冒険の書 ~始の書~

星宮歌

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第一章 冒険の始まり

オクビョウナココロ

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 寝不足と空腹。その二つを同時に体験することは、全くなかったわけじゃない。理由は実にくだらない、ゲームで徹夜した上に朝御飯を抜いたというだけのものだったが……。
 しかし、それは家の中という安全な場所でのことであって、今回のような異常に見まわれていたわけではない。心細さが、恐怖が、胸に広がり、ジワジワと蝕んでくるような環境なんて初めてだ。


『冒険の書

二日目

第一フロア 地帯区分A

一日経過したため、アイテム図鑑の掲載開始』


 様々な感情に押し潰されそうになりながらも、手を伸ばし、開いた摩訶不思議な本。そこには、予想通りの『二日目』の文字と、『アイテム図鑑』なるものの掲載の知らせが更新されていた。


『アイテム図鑑

食糧編

1 乾パン

スケルトンのドロップアイテム

喉が渇くこと間違いなしのパサパサ感』


 更新されたアイテム図鑑の部分は、すぐに分かった。そして、妙な紹介とともに乾パンのことが書かれているのを見ながら、他にもないかと探す。


『アイテム図鑑

貴重品編

1 黒鞘の剣

とても丈夫な剣

取り柄はただそれだけ

2 リュックサック(小)

色々入る……と見せかけて、実はそんなに入らない

そのうち大きくもなってくれない

ごくごく普通のリュック』


 探してみると、やはりめくれないページの後に、剣やリュックに関しての記述もあった。紹介文は……気にするだけ無駄だろう。
 更新内容は、ただそれだけで、一番知りたい冒険の書に関しては一切の記述がない。もしかしたらアイテムの番号がもっと後の方なのかと思って、ページをめくろうとするも、そこはやはりめくれない。後には、裏表紙があるだけだった。


「……助けは、来るのか?」


 力のない声で、ふと呟く。
 モンスターがいるこの場所は、明らかにおかしい。あのモンスターが機械なのだとしたら、きっとそれは、とんでもない技術力の証明になる。そして、そんな技術を持つ者に捕まった俺が、簡単に助けてもらえるとは、見つけてもらえるとは、どうしても思えなかった。これだけの技術があるなら、警察の目を掻い潜ることだってできるだろう。
 その考えが、俺の思考を限りなく後ろ向きにしてしまう。


 助けは、きっと、来ない。


 まず、それを大前提に考えなければならないだろう。しかし、そうすると、必ず直面する大きな壁がある。現時点で分かっている限りでは、食糧を得るにはモンスターを倒さなければならないということだ。見渡す限り、食料になりそうなものなど、この部屋には存在しないのだから……。


「また……あんな化け物と戦う?」


 そう考えるだけで、ゾォッと心臓が冷え込むような感覚を覚える。

 昨日は、運がよかった。運がよかったから、スケルトンを倒せて、逃げることができたのだ。なら、今日は? 今日も運よく逃げられるか? そうそう都合よくいくとは思えない。

 結局、今の俺にできることは悩むことだけだった。悩んで、悩んで、吐き気がするほど頭を使って、恐怖に全身を震わせて……そうして、答えを出すことだけが、今の俺にできることだった。




 時間を知らせてくれるものはない。が、そんな中でも、俺が悩んだ時間は、ほぼ一日であったと言える。怖くて怖くて、今にも逃げ出したいのに、逃げられなくて……そんな中で出した結論。それは、ただただ単純な一言だった。


 死にたくない。


 生への執着。生への渇望。それこそが、俺の答えであり、これからの指針。


「外に……出よう」


 生きるためには、食べ物が必要だ。生きるためには、戦うことが必要だ。きっと、大昔の狩猟を行っていた俺の名前も知らない祖先達は、そうやって生きてきた。
 俺は、戦うことなんてしたことがない。せいぜい、テレビでプロレスやら相撲やらをチラリと見たことがある程度。戦いというものを欠片も知らない。

 危険は承知だ。すでに、恐怖で足はガクガクしているが、きっと、多分、大丈夫……だと信じる。


 ……でも、後一日くらい、待ってもいいかな?


 明日に回せば、なんて、甘い考えが出てしまうのは、きっと仕方ないことだ。が、それも、悩んでいる間、開きっぱなしにしていた冒険の書を見るまでとなる。


『警告

一日モンスターとの戦闘、および食糧の摂取行動が見られなかったため、後三日で処分

逃れたくば、モンスターとの戦闘、もしくは、食糧の摂取を推奨』


 見たことのない文章の更新。その現象には、どうにか慣れつつあったものの、これは別だ。

 『処分』という言葉。多分に不吉さを含んだそれに、サァッと全身の血の気が引く。具体的な内容が書かれていない分、その二文字は俺の恐怖を煽る。


「処分って……どういう…」


 意味の分からない言葉に、俺は混乱する。それでも、『処分』という言葉から真っ先に思いついたのは、『処刑』という一言だった。『処分』=『処刑』。そんな物騒な図式が、今は充分に成立しそうな事態で、笑うことすらできない。


「い、いや、まだ、そうと決まったわけじゃ……」


 そう、どこにも、『処分』が『処刑』であるなど書いてはいない。が、もしも、万が一、そうであったとしたら……。

 ズンッと、精神に重くのしかかる異常事態。分からないことへの恐怖。
 いや、もう、『処分』という文言だけでも、充分に警戒に値するものだ。何としても、それは避けなければならない。


「『逃れたくば、モンスターとの戦闘、もしくは、食糧の摂取』……か」


 『処分』の内容が分からない以上、俺には動かないという選択肢は残されていない。つまり、外に出ないで籠っていることなど許されないのだ。


「なんで、俺がこんな目に……」


 恨みがましい言葉を呟く俺は、本から目を離し、扉がある通路へとその視線を向ける。
 異形のモノが、大口を開けて待っている。そう見えてしまう薄暗い通路に、俺はすでに、弱腰で逃げ腰で及び腰だ。
 幼い子供ではないが、『早くお家に帰りたい』という心境だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

柿村君は、逃がしたりなんかしませんよ。

色々な恐怖に直面してもらわないと、面白くないですしね。

……その恐怖をしっかり書けているか、という疑問は、抱かせるべきではないと分かっているので、しっかり頑張りますけどね!
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