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第一章 囚われの身
第十三話 幸せを願って(ライナード視点)
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カイトはどうやら食事もまともにできない環境に居たらしい。出された朝食を泣きながら食べるカイトを見ていると、なぜ、もっと早くに見つけてやれなかったのかと自責の念に駆られる。
(諦めるのではなかった。きっと、もっと真剣に捜していれば、カイトをもっと早くに劣悪な環境から救えた)
失翼だと言われ続けて、俺はとうの昔に片翼を諦めていたが、こんなに泣くカイトを前にすると、胸が痛くて仕方がない。
(そうか、食事もまともにできなかったから、あんなに力がなかったのか……)
昨日、ダンベルを持ち上げられなかったカイトのことを思い出して、俺は納得する。そして同時に、昨日の時点で気づいてやれなかったことが悔しくてならなかった。
(良く見れば、こんなにも細い……)
少し落ち着いたカイトに、特に気に入っていたらしい味噌汁を勧めてみるものの、もう入らないと断られながら、観察をする。
(顔色は……悪くはないが、これはしっかり医師に見せるべきだな)
一応、カイトの怪我の具合が昨日の時点では分からなかったため、今日は医師を呼んでいる。侍女達にカイトの着替えを頼んだ際、怪我がないかを見てもらった結果では、特に怪我らしい怪我はなかったとのことだった。しかし、それでも万が一があると、そのまま医師を招く予定を変えなかったのは、結果的には良かったかもしれない。
ただ、医師が来るまでにはまだ時間がある。今のうちに、片翼についての説明をしておくべきだろう。可能ならば、カイトが俺の片翼なのだという説明もしておこう。
そう、考えていた俺は、まさか、いきなり強烈な拒絶にあうとは思ってもみなかった。もちろん、自分の強面は自覚しているし、それで怖がられることは多い。しかし、カイトは最初こそ俺に怯えている様子を見せたものの、今はそんな様子もなく、受け入れてもらえるかもしれないと希望を抱いていたのだ。
(カイトに、想い人……)
それは、どんな人間なのだろうか? 俺は、代わりにもなれないのだろうか?
そんな益体もない考えが巡る中、気づけば俺は、執務室に籠っていた。
「……ちゃん……坊っちゃんっ!」
「……む?」
ぼんやりと書類を見ていると、いつの間にかドム爺が俺の目の前に来ていた。
「坊っちゃん、何があったのですか? 随分心ここにあらずな様子ですが……」
先代。つまりは、俺の父の代から仕えているドム爺は、俺を本当の子供のように思ってくれる人だ。そんなドム爺が、心配を隠すことなく俺を問い詰めていて、そんなに分かりやすかっただろうかと思っていると、ドム爺から『書類が逆さです』と指摘を受ける。
(話すしか、ないか……)
片翼にフラれた話など、聞いても面白くも何ともないだろうが、話すまでここから立ち去る気配のないドム爺に、俺は早々に折れて、事の次第を話す。
「そんな……」
「ようやく、片翼を見つけたと思ったんだがな」
絶句するドム爺に、俺はどうにか笑みを浮かべようとして……失敗する。どうも、今はショック過ぎて何もかもがダメらしい。
「坊っちゃん。坊っちゃんは、これからどうされるおつもりですか?」
そう問われて、俺はこれからがあるのだったということに気づく。カイトの拒絶で、てっきり世界が終わったものだと思っていたが、それは違うのだとようやく思い出す。
「そう、だな……カイトが、幸せになれるよう、補助するつもりだ」
「それはつまり、どこの馬の骨ともしれない相手に、カイトお嬢様を託す、と?」
「どこの馬の骨……」
随分と棘のある言い方をするドム爺に困惑しながら、俺は考える。
「……カイトが幸せになれるのなら、それでも良い」
相手に身分がなくとも、カイトが幸せならばそれで良い。胸は痛いし、カイトの隣に俺以外が立つことを考えるだけで死んでしまいそうなほどに苦しくなるが、俺は、カイトが一番つらい時に側に居てやれなかったのだ。そこでとやかく言う権利などない。
「坊っちゃん……」
片翼を前にした魔族らしからぬ返答に、ドム爺は顔をしかめていたが、ゆっくりと息を吐くと、諭すような口調で話しかけてくる。
「坊っちゃん。では、もしもカイトお嬢様の想い人が暴力をふるうような男だったらどうしますか?」
「っ、その男を八つ裂きにしてやるっ」
ドム爺の例えに、俺は堪らず立ち上がる。
「えぇ、そうでしょうとも。良いですか? カイトお嬢様の想い人が必ずしも善良な者であるとは限りません。だから、想い人とくっついたとして、カイトお嬢様が幸せになれるかどうかも分かりません」
そう言われて、そこまで考えていなかった己の頭に、痛みが生まれる。
(そ、うだ……その通りだ)
「ですから、我々はカイトお嬢様の想い人を見定めなくてはなりません。そこはお分かりですね?」
「あぁ」
そうなると、カイトの想い人を捜すことから始めなくてはならないだろう。そして、カイトには、俺達がその男を見定めるまで、ここに居てもらわなくてはならない。
「カイトお嬢様には、しっかりとお伝えしておきましょう。ですから、坊っちゃんはその間、カイトお嬢様が心安く過ごせるようにしっかりしなければなりませんよ?」
「む、分かった」
ドム爺の言う通り、カイトに滞在してもらうからには、過ごしやすい環境を整える必要がある。もとよりそうするつもりはあったものの、これでいっそう、それを意識することとなった。
「では、私めはカイトお嬢様に坊っちゃんのことをお伝えして参ります」
「頼む」
カイトの幸せのために、カイトにはまだこの屋敷に滞在してもらわなければならない。しかし、俺はその現実に、まだ、カイトが側に居てくれるのだと安心してしまう。そんなこと、思ってはいけないのに、カイトは想い人のところに戻りたいはずなのに、俺はカイトがまだ側に居てくれるということが何よりも嬉しい。
(ダメ、だ……俺は、拒絶されたんだ……)
俺は拒絶された。だから、カイトと一緒になれる未来はない。そう思うのに、カイトを想い人の元に届けたくない気持ちがドンドン湧き出る。
(カイト……)
拒絶されたにもかかわらず、俺は、カイトに会いたくて、仕方がなかった。
(諦めるのではなかった。きっと、もっと真剣に捜していれば、カイトをもっと早くに劣悪な環境から救えた)
失翼だと言われ続けて、俺はとうの昔に片翼を諦めていたが、こんなに泣くカイトを前にすると、胸が痛くて仕方がない。
(そうか、食事もまともにできなかったから、あんなに力がなかったのか……)
昨日、ダンベルを持ち上げられなかったカイトのことを思い出して、俺は納得する。そして同時に、昨日の時点で気づいてやれなかったことが悔しくてならなかった。
(良く見れば、こんなにも細い……)
少し落ち着いたカイトに、特に気に入っていたらしい味噌汁を勧めてみるものの、もう入らないと断られながら、観察をする。
(顔色は……悪くはないが、これはしっかり医師に見せるべきだな)
一応、カイトの怪我の具合が昨日の時点では分からなかったため、今日は医師を呼んでいる。侍女達にカイトの着替えを頼んだ際、怪我がないかを見てもらった結果では、特に怪我らしい怪我はなかったとのことだった。しかし、それでも万が一があると、そのまま医師を招く予定を変えなかったのは、結果的には良かったかもしれない。
ただ、医師が来るまでにはまだ時間がある。今のうちに、片翼についての説明をしておくべきだろう。可能ならば、カイトが俺の片翼なのだという説明もしておこう。
そう、考えていた俺は、まさか、いきなり強烈な拒絶にあうとは思ってもみなかった。もちろん、自分の強面は自覚しているし、それで怖がられることは多い。しかし、カイトは最初こそ俺に怯えている様子を見せたものの、今はそんな様子もなく、受け入れてもらえるかもしれないと希望を抱いていたのだ。
(カイトに、想い人……)
それは、どんな人間なのだろうか? 俺は、代わりにもなれないのだろうか?
そんな益体もない考えが巡る中、気づけば俺は、執務室に籠っていた。
「……ちゃん……坊っちゃんっ!」
「……む?」
ぼんやりと書類を見ていると、いつの間にかドム爺が俺の目の前に来ていた。
「坊っちゃん、何があったのですか? 随分心ここにあらずな様子ですが……」
先代。つまりは、俺の父の代から仕えているドム爺は、俺を本当の子供のように思ってくれる人だ。そんなドム爺が、心配を隠すことなく俺を問い詰めていて、そんなに分かりやすかっただろうかと思っていると、ドム爺から『書類が逆さです』と指摘を受ける。
(話すしか、ないか……)
片翼にフラれた話など、聞いても面白くも何ともないだろうが、話すまでここから立ち去る気配のないドム爺に、俺は早々に折れて、事の次第を話す。
「そんな……」
「ようやく、片翼を見つけたと思ったんだがな」
絶句するドム爺に、俺はどうにか笑みを浮かべようとして……失敗する。どうも、今はショック過ぎて何もかもがダメらしい。
「坊っちゃん。坊っちゃんは、これからどうされるおつもりですか?」
そう問われて、俺はこれからがあるのだったということに気づく。カイトの拒絶で、てっきり世界が終わったものだと思っていたが、それは違うのだとようやく思い出す。
「そう、だな……カイトが、幸せになれるよう、補助するつもりだ」
「それはつまり、どこの馬の骨ともしれない相手に、カイトお嬢様を託す、と?」
「どこの馬の骨……」
随分と棘のある言い方をするドム爺に困惑しながら、俺は考える。
「……カイトが幸せになれるのなら、それでも良い」
相手に身分がなくとも、カイトが幸せならばそれで良い。胸は痛いし、カイトの隣に俺以外が立つことを考えるだけで死んでしまいそうなほどに苦しくなるが、俺は、カイトが一番つらい時に側に居てやれなかったのだ。そこでとやかく言う権利などない。
「坊っちゃん……」
片翼を前にした魔族らしからぬ返答に、ドム爺は顔をしかめていたが、ゆっくりと息を吐くと、諭すような口調で話しかけてくる。
「坊っちゃん。では、もしもカイトお嬢様の想い人が暴力をふるうような男だったらどうしますか?」
「っ、その男を八つ裂きにしてやるっ」
ドム爺の例えに、俺は堪らず立ち上がる。
「えぇ、そうでしょうとも。良いですか? カイトお嬢様の想い人が必ずしも善良な者であるとは限りません。だから、想い人とくっついたとして、カイトお嬢様が幸せになれるかどうかも分かりません」
そう言われて、そこまで考えていなかった己の頭に、痛みが生まれる。
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「ですから、我々はカイトお嬢様の想い人を見定めなくてはなりません。そこはお分かりですね?」
「あぁ」
そうなると、カイトの想い人を捜すことから始めなくてはならないだろう。そして、カイトには、俺達がその男を見定めるまで、ここに居てもらわなくてはならない。
「カイトお嬢様には、しっかりとお伝えしておきましょう。ですから、坊っちゃんはその間、カイトお嬢様が心安く過ごせるようにしっかりしなければなりませんよ?」
「む、分かった」
ドム爺の言う通り、カイトに滞在してもらうからには、過ごしやすい環境を整える必要がある。もとよりそうするつもりはあったものの、これでいっそう、それを意識することとなった。
「では、私めはカイトお嬢様に坊っちゃんのことをお伝えして参ります」
「頼む」
カイトの幸せのために、カイトにはまだこの屋敷に滞在してもらわなければならない。しかし、俺はその現実に、まだ、カイトが側に居てくれるのだと安心してしまう。そんなこと、思ってはいけないのに、カイトは想い人のところに戻りたいはずなのに、俺はカイトがまだ側に居てくれるということが何よりも嬉しい。
(ダメ、だ……俺は、拒絶されたんだ……)
俺は拒絶された。だから、カイトと一緒になれる未来はない。そう思うのに、カイトを想い人の元に届けたくない気持ちがドンドン湧き出る。
(カイト……)
拒絶されたにもかかわらず、俺は、カイトに会いたくて、仕方がなかった。
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