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裏中編
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怒りの表情を浮かべるカークに対して、ナタリーはあくまでも冷静に尋ねる。その姿は、王者の貫禄すら見えるようなもので、これではどちらが王族なのか分からない。
カークは、そんなナタリーの様子に一瞬言葉を詰まらせたものの、すぐに様々な罪を並べ立てる。
曰く、取り巻きを使って責め立てた。
曰く、会うたびに『カークには相応しくない』などの暴言を吐いた
曰く、シェリアの教科書を破った
曰く、シェリアの母親の形見のネックレスを奪って破壊した
曰く、階段から突き落とした。
そんな、数々の罪をカークが列挙する横で、シェリアは必死に首を横に振る。
「なるほど、つまりは、カーク殿下は大した証拠も無く、それらの内容をこの私が行ったと断じるのですね?」
「証拠など! シェリアのこの怯えようを見れば一目瞭然だろうがっ! 嫉妬に狂った醜い女め! お前など、婚約破棄だっ!」
そう力強く宣言するカークを前に、ナタリーは一度目を閉じて、次の瞬間には、覚悟を決めた光をその瞳に宿していた。
「精霊の試練に関しては、当然ご存知ですわね?」
「はっ! そんなもの、ただの御伽噺だろう! そんなもので俺の気を引こうとしても無駄だぞ!」
御伽噺、とはいうが、実際、彼らの祖父母の代でその精霊の試練が課せられた第二王子が存在したのは、王族やそれに近い存在であれば知っていて当たり前のことだった。しかし、勉強をサボってばかりだったカークには、それはただの御伽噺でしかなかったのだろう。
「……承知いたしました。婚約破棄、承ります」
そう、ナタリーが宣言した瞬間だった。古より王家を監視し、王族の婚約破棄において有責者を『精霊の試練』の名の下、暗い末路へ導いてきた存在、精霊が出現したのは。
白い光が部屋全体を包み込み、全員が思わず目を閉じた直後、老婆のようなしわがれた声が響く。
『おやまぁ、随分と短い期間で愚か者が出たようじゃのぉ?』
その声に、目をどうにか開けようとする者も居たが、あまりにも強い光で全く開けられない。しかも、足はその場に縫い付けられたかのように動かすことができず、この異常事態をただ受け入れることしかできない。
『今回の愚か者は、前回を上回る愚か者のようじゃ。はてさて、どうしたものかのぉ?』
「ま、まさか、精霊! い、いや、だとしたら、残念だったな、ナタリー! お前は、精霊に裁かれる運命だったんだっ!」
目を閉じたままながら、そんなことを宣うカーク。しかし、当然のことながら、そのカークに対しては呆れの声が注がれる。
『自覚も無しと来たか。随分と愚かな男じゃ。さて、そうなると、試練はこの男一人で良さそうじゃの』
「は?」
この場で試練を受けるかどうかの選択肢は、二者択一だ。カークかナタリーのどちらかが、必ず精霊の試練に臨むこととなる。そして、精霊は『男一人』と言った。つまりは……。
「き、貴様! 性別を偽っていたのか!? 不敬だぞっ!!」
あらぬ方向に解答を求めたカークの言葉に、その場の全員の心は一致したことだろう。
『何を馬鹿なことを言っておるんじゃ?』
精霊が代表するかのようにカーク以外の面々の心情を口にする。そして……。
『当然、試練を受けるのはカーク・ド・トトッコ。お前一人よ』
頭が足りないカークのために、精霊は改めて、誰が有責者なのかを正しく告げた。
カークは、そんなナタリーの様子に一瞬言葉を詰まらせたものの、すぐに様々な罪を並べ立てる。
曰く、取り巻きを使って責め立てた。
曰く、会うたびに『カークには相応しくない』などの暴言を吐いた
曰く、シェリアの教科書を破った
曰く、シェリアの母親の形見のネックレスを奪って破壊した
曰く、階段から突き落とした。
そんな、数々の罪をカークが列挙する横で、シェリアは必死に首を横に振る。
「なるほど、つまりは、カーク殿下は大した証拠も無く、それらの内容をこの私が行ったと断じるのですね?」
「証拠など! シェリアのこの怯えようを見れば一目瞭然だろうがっ! 嫉妬に狂った醜い女め! お前など、婚約破棄だっ!」
そう力強く宣言するカークを前に、ナタリーは一度目を閉じて、次の瞬間には、覚悟を決めた光をその瞳に宿していた。
「精霊の試練に関しては、当然ご存知ですわね?」
「はっ! そんなもの、ただの御伽噺だろう! そんなもので俺の気を引こうとしても無駄だぞ!」
御伽噺、とはいうが、実際、彼らの祖父母の代でその精霊の試練が課せられた第二王子が存在したのは、王族やそれに近い存在であれば知っていて当たり前のことだった。しかし、勉強をサボってばかりだったカークには、それはただの御伽噺でしかなかったのだろう。
「……承知いたしました。婚約破棄、承ります」
そう、ナタリーが宣言した瞬間だった。古より王家を監視し、王族の婚約破棄において有責者を『精霊の試練』の名の下、暗い末路へ導いてきた存在、精霊が出現したのは。
白い光が部屋全体を包み込み、全員が思わず目を閉じた直後、老婆のようなしわがれた声が響く。
『おやまぁ、随分と短い期間で愚か者が出たようじゃのぉ?』
その声に、目をどうにか開けようとする者も居たが、あまりにも強い光で全く開けられない。しかも、足はその場に縫い付けられたかのように動かすことができず、この異常事態をただ受け入れることしかできない。
『今回の愚か者は、前回を上回る愚か者のようじゃ。はてさて、どうしたものかのぉ?』
「ま、まさか、精霊! い、いや、だとしたら、残念だったな、ナタリー! お前は、精霊に裁かれる運命だったんだっ!」
目を閉じたままながら、そんなことを宣うカーク。しかし、当然のことながら、そのカークに対しては呆れの声が注がれる。
『自覚も無しと来たか。随分と愚かな男じゃ。さて、そうなると、試練はこの男一人で良さそうじゃの』
「は?」
この場で試練を受けるかどうかの選択肢は、二者択一だ。カークかナタリーのどちらかが、必ず精霊の試練に臨むこととなる。そして、精霊は『男一人』と言った。つまりは……。
「き、貴様! 性別を偽っていたのか!? 不敬だぞっ!!」
あらぬ方向に解答を求めたカークの言葉に、その場の全員の心は一致したことだろう。
『何を馬鹿なことを言っておるんじゃ?』
精霊が代表するかのようにカーク以外の面々の心情を口にする。そして……。
『当然、試練を受けるのはカーク・ド・トトッコ。お前一人よ』
頭が足りないカークのために、精霊は改めて、誰が有責者なのかを正しく告げた。
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