悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第一章 幼少期編

第八十四話 王妃様の提案

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 私は、その王妃様の言葉に、一瞬、息を止めることとなる。


「もしよければ、イルト殿下の婚約者候補になってくれないかしら?」


 その一言で、周りは奇妙なほどに、しん、と静まり返る。

 もちろん、イルト王子の婚約者は私だ。候補なんてものでもない。正真正銘、婚約者だ。まだ、私達が幼いこともあり、公表はしていないものの、その事実は王妃様だって知っているはずなのだ。


(どういう、つもり?)


 相変わらず、王妃様は微笑みを崩すことなく、その表情を読ませてはくれない。だから、私は知る限りの王妃様の情報を頭に浮かべる。


(アルト様の母親で、イルト様との関係も良好。母国が戦に巻き込まれていて、恐らくはあまり余裕がない)


 と、なると、可能性として高いのは、私以外の、この三人のご令嬢の誰か、もしくは全員が、王妃様にとって利のある人物であるということだ。イルト王子の婚約者候補とすることで、ご令嬢達の実家の力を借りようとしていると考えるのが自然だ。もちろん、それ以外の可能性もあるのだが、王妃様という立場上、この可能性が最も高い。


(私は、黒の獣つきだから、利用するにもデメリットが発生する可能性が高くて、動かしづらいってところかな?)


 裏でコソコソ動いてはいるのだが、それを王妃様がどこまで知っているのかは分からない。


「申し訳ありませんが、私に殿下のお相手が務まるとは思えませんので、辞退させていただきます」


 最初に声をあげたのは、レモン色のご令嬢。そして、それに続いて、薄桃色のご令嬢と、ずっと黙って成り行きを観察していた水色の髪の眠たそうな顔のご令嬢も、辞退を表明してくる。そして……。


「私は、アルテナ嬢を推薦します。どうやら、相思相愛のようですしね?」

「あぁ、あれは、見ているだけで居たたまれなかったわね」

「そうですねぇ」


 薄桃色のご令嬢の言葉に、レモン色のご令嬢と水色のご令嬢が続く。
 一瞬、何のことを言われているのか分からなかった私は、この会場に来てからのことを思い出して、思い至ってしまう。


(あ、あの、あーんを、見られて……た?)


 その予想を肯定するように、『ラブラブでした……』と吐息混じりに薄桃色のご令嬢が告げて、私は内心、羞恥心が振り切れてパニック状態になる。
 もう、王妃様の思惑を考えるどころではなく、ただただ熱を持つ頬を押さえてうつむくことしかできない。


「うふふ」

「可愛い……」

「ふわぁ……」

「……」


 三人のご令嬢、プラス、王妃様の視線まで突き刺さって、もう、恥ずかしいやら居たたまれないやらで顔を上げられない。


「では、ユミリア嬢が婚約者候補、ということにしましょうか」


 もし、ここで顔を上げていれば、王妃様のその表情に気づけたかもしれない。しかし、私にそんな余裕は全く、これっぽっちも存在せず、ただただ、己の羞恥心と格闘を続けるのだった。
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