冒険の書 ~続の書~

星宮歌

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第一章 第一フロア

情報整理(一)

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 安全地帯まで、特におかしなこともなく辿り着き、僕は琴音をその場所に招き入れる。


「お邪魔します?」

「いや、挨拶は必要ないよ」


 何となくといった具合に挨拶をした琴音の姿に、僕は苦笑しながらそう告げる。


「そっか」

「うん」


 光を放つ苔が生えた石の壁に囲まれたその場所を進めば、この部屋の数少ない家具であるベッドとテーブルが目に入る。その様子を琴音はしばらくキョロキョロと眺め、ふいに、深刻な表情になる。


「……ない」

「えっ? 何が?」

「トイレ」

「……あっ!」


 『トイレがない』その事実に気づいた僕は、一気に青ざめる。僕も琴音も、生き物である以上、トイレという存在が必要不可欠だ。もちろん、食料の方が大切だし、お風呂もわりと重要な存在だ。ただ…………十中八九監視されている状況下でトイレがないという事実は、僕達の尊厳に関わってくる問題だ。


「……お兄ちゃん、トイレは私の方の部屋にあるから、そっちに行けば大丈夫だよ?」


 よほど酷い顔をしていたのだろう僕に、琴音は気遣うように話す。


 いや、ちょっと待て?


「そっちには、トイレ、あるの?」

「うん、テーブルはなかったけど……それ以外は一緒みたいだね」

「そっか……そっか……トイレ、そっちにはあるんだな。じゃあちょくちょくお邪魔させてもらうよ」

「うん」


 そうして、ひとまず人としての尊厳に関わる重大案件が解決したところで、僕はそれぞれの情報整理をしようと提案する。


「もしかしたら、今のみたいに何か片方にはあって、片方にない重要なことがあるかもしれないから、確認していこう」

「うん、分かった。でも、私の『冒険の書』は私が居た安全地帯の方にあるから、取りに行かなきゃいけなくて……」


 言われて見れば、琴音は甲冑を着ているのみで、何も持っていない。


「剣とかはなかったの?」

「えっと、お兄ちゃんのに似たやつがあったけど、本物みたいだし、持つのが怖くて持ってきてない」


 申し訳なさそうに言う琴音に、僕はその気持ちも分かるなと思ってしまう。僕自身は、最初、この場所がどこか夢みたいに思っていて、危険を自覚した後は、逆に強い危機感を持っていたために剣を持ち歩いていたものの、普通なら恐慌状態に陥っていてもおかしくはない。剣なんていう、触れたこともない物騒なものを持ち歩くという判断は、そんなに容易にできるものではない。


「そっか。なら、後で一緒にそっちの安全地帯に行こうか」

「……うん」


 花に襲われた記憶から顔を曇らせる琴音だったが、僕の提案には素直にうなずく。琴音も、このまま閉じ籠っているわけにはいかないことくらい分かっているのだ。


「今は、まず、僕の『冒険の書』を確認してみよう。何か、手がかりが更新されてるかもしれないし」

「そう、だね」


 そうして、二人並んで『冒険の書』に目を向ける。


『第一フロア 地帯区分B

滝野透はB地帯へ進行

これより危険地帯

人食い花が現れた

滝野透は人食い花を斬った

人食い花は即死ダメージを負った

人食い花を倒した

滝野透は2レベルになった

ドロップアイテム 水蔦

条件が満たされたため、アイテム図鑑の掲載開始

第一フロア 地帯区分A

滝野透はA地帯へ退却

これより安全地帯』


 僕が分かる限り、新たな更新はここまでだった。僕は、琴音が目を通し終えるのを待つ。


「ねぇ、お兄ちゃん、この称号って?」

「あぁ、良く分からないけど、天井をしばらく見つめたら部屋の気温が暖かくなるみたいだ」

「ふーん。私は何も称号がないからなぁ。でも、役に立つの? これ?」

「さぁ?」

「『さぁ?』って……」

「それより、読み終わったならアイテム図鑑とやらのページが開けるかもしれないから試してみても良い?」

「んー、うん、今読み終わったから良いよ」


 その応えに、僕はどこか開けるページががないかと探し……それはあった。


『アイテム図鑑

食糧編

1 水蔦

人食い花のドロップアイテム

噛めば噛むほどに青臭い水が摂取できる

栄養バランス満点だよっ

味は折り紙つきの不味さだけどねっ』


 どこまでもふざけたような文章。それに、僕は一瞬思考を停止させ……。


「何よ、これっ!」


 同じく文章を見て、怒り出した琴音をなだめるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『始の書』に引き続き、アイテム図鑑は作者の遊び場です。

イエーイ!

これからどんどん面白おかしいアイテムを登場させたいものですなっ。

それでは、また!
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