冒険の書 ~始の書~

星宮歌

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第三章 第三フロア

ゴッキー

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 警告はしっかり聞くものだ。それがたとえ、どんなに好ましくない相手からのものであったとしても……。

 そんな学習をしながら、俺は現在、ゴキブリ退治に追われていた。……それは、冒険の書におぞましい記述があったからでもあるのだが……。


『冒険の書

モンスター図鑑

? ゴッキー

物理的には全く無害なゴキブリ型モンスター

ただし、精神的には……

生まれて一日経過すると、仲間を呼ぶ習性を持つ』


 カサカサカサカサカサカサ。


「ゴンゲッ、ゴンギョォッ!」


 ここで言う仲間は、けっして、俺の仲間になるモンスターというわけではないだろう。いや、現実逃避にそれを考えてみたい気持ちもあるのだが、そんなことをする暇があるならばさっさとこのゴキブリ型モンスター、ゴッキーを潰すべきだ。こんなのがここに居座り、あまつさえ増えるなどということは、おぞまし過ぎて考えたくもない。


「ゴンゲゴッ! ゴッゴォッ!!」


 そして、俺は、ゴッキーの出現で混乱し、バサバサと飛べないにも関わらず翼を羽ばたかせ、逃げ回るゴンゲを尻目に剣を取る。ゴッキーは、この狭い安全地帯を、縦横無尽に駆け回っている。

 元々、モンスターでなくとも素早いゴキブリは、モンスターとなったことでさらなるスピードを手にしたらしく、先程からカサカサカサカサ動き回り、ゴンゲの混乱を煽っているのだった。

 と、そこで、ゴッキーが走り回る以外の行動を取る。


「ゴゲッ!? ゴンギョォオッ!!」

「なっ、ゴンゲっ!」


 ゴッキーは、あろうことか、ゴンゲに向かって低空飛行を行ったのだ。悲鳴を上げて逃げ出すゴンゲに、前は見えていない。その結果がどうなるのかといえば……。


 ゴツンッ!


「ゴ……ゲェ……」


 ゴンゲは、痛々しい音を立てて、壁に激突したのだった。


「くっ」


 ゴンゲは気絶。しかし、ゴンゲに恐怖を植えつけたであろうゴッキーは、壁に激突することもゴンゲにアタックすることもなく、フワリと上昇し、壁にピタリと止まる。止まったゴッキーの姿に、俺はチャンスだと感じて思いっきり剣で突き刺そうとした……のだが……。


 カサカサカサカサカサカサ。


 俺のそんな行動を嘲笑うかのように、ゴッキーは軽く俺の攻撃を回避し、またしても至るところを走り回る。俺の剣は、むなしく壁を叩くだけだった。


「くそっ!」


 あまりにも速すぎる。カサカサ動き回るゴッキーを捉えるには、俺の速度では到底足りない。今だって、駆け回るゴッキーの姿を目で追うことが難しい状態だ。下手をすれば見失いかねない。

 警告に従って生まれる前に潰しておけば良かったと、後悔ばかりが頭を占める。が、そんなことを考える間にも、ヤツはカサコソと走り続けていた。


 早くどうにかしなければ、精神衛生上、非常に良くない。


 カサカサと近づいたと思えば剣を振り下ろし、不意に止まったかと思えば剣を突き立てる。しかし、ヤツはその全ての攻撃を嘲笑うかのように回避し続ける。そして、あろうことか、俺の体に這い上がりそうにまでなり全身に鳥肌を立てながら必死に振り払うはめになる。


 もしかしたら、これはここに来て一番の精神攻撃かもしれない。


 そんなくだらない思考をしながらも、俺は懸命に剣を振り続ける。……ただ、そんな無様な光景も長くは続かなかった。


「っ!!?」


 音もなく、床がうごめき、たわむ。そして……。



 カサカサカサカサドスッ!




 たったの、一撃だった。床から伸びた石の棘。その一撃で、あの素早かったゴッキーは体を貫かれ、絶命する。


「……は?」


 何が起こったのか、俺はすぐには理解できなかった。黒い光を放って霧散したゴッキーを眺め、石の棘が元の床に戻るのを確認したところで、俺はこの事態が、『床と恋人』という称号の効果だということに思い至った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ゴッキーが駆け回る部屋に閉じ込められたら……まぁ、普通は発狂するでしょうね。

ゴンゲみたいに。

そう考えると、ゴンゲはとっても可哀想な立ち位置ですな。

それでは、また!
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