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第二章 旅と王都

第四十三話 面会するゼス(ゼス視点)

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 アルモニア家はシシエラ家と同じ中立派の家であり、年頃の令嬢が二人と、令息が一人居たはずだ。当主の男は、目立つ功績もなく、かといって大きな失敗もしない平凡な男。中立派貴族として珍しくはない性質の人間だ。そして、だからこそ……その当主が半身の偽装に関わっているのであれば、中立派全体を危険視しなければならなくなる。


「アルモニア家当主、ノクス・アルモニア様、及び、当主夫人ニアス・アルモニア様がお越しになられました」

「通せ」

「はっ」


 アルモニア家の長女は、ルキウスの半身とされている。妹の方は、あまり社交に向いていないのか、ほとんど引きこもっていて情報がなく、弟の方は、文官を目指しているらしい。
 そんな三人の子供を持つ二人は、緊張した面持ちで部屋へと入り、礼をする。


「面を上げろ」


 そう告げれば、二人の顔が良く見える。少しぽっちゃりとしていて、紺色の髪を撫でつけ、同じく紺色の顎ヒゲを生やした気弱そうな男と、茶色の髪をアップにした、吊り目で少しばかりシワが目立ち始めた痩せ型の女性。この二人が、ノクスとニアスだった。


「さて、私が二人を呼んだ理由に関して、お前達自身に心当たりはあるか?」


 今のところ、誰にどういった思惑があるのか、判然としない部分が大きい。つまりは、相手の出方次第ではあるのだが、俺は、それを強制的に引き出すことにする。


「も、申し訳ございませんっ。その、ルキウス殿下のこと、でしょうか?」

「そうですね。私達の娘のことに決まっていますわ」


 二人の態度は、あまりにも対称的だった。何が起こっているのか分からないながらも、最近病に倒れたと噂されている娘を半身と定めたルキウスに関して思考を巡らせる当主、ノクス。そして単純になのか何なのか、自分の娘に自信を持っているらしいニアス。それぞれが見ているものは別であるにもかかわらず、ニアスはノクスが同じものを考えているのだと思っているらしい。ただ……。


(ルキウスはこの家には居そうにない、か……)


 正直、一番捜しづらい場所は、それぞれの貴族の家の中だ。むろん、別荘もそのうちの一つだが、とにかく、貴族の所有地というのは厄介なものなのだ。


「あぁ、確かに、ルキウスのことでもあり、お前達の娘のことでもある」

「……娘が、何か粗相を……?」

「なっ、そんなわけないでしょう! あの子はちゃんとやってるに決まってます」


 必死に考えて様々な可能性の中からそれを選び取ったらしいノクスと、多少の動揺を見せながら反論するニアス。
 当然、怪しいと思えるのはニアスの方だった。
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