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第三章 悪魔

第五十二話 移り変わる記憶

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「……私、は……なぜ、アルムのことを」


 アルムのことが好き。アルムのことを愛している。それなのに、その感情がなくなってしまう瞬間がある。
 確かに、アルムへの想いに蓋をしなければと思ったし、アルムのことを考えると胸が苦しくて、つらかった。しかし、だからといって、アルムのことを何度も忘れてしまうのは異常でしかない。
 今は、一人でお茶を飲んでいる最中に、ようやくアルムのことを思い出したのだが、だんだんと、思い出せる時間が少なくなってきている気がする。


「魔法の分析は、お姉様の方が得意ですから、ね」


 結論として出てくるのは、誰かにおかしな魔法をかけられたのかもしれないということ。術者を見つけ出して解いてもらうのが一番安全な手段ではあるものの、それができない場合は、強制的に解くしかない。


「私は、役立たず、ですね」


 アルム達が、私の異常に気がついて行動を始めたことは、何となく知っている。しかし、私は、そんなアルム達を手伝うことができない。


「アルムを忘れている間は、魔法を使えないなんて……」


 たとえ、どんなに情報を得ようと思っても、私自身が正気である時でなければ調査ができない。しかも、その時間がどんどん少なくなってきているとなると、焦りも出てくる。


(お姉様は、きっとそろそろ来てくださるはず。後は、少しでもアルム達にとって有用な情報を掴まないと)


 お茶を飲んでいる場合ではないと立ち上がり、ベラに話をしようと思い、声を上げようとしたところで、また、頭の中がぼやけてくるのが分かる。

 ガチャンッと、どこか遠くで音がした気がする。ベラの声がうっすらと聞こえた気がする。それは分かるのに、私は上手く答えられない。


(せめて、情報だけでもっ)


 少しでも情報が欲しい。その一心で、私は様々な場所に潜伏させていた蜘蛛達を操り……。


(……えっ?)


 一瞬、信じられない言葉がどこかの蜘蛛から伝えられ、直後、意識が遠退く。


(まっ……て…………伝え、ない……と……)


 断片的過ぎる情報。しかし、それでも明らかに重要な情報を得て、必死に口を動かそうとするものの、もう、私の体は私の意思では動いてくれない。


「何でもありません」

「しかし……」

「大丈夫ですよ。ベラ」


 私ではない私が、ベラと話をする。それを、どうにか耳で捉えながら、私の意識は、闇に閉ざされた。
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