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第七章 過去との決別
第百五話 ラディスの訪問(ライナード視点)
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(カイトに、避けられてる……?)
楽しいデートの翌日、俺は、なぜかカイトに避けられていた。それはもう、見事なまでの避けっぷりで、目も合わせてもらえない。
(やはり、おでこに、く、く、く……口づけ、をしたのが、不味かったのだろうか?)
ただ、言い訳をさせてもらうと、あれは衝動的なものだったのだ。カイトからのプレゼントが嬉しくて嬉しくて、その前に、それが他の者へのプレゼントだと思って絶望していたから、なおのこと、嬉しさを抑えられなくて、つい、口づけてしまったのだ。
しかし、そのせいで避けられているのだとしたら、俺は、あの時の自分を殴りたい気持ちになる。
(せめて、謝罪だけでもっ)
謝罪したところで、カイトが許してくれるかどうかは分からないが、やらないよりマシだ。ただ、体調が悪いらしいカイトの元に、何度も突撃するのは流石に気が引ける。
「カイトお嬢様は、お休みになられたそうです」
「そう、か……」
とどめに、そんな情報をドム爺から聞かされて、俺は、今、カイトに謝罪することは諦める。
(明日は、雪祭りを一緒に回る約束だが……ダメ、だろうか?)
貴重な貴重なカイトとのデートの約束。しかし、カイトの体調が優れず、ましてや、俺の行為に怒っているとなれば、その約束が果たされるかどうかは怪しいものがある。
「カイト……」
部屋ですっかりうなだれていると、屋敷の雑務をこなしていたであろうリュシリーが部屋の外から声をかけてくる。
「ライナード様、バルトラン家よりラディス・バルトラン様がお越しになるとのことですが。お会いしますか?」
「……会おう」
バルトラン家といえば、ルティアスの家だ。そして、ラディスというのはルティアスの兄の名前。彼らの家は、諜報に優れた家であるため、魔王陛下に代々仕えている。
(何の用だろうか?)
ただ、そのバルトラン家の者が訪れるような用事が、今、この片翼休暇中にあるのかと問われれば、疑問しかない。基本、片翼休暇中の魔族は、片翼のことしか眼中になく、他のことには目を向けない。そのため、片翼休暇中の魔族の元を訪ねることは、あまりされないのだ。
カイトから避けられているという悲しい事実は、とりあえず頭の隅に追いやって、俺はラディスを待つ。
「ラディス・バルトラン様が到着されました」
「む、分かった」
報告を受けて、俺はあまり面識があるとは言えない、ルティアスの兄に会いにいく。そこには、青い髪に青い瞳、白い角を持つ、ルティアスに良く似た男が居た。
「本日は、片翼休暇中にもかかわらず、会っていただきありがとうございます」
「む、構わない。それほどのことなのだろう?」
「はい」
これは、もしかするとルティアスに何かがあって、協力を仰ぎに来たとかいうことではないだろうかと思い至った俺は、真剣にラディスの言葉を待つ。
「本日は、私が飼っている犬が、そちらに害をなすかもしれないと思い、警告に参りました」
「む?」
犬、というのは、十中八九隠語だろう。しかし、それが誰を示すのか分からない。
「旧レイリン王国の王族と一緒に居た者を一人、捕まえて飼っていたのですが、どうにも野蛮な野良犬とつるむ様子が確認されまして」
そんな言葉に、俺はすぐ、昨日の視線のことを思い出す。
(あれはもしかすると、そいつだったのか?)
旧レイリン王国からの人間とくれば、カイトを虐げてきた勇者一行のことで間違いないだろう。そのうちの一人が、俺か、もしくはカイトを見ていた。
(不愉快だな)
「野良犬の詳細は分かっているのか?」
「まだ、何とも。しかし、近く、仕掛けてくる可能性は高いと見ています」
「む」
そうなると、やはり、明日の雪祭りは控えた方が良いのかもしれない。カイトの安全のためなら、やむを得ないだろう。
「そちらの犬の躾が行き届いていないことを、俺が責めるとは思わなかったのか?」
「もちろん、それは考えています。しかし、これは貴方にとっても良いお話ではないか、とも思っております」
その青い瞳を探るように見るが、そこからは何も読み取れない。
「野良犬はもしかしたら、野良犬ではないかもしれない。そして、私のところの犬は、処分されることは決まっていても、その決定の中にライナード様はまだ関与できる立場にない」
「……なるほど」
あの勇者一行は、元々、ルティアスの復讐相手だ。ルティアスの片翼であるリリスは、カイトを除く勇者一行達に虐げられた過去があり、その復讐のために、この国へ招こうとしていた経緯がある。ただ、もちろんそれだけではなく、あの勇者一行を預かるファム帝国と同盟を結ぶに当たって、不穏分子を除去したいと考えていたというのもあるのだが……。
(野良犬らしきものは、もしかしたら飼い主が居て、そいつの思惑を知るために泳がせた方が良いと。そして、そいつらから手を出されれば、俺も、カイトを虐げた奴らの処分に、意見を通せるということか)
その提案は、存外、魅力的だった。ラディスがなぜ、勇者一行の一人を泳がせていたのかまでは知らないが、そのおかげで今、俺は断罪のための立場を手に入れられるかもしれない。
「……分かった。こちらでも調査し、襲撃に備えるとしよう」
カイトは必ず守ってみせる。そう決意し……次の瞬間には、雪祭りに行けなくなったという事実に沈みそうになるのだった。
楽しいデートの翌日、俺は、なぜかカイトに避けられていた。それはもう、見事なまでの避けっぷりで、目も合わせてもらえない。
(やはり、おでこに、く、く、く……口づけ、をしたのが、不味かったのだろうか?)
ただ、言い訳をさせてもらうと、あれは衝動的なものだったのだ。カイトからのプレゼントが嬉しくて嬉しくて、その前に、それが他の者へのプレゼントだと思って絶望していたから、なおのこと、嬉しさを抑えられなくて、つい、口づけてしまったのだ。
しかし、そのせいで避けられているのだとしたら、俺は、あの時の自分を殴りたい気持ちになる。
(せめて、謝罪だけでもっ)
謝罪したところで、カイトが許してくれるかどうかは分からないが、やらないよりマシだ。ただ、体調が悪いらしいカイトの元に、何度も突撃するのは流石に気が引ける。
「カイトお嬢様は、お休みになられたそうです」
「そう、か……」
とどめに、そんな情報をドム爺から聞かされて、俺は、今、カイトに謝罪することは諦める。
(明日は、雪祭りを一緒に回る約束だが……ダメ、だろうか?)
貴重な貴重なカイトとのデートの約束。しかし、カイトの体調が優れず、ましてや、俺の行為に怒っているとなれば、その約束が果たされるかどうかは怪しいものがある。
「カイト……」
部屋ですっかりうなだれていると、屋敷の雑務をこなしていたであろうリュシリーが部屋の外から声をかけてくる。
「ライナード様、バルトラン家よりラディス・バルトラン様がお越しになるとのことですが。お会いしますか?」
「……会おう」
バルトラン家といえば、ルティアスの家だ。そして、ラディスというのはルティアスの兄の名前。彼らの家は、諜報に優れた家であるため、魔王陛下に代々仕えている。
(何の用だろうか?)
ただ、そのバルトラン家の者が訪れるような用事が、今、この片翼休暇中にあるのかと問われれば、疑問しかない。基本、片翼休暇中の魔族は、片翼のことしか眼中になく、他のことには目を向けない。そのため、片翼休暇中の魔族の元を訪ねることは、あまりされないのだ。
カイトから避けられているという悲しい事実は、とりあえず頭の隅に追いやって、俺はラディスを待つ。
「ラディス・バルトラン様が到着されました」
「む、分かった」
報告を受けて、俺はあまり面識があるとは言えない、ルティアスの兄に会いにいく。そこには、青い髪に青い瞳、白い角を持つ、ルティアスに良く似た男が居た。
「本日は、片翼休暇中にもかかわらず、会っていただきありがとうございます」
「む、構わない。それほどのことなのだろう?」
「はい」
これは、もしかするとルティアスに何かがあって、協力を仰ぎに来たとかいうことではないだろうかと思い至った俺は、真剣にラディスの言葉を待つ。
「本日は、私が飼っている犬が、そちらに害をなすかもしれないと思い、警告に参りました」
「む?」
犬、というのは、十中八九隠語だろう。しかし、それが誰を示すのか分からない。
「旧レイリン王国の王族と一緒に居た者を一人、捕まえて飼っていたのですが、どうにも野蛮な野良犬とつるむ様子が確認されまして」
そんな言葉に、俺はすぐ、昨日の視線のことを思い出す。
(あれはもしかすると、そいつだったのか?)
旧レイリン王国からの人間とくれば、カイトを虐げてきた勇者一行のことで間違いないだろう。そのうちの一人が、俺か、もしくはカイトを見ていた。
(不愉快だな)
「野良犬の詳細は分かっているのか?」
「まだ、何とも。しかし、近く、仕掛けてくる可能性は高いと見ています」
「む」
そうなると、やはり、明日の雪祭りは控えた方が良いのかもしれない。カイトの安全のためなら、やむを得ないだろう。
「そちらの犬の躾が行き届いていないことを、俺が責めるとは思わなかったのか?」
「もちろん、それは考えています。しかし、これは貴方にとっても良いお話ではないか、とも思っております」
その青い瞳を探るように見るが、そこからは何も読み取れない。
「野良犬はもしかしたら、野良犬ではないかもしれない。そして、私のところの犬は、処分されることは決まっていても、その決定の中にライナード様はまだ関与できる立場にない」
「……なるほど」
あの勇者一行は、元々、ルティアスの復讐相手だ。ルティアスの片翼であるリリスは、カイトを除く勇者一行達に虐げられた過去があり、その復讐のために、この国へ招こうとしていた経緯がある。ただ、もちろんそれだけではなく、あの勇者一行を預かるファム帝国と同盟を結ぶに当たって、不穏分子を除去したいと考えていたというのもあるのだが……。
(野良犬らしきものは、もしかしたら飼い主が居て、そいつの思惑を知るために泳がせた方が良いと。そして、そいつらから手を出されれば、俺も、カイトを虐げた奴らの処分に、意見を通せるということか)
その提案は、存外、魅力的だった。ラディスがなぜ、勇者一行の一人を泳がせていたのかまでは知らないが、そのおかげで今、俺は断罪のための立場を手に入れられるかもしれない。
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