俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

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第一章 囚われの身

第五話 お屋敷

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 お姫様抱っこで運ばれて、城から出て、馬車に乗せられて、俺は、どこかへ連れていかれた。ちなみに、このヴァイラン魔国。城は西洋チックな様式の癖して、街並みは古き良き日本家屋が立ち並ぶという、なんともアベコベな状態だ。最初にこの街を見た時は、帰りたい気持ちが溢れてどうしようもなかったことを思い出す。


(どこに、連れていかれるんだろう?)


 小心者というほどではないものの、荒事には全く向いていない俺は、どうか連れていかれる場所がとんでもない場所じゃありませんようにと祈るしかない。八本足の馬が動き出している馬車の中、逃げ場なんてものはないのだから。


「いくつだ?」


 とりあえず、目の前に強面があるのは、精神衛生上よろしくないということで、窓の外を眺めていた俺は、その言葉に一瞬反応が遅れる。


「……えっと?」

「年は、いくつだ?」


 そんな質問に、俺は正直に年齢を答える。


「十七です」

「趣味は?」

「趣味……歌を歌うこと?」

「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物は?」

「えっと……あの、なぜ、そんなことを?」


 最初はとりあえず答えていたものの、何だか圧迫面接を受けているような気分になって、気まずいながらもそう尋ねてみる。


「これから一緒に暮らす。当然の質問だ」

(……一緒に、暮らす?)


 何がどうしてそうなったのか、わけが分からずに混乱する。


「それで、好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」


 混乱している間にも質問は続き、俺はつい、日本での食べ物を挙げていた。


「好きな食べ物は苺大福で、嫌いな食べ物は、ピーマン」


 そんなもの、この世界には存在しないであろうことを忘れて、俺はそう答えてしまっていた。何せ、ここに来る道中に食べたものは、塩味のみの青臭い野菜、らしきものや、魔物の癖のある肉ばかり。正直、ピーマンも可愛らしいと思えるくらいに野菜類は不味かった。しかし、この世界ではそれが普通らしい。


「大福に苺を入れるのか? ふむ、料理長に言って試してもらうとしよう」

「えっ!? あるのか!?」


 大福がある。苺がある。その事実が、俺には相当な衝撃だった。


「ある」


 そして、ライナードの言葉は簡潔で、そして、これ以上ないほどはっきりとした肯定の言葉だった。


「そっか……そっか……」


 今、期待しすぎるのはいけないと分かっている。『大福』とか、『苺』とかいう名前があっても、もしかしたら別物かもしれない。それでも、懐かしい味に会えるかもしれないという事実が、心の中にじんわりと広がる。


「……早速、今日頼んでみるとしよう」


 ライナードのちょっと驚いたような顔に、少し可愛いと思いながら、俺はその言葉を聞くのだった。







「……でかっ」


 馬車が到着したそこは、大きな庭園を所有するお屋敷だった。まず、門から玄関までの距離が長いこと自体、しっかりとお屋敷感が出ている。
 また抱き上げようとしたライナードから必死に逃れた俺は、思わず演技を忘れて素で叫ぶ。すると、ライナードは俺の隣で首をかしげていた。


「そうか?」


 その言葉に、『この金持ちめっ』という感想を抱いてしまったのは当然のことだろう。

 馬車で話をしたことによって、どうも俺は、ライナードの家に身柄を預けられることになったらしいというところまでは分かった。しかし、なぜそうなったのかは、やはり未だに謎のままだ。

 そう考える間に、ライナードはズンズンと進んでいき、玄関を開ける。


「ドム爺、居るか?」

「はい、ライナード坊っちゃん。おや? そちらの方は?」

「客人だ。しばらく滞在する。丁重にもてなせ」

「はい、かしこまりました」


 ライナードの背中からヒョコッと顔を出せば、オールバックにした白髪と青い瞳、青い角を持った壮年の男性魔族が恭しく出迎えてくれていた。


「それでは、お客様、こちらへどうぞ」

「いや、俺の部屋に連れていく」

「……坊っちゃんのお部屋に、ですか?」

「あぁ」


 信じられないといった様子で目を見開いたドム爺とやらに、俺は何が何だか分からない。


(もしかして、あまり人を招かない場所、とか?)


 考えてみれば、日本でもそうだ。自分の部屋に招くのは、総じて仲の良い相手ばかりだ。


「今日は赤飯ですかな?」

「赤飯? いや、大福に苺を入れたものを出してやってくれ。カイトの好物だそうだ」

「なるほどなるほど。カイトお嬢様。それでは、ライナード坊っちゃんを末永くよろしくお願いします」

「は、はぁ……」


 本当に、何が何だか分からない。ドム爺は、なぜかとても嬉しそうに俺を見て、頭を下げてくる。


(どういうことだ?)


 説明を求めてライナードへ視線を向けるものの、ライナードはそれに気づく様子もなく、歩き始める。靴を脱いで、下駄箱にそれを収めると、俺が同じようにするのを確認して、すぐに背を向ける。


「お、おじゃましまーす」


 こんなお屋敷に入るのは初めてで、何だか緊張する。
 そして、しばらく歩けば、俺は、一つの事実に気づく。


(歩幅が、違い過ぎるっ)


 ライナードが歩く速度と、俺の速度はかなり違う。ライナードがゆっくり歩くのに対して、俺は小走りでついていかなければならない。しかし、パタパタと走っていれば、ライナードは一度振り向き、『すまない』と一言告げて、さらにゆっくりとした歩き方にしてくれた。


(基本は、優しい人、いや、魔族、みたいだな?)


 顔が怖すぎるせいで、必要以上にビクビクしていたものの、どうやらライナードは、しっかりと気遣いのできる魔族らしい。もしかしたら、俺を抱き上げたのも、怪我を気にしてのものだったのかもしれない。


「ここだ」


 そうして辿り着いた部屋の障子を開けて、ライナードはその部屋に俺を招き入れるのだった。
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