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第一章 幼少期編
第百三十三話 ぼくのははうえ(イルト視点)
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ユミリア嬢と兄さんの二人と別れた後、僕は急いで部屋に戻っていた。
「たしか、ここに……あった!」
机の引き出しを探れば、可愛らしくラッピングされた小箱が出てくる。言うまでもなく、これは、ユミリア嬢への贈り物だ。
それを持って、僕は急いでユミリア嬢達のところへ戻ろうとしたのだが、その前に、扉がノックされる。
「イルト殿下、スーリャ様がお越しです」
どこか苦々しい声の執事の言葉に、ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
「…………どうぞ」
側妃様は、僕を嫌っている。彼女は僕の母上なのだが、僕が『母上』と呼ぶことは許されていない。
普段は、ことごとく無視をしてくる側妃様。しかし、気が高ぶった時には、こうして僕の前に姿を現す。
(何も、今日じゃなくても……)
ユミリア嬢との、大切な時間。それを、側妃様に奪われるという事実に、普段以上の苦しみが胸を締め付ける。
「失礼するわ。……全く、いつ見ても、忌々しい黒ですことっ」
赤い髪と赤い瞳を持つ彼女は、少したれ目で、僕ととても顔立ちが似ていた。しかし、その事実は側妃様の心を乱すことに繋がるため、彼女が現れる度に、僕はそっと顔を伏せる。
『どうして、そくひさまは、ぼくをきらうの?』
『ぼくは、うまれてきてはいけなかったの?』
それは、何度も何度も自問自答してきた言葉達。僕を嫌うのは、僕の纏う色が忌まわしいものとして認識されているから。僕は、きっと、彼女の子として生まれるべきではなかった。
もしも、僕が側妃様が母上なのだと知らなければ、僕は兄さんの母上を本当の母上だと思っていたかもしれない。しかし、僕は側妃様が母上なのだと知っている。だから、ずっとずっと、母上に認めてほしくて、勉強も、剣術も、懸命に頑張ってきた。きっと、いつか、認めてもらえる。そう信じて、ずっとずっと……。
「分かっていて? あなたは、王族として必要のない存在なのですっ。今、あなたが生きていられるのは、陛下の温情に他ならないっ。あぁっ、忌々しい! いっそのこと、さっさと消してしまえば良いものをっ」
「スーリャ様っ、それはっ」
「黙りなさいっ、使用人風情が!」
聞きたくない言葉ばかりが降ってきて、いつしかうずくまっていた僕は、執事が側妃様の扇で叩かれてバランスを崩して倒れる様子を呆然と見つめる。
(あぁ、やっぱり、ぼくはうまれてくるべきじゃあ……)
心が、闇に覆われる。深く、暗い、深淵の闇。
(あぁ……さむい、な……)
そうして、心が完全に折れそうになった瞬間だった。鍵をかけられていたはずの扉が、異常な音を立てて開かれたのは。
「たしか、ここに……あった!」
机の引き出しを探れば、可愛らしくラッピングされた小箱が出てくる。言うまでもなく、これは、ユミリア嬢への贈り物だ。
それを持って、僕は急いでユミリア嬢達のところへ戻ろうとしたのだが、その前に、扉がノックされる。
「イルト殿下、スーリャ様がお越しです」
どこか苦々しい声の執事の言葉に、ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
「…………どうぞ」
側妃様は、僕を嫌っている。彼女は僕の母上なのだが、僕が『母上』と呼ぶことは許されていない。
普段は、ことごとく無視をしてくる側妃様。しかし、気が高ぶった時には、こうして僕の前に姿を現す。
(何も、今日じゃなくても……)
ユミリア嬢との、大切な時間。それを、側妃様に奪われるという事実に、普段以上の苦しみが胸を締め付ける。
「失礼するわ。……全く、いつ見ても、忌々しい黒ですことっ」
赤い髪と赤い瞳を持つ彼女は、少したれ目で、僕ととても顔立ちが似ていた。しかし、その事実は側妃様の心を乱すことに繋がるため、彼女が現れる度に、僕はそっと顔を伏せる。
『どうして、そくひさまは、ぼくをきらうの?』
『ぼくは、うまれてきてはいけなかったの?』
それは、何度も何度も自問自答してきた言葉達。僕を嫌うのは、僕の纏う色が忌まわしいものとして認識されているから。僕は、きっと、彼女の子として生まれるべきではなかった。
もしも、僕が側妃様が母上なのだと知らなければ、僕は兄さんの母上を本当の母上だと思っていたかもしれない。しかし、僕は側妃様が母上なのだと知っている。だから、ずっとずっと、母上に認めてほしくて、勉強も、剣術も、懸命に頑張ってきた。きっと、いつか、認めてもらえる。そう信じて、ずっとずっと……。
「分かっていて? あなたは、王族として必要のない存在なのですっ。今、あなたが生きていられるのは、陛下の温情に他ならないっ。あぁっ、忌々しい! いっそのこと、さっさと消してしまえば良いものをっ」
「スーリャ様っ、それはっ」
「黙りなさいっ、使用人風情が!」
聞きたくない言葉ばかりが降ってきて、いつしかうずくまっていた僕は、執事が側妃様の扇で叩かれてバランスを崩して倒れる様子を呆然と見つめる。
(あぁ、やっぱり、ぼくはうまれてくるべきじゃあ……)
心が、闇に覆われる。深く、暗い、深淵の闇。
(あぁ……さむい、な……)
そうして、心が完全に折れそうになった瞬間だった。鍵をかけられていたはずの扉が、異常な音を立てて開かれたのは。
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