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第三章 第三フロア
マケン
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「ゴッ、ゴゲッ、ゴッゲギョッ!」
今、俺は安全地帯で『魔女の大釜』の前に立っている。そして、そんな俺の周りを、ゴンゲはソワソワして翼をバサバサと羽ばたかせている。
ゴンゲの落ち着きのなさは、十中八九、この『魔女の大釜』からかつて産み出された『ダークマター』……もとい、ゴッキーが原因なのは分かるが、今回はあんなおぞましいものを作るつもりはない。
「ゴンゲギョッ、ゴッ、ゴゲギョッ!」
……だから、少しは落ち着いてほしいのだが、たとえ言い聞かせたところで無駄だろう。忙しなく動き回るゴンゲは、落ち着けと言ったところで落ち着きそうにない。
「……まぁ、レシピ通りにやれば、失敗しないだろう」
スパイダーがドロップしたアイテムの正体。それは、『魔剣のレシピ』だった。ただ、それはアイテム図鑑の貴重品編に名前しか記されていないものであり、説明の類いは一切ない。
『魔剣のレシピ
材料
薄い皮 十六枚
尖った骨 六十六個
白い牙 四個
白い糸 二本
腐った肉 三個
作り方
1 薄い皮と白い糸を入れ、五回かき混ぜましょう
2 残りの材料を全て入れ、三十回かき混ぜれば出来上がり』
材料は、一応揃っている。まるで料理のレシピのような書き方に、最初は目を疑ったが、きっとレシピとはどんなものでも、こういうものなのだろう。そうして、俺ははじめる。『魔剣』の生成を……。
「ゴッ、ゴゲッ!」
まずは『薄い皮』と『白い糸』を入れて混ぜる。
「ゴギョッ!? ゴンゲッ!」
五回ほど混ぜたところで、ふぅっと息をもらし、残りの材料を全て入れていく。
「ゴゲェ……ゴッゴォ…」
不安感を全開に、ウロウロしているゴンゲを無視し、俺はかき混ぜはじめる。
「ゴッ…ゴゲッゴォ…」
ボフンッ!
「っ!?」
「ゴゲギョッ!?」
三十回、書かれていた通りにかき混ぜた途端、はじめて『魔女の大釜』で失敗した時にはなかった煙が出て、ゴンゲが叫ぶ。……俺も驚きはしたが、どうやら、この煙は、成功の証しらしい。
「出来た」
「ゴゲッ!? ゴッ、ゴンギョゲェッ!!?」
『出来た』という言葉と同時に、ゴンゲは悲鳴を上げ、一目散にベッドの中に隠れようと逃げる。そんなゴンゲの様子を、何とも言えない気持ちで見守りながら、俺は、それをどうにかお玉に引っかけて引き上げる。さすがに、一瞬にして物体が変化してしまうような大釜に手を突っ込む気にはなれない。
「ゴッ……ゴンゲェ……」
ベッドの布団の中に頭から突っ込んだゴンゲ。その、ゴンゲの震える声が聞こえる中、俺はどうにか取り出したその剣を眺める。
全体的に漆黒に染まった刀身は、中心部のみが紅い。そして、堕天使の翼でも模したかのような鍔と、その中央に埋め込まれたルビーのような丸い宝玉。分類上では大剣とされるであろう巨大なそれは、ずっしりと重く、俺の手に吸い付くような感覚を覚える。
……いや、これは、実際に吸い付いている、のか?
柄を持って『魔剣』とやらを眺めていた俺は、思いの外、良いものが出来たと思って満足していたのだが……剣を置こうとしても置けない。手にくっついたまま、離れてくれない。
「……」
自分でも分かるくらいに、冷や汗がダラダラと流れ落ちる。俺は、もしかしたら、持ってはいけないものを持ってしまったのではないか?
困った時の冒険の書。俺は、左手で冒険の書のページを必死に捲り、アイテム図鑑を調べる。が……。
「載ってない……だと?」
アイテム図鑑に、新たな更新はない。つまり、この『魔剣』がなぜくっつくのかが分からないということだ。
「……いや、待て…まさか……?」
と、そこで、俺はもう一つの可能性に気づく。信じたくない思いを抱えながら開いたそのページには……『魔剣』の文字が、たしかにあった。
『モンスター図鑑
? 魔剣
刀剣型のモンスター
切れ味抜群だが、持ち主が死ぬまで、もしくは魔剣自身が折れるまで、持ち主の手から離れない』
ここに来てから、嫌な予感の的中率が大幅に上がっている気がする。アイテムだと思って生成したそれは、モンスターで、しかも、呪いの剣のごとき理不尽な性質を持っているらしい。
……『魔剣』と『呪いの剣』は似たようなものかもしれないが……。
とにかく、この魔剣が、俺の右手から離れないということだけは、冒険の書から読み取れた。……ちなみに、『魔剣が仲間になりました』という文章は翌日になって知ることとなる。
「ゴッ……ゴゲッ?」
カサカサという音がしないことから、ゴッキーがいないことを察したらしいゴンゲがオズオズと布団から出る。そんなゴンゲの姿に、俺は、一言、こう告げる。
「明日はボス戦だ」
「ゴッ、ゴゲッ!」
さっさとこんな場所から出たいという気持ちから、俺は明日にでもこのフロアのボスに挑むことを決意する。早く、ここから出て、記憶を取り戻さなければ、どんどん妙なモンスターに絡まれる気がしてならない。
そうして、明日の戦いに向けて、俺は英気を養うべく、食べて、眠る。深く深く……。暗い闇の中に、意識を沈め、眠りにつく。安息の眠りへと……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハラハラドキドキなゴンゲが可愛いと思うのは親の欲目ですかねぇ。
この作品で一番のお気に入りキャラは、多分ゴンゲです。
それでは、また!
今、俺は安全地帯で『魔女の大釜』の前に立っている。そして、そんな俺の周りを、ゴンゲはソワソワして翼をバサバサと羽ばたかせている。
ゴンゲの落ち着きのなさは、十中八九、この『魔女の大釜』からかつて産み出された『ダークマター』……もとい、ゴッキーが原因なのは分かるが、今回はあんなおぞましいものを作るつもりはない。
「ゴンゲギョッ、ゴッ、ゴゲギョッ!」
……だから、少しは落ち着いてほしいのだが、たとえ言い聞かせたところで無駄だろう。忙しなく動き回るゴンゲは、落ち着けと言ったところで落ち着きそうにない。
「……まぁ、レシピ通りにやれば、失敗しないだろう」
スパイダーがドロップしたアイテムの正体。それは、『魔剣のレシピ』だった。ただ、それはアイテム図鑑の貴重品編に名前しか記されていないものであり、説明の類いは一切ない。
『魔剣のレシピ
材料
薄い皮 十六枚
尖った骨 六十六個
白い牙 四個
白い糸 二本
腐った肉 三個
作り方
1 薄い皮と白い糸を入れ、五回かき混ぜましょう
2 残りの材料を全て入れ、三十回かき混ぜれば出来上がり』
材料は、一応揃っている。まるで料理のレシピのような書き方に、最初は目を疑ったが、きっとレシピとはどんなものでも、こういうものなのだろう。そうして、俺ははじめる。『魔剣』の生成を……。
「ゴッ、ゴゲッ!」
まずは『薄い皮』と『白い糸』を入れて混ぜる。
「ゴギョッ!? ゴンゲッ!」
五回ほど混ぜたところで、ふぅっと息をもらし、残りの材料を全て入れていく。
「ゴゲェ……ゴッゴォ…」
不安感を全開に、ウロウロしているゴンゲを無視し、俺はかき混ぜはじめる。
「ゴッ…ゴゲッゴォ…」
ボフンッ!
「っ!?」
「ゴゲギョッ!?」
三十回、書かれていた通りにかき混ぜた途端、はじめて『魔女の大釜』で失敗した時にはなかった煙が出て、ゴンゲが叫ぶ。……俺も驚きはしたが、どうやら、この煙は、成功の証しらしい。
「出来た」
「ゴゲッ!? ゴッ、ゴンギョゲェッ!!?」
『出来た』という言葉と同時に、ゴンゲは悲鳴を上げ、一目散にベッドの中に隠れようと逃げる。そんなゴンゲの様子を、何とも言えない気持ちで見守りながら、俺は、それをどうにかお玉に引っかけて引き上げる。さすがに、一瞬にして物体が変化してしまうような大釜に手を突っ込む気にはなれない。
「ゴッ……ゴンゲェ……」
ベッドの布団の中に頭から突っ込んだゴンゲ。その、ゴンゲの震える声が聞こえる中、俺はどうにか取り出したその剣を眺める。
全体的に漆黒に染まった刀身は、中心部のみが紅い。そして、堕天使の翼でも模したかのような鍔と、その中央に埋め込まれたルビーのような丸い宝玉。分類上では大剣とされるであろう巨大なそれは、ずっしりと重く、俺の手に吸い付くような感覚を覚える。
……いや、これは、実際に吸い付いている、のか?
柄を持って『魔剣』とやらを眺めていた俺は、思いの外、良いものが出来たと思って満足していたのだが……剣を置こうとしても置けない。手にくっついたまま、離れてくれない。
「……」
自分でも分かるくらいに、冷や汗がダラダラと流れ落ちる。俺は、もしかしたら、持ってはいけないものを持ってしまったのではないか?
困った時の冒険の書。俺は、左手で冒険の書のページを必死に捲り、アイテム図鑑を調べる。が……。
「載ってない……だと?」
アイテム図鑑に、新たな更新はない。つまり、この『魔剣』がなぜくっつくのかが分からないということだ。
「……いや、待て…まさか……?」
と、そこで、俺はもう一つの可能性に気づく。信じたくない思いを抱えながら開いたそのページには……『魔剣』の文字が、たしかにあった。
『モンスター図鑑
? 魔剣
刀剣型のモンスター
切れ味抜群だが、持ち主が死ぬまで、もしくは魔剣自身が折れるまで、持ち主の手から離れない』
ここに来てから、嫌な予感の的中率が大幅に上がっている気がする。アイテムだと思って生成したそれは、モンスターで、しかも、呪いの剣のごとき理不尽な性質を持っているらしい。
……『魔剣』と『呪いの剣』は似たようなものかもしれないが……。
とにかく、この魔剣が、俺の右手から離れないということだけは、冒険の書から読み取れた。……ちなみに、『魔剣が仲間になりました』という文章は翌日になって知ることとなる。
「ゴッ……ゴゲッ?」
カサカサという音がしないことから、ゴッキーがいないことを察したらしいゴンゲがオズオズと布団から出る。そんなゴンゲの姿に、俺は、一言、こう告げる。
「明日はボス戦だ」
「ゴッ、ゴゲッ!」
さっさとこんな場所から出たいという気持ちから、俺は明日にでもこのフロアのボスに挑むことを決意する。早く、ここから出て、記憶を取り戻さなければ、どんどん妙なモンスターに絡まれる気がしてならない。
そうして、明日の戦いに向けて、俺は英気を養うべく、食べて、眠る。深く深く……。暗い闇の中に、意識を沈め、眠りにつく。安息の眠りへと……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハラハラドキドキなゴンゲが可愛いと思うのは親の欲目ですかねぇ。
この作品で一番のお気に入りキャラは、多分ゴンゲです。
それでは、また!
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