俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌

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第七章 過去との決別

第百九話 届かない手(ライナード視点)

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 カイトが、俺に対して怒っているらしいということと、俺に内緒で雪祭りに行こうとしていることを聞いた時は、心臓が潰れるかと思った。


(やはり、デートの約束を破ったから……しかし、俺に内緒で出掛けるくらいならば、約束通りにデートしたかった……)


 そんな俺は今、情けないことに、カイトが楽しそうにしている姿を少し離れた場所から観察していた。


(雪像の仕掛け……俺が教えたら、やはりあんな笑顔を向けてくれたのだろうか?)


 視線の先には、目をキラキラと輝かせて、ウサギの雪像を眺めるカイトが居た。今、カイトの隣に居るのが俺ではないことが悔しくてならない。


「い、いや、あの、ライナード? そんなにカイト嬢のところに行きたいのなら、我慢する必要はないのではないですか? 魔力の圧が、怖いのですけど……」


 ちなみに、今、俺の隣に居るのは、ルティアスの兄、ラディスだ。今朝、ラディスは追加情報を持ってきてくれたらしいのだが、生憎、俺はカイトの尾行に必死で、聞いている暇がない。ドム爺にそのことを説明してもらって、帰ってもらおうと思っていたら、なぜか、着いていくと言い出して、ここに居る。


(どうでも良いラディスではなく、カイトに隣に居てほしい)

「……何だか、私、今とても失礼なことを思われたような……?」


 俺の思考に敏感に反応するラディスだったが、やはり、俺は受け答えをする気にはならない。今はとにかく、はしゃぐカイトの姿を目に焼き付けておかなければならないのだ。


「っ」

「これはっ」


 それは、カイトが小さなドラゴンの雪像に手を伸ばそうとした時に起こった。


「何者だっ!」


 黒ずくめで顔を隠した集団が、一斉にこの会場に向けて攻撃魔法を放ったのだ。俺は咄嗟に、カイトの周りへと結界を張り巡らせて、カイトを守る。ほぼ同時に攻撃を感知したリュシリーによって、カイトは突き飛ばされ、雪に埋もれてはいたものの、怪我はないようだ。


「……」


 鋭い誰何に答えることなく、黒ずくめ達は得物を手に無差別に攻撃をしかけてくる。


「ライナード! 貴方はカイト嬢の元へ向かってくださいっ」

「すまんっ!」


 黒ずくめ達は、確かに数を揃えていたのだろうが、どう考えても場所が悪い。魔族はほぼ全員が、高い戦闘能力を有しているのだから……。

 周りの祭りの参加客達によって袋叩きに合う黒ずくめ達を横目に、俺は剣を振り回しながら走る。


(早くっ、カイトのところへっ!)


 こんなことならば、やはり俺が一緒に居るべきだったと思いながら、必死に走った先で……カイトが、黒ずくめの一人に気絶させられたところを見て、ブツリと、頭の中で何かが切れた。


「おぉぉぉぉぉおっ!!」

「ひっ!」


 魔力をたぎらせて、俺はとにかく黒ずくめ達の元へと突っ込む。


「撤収しろっ!」

「させるかぁっ!」


 気絶したカイトを抱えた男を、俺は一直線に追う。他の黒ずくめ達が足止めをしようと迫ってくるのを、千切っては投げという様相で蹴散らして進む。黒ずくめのうちの一人が、空間魔法で馬車を投げて来たものの、それすらも一刀の下に斬り伏せて進む。しかし……。


「転移ぃぃいっ!」

「っ!」


 後一歩。……後、ほんの数センチでカイトに手が届く、といったところで、カイトの姿がかき消える。


「カイ、ト……?」


 伸ばした手が、空を切る。


(届かなかった……?)


 その瞬間、カイトを失うかもしれない恐怖に、思考が染められていく。黒く、黒く、染まっていく。


「ライナードっ、しっかりしてください! カイト嬢を助けるのでしょう!?」


 正直、その言葉がなければ、俺は何をしていたか分からない。そんな言葉をかけたラディスを振り返れば、肩に傷を負いながらも強い目でこちらを見つめていた。


「恐らく、カイト嬢はタボック家に居ます」

「タボック家……」


 その名前は、一応同じ貴族の名前として頭にはある。確か、中級貴族だっただろうか。


「あそこの当主が不穏な動きをしていることを察知していたこともありますが、今回の黒ずくめの一部に、タボック家の使用人が紛れていました。間違いはないと思います」

「知って、いたのか?」


 この、襲撃が行われることを、もしかしたらラディスは知っていたのではないだろうか? 知っていて、俺に着いてきたのではないだろうか?
 そんな疑問を抱いて、俺はつい、そう尋ねてしまう。


「いえ、さすがにそこまでの情報はありませんでした。ですが、カイト嬢がライナードと離れて行動するらしいということで、何が起こるか分からないと思ったのは確かです。だから、何か起こればすぐにでも動けるように準備をしておいたのですよ。さぁ、転移しますよ?」


 そう言われて、ラディスに腕を掴まれたかと思えば、景色は一変し、貴族街の一角に立ち尽くしていた。
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