わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

文字の大きさ
5 / 78
第一章 解放

第五話 飛ばされた先に(ルティアス視点)

しおりを挟む
「はっ? あの、今、何と?」

「ユーカのために、魔法の実験台になれ」


 そろそろ護衛の交代時間だということで、僕はユーカ様の元へ向かう途中、翡翠の長髪にサファイアの瞳を持つ魔族、ヴァイラン魔国魔王、ジークフリート陛下に捕まった。
 ちなみに、ユーカ様というのは、ここ、ヴァイラン魔国と、お隣のリアン魔国、それぞれの魔王陛下に愛される両翼という貴重な存在だ。黒目黒髪で、幼い顔立ちの人間で、身長がかなり低い。たしか、まだ百五十センチに届かないと聞いた覚えがある彼女は、我々魔族からすれば幼女にしか見えない。


(まぁ、十八歳らしいけどね)


 にわかには信じられない年齢ではあるものの、ユーカ様がそう言うのであれば正しいのだろう。

 そして、世にも珍しい両翼を説明するには、まず、片翼というものの説明から入らなければならない。
 片翼とは、魔族が心惹かれる唯一の存在のことだ。一人の魔族につき一人、様々な種族、性別を越えて、誰かが必ず存在するとされている。魔族同士が片翼同士ならば何も問題なくすぐに婚姻ということになるが、問題は別の種族だった場合だ。


(別の種族だと、魔族が精一杯アプローチし続けなきゃならないんだよね)


 実際、ユーカ様も、陛下やリアン魔王陛下に熱烈なアプローチを受け続けたと聞いている。と、まぁ、これで分かる通り、両翼とは、ある一人の人物に対して、二人の魔族が自身の片翼だと断定した場合、その相手に対する呼び方となる。
 他にも、片翼や両翼については色々面倒な事柄はあるものの、だいたいの場合、これさえ知っておけば大丈夫だ。


「その、何の魔法なのか、お聞きしても?」

「心配するな。ただの転移魔法だ」


 その解答に、僕は心の底から安堵する。

 僕の中で、ユーカ様といえば、空高くそびえるほどに巨大な、釣竿型の魔法を使うイメージが強い。使用方法としては、その釣竿によって捕まえた者を、一気に空高く引き上げたり、地面すれすれに落としたりするだけのものだ。ユーカ様は『バンジージャンプみたい』と言っていたその魔法は、ユーカ様を狙った刺客達を恐怖のどん底に突き落としたらしい。一度、半分サイズと言われた釣竿の実験台にされたことのある僕としては、その恐怖はきっと、筆舌に尽くしがたかったであろうと予想できる。
 しかし、今回は、そんな恐怖の魔法ではなく、ただの転移魔法だ。もちろん、失敗すれば体の一部が吹き飛ぶくらいのことはあるものの、ユーカ様ほどの魔力コントロール力があれば、何も問題はないだろう。


「分かりました。では、すぐに向かいます」


 僕は知らなかった。これが、僕の運命を変えることになるだなんて……。







「こんにちは、ルティアスさん」

「こんにちは。ユーカ様。転移はこれからすぐに行いますか?」

「はい。そうしようと思います」


 ユーカ様が居る庭に来た僕は、ユーカ様に予定を聞いておく。近くには、僕と同じ護衛のライナードという男が居たため、短くとも、僕が居ない間は彼がユーカ様を護衛するのだろうと納得する。


「じゃあ、その、始めても良いですか?」

「はい、良いですよっ」


 恐る恐る尋ねてきたユーカ様ににっこり笑って応えると、ユーカ様は安心したような顔になって、それを呟く。


「なら、魔の森へ、転移っ!」

「へっ?」


 そして次の瞬間、視界が移り変わり……。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 なぜか地面よりも上の位置に転移させられた僕は、あの釣竿型の魔法を思い出して、情けなくも悲鳴を上げる。しかし、どうやら思ったより高さはなかったらしい。

 ドサッと尻から落ちた僕は、『痛っ』と声を上げながらもどうにか無事だったことに安心しかけて……最後に聞いた、ユーカ様の言葉を思い出す。


「魔の森……」


 魔の森。そこは、生息する魔物があまりにも狂暴であるため、どこの国も所有したがらない禁域指定された場所。稀に森の中から出てきた魔物が、周辺地域を襲うことはあるものの、普段はその魔物達は森の中で覇権を争っている。

 どこからか、獣の断末魔の叫びが聞こえてきて、僕は思わずブルリと体を震わせる。


(何がいけなかった? まさか、ユーカ様が作ったものとは知らず、厨房でクッキーをつまみ食いしたことが、陛下にバレた? それで今、遠回しに殺されそうになってるとかっ!?)


 一番あり得そうな想像に、僕は内心、後悔でいっぱいだった。正直、この魔の森を生き抜ける気がしない。

 とにかく、このままではいけないと、僕は立ち上がって……背後から物音がしたのを聞き取ってしまう。


(っ、魔物っ!?)


 早速襲われるのか、と、僕は素早く振り返る。そして……あり得ないその光景に、見事に固まることとなる。


「い、え……?」


 魔の森。人っ子一人近づかない、危険区域。そのど真ん中に、なぜか、ポツーンと木造の家が建っている。


『何者ですか?』


 そして、その家からは、どこか、甘い香りのするフードを被った女性、らしい人が出てきて、ドクリ、と心臓が高鳴る。


(えっ?)


 ドクンッ、ドクンッと心臓が脈打ち、僕は顔も見えない女性から目が離せなくなる。緊張からか、口の中はカラカラに渇き、全身に震えが走る。


(これ、は……)


 そして、何よりも大きな変化は……心が、体が、歓喜に包まれて、どうにかなりそうなことだった。


(僕の、片翼っ!?)


 片手に剣を握って警戒する彼女に、僕はゆっくりと側まで歩いていく。すぐにでも抱き締めたいところだったが、恐らく種族が違うであろう彼女を怯えさせるわけにはいかない。
 これ以上進めば斬りかかられる。そう、思える距離まで来ると、僕はスッとひざまづく。


「僕と結婚してくださいっ!」


 最初に口から出たのはその言葉だった。しかし……その直後、甘い香りが霧散し、僕は、ユーカ様によって、ヴァイラン魔国に引き戻されていたのだった。
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

処理中です...