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第二章 旅と王都

第六十三話 困惑するゼス(ゼス視点)

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(どういう、ことだ……?)


 どうにか仕事を終えて、ネリアさんに拒まれたことやら申し訳なさやらに頭を悩ませていた俺は、無意識のうちにネリアさんの部屋の前まで来ていた。
 護衛の者からは多少訝しげな目で見られはしたものの、一応、ヘイルを捕らえることに成功し、ルキウスやジェスとは違い、ネリアさんが正真正銘、俺の半身だとされたことで、普通に面会が可能な状態にまではなっている。だから、何も問題などないと自分に言い訳をしながら扉の前に立った瞬間、聞こえてきた声に立ち止まったのは不可抗力だ。


「私は、もう、長くはないのだから……」


 恐らく、その言葉をはっきり聞き取れたのは俺だけだ。とても、とても小さな嘆きの声。半身だからこそ、響いてくる最愛の人の声。
 それを聞いた瞬間、頭の中が真っ白になったのも、その後に続いた言葉を意識するほどに頭が働かなかったのも、きっと、俺がネリアさんの半身だからこそ。


(長くは、ない……? どう、いう……)


 この文脈で、それがどういう意味を持つのか、正確に計ることは難しい。それでも、頭の中に大きく存在するのは、その『命』が長くはないという内容だ。
 そんなはずはない。そう思えども、俺はネリアさんのことを多く知っているというわけではない。
 確かに、初めて会った時は衰弱していたネリアさんだったが、今は少しずつ改善しているはずで、それで死ぬようなことはあり得ない。医者だって、ゆっくりと回復していけば良いというようなことを告げていたはずなのだ。


(違う、きっと、別の、意味で……)


 それでも、なぜ、あれほどに嘆きを含んだ声だったのかという疑問が残る。『まさか』『そんなはずは』という思いだけが頭の中でグルグルと巡る中、ふと、部屋の中が随分と静かに思えた。


「っ、ネリアさんっ!」


 嫌な予感に突き動かされて、俺は、ノックをすることもなくネリアさんの部屋へと突撃する。そして、そこには……。


「あ……」


 枕をしっかりと抱きしめ、涙の跡が残る顔で眠るネリアさんの姿があった。


「で、殿下っ」


 俺の行動にギョッとして追いかけてきた護衛は、俺に声をかけた直後、ネリアさんの様子に息を呑む。誰が見ても泣いた後であるネリアさんの様子は、どう考えても見過ごせるものではない。しかし、俺も含めて、ネリアさんの涙の理由は全く分からないままだ。


「……アルスとアルマを呼んでくれ」

「はっ」


 本当ならば、ネリアさんに直接尋ねるべきだとは分かっている。しかし、苦しそうな表情で眠るネリアさんをこれ以上傷つけたくないのも本当だった。だから、俺は、ネリアさんの側にそっと、寄り添うことしかできなかった。
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