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第二章 葛藤
第二十二話 ライナードの友人
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仕事をさせてもらえるよう頼もうと決意した翌日。俺は、その本題を告げる前に、ライナードから自分の友人に会ってほしいと告げられる。
「姿は……変わっているが、悪い奴じゃない」
「そう、なのか?」
何だか含みのある言い方に不安を覚えながら、応接室に向かえば、すぐにその真っ赤な姿が見えて納得する。
(なるほど、確かに、インパクト抜群だ)
真っ赤なドレスを着た、リドル・テイカーと名乗る彼……彼女(?)に、俺はライナードが言い淀んだ原因を理解してうなずく。
「初めまして。海斗六道です」
「カイトちゃんね。ワタシのことは、リド姉とでも呼んでちょうだい」
オネェを前にして、冷静でいられたのは、ひとえに、知り合い……というより、親友枠でオネェが居るからにほかならない。
(そういやぁ、あいつ、どうしてるかな?)
案外泣き虫な親友を思い出して、俺はついつい感傷に浸る。
「今日は、カイトちゃんと仲良くなりたくて、ライナードに無理を言って会わせてもらったのよ。……ほら、ライナード、そんなしょんぼりしないっ」
「む、ぅ……」
そんなリド姉の言葉にライナードを振り返って見てみると、ライナードは途端に背筋を伸ばす。
「あらあら、カイトちゃんの目の前だとシャンとするのね」
「……言わないでくれ」
頬を染めて視線を逸らすライナードは、何だか可愛かった。
「それじゃあ、即席だけどお茶会といきましょう」
「は、はい」
リド姉が手を叩けば、即座にこの家の使用人達が現れて、お茶の準備を始める。ライナードも着席してそれを黙って見ているが……。
(ここ、ライナードの家だよな?)
リド姉の指示に使用人達が従ったことに驚きながら、俺はどんどん準備が整うテーブルの上を眺める。
「うふふ、ライナードの片翼って、どうしてもゴツい女を想像してたけど、何が何が……こんなに可愛い女の子だなんて……」
「ア、アリガトウゴザイマス」
可愛いと言われて、俺は頬が引きつらないようにするのが精一杯だった。何せ、中身は男なのだ。格好良いなら嬉しいが、可愛いは嬉しくない。
「そうだ。カイトちゃん。ワタシは服飾関係のお店をやってるから、好きなドレスとかがあればいつでも言ってちょうだいね。一緒に選んであげるわ」
「ハイ」
(俺は女の子、俺は女の子……)
普段なら、『俺は男』という言葉を頭の中で唱えるものの、今だけは、必死に演技をしなければならない。リド姉の言葉一つ一つが胸に刺さるのを、どうにか誤魔化さなければならない。
それからのリド姉との会話は……正直、自己暗示をかけていても厳しいものだった。ファッションの話を中心に、可愛い小物の話や雑貨の話ばかりで、どうにも着いていけない。唯一、美味しいお菓子の話には飛び付くことはできたものの、それだけだ。そして……。
「カイトちゃんは、レイリン王国のどこ出身なのかしら?」
「え、えっと……」
「村? それとも町?」
「む、村です」
「そう。その容姿で村となると、求婚者も多かったんじゃないの?」
「えっ? い、いや……あ、あはは……」
かなり厳しい質問もされつつも、俺はどうにかリド姉との会話を進めていく。ちなみに、その間ライナードはずーんと落ち込んでいたらしいのだが、それを気にする余裕などなかった。
「ねぇ、ライナードはかなりの好物件だと思うんだけど、何がダメなのかしら?」
「えっ? い、いや、ダメ、というか……そ、その、想い人が居まして……」
「それよっ。その男は、本当にライナードより良い男なんでしょうねっ?」
「えーっと、それについては微妙と申しますか……」
「微妙!? なら、悪いことは言わないわ。ライナードにしておきなさいっ」
「か、考えておきます」
目の前には美味しい紅茶とお茶菓子が並べられているのだが、リド姉のあまりの勢いに、それらの味も分からない。そうして、しばらく地獄のお茶会を体験した後、リド姉はようやく帰ることとなる。
「今日は楽しかったわ、カイトちゃん」
「はい、私もです」
(いや、早く帰ってっ!?)
内心ではかなり酷いことを言っているものの、これは仕方のないことだろう。リド姉の笑顔に対して、俺も笑顔を浮かべるものの、正直、もう、疲れた。
「また来るわね、カイトちゃん?」
馬車に乗りかけたところで、そんな爆弾を落とされて、俺は心底げんなりしながら笑顔を保つ。
「はい、それでは、お気をつけて」
(頼むから、もう来ないでくれっ!)
内心と言動がチグハグなまま、俺はリド姉を見送り……その姿が見えなくなった途端、どっと疲れが出て、ため息を吐くのだった。
「姿は……変わっているが、悪い奴じゃない」
「そう、なのか?」
何だか含みのある言い方に不安を覚えながら、応接室に向かえば、すぐにその真っ赤な姿が見えて納得する。
(なるほど、確かに、インパクト抜群だ)
真っ赤なドレスを着た、リドル・テイカーと名乗る彼……彼女(?)に、俺はライナードが言い淀んだ原因を理解してうなずく。
「初めまして。海斗六道です」
「カイトちゃんね。ワタシのことは、リド姉とでも呼んでちょうだい」
オネェを前にして、冷静でいられたのは、ひとえに、知り合い……というより、親友枠でオネェが居るからにほかならない。
(そういやぁ、あいつ、どうしてるかな?)
案外泣き虫な親友を思い出して、俺はついつい感傷に浸る。
「今日は、カイトちゃんと仲良くなりたくて、ライナードに無理を言って会わせてもらったのよ。……ほら、ライナード、そんなしょんぼりしないっ」
「む、ぅ……」
そんなリド姉の言葉にライナードを振り返って見てみると、ライナードは途端に背筋を伸ばす。
「あらあら、カイトちゃんの目の前だとシャンとするのね」
「……言わないでくれ」
頬を染めて視線を逸らすライナードは、何だか可愛かった。
「それじゃあ、即席だけどお茶会といきましょう」
「は、はい」
リド姉が手を叩けば、即座にこの家の使用人達が現れて、お茶の準備を始める。ライナードも着席してそれを黙って見ているが……。
(ここ、ライナードの家だよな?)
リド姉の指示に使用人達が従ったことに驚きながら、俺はどんどん準備が整うテーブルの上を眺める。
「うふふ、ライナードの片翼って、どうしてもゴツい女を想像してたけど、何が何が……こんなに可愛い女の子だなんて……」
「ア、アリガトウゴザイマス」
可愛いと言われて、俺は頬が引きつらないようにするのが精一杯だった。何せ、中身は男なのだ。格好良いなら嬉しいが、可愛いは嬉しくない。
「そうだ。カイトちゃん。ワタシは服飾関係のお店をやってるから、好きなドレスとかがあればいつでも言ってちょうだいね。一緒に選んであげるわ」
「ハイ」
(俺は女の子、俺は女の子……)
普段なら、『俺は男』という言葉を頭の中で唱えるものの、今だけは、必死に演技をしなければならない。リド姉の言葉一つ一つが胸に刺さるのを、どうにか誤魔化さなければならない。
それからのリド姉との会話は……正直、自己暗示をかけていても厳しいものだった。ファッションの話を中心に、可愛い小物の話や雑貨の話ばかりで、どうにも着いていけない。唯一、美味しいお菓子の話には飛び付くことはできたものの、それだけだ。そして……。
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「え、えっと……」
「村? それとも町?」
「む、村です」
「そう。その容姿で村となると、求婚者も多かったんじゃないの?」
「えっ? い、いや……あ、あはは……」
かなり厳しい質問もされつつも、俺はどうにかリド姉との会話を進めていく。ちなみに、その間ライナードはずーんと落ち込んでいたらしいのだが、それを気にする余裕などなかった。
「ねぇ、ライナードはかなりの好物件だと思うんだけど、何がダメなのかしら?」
「えっ? い、いや、ダメ、というか……そ、その、想い人が居まして……」
「それよっ。その男は、本当にライナードより良い男なんでしょうねっ?」
「えーっと、それについては微妙と申しますか……」
「微妙!? なら、悪いことは言わないわ。ライナードにしておきなさいっ」
「か、考えておきます」
目の前には美味しい紅茶とお茶菓子が並べられているのだが、リド姉のあまりの勢いに、それらの味も分からない。そうして、しばらく地獄のお茶会を体験した後、リド姉はようやく帰ることとなる。
「今日は楽しかったわ、カイトちゃん」
「はい、私もです」
(いや、早く帰ってっ!?)
内心ではかなり酷いことを言っているものの、これは仕方のないことだろう。リド姉の笑顔に対して、俺も笑顔を浮かべるものの、正直、もう、疲れた。
「また来るわね、カイトちゃん?」
馬車に乗りかけたところで、そんな爆弾を落とされて、俺は心底げんなりしながら笑顔を保つ。
「はい、それでは、お気をつけて」
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