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第二章 第二フロア
コクラン
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なんてことだ。あの突進が、よりにもよって、急所を狙うためのものだったなんて……。
そんな風に俺は嘆いたが、それはもう仕方ない。今できることは、クックドラゴンの攻撃を受けずにすんだことを心から感謝することと、もう二度とクックドラゴンに出会わないことを祈ることくらいだ。
「とりあえず、今は『黒卵』だな」
世にも恐ろしい男の天敵を相手取ったのだ。それ相応に美味しいものであることを期待して、俺は未だに暖かく感じる『黒卵』をリュックから取り出し、両手で抱える。
「……待てよ? これ、生卵だったり……するのか?」
そして、抱えたところで、そんな疑念が鎌首をもたげ、俺はピシリと固まる。何となく、俺はこの『黒卵』がゆで卵だと思っていたが、考えるまでもなく、何の処理もしていないコレがゆで卵であるはずはない。腹が減っているとはいえ、生卵を……しかも、サッカーボールほどもある生卵を食べるなどという芸当は、無理そうだ。
「い、いや、もしかしたら、そうじゃないかもしれないっ!」
コレが生卵である場合のことを考えて少し気分が悪くなったが、もしかしたら、犯人にもちょっとくらい、良心の欠片がある……かもしれない。
いや、本気で、頼むからあってほしい!
生卵じゃありませんようにと十回くらい祈ったところで、俺は古くから伝わる故事に則って行動する。すなわち、『案ずるより生むが易し』だ。
俺は、テーブルの上に置いた『黒卵』を、テーブルの端に打ちつけてヒビを入れる。そして……もしも、これが生卵だった場合に備え、俺はヒビを上にして少しずつ剥いていくことにした。
そうして、殻を剥きはじめてすぐに、俺は、自分の予想が当たっていることを確信した。つまりは……。
「やっぱり、生……」
そう、俺の希望は、一分も経たずして潰えた。腹持ちはするらしいが、生卵。腹は減っているが、生卵。他に食べ物がないわけではないが、生卵……。
きっと、放置していたら、腐って凄まじい臭気を放つであろうことは分かりきっている。このフロアに来たばかりの頃、妖花などというものを育ててしまったがために、そこから放たれる凄まじい悪臭で悶絶したのは、記憶に新しい。そのため、放置は論外。
そして、この生卵を捨てるという選択肢は、貴重な食料を捨てることと同義であるため、踏み切れない。
覚悟を決めろ。俺は日本人だ。卵かけご飯も食べるし、すき焼きだって食べる。だったら、生卵単体でも……いける、はずだ。
たとえ日本人でも、生卵をそのまま食べる人間は限られているのだとしても、俺は、覚悟しなくてはならない。明日、また食料を手に入れられるかは分からない。下手をすれば、この生卵を食べなかったがために餓死する事態もあり得る。
「……せめて、明日はまともなものにありつけますように」
俺は、声に出して切実な思いを言うと、そのまま、殻が剥けた天辺に口をつける。行儀は悪いかもしれないが、ここに食器なんてものはない。キッチンがないくらいだから、それは当たり前だ。だから、俺は勇気をふりしぼり、口をつけた場所から……中身をすすった。
ズズッ。
ヌルリとした感触が口一杯に広がる。生卵の、白身の食感そのものだ。しかし、ここで予想外のことが起こる。
「んっ……美味い?」
それは、たしかに生卵だったが、俺の知る生卵の味ではなかった。何の味かはさっぱりだったが、とにかく美味かったのだ。
思わず『黒卵』から口を離して、まじまじと殻が剥けたその部分を見る。中に見えるのは、透明な、まさに生卵の白身と言えるものがキラリと見えるだけだ。特別、変わったところなどない。卵の見た目とか、出現の仕方とか、サイズとかはあり得ないものかもしれないが、それでも、中身は普通の生卵にしか見えない。
「……考えるだけ無駄、現状を歓迎しよう」
ここで学んだことは、深く考えてもどうにもならないということだ。考えるよりも、早く現状を受け入れて、対処していくことが重要だ。
何はともあれ、どういう理由かは皆目見当もつかないが、これが美味しく食べられるのなら大歓迎だ。今は考えることより、何の味か全く分からないコレを食べることとしよう。俺は早速、行儀悪く卵の天辺に口をつけると、ジュルッと音を立ててすする。
っ!? やはり美味い。
粘つくそれを飲みながら、俺はその美味さに感動する。が、なぜか、それは最初にすすったときの味とは異なった。今度は、甘かったのだ。そして、俺はそれが何の味か分かる。
「オレンジ?」
そう、それは、言葉にするなら、粘つくオレンジのようなものだった。いや、弾力を考えると、オレンジグミか? しかも、俺の記憶にある限りで、このオレンジグミの味は最高級のものだ。
ジュルッ。
味が変わった理由は分からなかったが、久しぶりに味わうということを思い出した俺は、一心不乱にそれをすする。
美味い、美味い、美味い!!
どんどん味が変わるそれは、懐かしいとさえ思える俺の好物を反映しているようだった。食感こそ、生卵のそれだったが、そんなことがどうでもいいと思えるくらいに美味かった。
「……ん?」
無我夢中で『黒卵』をむさぼっていた俺は、ふと、顔を上げる。どうやら、俺はいつの間にか、『黒卵』を食べ尽くしてしまったらしい。
「……美味かった」
ぼんやりと放心したような状態で、そう呟く。本当に、本当に、美味かった。
『黒卵』がなくなってしまったことが寂しいと思えるほどに、俺は『黒卵』を堪能していた。
……今なら、どんな敵にも勝てそうだ。
意味もなくそんな自信が溢れる。しかし、同時に凄まじい眠気もあった。今日は、クックドラゴンとの死闘があり、充分な食料にもありつけたのだから、その眠気は当然のものであったが、このまま素直に眠るのももったいない気がする。
フラフラと立ち上がり、少しくらい外に出てみようとするが、そのまま鉛のように重くなったまぶたが下りてきてしまう。
「……あ」
ポスンッと、俺はまたベッドに座ってしまう。
……今日は、もういいか。
眠い。とにかく眠い。何かを考えることすらできないほどの眠気に、俺はそのまま体を横たえる。
さすがに革の鎧を着たままだと、翌日、起きたとき、体が痛くなることは分かっていたため、最後の理性が俺に、革の鎧を外すという行動を取らせる。多少、苦戦しながらも、体から革の鎧を外し、そこら辺に投げ捨てる。明日、ちゃんと回収しておけば、何の問題もない。
俺はもう……眠くて眠くて、仕方なかった。
「おやすみ……」
誰に言うでもなく、律儀に習慣でしかない挨拶を言った俺は、深い深い、眠りにつく。夢すら見ないほどの、深い眠り。
そんな状態だったからだろう。俺は、あの称号の意味を見過ごしていた。あの称号が、いかに危険であるのかを……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
黒卵の味、どうしようか結構迷いました。
さんざん迷った結果がオレンジ。
……あぁ、迷走の末に辿り着いたんだなと思って、生暖かい目で見ていただけたら幸いです。
さて、明日の更新なんですが、ちょっとまた修正の方が追い付いていないので、そちらを優先させようと思います。
そのため、次の更新は明後日になりますので悪しからず。
それでは、また!
そんな風に俺は嘆いたが、それはもう仕方ない。今できることは、クックドラゴンの攻撃を受けずにすんだことを心から感謝することと、もう二度とクックドラゴンに出会わないことを祈ることくらいだ。
「とりあえず、今は『黒卵』だな」
世にも恐ろしい男の天敵を相手取ったのだ。それ相応に美味しいものであることを期待して、俺は未だに暖かく感じる『黒卵』をリュックから取り出し、両手で抱える。
「……待てよ? これ、生卵だったり……するのか?」
そして、抱えたところで、そんな疑念が鎌首をもたげ、俺はピシリと固まる。何となく、俺はこの『黒卵』がゆで卵だと思っていたが、考えるまでもなく、何の処理もしていないコレがゆで卵であるはずはない。腹が減っているとはいえ、生卵を……しかも、サッカーボールほどもある生卵を食べるなどという芸当は、無理そうだ。
「い、いや、もしかしたら、そうじゃないかもしれないっ!」
コレが生卵である場合のことを考えて少し気分が悪くなったが、もしかしたら、犯人にもちょっとくらい、良心の欠片がある……かもしれない。
いや、本気で、頼むからあってほしい!
生卵じゃありませんようにと十回くらい祈ったところで、俺は古くから伝わる故事に則って行動する。すなわち、『案ずるより生むが易し』だ。
俺は、テーブルの上に置いた『黒卵』を、テーブルの端に打ちつけてヒビを入れる。そして……もしも、これが生卵だった場合に備え、俺はヒビを上にして少しずつ剥いていくことにした。
そうして、殻を剥きはじめてすぐに、俺は、自分の予想が当たっていることを確信した。つまりは……。
「やっぱり、生……」
そう、俺の希望は、一分も経たずして潰えた。腹持ちはするらしいが、生卵。腹は減っているが、生卵。他に食べ物がないわけではないが、生卵……。
きっと、放置していたら、腐って凄まじい臭気を放つであろうことは分かりきっている。このフロアに来たばかりの頃、妖花などというものを育ててしまったがために、そこから放たれる凄まじい悪臭で悶絶したのは、記憶に新しい。そのため、放置は論外。
そして、この生卵を捨てるという選択肢は、貴重な食料を捨てることと同義であるため、踏み切れない。
覚悟を決めろ。俺は日本人だ。卵かけご飯も食べるし、すき焼きだって食べる。だったら、生卵単体でも……いける、はずだ。
たとえ日本人でも、生卵をそのまま食べる人間は限られているのだとしても、俺は、覚悟しなくてはならない。明日、また食料を手に入れられるかは分からない。下手をすれば、この生卵を食べなかったがために餓死する事態もあり得る。
「……せめて、明日はまともなものにありつけますように」
俺は、声に出して切実な思いを言うと、そのまま、殻が剥けた天辺に口をつける。行儀は悪いかもしれないが、ここに食器なんてものはない。キッチンがないくらいだから、それは当たり前だ。だから、俺は勇気をふりしぼり、口をつけた場所から……中身をすすった。
ズズッ。
ヌルリとした感触が口一杯に広がる。生卵の、白身の食感そのものだ。しかし、ここで予想外のことが起こる。
「んっ……美味い?」
それは、たしかに生卵だったが、俺の知る生卵の味ではなかった。何の味かはさっぱりだったが、とにかく美味かったのだ。
思わず『黒卵』から口を離して、まじまじと殻が剥けたその部分を見る。中に見えるのは、透明な、まさに生卵の白身と言えるものがキラリと見えるだけだ。特別、変わったところなどない。卵の見た目とか、出現の仕方とか、サイズとかはあり得ないものかもしれないが、それでも、中身は普通の生卵にしか見えない。
「……考えるだけ無駄、現状を歓迎しよう」
ここで学んだことは、深く考えてもどうにもならないということだ。考えるよりも、早く現状を受け入れて、対処していくことが重要だ。
何はともあれ、どういう理由かは皆目見当もつかないが、これが美味しく食べられるのなら大歓迎だ。今は考えることより、何の味か全く分からないコレを食べることとしよう。俺は早速、行儀悪く卵の天辺に口をつけると、ジュルッと音を立ててすする。
っ!? やはり美味い。
粘つくそれを飲みながら、俺はその美味さに感動する。が、なぜか、それは最初にすすったときの味とは異なった。今度は、甘かったのだ。そして、俺はそれが何の味か分かる。
「オレンジ?」
そう、それは、言葉にするなら、粘つくオレンジのようなものだった。いや、弾力を考えると、オレンジグミか? しかも、俺の記憶にある限りで、このオレンジグミの味は最高級のものだ。
ジュルッ。
味が変わった理由は分からなかったが、久しぶりに味わうということを思い出した俺は、一心不乱にそれをすする。
美味い、美味い、美味い!!
どんどん味が変わるそれは、懐かしいとさえ思える俺の好物を反映しているようだった。食感こそ、生卵のそれだったが、そんなことがどうでもいいと思えるくらいに美味かった。
「……ん?」
無我夢中で『黒卵』をむさぼっていた俺は、ふと、顔を上げる。どうやら、俺はいつの間にか、『黒卵』を食べ尽くしてしまったらしい。
「……美味かった」
ぼんやりと放心したような状態で、そう呟く。本当に、本当に、美味かった。
『黒卵』がなくなってしまったことが寂しいと思えるほどに、俺は『黒卵』を堪能していた。
……今なら、どんな敵にも勝てそうだ。
意味もなくそんな自信が溢れる。しかし、同時に凄まじい眠気もあった。今日は、クックドラゴンとの死闘があり、充分な食料にもありつけたのだから、その眠気は当然のものであったが、このまま素直に眠るのももったいない気がする。
フラフラと立ち上がり、少しくらい外に出てみようとするが、そのまま鉛のように重くなったまぶたが下りてきてしまう。
「……あ」
ポスンッと、俺はまたベッドに座ってしまう。
……今日は、もういいか。
眠い。とにかく眠い。何かを考えることすらできないほどの眠気に、俺はそのまま体を横たえる。
さすがに革の鎧を着たままだと、翌日、起きたとき、体が痛くなることは分かっていたため、最後の理性が俺に、革の鎧を外すという行動を取らせる。多少、苦戦しながらも、体から革の鎧を外し、そこら辺に投げ捨てる。明日、ちゃんと回収しておけば、何の問題もない。
俺はもう……眠くて眠くて、仕方なかった。
「おやすみ……」
誰に言うでもなく、律儀に習慣でしかない挨拶を言った俺は、深い深い、眠りにつく。夢すら見ないほどの、深い眠り。
そんな状態だったからだろう。俺は、あの称号の意味を見過ごしていた。あの称号が、いかに危険であるのかを……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
黒卵の味、どうしようか結構迷いました。
さんざん迷った結果がオレンジ。
……あぁ、迷走の末に辿り着いたんだなと思って、生暖かい目で見ていただけたら幸いです。
さて、明日の更新なんですが、ちょっとまた修正の方が追い付いていないので、そちらを優先させようと思います。
そのため、次の更新は明後日になりますので悪しからず。
それでは、また!
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