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第一章 幼少期編
第六十一話 女磨き
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イルト王子との顔合わせは、終始好調のまま終わった。お互いの趣味を聞いたり、好きなこと、嫌いなことを聞いたり、他愛のない話を続けていると、イルト王子が近くなったようでとても嬉しかった。時間を忘れて話続けた私達は、お父様と陛下が一緒にやってきて、顔合わせは終わりだと告げられたことで、ようやく随分と時間が経っていたことに気づいた。
(はぁ……次に会えるのは、一週間後かぁ……)
晴れて婚約者となったことで、私達は定期的に会えることにはなった。しかし、お互いにまだまだ学ぶべきことが多いため、毎日というわけにもいかない。文通は毎日行うことになったが、実際に会えるのは、一週間に一度が限界だった。
「ユミリアお嬢様。殿下に会えないのが寂しいのは分かりますが、ため息ばかり吐くものではありませんよ?」
イルト王子に会った日の夜。私はメリーに寝る支度を手伝ってもらいながら、ため息を漏らしていたらしい。
「でも、毎日会えないのは寂しいです……」
自分でも耳が垂れているだろうなという自覚があるくらいには、イルト王子と会えないことが寂しくて仕方がない。
髪を優しく解いてくれていたメリーは、そんな私を鏡の中で楽しそうに見つめて、口を開く。
「ユミリアお嬢様。殿下とお会いできない間というのは、ユミリアお嬢様にとって重要な時間でもあるのですよ?」
「みゅ?」
メリーの言わんとするところが分からず、私は首をかしげそうになるのを何とか我慢して……代わりに口癖を出してしまう。
「愛する人にお会いできない間は、女を磨く時間です。私もムトに会えない期間が長いこともありましたが、その間は必死に冒険者ランクを上げていたものです」
ムトというのは、メリーの夫であり、最近この屋敷で執事として仕えるようになった人だ。彼は、白髪に茶色の目をした、羊の獣つきで…………私の頭の中で、『メリーさんの羊』が流れたのは言うまでもない。
「女、磨き……」
「そうです。お嬢様の場合は、礼儀作法や社交、様々な教養はもちろん、ものづくりもしていらっしゃるでしょう? ならば、私達女がするべきことは、それらを極める、ということです」
「極める……」
なるほど、確かにメリーの言葉には説得力がある。礼儀作法が完璧になれば、イルト王子の隣に並んでも恥ずかしくなくなるし、社交を学べばイルト王子の手助けもできる。教養があるということは、イルト王子と議論することも可能だということだ。
(もちろん、でしゃばる女は嫌いだというのであれば、議論することまでしなくとも良いのかもしれないけど、できるに越したことはないしね)
そして、何よりもものづくり。これは、もしかしたら、イルト王子の地位を上げるきっかけにもなりうるかもしれない。
(黒だからと、イルト様がバカにされるのは我慢ならないし、婚約者である私が活躍すれば、イルト様も見直してもらえるかもっ)
全て、イルト王子のためだと考えれば、寂しがっている暇などないことを思い知る。
「メリー、ありがとう。目が覚めたよ」
「それはようございました」
大方髪が綺麗に解れたらしく、ブラシを置いてニッコリと笑うメリーに、私も笑みを返す。
(明日から、みっちりとしごいてもらわなきゃ)
前世の記憶がある分、勉強するということには慣れていたものの、そこに目的が加わった今は、それだけでは足りない。何としてでも、イルト王子の隣に並ぶに相応しいレディにならなければと、後は寝るだけだというのに心は奮い立ってしまう。
「さぁ、ユミリアお嬢様。今は、明日に備えて休みましょう。そして、明日から、恋する乙女の全力で挑みましょう」
「みゅっ」
しかし、メリーの言葉に逆らうつもりはない。今から頑張ったところで、周りに迷惑をかけることくらい承知しているのだから。
少しだけ目が冴えてしまったものの、私はどうにか眠って、翌日からの猛特訓に備えた。
(はぁ……次に会えるのは、一週間後かぁ……)
晴れて婚約者となったことで、私達は定期的に会えることにはなった。しかし、お互いにまだまだ学ぶべきことが多いため、毎日というわけにもいかない。文通は毎日行うことになったが、実際に会えるのは、一週間に一度が限界だった。
「ユミリアお嬢様。殿下に会えないのが寂しいのは分かりますが、ため息ばかり吐くものではありませんよ?」
イルト王子に会った日の夜。私はメリーに寝る支度を手伝ってもらいながら、ため息を漏らしていたらしい。
「でも、毎日会えないのは寂しいです……」
自分でも耳が垂れているだろうなという自覚があるくらいには、イルト王子と会えないことが寂しくて仕方がない。
髪を優しく解いてくれていたメリーは、そんな私を鏡の中で楽しそうに見つめて、口を開く。
「ユミリアお嬢様。殿下とお会いできない間というのは、ユミリアお嬢様にとって重要な時間でもあるのですよ?」
「みゅ?」
メリーの言わんとするところが分からず、私は首をかしげそうになるのを何とか我慢して……代わりに口癖を出してしまう。
「愛する人にお会いできない間は、女を磨く時間です。私もムトに会えない期間が長いこともありましたが、その間は必死に冒険者ランクを上げていたものです」
ムトというのは、メリーの夫であり、最近この屋敷で執事として仕えるようになった人だ。彼は、白髪に茶色の目をした、羊の獣つきで…………私の頭の中で、『メリーさんの羊』が流れたのは言うまでもない。
「女、磨き……」
「そうです。お嬢様の場合は、礼儀作法や社交、様々な教養はもちろん、ものづくりもしていらっしゃるでしょう? ならば、私達女がするべきことは、それらを極める、ということです」
「極める……」
なるほど、確かにメリーの言葉には説得力がある。礼儀作法が完璧になれば、イルト王子の隣に並んでも恥ずかしくなくなるし、社交を学べばイルト王子の手助けもできる。教養があるということは、イルト王子と議論することも可能だということだ。
(もちろん、でしゃばる女は嫌いだというのであれば、議論することまでしなくとも良いのかもしれないけど、できるに越したことはないしね)
そして、何よりもものづくり。これは、もしかしたら、イルト王子の地位を上げるきっかけにもなりうるかもしれない。
(黒だからと、イルト様がバカにされるのは我慢ならないし、婚約者である私が活躍すれば、イルト様も見直してもらえるかもっ)
全て、イルト王子のためだと考えれば、寂しがっている暇などないことを思い知る。
「メリー、ありがとう。目が覚めたよ」
「それはようございました」
大方髪が綺麗に解れたらしく、ブラシを置いてニッコリと笑うメリーに、私も笑みを返す。
(明日から、みっちりとしごいてもらわなきゃ)
前世の記憶がある分、勉強するということには慣れていたものの、そこに目的が加わった今は、それだけでは足りない。何としてでも、イルト王子の隣に並ぶに相応しいレディにならなければと、後は寝るだけだというのに心は奮い立ってしまう。
「さぁ、ユミリアお嬢様。今は、明日に備えて休みましょう。そして、明日から、恋する乙女の全力で挑みましょう」
「みゅっ」
しかし、メリーの言葉に逆らうつもりはない。今から頑張ったところで、周りに迷惑をかけることくらい承知しているのだから。
少しだけ目が冴えてしまったものの、私はどうにか眠って、翌日からの猛特訓に備えた。
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