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第一章 囚われの身
第十話 可愛い片翼(ライナード視点)
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仕事を終わらせて、急いでカイトの元へと向かいかけたまでは良かった。かなりの早足で歩いていた俺は、俺の部屋で休んでいるというカイトの元まであと少し、というところで足を止める。
「片翼……」
愛しいという気持ちは確かにある。側に居たいという気持ちだってもちろん。しかし、何をすれば良いのかが全く分からない。
「むぅ」
長年の失翼生活で、片翼との過ごし方に関する知識もうろ覚えになってしまっていたのだ。
(明日、ルティアス辺りに相談しよう)
ルティアスは、つい最近片翼を得たばかりだ。しかも、自分と同じ、失翼だと思われていた状況で初めて得た片翼。きっと、良いアドバイスをしてくれるに違いない。
(しかし、今は自分で対処しなければ)
ノロノロと足を進めて、自室の前に立つと、胸がドキドキと高鳴る。
(何を話せば良い? いや、何をすれば良いんだ?)
まずは夕食だろうか? しかし、その間にも時間がある。
(苺大福をまた作ると約束するのも良いか?)
そんなことを考えるものの、当然、それは一言二言で済む話であり、会話が弾むような内容ではない。
「むむむ……」
自室の前でこんなに悩むのは初めてだというくらいに悩みに悩んで俺が出した結論は……。
(なるようになれっ)
会話内容を考えるのは苦手だ。いつも、相手の方が色々な話題を提供してくれて、自分は相づちを打つだけだったものだから、こうして自分から話題提供をしようと思うと、こんなにも難しいものだったのかと舌を巻く。
そうして、自分の部屋なのに、恐る恐るノックをする。
「……」
しかし、返事がない。もう一度ノックをする。
「……」
やはり、返事がない。
(っ、まさか、中で倒れているのではっ!?)
今日、たまたま運良く居たルティアスに診てもらったものの、まだ怪我が完全になくなったかどうかは不明だ。もしかしたら、その怪我が元で倒れてしまったのかもしれない。
そう考えると、居てもたってもいられず、扉をぶち破る勢いで開けて、カイトの名前を叫ぶ。
「カイトっ、カイトっ!」
気配を頼りに捜せば、カイトは最後に別れたソファーの上に居た。
「……む?」
しかも、何やら安らかな顔で眠っている様子。
「良かった……」
ただ眠っているだけだと分かり、俺はホッと息を漏らす。考えてみれば、彼女は魔王陛下達と戦うことを想定して、必死にこの国に入ってきたのだ。きっと、疲れは相当溜まっていたのだろう。
そして、布団がはだけているのと、案外寝相が悪いのか、ソファーから体が半分落ちかけているのとで、俺は彼女を布団に運ぶことにする。
持ち上げてみれば、思いの外軽い体重が腕にかかる。冒険用にパンツスタイルの彼女は、きっとドレスを着せたらさぞかし可愛らしくなるだろう。
(あぁ、ドレスの発注もしなければ)
とりあえずは既製品で凌ぐこととなりそうだが、彼女に似合うドレスは必ずたくさんある。それを選ぶのは、きっと片翼のために魔族の男ができることのはずだ。
「んにゅ……」
「カイト?」
可愛らしく鳴いたカイトに、俺は小さく問いかけてみるものの、返ってくるのは小さな寝息のみ。
(寝言すらも可愛いのか、片翼とは)
もう、何もかもが可愛くて仕方がない。しかし、過剰に接触するのは嫌われる元だという知識は残っているため、しっかりと抱き締めてしまいたい衝動は抑え込む。
「うぅ」
ベッドに下ろせば、カイトは寒いのか、クルリと丸くなる。
「掛け布団……」
ソファーに置いてきた掛け布団を取りに戻ろうと振り向くと、ふいに、袖が引っ張られるような感覚がする。
「む?」
「湯タンポ、逃げちゃ、や」
辿々しくそう告げたカイトは、俺のことを湯タンポだと思い込んでいるらしく、ガッチリと服の袖を掴んで離さない。
「……」
掛け布団は、まだカイトの側にもある。そして、俺がこの布団に入り込む余地は、何とかある。
俺は、無言のまま、そっとカイトの側に身を横たえると、湯タンポの役割を果たすべく密着する。
(柔らかい……)
柔らかく、良い匂いのするカイトを抱き締めて、俺は雑念が発生するのを感知するや否や、それを一気に吹き飛ばす。
(寝込みを襲うなど言語道断)
今は、カイトの平和な眠りを保ってやるべきだ。そうして眠れない夜を過ごした俺は、朝方、寝ぼけたカイトに擽られて笑いを堪えたり、いきなり悲鳴を上げられて驚いたりしながらも、どうにか一緒に朝食を摂ることとなったのだった。
「片翼……」
愛しいという気持ちは確かにある。側に居たいという気持ちだってもちろん。しかし、何をすれば良いのかが全く分からない。
「むぅ」
長年の失翼生活で、片翼との過ごし方に関する知識もうろ覚えになってしまっていたのだ。
(明日、ルティアス辺りに相談しよう)
ルティアスは、つい最近片翼を得たばかりだ。しかも、自分と同じ、失翼だと思われていた状況で初めて得た片翼。きっと、良いアドバイスをしてくれるに違いない。
(しかし、今は自分で対処しなければ)
ノロノロと足を進めて、自室の前に立つと、胸がドキドキと高鳴る。
(何を話せば良い? いや、何をすれば良いんだ?)
まずは夕食だろうか? しかし、その間にも時間がある。
(苺大福をまた作ると約束するのも良いか?)
そんなことを考えるものの、当然、それは一言二言で済む話であり、会話が弾むような内容ではない。
「むむむ……」
自室の前でこんなに悩むのは初めてだというくらいに悩みに悩んで俺が出した結論は……。
(なるようになれっ)
会話内容を考えるのは苦手だ。いつも、相手の方が色々な話題を提供してくれて、自分は相づちを打つだけだったものだから、こうして自分から話題提供をしようと思うと、こんなにも難しいものだったのかと舌を巻く。
そうして、自分の部屋なのに、恐る恐るノックをする。
「……」
しかし、返事がない。もう一度ノックをする。
「……」
やはり、返事がない。
(っ、まさか、中で倒れているのではっ!?)
今日、たまたま運良く居たルティアスに診てもらったものの、まだ怪我が完全になくなったかどうかは不明だ。もしかしたら、その怪我が元で倒れてしまったのかもしれない。
そう考えると、居てもたってもいられず、扉をぶち破る勢いで開けて、カイトの名前を叫ぶ。
「カイトっ、カイトっ!」
気配を頼りに捜せば、カイトは最後に別れたソファーの上に居た。
「……む?」
しかも、何やら安らかな顔で眠っている様子。
「良かった……」
ただ眠っているだけだと分かり、俺はホッと息を漏らす。考えてみれば、彼女は魔王陛下達と戦うことを想定して、必死にこの国に入ってきたのだ。きっと、疲れは相当溜まっていたのだろう。
そして、布団がはだけているのと、案外寝相が悪いのか、ソファーから体が半分落ちかけているのとで、俺は彼女を布団に運ぶことにする。
持ち上げてみれば、思いの外軽い体重が腕にかかる。冒険用にパンツスタイルの彼女は、きっとドレスを着せたらさぞかし可愛らしくなるだろう。
(あぁ、ドレスの発注もしなければ)
とりあえずは既製品で凌ぐこととなりそうだが、彼女に似合うドレスは必ずたくさんある。それを選ぶのは、きっと片翼のために魔族の男ができることのはずだ。
「んにゅ……」
「カイト?」
可愛らしく鳴いたカイトに、俺は小さく問いかけてみるものの、返ってくるのは小さな寝息のみ。
(寝言すらも可愛いのか、片翼とは)
もう、何もかもが可愛くて仕方がない。しかし、過剰に接触するのは嫌われる元だという知識は残っているため、しっかりと抱き締めてしまいたい衝動は抑え込む。
「うぅ」
ベッドに下ろせば、カイトは寒いのか、クルリと丸くなる。
「掛け布団……」
ソファーに置いてきた掛け布団を取りに戻ろうと振り向くと、ふいに、袖が引っ張られるような感覚がする。
「む?」
「湯タンポ、逃げちゃ、や」
辿々しくそう告げたカイトは、俺のことを湯タンポだと思い込んでいるらしく、ガッチリと服の袖を掴んで離さない。
「……」
掛け布団は、まだカイトの側にもある。そして、俺がこの布団に入り込む余地は、何とかある。
俺は、無言のまま、そっとカイトの側に身を横たえると、湯タンポの役割を果たすべく密着する。
(柔らかい……)
柔らかく、良い匂いのするカイトを抱き締めて、俺は雑念が発生するのを感知するや否や、それを一気に吹き飛ばす。
(寝込みを襲うなど言語道断)
今は、カイトの平和な眠りを保ってやるべきだ。そうして眠れない夜を過ごした俺は、朝方、寝ぼけたカイトに擽られて笑いを堪えたり、いきなり悲鳴を上げられて驚いたりしながらも、どうにか一緒に朝食を摂ることとなったのだった。
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