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第二章 葛藤
第三十二話 愛しい人(リオン視点)
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それは、ホーリー嬢が賊に拐われる前のこと。元、レイリン王国宰相子息である私は、勇者一行としてファム帝国へ戻ろうとしていたエルヴィス様達と別れ、一人、ヴァイラン魔国へと向かっていた。
「はぁっ、はぁっ……くっ、あと、もう少しで……」
銀の髪を振り乱しながらも、私はとにかく進む。
本来ならば、国へ帰り、魔王討伐の功績を認めてもらうことこそ、元の地位に返り咲くために必要なことだ。しかし、私はどうにもその気になれなかった。
「カイト嬢。今、行きます」
カイト嬢がとんだあばずれであるという話は、もちろん、ホーリーから聞いていた。しかし、それでもなお、私は彼女に惹かれずにはいられなかった。水色のふんわりとした髪に、金と赤のオッドアイを持つ不思議な姿の少女。私は、一目見た瞬間から彼女にどうしようもなく惹かれていた。
「ふふっ、さながら、私は囚われの姫を助け出す王子、といったところですか」
王子なんて柄じゃないし、そもそもカイト嬢がまだ生きているのかも怪しい。本当は、カイト嬢を置き去りにする案が出た時、私は反対をしたかったのだが、多勢に無勢。特に、エルヴィス様の意向には、今はすでに王子でも国王でもないとはいえ、逆らえなかった。
ただ、転移の魔法具でヴァイラン魔国を離れた後、私が『やり残したことがある』と言って離れることに関しては、誰も文句を言うことなく、無事に単独行動ができるようになったというわけだ。
「ふぅ、少し休みましょうか」
しばらく歩き続けたところで、私は休憩を挟む。カイト嬢のことを思えば、一刻も早く魔王城へ向かわなければならないのだが、運動が苦手なこの体は、思うように動いてはくれない。
残り少なくなった水を口に含みながら、私は木に寄りかかり、カイト嬢を無事に助け出した時のことを妄想する。
『あ、ありがとうございます。リオン様』
ボロボロのドレスを身に纏ったカイト嬢が、胸を隠しながら必死にお礼を言う。
『何、カイト嬢のためなら、何てことはないさ』
『ですが……』
その左右で色の違う瞳に戸惑いを浮かべる彼女へ、私は直球に、必ず喜んでくれるであろう言葉を告げる。
『それではカイト嬢。貴女を救った私と、結婚をしていただけないでしょうか?』
『はぃ』
頬を染め、情欲の籠った目でこちらを見る彼女と、おもむろに唇が近づき……。
そこまで想像したところで、ふいに近くで音がしたことに気づき、すぐさま辺りを警戒する。
「あぁ、居た居た。君がリオン君ですね?」
「っ、魔族!?」
そこに居たのは、青い髪と青い瞳、白い角を持つ魔族で、私は咄嗟に炎の魔法を使おうとして……。
「捕らえろ」
その言葉と同時に、何が起こったか分からないまま、地面へと倒れる。
「ぐっ!」
後ろ手に腕を捻り上げられて、魔法に集中するどころではなくなってしまった私は、せめてもの抵抗に、目の前に来た魔族を睨む。
「弟の親友を困らせる存在は、芽の内に摘んでおくべきですからね」
整った顔立ちの魔族は、鋭い視線で私を見下す。
「まぁ、もしも彼らの間で役立つと思えば、少しの自由を与えるのもやぶさかではありませんが、基本的には監視下に置くこととしましょう」
「何を、言って……」
わけの分からない言葉に、私は必死にこの状況を打開する策を考える。しかし……。
「《眠れ》」
何かを考える前に発動した眠りの魔法に、私は、意識がだんだんと薄れていくのを感じ……。
「くっ……カイ……ト……嬢…………」
そのまま、完全に眠りに就いてしまう。
「さて、他の者達の方は、あちらが何とかしてくれるでしょう。さぁ、帰りますよ。それを連れて」
だから、その魔族がそんなことを話していたことも、私がどこに運ばれようとしているのかも、全く知らないまま、次に意識が戻るまで、私は幸せな眠りの中に閉じ込められるのだった。
「はぁっ、はぁっ……くっ、あと、もう少しで……」
銀の髪を振り乱しながらも、私はとにかく進む。
本来ならば、国へ帰り、魔王討伐の功績を認めてもらうことこそ、元の地位に返り咲くために必要なことだ。しかし、私はどうにもその気になれなかった。
「カイト嬢。今、行きます」
カイト嬢がとんだあばずれであるという話は、もちろん、ホーリーから聞いていた。しかし、それでもなお、私は彼女に惹かれずにはいられなかった。水色のふんわりとした髪に、金と赤のオッドアイを持つ不思議な姿の少女。私は、一目見た瞬間から彼女にどうしようもなく惹かれていた。
「ふふっ、さながら、私は囚われの姫を助け出す王子、といったところですか」
王子なんて柄じゃないし、そもそもカイト嬢がまだ生きているのかも怪しい。本当は、カイト嬢を置き去りにする案が出た時、私は反対をしたかったのだが、多勢に無勢。特に、エルヴィス様の意向には、今はすでに王子でも国王でもないとはいえ、逆らえなかった。
ただ、転移の魔法具でヴァイラン魔国を離れた後、私が『やり残したことがある』と言って離れることに関しては、誰も文句を言うことなく、無事に単独行動ができるようになったというわけだ。
「ふぅ、少し休みましょうか」
しばらく歩き続けたところで、私は休憩を挟む。カイト嬢のことを思えば、一刻も早く魔王城へ向かわなければならないのだが、運動が苦手なこの体は、思うように動いてはくれない。
残り少なくなった水を口に含みながら、私は木に寄りかかり、カイト嬢を無事に助け出した時のことを妄想する。
『あ、ありがとうございます。リオン様』
ボロボロのドレスを身に纏ったカイト嬢が、胸を隠しながら必死にお礼を言う。
『何、カイト嬢のためなら、何てことはないさ』
『ですが……』
その左右で色の違う瞳に戸惑いを浮かべる彼女へ、私は直球に、必ず喜んでくれるであろう言葉を告げる。
『それではカイト嬢。貴女を救った私と、結婚をしていただけないでしょうか?』
『はぃ』
頬を染め、情欲の籠った目でこちらを見る彼女と、おもむろに唇が近づき……。
そこまで想像したところで、ふいに近くで音がしたことに気づき、すぐさま辺りを警戒する。
「あぁ、居た居た。君がリオン君ですね?」
「っ、魔族!?」
そこに居たのは、青い髪と青い瞳、白い角を持つ魔族で、私は咄嗟に炎の魔法を使おうとして……。
「捕らえろ」
その言葉と同時に、何が起こったか分からないまま、地面へと倒れる。
「ぐっ!」
後ろ手に腕を捻り上げられて、魔法に集中するどころではなくなってしまった私は、せめてもの抵抗に、目の前に来た魔族を睨む。
「弟の親友を困らせる存在は、芽の内に摘んでおくべきですからね」
整った顔立ちの魔族は、鋭い視線で私を見下す。
「まぁ、もしも彼らの間で役立つと思えば、少しの自由を与えるのもやぶさかではありませんが、基本的には監視下に置くこととしましょう」
「何を、言って……」
わけの分からない言葉に、私は必死にこの状況を打開する策を考える。しかし……。
「《眠れ》」
何かを考える前に発動した眠りの魔法に、私は、意識がだんだんと薄れていくのを感じ……。
「くっ……カイ……ト……嬢…………」
そのまま、完全に眠りに就いてしまう。
「さて、他の者達の方は、あちらが何とかしてくれるでしょう。さぁ、帰りますよ。それを連れて」
だから、その魔族がそんなことを話していたことも、私がどこに運ばれようとしているのかも、全く知らないまま、次に意識が戻るまで、私は幸せな眠りの中に閉じ込められるのだった。
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