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第三章 悪魔
第六十一話 泣くということ(アルム視点)
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シェイラを、ようやくこの手に取り戻せた。それを実感するのは、シェイラがこの手に触れてくれるから。シェイラの声が聞こえるから。シェイラの震えが伝わってくるから。
「シェイラ。もう、大丈夫だ」
ギースを乗っ取った何者かが、とんでもない去り方をして、『絶対者』がシェイラに服を着せた後、シェイラはボクにくっついて離れなくなっていた。震えたまま、ギュッとボクの袖を握るシェイラに手を添えて、ボクは何度も、シェイラを支える。
「へ、平気です。アルムが、助けてくれましたもの」
「いや、ボク一人では、何もできなかった。『絶対者』が居てくれたからだ。遅くなって、すまなかった」
連れ去られてからの五日間、シェイラはきっと、怖くて怖くて仕方がなかったはずだ。それでも、シェイラは竜珠殿へと辿り着くまで、泣き言一つもらさない。それが、ボクからすると、心配でもあった。
「シェイラっ、無事で、良かったですわっ!」
「本当に、良かったね」
竜珠殿に戻れば、『絶対者』とルティアスが、それぞれシェイラの無事を喜ぶ。それに、シェイラは笑顔を浮かべて応えるものの、やはり、そこには違和感があった。
「……少し、シェイラを借りる」
違和感に気づいていたのは、きっとボクだけではない。『絶対者』も、ルティアスも、ふとした拍子に心配そうな表情を覗かせていた。だから、ボクの提案はすんなりと受け入れられ、ボクは、自室にシェイラを連れてくる。
「シェイラ」
ソファに隣り合って座り、未だに震えるシェイラの手を取りながら、ボクはシェイラを見つめる。
「何ですか? あぁ、ギースに関する情報でしたら、私もまだあまり持っていませんので、時間をいただけたらと「違う」……アルム?」
ずっと震えている癖に、平気なフリをし続けるシェイラ。それは、端から見れば、痛々しいだけだ。キョトンとした表情を浮かべたシェイラに、ボクはゆっくり、優しく、言葉を紡ぐ。
「今は、誰も見ていない。ボクも、今は竜王でも何でもない、ただのアルムだ。もう、頑張らなくて良い。もう、安全だ。何もかも、吐き出してしまえ」
そっと抱き寄せ、シェイラの頭を胸に抱き込めば、しばらく、沈黙が流れる。しかし……。
「……ふっ……うぅ……」
声を押し殺して、シェイラは泣き声を上げる。
「助けるのが遅れてすまない。……怖かったな。……つらかったな」
「う……ぁ……ぁ、あぁぁぁあっ」
張りつめていたものが切れたのか、シェイラは大きな声を上げて泣き出す。どんなに平気なフリをしていようと、誘拐される経験というのは恐ろしいものでしかない。ギースを乗っ取った者が何者かは不明だが、身近な者に裏切られる恐怖も味わったに違いないのだ。
そっとその背中をさすって、ボクはずっと、シェイラの側で、シェイラが落ち着くまで、シェイラの痛みを、苦しみを、嘆きを、受け止めるのだった。
「シェイラ。もう、大丈夫だ」
ギースを乗っ取った何者かが、とんでもない去り方をして、『絶対者』がシェイラに服を着せた後、シェイラはボクにくっついて離れなくなっていた。震えたまま、ギュッとボクの袖を握るシェイラに手を添えて、ボクは何度も、シェイラを支える。
「へ、平気です。アルムが、助けてくれましたもの」
「いや、ボク一人では、何もできなかった。『絶対者』が居てくれたからだ。遅くなって、すまなかった」
連れ去られてからの五日間、シェイラはきっと、怖くて怖くて仕方がなかったはずだ。それでも、シェイラは竜珠殿へと辿り着くまで、泣き言一つもらさない。それが、ボクからすると、心配でもあった。
「シェイラっ、無事で、良かったですわっ!」
「本当に、良かったね」
竜珠殿に戻れば、『絶対者』とルティアスが、それぞれシェイラの無事を喜ぶ。それに、シェイラは笑顔を浮かべて応えるものの、やはり、そこには違和感があった。
「……少し、シェイラを借りる」
違和感に気づいていたのは、きっとボクだけではない。『絶対者』も、ルティアスも、ふとした拍子に心配そうな表情を覗かせていた。だから、ボクの提案はすんなりと受け入れられ、ボクは、自室にシェイラを連れてくる。
「シェイラ」
ソファに隣り合って座り、未だに震えるシェイラの手を取りながら、ボクはシェイラを見つめる。
「何ですか? あぁ、ギースに関する情報でしたら、私もまだあまり持っていませんので、時間をいただけたらと「違う」……アルム?」
ずっと震えている癖に、平気なフリをし続けるシェイラ。それは、端から見れば、痛々しいだけだ。キョトンとした表情を浮かべたシェイラに、ボクはゆっくり、優しく、言葉を紡ぐ。
「今は、誰も見ていない。ボクも、今は竜王でも何でもない、ただのアルムだ。もう、頑張らなくて良い。もう、安全だ。何もかも、吐き出してしまえ」
そっと抱き寄せ、シェイラの頭を胸に抱き込めば、しばらく、沈黙が流れる。しかし……。
「……ふっ……うぅ……」
声を押し殺して、シェイラは泣き声を上げる。
「助けるのが遅れてすまない。……怖かったな。……つらかったな」
「う……ぁ……ぁ、あぁぁぁあっ」
張りつめていたものが切れたのか、シェイラは大きな声を上げて泣き出す。どんなに平気なフリをしていようと、誘拐される経験というのは恐ろしいものでしかない。ギースを乗っ取った者が何者かは不明だが、身近な者に裏切られる恐怖も味わったに違いないのだ。
そっとその背中をさすって、ボクはずっと、シェイラの側で、シェイラが落ち着くまで、シェイラの痛みを、苦しみを、嘆きを、受け止めるのだった。
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