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第一章 解放
第五話 飛ばされた先に(ルティアス視点)
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「はっ? あの、今、何と?」
「ユーカのために、魔法の実験台になれ」
そろそろ護衛の交代時間だということで、僕はユーカ様の元へ向かう途中、翡翠の長髪にサファイアの瞳を持つ魔族、ヴァイラン魔国魔王、ジークフリート陛下に捕まった。
ちなみに、ユーカ様というのは、ここ、ヴァイラン魔国と、お隣のリアン魔国、それぞれの魔王陛下に愛される両翼という貴重な存在だ。黒目黒髪で、幼い顔立ちの人間で、身長がかなり低い。たしか、まだ百五十センチに届かないと聞いた覚えがある彼女は、我々魔族からすれば幼女にしか見えない。
(まぁ、十八歳らしいけどね)
にわかには信じられない年齢ではあるものの、ユーカ様がそう言うのであれば正しいのだろう。
そして、世にも珍しい両翼を説明するには、まず、片翼というものの説明から入らなければならない。
片翼とは、魔族が心惹かれる唯一の存在のことだ。一人の魔族につき一人、様々な種族、性別を越えて、誰かが必ず存在するとされている。魔族同士が片翼同士ならば何も問題なくすぐに婚姻ということになるが、問題は別の種族だった場合だ。
(別の種族だと、魔族が精一杯アプローチし続けなきゃならないんだよね)
実際、ユーカ様も、陛下やリアン魔王陛下に熱烈なアプローチを受け続けたと聞いている。と、まぁ、これで分かる通り、両翼とは、ある一人の人物に対して、二人の魔族が自身の片翼だと断定した場合、その相手に対する呼び方となる。
他にも、片翼や両翼については色々面倒な事柄はあるものの、だいたいの場合、これさえ知っておけば大丈夫だ。
「その、何の魔法なのか、お聞きしても?」
「心配するな。ただの転移魔法だ」
その解答に、僕は心の底から安堵する。
僕の中で、ユーカ様といえば、空高くそびえるほどに巨大な、釣竿型の魔法を使うイメージが強い。使用方法としては、その釣竿によって捕まえた者を、一気に空高く引き上げたり、地面すれすれに落としたりするだけのものだ。ユーカ様は『バンジージャンプみたい』と言っていたその魔法は、ユーカ様を狙った刺客達を恐怖のどん底に突き落としたらしい。一度、半分サイズと言われた釣竿の実験台にされたことのある僕としては、その恐怖はきっと、筆舌に尽くしがたかったであろうと予想できる。
しかし、今回は、そんな恐怖の魔法ではなく、ただの転移魔法だ。もちろん、失敗すれば体の一部が吹き飛ぶくらいのことはあるものの、ユーカ様ほどの魔力コントロール力があれば、何も問題はないだろう。
「分かりました。では、すぐに向かいます」
僕は知らなかった。これが、僕の運命を変えることになるだなんて……。
「こんにちは、ルティアスさん」
「こんにちは。ユーカ様。転移はこれからすぐに行いますか?」
「はい。そうしようと思います」
ユーカ様が居る庭に来た僕は、ユーカ様に予定を聞いておく。近くには、僕と同じ護衛のライナードという男が居たため、短くとも、僕が居ない間は彼がユーカ様を護衛するのだろうと納得する。
「じゃあ、その、始めても良いですか?」
「はい、良いですよっ」
恐る恐る尋ねてきたユーカ様ににっこり笑って応えると、ユーカ様は安心したような顔になって、それを呟く。
「なら、魔の森へ、転移っ!」
「へっ?」
そして次の瞬間、視界が移り変わり……。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
なぜか地面よりも上の位置に転移させられた僕は、あの釣竿型の魔法を思い出して、情けなくも悲鳴を上げる。しかし、どうやら思ったより高さはなかったらしい。
ドサッと尻から落ちた僕は、『痛っ』と声を上げながらもどうにか無事だったことに安心しかけて……最後に聞いた、ユーカ様の言葉を思い出す。
「魔の森……」
魔の森。そこは、生息する魔物があまりにも狂暴であるため、どこの国も所有したがらない禁域指定された場所。稀に森の中から出てきた魔物が、周辺地域を襲うことはあるものの、普段はその魔物達は森の中で覇権を争っている。
どこからか、獣の断末魔の叫びが聞こえてきて、僕は思わずブルリと体を震わせる。
(何がいけなかった? まさか、ユーカ様が作ったものとは知らず、厨房でクッキーをつまみ食いしたことが、陛下にバレた? それで今、遠回しに殺されそうになってるとかっ!?)
一番あり得そうな想像に、僕は内心、後悔でいっぱいだった。正直、この魔の森を生き抜ける気がしない。
とにかく、このままではいけないと、僕は立ち上がって……背後から物音がしたのを聞き取ってしまう。
(っ、魔物っ!?)
早速襲われるのか、と、僕は素早く振り返る。そして……あり得ないその光景に、見事に固まることとなる。
「い、え……?」
魔の森。人っ子一人近づかない、危険区域。そのど真ん中に、なぜか、ポツーンと木造の家が建っている。
『何者ですか?』
そして、その家からは、どこか、甘い香りのするフードを被った女性、らしい人が出てきて、ドクリ、と心臓が高鳴る。
(えっ?)
ドクンッ、ドクンッと心臓が脈打ち、僕は顔も見えない女性から目が離せなくなる。緊張からか、口の中はカラカラに渇き、全身に震えが走る。
(これ、は……)
そして、何よりも大きな変化は……心が、体が、歓喜に包まれて、どうにかなりそうなことだった。
(僕の、片翼っ!?)
片手に剣を握って警戒する彼女に、僕はゆっくりと側まで歩いていく。すぐにでも抱き締めたいところだったが、恐らく種族が違うであろう彼女を怯えさせるわけにはいかない。
これ以上進めば斬りかかられる。そう、思える距離まで来ると、僕はスッとひざまづく。
「僕と結婚してくださいっ!」
最初に口から出たのはその言葉だった。しかし……その直後、甘い香りが霧散し、僕は、ユーカ様によって、ヴァイラン魔国に引き戻されていたのだった。
「ユーカのために、魔法の実験台になれ」
そろそろ護衛の交代時間だということで、僕はユーカ様の元へ向かう途中、翡翠の長髪にサファイアの瞳を持つ魔族、ヴァイラン魔国魔王、ジークフリート陛下に捕まった。
ちなみに、ユーカ様というのは、ここ、ヴァイラン魔国と、お隣のリアン魔国、それぞれの魔王陛下に愛される両翼という貴重な存在だ。黒目黒髪で、幼い顔立ちの人間で、身長がかなり低い。たしか、まだ百五十センチに届かないと聞いた覚えがある彼女は、我々魔族からすれば幼女にしか見えない。
(まぁ、十八歳らしいけどね)
にわかには信じられない年齢ではあるものの、ユーカ様がそう言うのであれば正しいのだろう。
そして、世にも珍しい両翼を説明するには、まず、片翼というものの説明から入らなければならない。
片翼とは、魔族が心惹かれる唯一の存在のことだ。一人の魔族につき一人、様々な種族、性別を越えて、誰かが必ず存在するとされている。魔族同士が片翼同士ならば何も問題なくすぐに婚姻ということになるが、問題は別の種族だった場合だ。
(別の種族だと、魔族が精一杯アプローチし続けなきゃならないんだよね)
実際、ユーカ様も、陛下やリアン魔王陛下に熱烈なアプローチを受け続けたと聞いている。と、まぁ、これで分かる通り、両翼とは、ある一人の人物に対して、二人の魔族が自身の片翼だと断定した場合、その相手に対する呼び方となる。
他にも、片翼や両翼については色々面倒な事柄はあるものの、だいたいの場合、これさえ知っておけば大丈夫だ。
「その、何の魔法なのか、お聞きしても?」
「心配するな。ただの転移魔法だ」
その解答に、僕は心の底から安堵する。
僕の中で、ユーカ様といえば、空高くそびえるほどに巨大な、釣竿型の魔法を使うイメージが強い。使用方法としては、その釣竿によって捕まえた者を、一気に空高く引き上げたり、地面すれすれに落としたりするだけのものだ。ユーカ様は『バンジージャンプみたい』と言っていたその魔法は、ユーカ様を狙った刺客達を恐怖のどん底に突き落としたらしい。一度、半分サイズと言われた釣竿の実験台にされたことのある僕としては、その恐怖はきっと、筆舌に尽くしがたかったであろうと予想できる。
しかし、今回は、そんな恐怖の魔法ではなく、ただの転移魔法だ。もちろん、失敗すれば体の一部が吹き飛ぶくらいのことはあるものの、ユーカ様ほどの魔力コントロール力があれば、何も問題はないだろう。
「分かりました。では、すぐに向かいます」
僕は知らなかった。これが、僕の運命を変えることになるだなんて……。
「こんにちは、ルティアスさん」
「こんにちは。ユーカ様。転移はこれからすぐに行いますか?」
「はい。そうしようと思います」
ユーカ様が居る庭に来た僕は、ユーカ様に予定を聞いておく。近くには、僕と同じ護衛のライナードという男が居たため、短くとも、僕が居ない間は彼がユーカ様を護衛するのだろうと納得する。
「じゃあ、その、始めても良いですか?」
「はい、良いですよっ」
恐る恐る尋ねてきたユーカ様ににっこり笑って応えると、ユーカ様は安心したような顔になって、それを呟く。
「なら、魔の森へ、転移っ!」
「へっ?」
そして次の瞬間、視界が移り変わり……。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
なぜか地面よりも上の位置に転移させられた僕は、あの釣竿型の魔法を思い出して、情けなくも悲鳴を上げる。しかし、どうやら思ったより高さはなかったらしい。
ドサッと尻から落ちた僕は、『痛っ』と声を上げながらもどうにか無事だったことに安心しかけて……最後に聞いた、ユーカ様の言葉を思い出す。
「魔の森……」
魔の森。そこは、生息する魔物があまりにも狂暴であるため、どこの国も所有したがらない禁域指定された場所。稀に森の中から出てきた魔物が、周辺地域を襲うことはあるものの、普段はその魔物達は森の中で覇権を争っている。
どこからか、獣の断末魔の叫びが聞こえてきて、僕は思わずブルリと体を震わせる。
(何がいけなかった? まさか、ユーカ様が作ったものとは知らず、厨房でクッキーをつまみ食いしたことが、陛下にバレた? それで今、遠回しに殺されそうになってるとかっ!?)
一番あり得そうな想像に、僕は内心、後悔でいっぱいだった。正直、この魔の森を生き抜ける気がしない。
とにかく、このままではいけないと、僕は立ち上がって……背後から物音がしたのを聞き取ってしまう。
(っ、魔物っ!?)
早速襲われるのか、と、僕は素早く振り返る。そして……あり得ないその光景に、見事に固まることとなる。
「い、え……?」
魔の森。人っ子一人近づかない、危険区域。そのど真ん中に、なぜか、ポツーンと木造の家が建っている。
『何者ですか?』
そして、その家からは、どこか、甘い香りのするフードを被った女性、らしい人が出てきて、ドクリ、と心臓が高鳴る。
(えっ?)
ドクンッ、ドクンッと心臓が脈打ち、僕は顔も見えない女性から目が離せなくなる。緊張からか、口の中はカラカラに渇き、全身に震えが走る。
(これ、は……)
そして、何よりも大きな変化は……心が、体が、歓喜に包まれて、どうにかなりそうなことだった。
(僕の、片翼っ!?)
片手に剣を握って警戒する彼女に、僕はゆっくりと側まで歩いていく。すぐにでも抱き締めたいところだったが、恐らく種族が違うであろう彼女を怯えさせるわけにはいかない。
これ以上進めば斬りかかられる。そう、思える距離まで来ると、僕はスッとひざまづく。
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