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第三章 悪魔

第四十二話 進まない捜査(アルム視点)

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 悪魔を喚び出した者の捜索は、全く進展しなかった。この件に関しては、シェイラを巻き込みたくないし、それ以上に、今のシェイラはまだ体調が戻っていない。無理をさせるわけにはいかなかった。


「手がかりなし、か……」

「はい」


 ギースの報告書を読んだボクは、少しアプローチを変える必要があるだろうかと考える。今までは、リリーアの周辺を調べ上げていたが、悪魔、もしくは、その召喚者がリリーアに接触したであろう日に出会った人物は、特に問題はみられなかった。ある程度遡って調べもしたが、どうしても、悪魔に繋がる手がかりが見えてこない。


「……最近の大きな事件、か……」


 となると、代償の方から辿るべきかもしれない。代償の多くは人の命であるため、犯人が不明も動機も不明とされている事件で、数人から数十人の死亡が確認されているものがあれば、そこから辿れる可能性はある。しかし……。


「恐れながら、そちらに関しても手応えは薄いかと……」


 ここ最近の事件で、犯人不明、動機不明のものに焦点を当てれば、確かにあるといえばある。しかし、大勢が死んだという条件をつけ加えたなら、その数は一気にゼロになってしまう。竜人は、力も魔力も強い。だから、大抵の犯罪は、被害者の反撃がしっかりと行われており、犯人が捕まるのはあまり時間もかからない。


「命でなければ、何が代償だったと思う?」


 一応、代償としては、魔力が豊富に含まれた素材なども挙げられるのだが、そういったものの取引に関しては、厳しい制限がもうけられているため、可能性は薄い。


「申し訳ありませんが、そこまでは……」


 答えが返ってくることを期待していたわけではない。だから、そんなギースを一瞥したボクは、新たなる指示を出す。


「魔力が豊富に含まれた素材の取引履歴を調べろ。後は、いくつかの殺人事件をピックアップしておいたから、それも洗い直してくれ」

「はっ」


 今、考えてできることは、このくらいしかない。敵の目的が何であれ、シェイラを害そうとした罪が消えることはない。何としても追い詰めて、捕まえなければならなかった。


「入れ」


 ギースを見送った後、ノックと名乗りが聞こえて、ボクは彼女の入室を許可する。そして、その顔を見た直後、ボクは不安に襲われる。


「シェイラに何かあったのか?」


 そこには、シェイラつきの侍女、ベラが、暗い顔で立っていた。


「いえ……ですが、その……シェイラ様に、外出許可をいただけないかと」

「無理だ」


 悪魔の件で奔走している中、一度拐われたシェイラがまた狙われないとも限らない。だから、そう告げたのだが、ベラはそれでも食い下がる。


「お願いします。今のシェイラ様は、見ていて痛々しいのですっ。外に出れば、少しは気が紛れるかもしれませんっ」

「痛々しい……?」


 何がベラにそう言わしめたのかが分からず問いかけるものの、シェイラに口止めでもされているのか、問い詰めても『言えません』の一点張り。


「……護衛をつけたとしても、外出の許可はできない」

「……さよう、ですか」

「だが、ボクも一緒ならば、構わない」


 一度はうつむいたベラは、そんなボクの一言に顔を上げる。


「っ、ありがとうございますっ!」


 詳しくは後から伝えると言って、ベラを下げさせると、ボクはシェイラが居るはずの方向へと顔を向ける。


(何があった、シェイラ?)


 今は、嫌われてしまっているが、できることなら、ボクに相談してほしいと願わずにはいられない。ボクにできることならば、何でもしてあげたい。

 ボクは、しばらくはシェイラのことが気になりながら仕事をこなし、その全てを終えると、早足でシェイラの元へと向かうのだった。
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