わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

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第一章 解放

第四話 新たな門出、だったはず

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「ふぅ……やっと、やっと解放されましたわっ!」


 とある森の中のログハウス。いや、魔の森と呼ばれる、どこの国も所有したがらない危険な魔物が蔓延る森の中のログハウス内にて、私はようやく訪れた解放感に両手を挙げて伸び上がる。


「思えばこの十六年、公爵令嬢として努力し続けてきたのよね」


 わたくしには、この世界とは別の記憶がある。そこで、わたくしは日本の女子高生だった。自分の名前は思い出せないけれど、それなりに楽しい人生だったはずだ。
 最期の記憶は、けたたましいクラクションの音と眼前に迫るトラック。前世のわたくしは、そこで、短い生を終えた。

 ただ、予想外だったのは、次の瞬間には、『リリス・シャルティー』という名の赤子になっていて、しかも、それが『夢と愛のラビリンスロード』という乙女ゲームの悪役令嬢の名前だったということだ。

 『夢と愛のラビリンスロード』は、主人公、ホーリーが男爵家に引き取られ、学園に通うところから話が始まる。
 ホーリーは、人の夢を渡る能力を持っていた。その能力を無意識に使ったホーリーは、様々な攻略対象の夢に潜り込み、その悩みを解決して、どんどん恋仲となっていくのだ。

 そのゲームの中で、わたくし、リリスが担当するのは、エルヴィス王子の婚約者の姉にして、主人公を邪魔する悪役令嬢という立場。普通、婚約者が悪役令嬢だと思われるが……実際、エルヴィス王子の婚約者である妹のシェイラも悪役令嬢である。エルヴィスルートに限り、悪役令嬢は二人になるという鬼畜仕様なのだ。

 リリスの詳しい設定は、リリスはシャルティーと政略結婚した公爵令嬢だった前妻の娘であり、前妻が亡くなった後、すぐに後妻として伯爵令嬢だったシェイラの母親がやってくる。シェイラはリリスと同じ年で(この時点でお父様が、ずっと浮気していたのは確実なのだけれど)、リリスを下僕のように扱い続けるが、そんなある日、エルヴィスがリリスと婚約を結ぶため、シャルティー公爵家に訪れるのだ。そして……血筋が良いという理由でリリスが選ばれそうになった時、シェイラが横から入ってきて、エルヴィスの婚約者の座を奪い取り、リリスをさらに格下として扱うようになる。
 ……ここまで聞くと、リリスは可哀想な女の子なのだけれど、長年虐げられ続けたリリスは、その性格が歪みに歪んでいた。自分が虐げられた分、誰かを虐げるのが楽しいという異常な考えを持つようになったリリスは、シェイラと一緒に、十六才の頃になって男爵家に引き取られたという主人公、ホーリーをエルヴィスに近づいたからという理由で虐め続ける。
 最初は、エルヴィスも取り合っていなかったが、次第にホーリーに惹かれるようになり、ついにはホーリーを殺害しようとした容疑でシェイラとリリスを断罪するのだ。

 もちろん、わたくしは最初から記憶があったため、シェイラに対しては常に強気で出ていたし、誰かを虐げて楽しめるような人格も育ててはいない。ただ、シェイラに対してそんな態度でいたせいで、本来ならシェイラがエルヴィスの婚約者となるのに、わたくしの方が婚約者に抜擢されてしまったけれど……。


「それでも、やっと、やっと、乙女ゲームの世界からも、煩わしい貴族の世界からも解放されましたわ」


 とりあえず、今日初めて出会ったホーリーが、どうやら転生者っぽいという感想は置いておいて、今はこの美味しい空気を満喫する。……時々、どこかで殺された獣の、断末魔の叫びが聞こえるけれど。


「後は、ギルドへの報告はどうしましょう? 『国外追放されたから、脱退する』で良いでしょうか?」


 わたくしは、幼少の頃から、それはそれは努力し続けてきた。
 とにかく、リリスというキャラクターは死にやすい。シェイラは生き残って勝ち誇ることはあるのに、そこにリリスが居ないことはざらだ。と、いうか、どのルートを通っても、リリスはどこかで死んでいたような気がする。
 何せ、一番長生きできているのが、エルヴィスとホーリーに断罪されて、火炙りにされるところなのだから。もう、リリスに関してはバッドエンドしかないのだ。


「王妃教育が始まる前から、魔法の訓練、必死にねだって剣術の訓練もして、なぜか最初から使えた分身の能力で毎日冒険者として姿を隠して鍛え続けて、いつの間にか冒険者ギルドSランクなんてものになって、『絶対者』なんて恥ずかしい二つ名をつけられて……」


 思い返してみれば、随分と鍛え続けた今生だと思えた。
 この世界の人間は、稀に魔法とは別の能力を持っていることがあり、それが、わたくしにとっての分身能力だった。分身の能力は、分身の体験をある程度切り取って本体へと返すことができる能力だ。そのおかげでわたくしはメキメキと魔法の腕も、剣の腕も上昇させることができた。
 そのうち、分身を使って、冒険者となり、この魔の森にログハウスを建てて、結界を張って、自分専用の住み処とすることもできた。魔の森なんて、よっぽど魔物が溢れ返ったとかでない限り、誰も近寄らない場所だ。隠れ家にはうってつけだった。


「まぁ、まずはお祝いに、お父様が隠していた年代物のワインでもいただきましょうか」


 実は、そろそろ断罪シーンになるからということで、わたくしはお父様が丁寧に隠していた年代物のワインをごっそり盗み出してこのログハウスに置いている。わたくしに対して、一切娘として接することなく、むしろ暴力で押さえつけようとしてきたお父様が、今頃慌てているかと思えば、少しは胸がスカッとするというものだ。

 もちろん、ある程度の年齢になったら、暴力なんて効かなかった。むしろ、返り討ちにすらしてみせたが、幼い頃にふるわれた暴力は今でも覚えている。


(お父様と継母はわたくしを敵視するし、妹のシェイラは性悪、婚約者のエルヴィス様は傲慢で人の考えを一切聞かないし、国王陛下や王妃様はわたくしのことをなぜか毛嫌いしているし……)


 客観的に見ても、わたくしの家庭環境は最悪だった。唯一の息抜きは、分身の冒険者としての経験を知る時。町の人との関わりや、冒険者仲間とのやり取りは、確実にわたくしを癒してくれた。


(ですが、あの冒険者ギルドのトップは、あの王弟殿下、なのですよね。……彼には、随分と苦労させられましたわ)


 ことあるごとに正体を探ろうとする王弟殿下を相手に、わたくしはのらりくらりとかわしつづけた。あの王弟殿下は、人の弱味につけこんで、無茶な依頼を振ることで有名だったから、最初から姿を隠していたわたくしは余計に目をつけられることになって大変だった。


「そんな苦労も、今日で終わりですわね。全財産はここにありますし、後は、ここでのんびり暮らしたり冒険したりしましょう」


 幸い、一生遊んで暮らせるだけのお金はある。しばらくはここで静かに暮らし、そのうち旅に出るのも良いかもしれない。

 そう思って、令嬢としてははしたないかもしれないが、ベッドにポフンッと倒れ込んだ直後だった。


「ぁぁぁぁぁあっ!!」


 すぐ近くに見える窓の外に、誰かが落ちてきたのは。
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