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第三章 悪魔

第六十話 逃走

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「えっ? えっ?」


 ギースの振り下ろした剣は、何かに弾かれる。

 ……いや、私は、これが何かを知っている。

 そっと、右手にあるいつもは見えない指輪を見れば、それは確かに光を発していて、結界を張る効果を発揮していることを表していた。


「お姉様の、魔法具……」


 発動条件は、私が攻撃を受けた時だったはずなのだが、もしかした、私が大切に想う人が攻撃を受けた時も発動してくれるのかもしれない。


「ギー、ス……?」


 結界で弾かれ、距離を取ったギース。そして、振り向いたアルムは、敵の正体を知り、瞠目する。しかし……。


「……いや、違うな。何者だ?」

「おや? ギースで間違ってはいませんよ? この体は・・、ですがね」

(それは、どういう……?)


 ギースであって、ギースでないという言い方に、私は疑問を覚える。しかし、それを問いただす前に、ギースが動く。


「せっかく殺すチャンスでしたが、仕方ありませんね。今日のところは、お暇させていただきましょう」

「させると思うか?」


 ニッコリと笑うギースに対して、アルムは厳しい視線と殺気を向ける。そして、一瞬、私の方にギースの視線が向いた時……何とも言えない嫌な予感がした。


「またお会いしましょう。シェイラ様」


 私に意識が向いていると分かり、駆け出したアルム。そして、ギースがウインクをした次の瞬間……ふっと、体が軽くなる。


「えっ? ……き、きゃあぁぁぁぁあっ!!」

「シェイラ!?」


 私の悲鳴に驚いて振り向きかけたアルムに……私は、つい、水球を飛ばしていた。


「見ないでぇっ!」

「うぷっ」

(ふっ、服が、服がっ、服がぁっ! 何でっ、どうしてぇっ!!)


 一応、拐われてから、着替えとして用意されていたワンピース。それが、肩口のところから大きく裂けて、ハラリと地面に落ちてしまっていた。


「シェイラっ!」

「シェイラさんっ!」

「お姉様以外来ないでぇっ!」


 お姉様と、ついでにルティアスの声までして、私は大混乱に陥りながら叫ぶ。ちなみに、ギースはその混乱に乗じて、いつの間にか姿を消し、アルムはアルムで耳を真っ赤にして後ろを向いてうずくまっている。

 その後、お姉様に服を用意してもらった私は、何とか、立ち直ることができた。
 ……いや、アルムとギースに見られたであろう事実は消せないが、そこは思い出したら危険だ。

 私達は、その後すぐに、竜珠殿へと引き上げるのだった。
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