みながら告げた黒髪の男は、しばらくすると、また、書類仕事に戻るのだった。
金髪の竜人の女性は、そう言いながら手近にあった花瓶を投げる。
「おっ、お嬢様っ! どうか落ち着いて「うるさいわねっ!」ひぐっ」
止めようとした侍女を殴り付けると、お嬢様と呼ばれた女性は爪を噛む。
「何とかしませんと。……お父様なら、きっと……」
ここ、ドラグニル竜国で、寵妃の地位は案外高い。竜王と王妃、そして、その子供達に次ぐ地位と言えば、それは良く分かるだろう。竜王の兄弟姉妹さえも凌ぐその地位は、いずれは心が離れるだろうと思っていても、魅力的だ。それに、心が離れて寵妃で居られなくなったとしても、有力貴族に下賜されるのは確実で、将来が約束されたようなものだ。だからこそ、そんな誰もが羨む地位に、人間の女ごときが納まったという事実が許せない。
「お父様! あの寵妃を何とかしてくださいましっ!」
女性は、ノックもなしにその扉を開け放つと、唐突に黒髪の竜人の男へそう宣う。すると、その黒髪の竜人は、机で何かを書いていたペンを止めて、顔を歪め、彼女を見る。
「またか、リリーア。無理だと言っただろう」
彼女が、リリーアがこの件について話すのは、今回が初めてではないらしく、男は眉にシワを寄せる。
「お父様は、わたくしにあんな女が寵妃になっている事実を容認せよとおっしゃるのっ!?」
「彼女は、竜王陛下が認めた女性だ。お前がどうこう言う問題ではない」
「しかしっ!」
「下がれっ。寵妃に何かすることは許さない」
「っ……」
キツく退出を命じられたリリーアは、ギリッと歯を食いしばり、しばらく男を睨み付けると、そのまま出ていく。
リリーアが出ていく様子を、じっと眺めていた男は、その気配が遠ざかったことを確認した後、そっと息を吐く。
「……よろしかったのですか?」
部屋の隅から、ぬっと出てきた新たな竜人の男に、黒髪の竜人はチラリと視線を向けてうなずく。
「あれも、そこまで愚かではないはずだ。寵妃に手を出すことが、どれだけ危険なのかを知らぬわけでもあるまい」
それを知っているからこそ、己に助けを求めたのだろうと告げた黒髪の男に、現れた青髪の男は、『だと、良いのですが……』と呟く。
「陛下は、寵妃へ深い愛情を注いでおられる。それこそ、彼女を害する可能性のあった家を、どんどん潰してしまうほどに」
もちろん、そこには確かな不正の証拠があったのだが、最近潰れる家は、特に寵妃への敵意が剥き出しだった場所が多い。
「私は、この家を潰すつもりはない」
黒髪の男の目には、強い光が宿っており、ともすれば、それは、全てを切り裂きそうなほどの力強さを見せていた。
「リリーアの監視を強めろ。不審な動きは、全て報告するように」
「はっ」
寵妃は確かに、羨ましい地位だろう。しかし、だからといって手を伸ばすことはできない。そんなことをすれば、待つのは破滅のみだ。
「馬鹿な真似はしてくれるなよ?」
扉を睨みながら告げた黒髪の男は、しばらくすると、また、書類仕事に戻るのだった。
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