俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

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第三章 閉ざされた心

第三十五話 眠り姫(ライナード視点)

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 遣いを出せば、すぐに俺の同僚であるルティアスと、ジェドが来てくれた。


「うーん、一応僕も来たけど、多分ジェドの方が専門だろうし、緊急性が高いだろうから、先にジェド、よろしくね」

「あぁ」


 そうして、桃色の髪に桃色の瞳、桃色の角を持つ人形のように整った顔をした呪術の専門家、ジェド・オブリコは、カイトの側へ来てくれる。


「まずは、魔本の魔力が残っていないか探る。《闇の欠片よ》」


 ジェドが魔法を発動させれば、カイトの周りに小さな黒い触手のようなものがウジャウジャと現れ、その先端をカイトの体に押しつけていく。


「……魔本の魔力はない」

「なら、カイトは無事なのだろうか?」


 専門家のジェドの言葉に、少しばかり光を見たような気がしたものの、次のジェドの言葉に、俺はヒュッと息を呑む。


「魔本による傷は、確実についている」

「なら、カイトは……っ」

「確かなことは、目が覚めてみないと分からないが、重症であれば、発狂している可能性もある」


 そんな言葉に、俺の目の前は真っ暗になる。


(カイトが……それほどまでに、傷ついて、いる?)


 どうして、俺はカイトに書庫での仕事を許可してしまったのかと、今さら後悔しても遅い。もう、取り返しのつかない状況なのだから。


「……とりあえず、怪我がないか確認するよ?」


 ジェドは、もうやることはないと下がったため、今度はルティアスが前に出ていたのだが、俺はそれに気づく余裕すらなかった。


「うん、ちょっとたんこぶができてるだけだね。ちゃんと癒しておくね」


 そうして、ルティアスが魔法を使っている間、俺は、カイトを危険にさらしたことへの自責の念に押し潰されそうになっていた。


「……ライナード、まだ、重症と決まった訳じゃない」

「そうだよ。今は、カイトちゃんのことを信じてあげないと」

「信じ、る?」

「うん、カイトちゃんなら、ちゃんと戻ってきてくれるって」

「目が覚めたら、うんと甘やかしてやると良いだろう」

(そうだ、今は、後悔している場合じゃない)


 後悔しても、カイトを傷つけてしまった事実は消えない。だから、今は、カイトが目を覚ました時、温かく迎えてやれるように準備しなければならないのだ。


「すまない。二人が来てくれて、助かった」

「当然だ」

「僕もライナードには助けられてるからね。お互い様だよ」


 優しい同僚。いや、優しい親友達を持てたことを、俺は神に感謝し、布団の上で横たわるカイトの元へ、ゆっくりと近づく。


「カイト……すまない。本当に、すまない」


 そのままカイトの体をかき抱きたい気持ちを抑えて、震える声で何度も何度も、カイトの名前を呼ぶ。
 今は、カイトに触れることさえ罪であるかのような気がして、俺はただひたすらにカイトに謝り続ける。ルティアスとジェドが、互いに目配せして、そっと退出したことにも気づかないまま、ずっと、ずっと……。

 そうして、いつの間にか、高かった日が落ちて、夜になる。眠り続けるカイトは、未だに、目覚める兆しを見せてはくれない。


「ライナード坊っちゃん。魔本は、ジェド様の協力の元、捕縛が完了し、現在、さらに厳重な封印を施しているところだそうです」


 魔本が野放しになっていたことも忘れていた俺は、ジェドの気遣いに感謝するとともに、まともにお礼もしていないことに今さらながら気づく。


「そう、か……ジェドが……。すまない、ドム爺。代わりに礼をしっかりしておいてくれないか? ルティアスにも、同様に」

「もちろん、そちらは手配しておりますので、ご心配なく。それと……お食事はどうされますか?」


 そう尋ねられ、俺はカイトから視線を逸らすことなく、そのまま答える。


「すまないが、今は、食べたくない」

「さようで、ございますか……では、お飲物だけでも、こちらに持って参りますね」

「……む」


 それがドム爺の妥協のラインなのだろう。俺は、それに特に異を唱えることなく、ただただ、眠り続けるカイトを見つめる。
 俺は、その後、一睡もすることなく、カイトのことを見守り続けた。そして……そのカイトが目を覚ましたのは、翌日の昼になってからのことだった。
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