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第一章 幼少期編
第百九話 後片付け2
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そいつのその言葉は、とても、とても、私にとって貴重なものだった。なぜなら……。
「そうですか。それは、陛下の判断を疑っている、ということですね?」
いきなり会話に割り込んだ私へと、ぽっちゃりを通り越してどっしりな貴族男性は顔をしかめる。
「何を言っているのだか? これだから、黒は」
「ですが、私の能力をお疑いでしょう? 私は、『王家の守り人』として実力があると判断されたにもかかわらず、ね?」
バカでも分かるように丁寧に説明すれば、男はようやく、自分の発言の不味さを悟り、青ざめる。
「い、いや、これは、その……」
「私は、王家よりその実力を認められております。ゆえに、貴方の言葉は王家への侮辱。それはお分かりいただけますか?」
反論する言葉が思い浮かばないのか、口をパクパクさせるのみとなった男へ、私はトドメを刺す。
「あぁ、そうそう。刺客は生け捕りにしてありますので、依頼主は必ず吐かせてみせますよ? もちろん、それに、関わった人達も、きっと全員捕縛されるでしょうね?」
恐らくは、この男も関係者だろうという読みは、どうやら当たっていたらしく、その顔色は、青を通り越して白くなっていた。
(うん、関係者は……やっぱり、結構居るっぽいね)
目の前の男ほどではなくとも、さっと周囲に視線を巡らせれば、青ざめる貴族がチラホラと確認できる。ただし、そんな中でもゾーラ夫人は平然としている。やはり、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないらしい。ついでに、エルドン侯爵は、目を大きく見開いて、私の方を凝視していたので、にこりと笑ってみせようとして……背後から、強烈な視線を感じたため、さっと目を逸らした。
(この調子だと、本来の襲撃はなくなるかなぁ?)
元々、襲撃の目的は、イルト王子がトラウマを植え付けられたように見せかけるためのものだ。私もそのつもりで、少しだけイルト王子に演技をしてもらったものの、私が襲撃を受けたことでボロが出てしまった。しかも、現状を考えれば、襲撃をするのは自殺行為でしかない。
(まぁ、今回はここまで、かな?)
目の前に居る男が、これから何かをする気配もないと感じた私は、さっさとイルト王子の元に戻ろうとして……その前に、男の後ろからやってくる陛下の姿を見つけて留まる。
「話は聞かせてもらった。この者は、厳重に処罰するとしよう」
「へっ、陛下!?」
完全に血の気の引いた男は、陛下の声に振り返り、その顔に、絶望をありありと浮かべる。
「それと、イルトを、私の息子を守ってくれたことを、感謝する」
「もったいなきお言葉」
陛下のその発言に、周囲の貴族達は息を呑む。今まで、彼らがイルト王子相手に強気でいられたのは、陛下もイルト王子を見捨てていると考えていたからという面が大きい。しかし、陛下が改めて『私の息子』と発言したことにより、それは間違いだと知ることになったのだ。
(いや、そもそも、陛下が最初からイルト様を庇護していれば……あ、いや、それだと、むしろイルト様はかなり危険だったか?)
今さら庇護するような発言をした陛下に、思うところがないと言えば嘘になるが、最初からイルト王子が陛下の庇護下にあった場合のことを考えると、そちらの方が危険だった気がして何とも言えない気持ちになる。
(……つまり、陛下は陛下なりに、イルト様を守ってたってこと、かな?)
恐らく、最初からイルト王子が陛下の庇護下にあった場合、忠臣を騙る者達がイルト王子へと牙を剥いていただろう。その場合、何の後ろ楯もないイルト王子に、抵抗の手段はなかったものと思われる。今、陛下がイルト王子を庇護するような発言をしたのは、アルテナ公爵家という巨大な後ろ楯がついたことと、イルト王子が実際に命の危機(端から見ると、ではあるが)に晒されたことが原因だろう。
「さて、不届き者は、ユミリア嬢の活躍により消えた。しかし、この状態ではパーティーどころではないであろう。本日は、これをもって解散とする」
突然の襲撃により、心を乱した者は多く、貴族として、冷静であろうとしても青ざめる者も居た。そのため、陛下の判断にホッとした表情を浮かべる貴族達の様子は当然だと思えた。しかし……。
「アルテナ公爵と夫人、それと、ユミリア嬢は少し残ってもらおう」
どうやら私は、まだ帰れそうになかった。
「そうですか。それは、陛下の判断を疑っている、ということですね?」
いきなり会話に割り込んだ私へと、ぽっちゃりを通り越してどっしりな貴族男性は顔をしかめる。
「何を言っているのだか? これだから、黒は」
「ですが、私の能力をお疑いでしょう? 私は、『王家の守り人』として実力があると判断されたにもかかわらず、ね?」
バカでも分かるように丁寧に説明すれば、男はようやく、自分の発言の不味さを悟り、青ざめる。
「い、いや、これは、その……」
「私は、王家よりその実力を認められております。ゆえに、貴方の言葉は王家への侮辱。それはお分かりいただけますか?」
反論する言葉が思い浮かばないのか、口をパクパクさせるのみとなった男へ、私はトドメを刺す。
「あぁ、そうそう。刺客は生け捕りにしてありますので、依頼主は必ず吐かせてみせますよ? もちろん、それに、関わった人達も、きっと全員捕縛されるでしょうね?」
恐らくは、この男も関係者だろうという読みは、どうやら当たっていたらしく、その顔色は、青を通り越して白くなっていた。
(うん、関係者は……やっぱり、結構居るっぽいね)
目の前の男ほどではなくとも、さっと周囲に視線を巡らせれば、青ざめる貴族がチラホラと確認できる。ただし、そんな中でもゾーラ夫人は平然としている。やはり、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないらしい。ついでに、エルドン侯爵は、目を大きく見開いて、私の方を凝視していたので、にこりと笑ってみせようとして……背後から、強烈な視線を感じたため、さっと目を逸らした。
(この調子だと、本来の襲撃はなくなるかなぁ?)
元々、襲撃の目的は、イルト王子がトラウマを植え付けられたように見せかけるためのものだ。私もそのつもりで、少しだけイルト王子に演技をしてもらったものの、私が襲撃を受けたことでボロが出てしまった。しかも、現状を考えれば、襲撃をするのは自殺行為でしかない。
(まぁ、今回はここまで、かな?)
目の前に居る男が、これから何かをする気配もないと感じた私は、さっさとイルト王子の元に戻ろうとして……その前に、男の後ろからやってくる陛下の姿を見つけて留まる。
「話は聞かせてもらった。この者は、厳重に処罰するとしよう」
「へっ、陛下!?」
完全に血の気の引いた男は、陛下の声に振り返り、その顔に、絶望をありありと浮かべる。
「それと、イルトを、私の息子を守ってくれたことを、感謝する」
「もったいなきお言葉」
陛下のその発言に、周囲の貴族達は息を呑む。今まで、彼らがイルト王子相手に強気でいられたのは、陛下もイルト王子を見捨てていると考えていたからという面が大きい。しかし、陛下が改めて『私の息子』と発言したことにより、それは間違いだと知ることになったのだ。
(いや、そもそも、陛下が最初からイルト様を庇護していれば……あ、いや、それだと、むしろイルト様はかなり危険だったか?)
今さら庇護するような発言をした陛下に、思うところがないと言えば嘘になるが、最初からイルト王子が陛下の庇護下にあった場合のことを考えると、そちらの方が危険だった気がして何とも言えない気持ちになる。
(……つまり、陛下は陛下なりに、イルト様を守ってたってこと、かな?)
恐らく、最初からイルト王子が陛下の庇護下にあった場合、忠臣を騙る者達がイルト王子へと牙を剥いていただろう。その場合、何の後ろ楯もないイルト王子に、抵抗の手段はなかったものと思われる。今、陛下がイルト王子を庇護するような発言をしたのは、アルテナ公爵家という巨大な後ろ楯がついたことと、イルト王子が実際に命の危機(端から見ると、ではあるが)に晒されたことが原因だろう。
「さて、不届き者は、ユミリア嬢の活躍により消えた。しかし、この状態ではパーティーどころではないであろう。本日は、これをもって解散とする」
突然の襲撃により、心を乱した者は多く、貴族として、冷静であろうとしても青ざめる者も居た。そのため、陛下の判断にホッとした表情を浮かべる貴族達の様子は当然だと思えた。しかし……。
「アルテナ公爵と夫人、それと、ユミリア嬢は少し残ってもらおう」
どうやら私は、まだ帰れそうになかった。
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