冒険の書 ~始の書~

星宮歌

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第二章 第二フロア

アラタナタタカイ

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 重い足取りで、俺はもう一度、外へと出る。もちろん、リュックと剣を持ってだ。冒険の書は、今は荷物にしかならない上、ページを開くという行為に抵抗を感じる今、持っていく必要はない。


 できることなら、食料を手に入れたい。何か食べなければ、力も出ない。


 そんな思いを抱きながら、俺は、ムワリとした血の臭いが立ち込める通路へ出る。バットに見つからないように……しかし、単体のウルフやスケルトン類がいないかと目を光らせる。

 このフロアには、床の苔がない。そのため、第一フロア以上に、このフロアは暗く、危険だ。
 見通しのきかない通路で、少しでも音がすれば、それは戦闘の合図となる。曲がり角が見えるたびに、心臓は高鳴り、何かがいるのではないかという妄想に囚われる。自分で立てた足音さえも、どこからか響く別の音に聞こえて、何度も何度も、足を止める。


 吐き気がするほどの緊張感。第一フロアでは、スケルトンパラダイスでしか経験のなかったそれを、俺はこの三日間で嫌と言うほど経験していた。

 暗闇というものが、ここまで精神を削るものだと、第一フロアにいた頃の俺は想像できなかった。一歩一歩が緊張の連続。小さな音ですら、危険信号。そんな状況に、ただの男子高校生が長く耐えられるわけもない。


「っ、はっ…」


 いつの間にか詰めていた息を、俺は鋭く吐く。


 が、それが……ソイツに見つかる合図になってしまった。


「ゴンゲェェェエッ!!」

「ひゅあっ」


 聞いたことのない雄叫び。奇妙な叫び声を上げて辺りを見渡す俺は、すぐにソイツを視界に捉える。


 ソレは、俺の見知った動物で例えるなら、鶏に似ていた。ただ、ソレの大きさは人間の幼児ほどの大きさであり、胴は羽毛だが、翼の部分は確実に羽毛ではなく、鈍く光る鱗だった。その目は爬虫類のような目で、嘴は赤黒く染まっている。


「ゴンゲェェゴッゴォォオッ!!」


 そして、ソイツは、前方から凄まじい速度で、俺に迫っていた。


 回れ右して逃げろ? いやいやいや、コイツの速度を見てみろ。絶対無理だ。


 『時速何十キロだ!?』と聞きたくなるくらいに、ソイツは速い。


 それなら迎え撃て? いや、それもダメだ。この速度だと、剣で受け止めたら俺にダメージがいく。


 感覚としては、猛スピードで迫るバイクを斬ろうとするようなものだ。そんなの、映画の中で観る光景でしかない。普通は無理だ。

 だから、俺は三つ目の選択肢を選ぶ。すなわち……。


「回避ぃっ!!」


 猪突猛進に…それこそ猪のごとく迫るソイツに対する俺の行動は、一時的な回避だった。迫るソイツに対し、体を横にして、通路の壁を背にすることで、恐ろしいまでの速度で目の前を通り過ぎるソイツを見送る。それは、そう……さながら闘牛士のごとき身のこなしだったと思う。

 そうして、どうにか紙一重で成功した回避。これで、少しは時間が稼げる……と思ったのだが……。


 ガキンッ!


 そんな音が、鶏もどきの走り去った方向から聞こえ、俺はギクリと肩を震わせる。それはまるで、大きな何かが急停止したときの、金属音のようで…………しかし、そんな音を出せる存在は、今のところ一つしか思い当たらないため、俺は青ざめるしかない。


 おそるおそる、向けた視線の先にいたソイツは、グリンッと首を百八十度回転させ、こちらを見る。


「ゴォンゲェェェエッ!!」


 まるで、『おのれーっ』とでも言っているかのような鶏っぽい何か。ギョロリとした目玉に見つめられ、俺は思わず小さな悲鳴を上げた。







「ゴンギョゲェェエッ!!!」

「来るなぁぁぁあっ!!」


 あれから、俺はこの鶏もどきと死の鬼ごっこを続けている。もちろん、死にかけなのは俺の方だ。鶏もどきの速度は恐ろしく速く、かといって、すぐに止まれないというわけでもない。追い詰められるのは時間の問題だった。


「うわっ!」


 今も、鶏もどきの突進をどうにかこうにかかわしたところだったが、すでに息は上がり、次がかわせるのかどうか疑問だった。それに……。


 他のモンスターまで出てきたら、俺は、死ぬ。


 結構な時間を走っていたような気がするのだが、運の良いことに、まだ他のモンスターには遭遇していない。ここで、他のモンスターが出てくれば、俺は確実に殺される。それが分かっているだけに、俺は戦いを選ぶ。すでに、剣は鞘から抜き放っている。


「ゴンゲェェゴォォッ!!」


 鱗だらけの翼をバタバタとさせ、飛べない鳥は猛スピードで突進する。


「ぐっ!」


 その突進に合わせて、俺はソイツをかわしながら頭を斬りつけようとするが、翼の硬い鱗が剣を弾き、傷を負わせられない。それでも、ガキンッという音とともに立ち止まった鶏もどきは、俺の攻勢に警戒心をあらわにする。


「ゴォォオッ、ゴンゲェェエ」


 ジリジリと、ソイツは俺を観察するかのように横へ歩く。瞬きすらも許されない。肩で息をしながらも、刀身をソイツに向け続ける。

 そんな空気の中、ソイツは、再び雄叫びを上げた。


「ゴンゲゴッゴォォォオッッ!!」

「っ!?」


 大気を切り裂くその叫びに、俺は一瞬にして回避行動に移る。おそらく、鱗がない部分に剣は届かない。それは先程の鶏もどきの行動から、翼で弾かれる可能性が高いからだ。
 しかし、鱗には継ぎ目がある。たとえ鱗が硬くとも、回避しながらそこを上手く狙えれば、勝機があるはずだった。

 突進する鶏もどきから、ヒラリと身をかわす。そして、その翼を、鱗の継ぎ目を狙おうとしたが……。


「うわっ」


 ふいに、ソイツが羽ばたき、俺は攻撃の手を休めてしまう。どうやら、俺が鱗の継ぎ目を狙うと分かっていたようだった。


「ゴギョ!?」


 しかし、ソイツは俺の攻撃を回避したにも関わらず、俺の後ろで悲鳴らしきものを上げたのだった。

 素早く、鶏もどきをその視界に捉えた俺は、そこで、あまりにも滑稽な様を目にする。


「ゲ……ェ」


 ソイツは、どうやら壁に自ら激突したらしく、フラフラと……それこそ、千鳥足になっていた。目を疑うようなその光景に、俺は一瞬唖然とするが、すぐに、今がチャンスだと気づく。


 今なら、頭が無防備っ!


 大きささえ度外視して見れば、後ろから見たソイツは普通の鶏と変わらない頭をしているように見える。だから、俺は渾身の力を込めて、剣を縦に降り下ろす。


「はぁっ!!」


 シュッと風を切り裂く音の直後、硬く……それでいて弾力のある感覚が剣を通して伝わる。真っ赤な、生臭いものが、鶏もどきの頭部から噴き出す。


「ゲ……ゲェ…」


 そうして、鶏もどきは、ドチャリと倒れ、すぐに黒い光を放って霧散する。生臭かった、赤いソレとともに……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ゴンゲェェェッ!!

っと、叫ばれたら、きっと柿村君は飛び起きますね。

鶏もどき……実は、作者が幼い頃、鶏に追いかけ回されたのが元だったりしますが、わりとお気に入りのキャラクターですよ。

明日は、少し修正に重きを置こうと思うので、更新できるかどうか分かりません。

明後日はちゃんと更新しますので、楽しみにしていてください。

それでは、また!
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