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第一章 解放
第八話 戦闘
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わたくしが魔の森に来てから六日が経った今日。何だか無性に魚が食べたくなったわたくしは、近くの川へ捕りに行こうとして……。
「待って! 僕も行くっ!」
なぜか、ルティアスまでついてくることになった。
「邪魔ですわっ。ついてこないでくださいっ」
「嫌だっ。僕はリリスさんの側に居たいっ」
「弱くて足手まといだと言っているんですのっ。貴方はここでじっと震えていれば良いんですわっ」
「確かに僕はリリスさんに比べれば弱いかもしれないけど、いざという時に、リリスさんの盾になることくらいできるよっ」
「必要ありませんわ。わたくしはこの森程度、一人で歩けます。さぁ、さっさと戻りなさいっ」
「嫌だっ」
朝からそんな口論を続けた結果、どうしても引いてくれそうにないルティアスに、わたくしの方が根負けした。
(……わたくしに守ってもらえると思っているのなら、大間違いですわ)
きっと、ルティアスはわたくしが守ってくれるから安全だと思っているのだろう。そうであれば、今回、少し脅せば自分の国に帰ってくれるかもしれない。あくまでも脅しだから、死ぬような目に遭わせるつもりはないものの、ある程度恐怖を味わってもらうこととしよう。
そう決意して、わたくしはご機嫌な様子のルティアスを横目に、森の中へと入っていく。
さすがに、この魔の森で必要以上に音を立てることが良くないということくらい理解しているルティアスは、わたくしに話しかけてくる様子はない。それを良いことにどんどん川へと向かっていたのだけれど……。
(おかしいですわね。ここまで来て、一度も魔物に遭遇しないだなんて……)
どうにも、森が静か過ぎる。いつもなら定期的に聞こえる獣の断末魔すら、今は聞こえてこない。
(引き返した方が……いえ、ですが、それだと目的が達せられませんわね)
すでに、魚のことよりもルティアスを脅すことの方が重要な目的であると認識していたわたくしは、すぐに引き返すという選択肢を退ける。
(大丈夫ですわ。わたくしなら、どんな敵が来たところで戦えますもの)
一応、この魔の森に居る魔物に負けないだけの実力はある。ルティアスという足手まといが居たとしても、戦いに不便はないだろう。
森の異変に気づいて、ピリピリと警戒をしている様子のルティアスをチラリと確認したわたくしは、それでもなお、進み続ける。そして……。
「ここです……わ……」
辿り着いた先に待っていたのは。
「グギャアァァァァァァアッ!!」
見たこともないほど、巨大な漆黒のドラゴンだった。
「っ、リリスさんっ!」
西洋系の、ずっしりと重そうな四肢を持つドラゴンを前に、一瞬、わたくしはその現実を認識できずに呆けてしまう。そして、そんなわたくしを、ルティアスは思いっきり抱き締めてジャンプする。
直後、わたくしが先程まで居た場所は、唐突にドロリと溶けた。
「何で、アシッドドラゴンがこんなところにっ!? いや、こんなところだからこそ、か?」
ドラゴンの種族は、どうやら最悪と称されるアシッドドラゴンらしい。不可視の酸の弾を飛ばして攻撃してくるアシッドドラゴンは、一匹だけでも災害級討伐対象として、国が相手取るような魔物だ。それが、あろうことか、今、目の前に居た。……しかも、二匹。
(こ、れは、さすがに予想外ですわっ)
これはダメだ。こんな災害級の敵を相手にして、ルティアスを無事なままでいさせることなんてできない。しかし、予想外はさらに起こる。
「リリスさん。ここは逃げてっ。こいつらは、僕が足止めするからっ」
わたくしより弱い癖に、ルティアスはわたくしを庇うように前に立って、剣を抜く。
「ダメですわっ。逃げるなら貴方の方ですっ。わたくしなら、こんな敵に殺られるようなことはありませんわっ」
「嫌だ。僕は、リリスさんのことを守るんだ」
(いえ、ルティアスが居ない方がわたくしとしては戦いやすいのですが!?)
しかし、ルティアスはどうにも決意を固めてしまったらしく、逃げてくれる気配がない。
「っ、足手まといは要りませんのっ」
「大丈夫。リリスさんは僕が必ず守るから」
「守ってもらわなくて結構ですわっ!」
そんな言い争いをしている間に、アシッドドラゴンは、完全にわたくし達をロックオンしたらしかった。
(っ、来る!)
不可視とはいえ、魔力感知をしていれば分かる酸の弾を見つけ、わたくしはとにかくルティアスと一緒にそれから逃げ始める。ジュウジュウと音を立てて、木々が、地面が、ドロリと溶ける様子を横目に、わたくしは剣を抜き放ち、駆ける。しかし、無数に襲いかかってくる酸の弾に、わたくしがルティアスと引き離されるのはすぐのことだった。
「くっ、ここからでは、彼を守れませんわっ」
今は、攻撃が集中しているために、ルティアスの側に行くことができない。今は、ルティアスも酸の弾を避けられているようではあったものの、基本的に、ルティアスは持久力に問題がある。このままでは、彼は遠からず攻撃を受けてしまうだろう。
「手早く決着をつけるっ」
駆けながら魔力を放出させたわたくしは、一つの大魔法を練り上げる。
「《真紅の風よ。切り裂き、抉り、絶ち斬る風よ。我が敵を絶て》っ」
『断層』と名付けられたその風魔法は、言葉の通り、赤い風となってアシッドドラゴンへと襲いかかる。
「ギャアァァァァアッ!!」
咄嗟に結界を張ったらしいアシッドドラゴンだったが、わたくしの魔法の方が一枚上手だ。その程度の結界なら、いくらでも突き破れる。
一瞬にして血の海に沈むアシッドドラゴンを見ながら、わたくしは素早くもう一体の方へと目を向ける。すると、今、まさに、酸の弾がわたくしの方へと迫っていた。
「《安寧の暗闇よ。色ある全てを呑み込み、無と帰せよ》」
結界を張っても弾かれる。そんな予感に、わたくしは咄嗟に腕を犠牲にしようとしたのだけれど、直後に聞こえたその声に、わたくしは戦慄する。
(闇の神級魔法!?)
それは、ルティアスの声で紡がれる魔法で、その発動の瞬間、森全体が何も見えない暗闇に閉ざされる。そして……。
「よ、かった……」
視界が元に戻ったと思ったら、そこにアシッドドラゴンの姿はなく、真っ青な顔のルティアスは、わたくしを見てそう呟いた後、フラリと倒れるのだった。
「待って! 僕も行くっ!」
なぜか、ルティアスまでついてくることになった。
「邪魔ですわっ。ついてこないでくださいっ」
「嫌だっ。僕はリリスさんの側に居たいっ」
「弱くて足手まといだと言っているんですのっ。貴方はここでじっと震えていれば良いんですわっ」
「確かに僕はリリスさんに比べれば弱いかもしれないけど、いざという時に、リリスさんの盾になることくらいできるよっ」
「必要ありませんわ。わたくしはこの森程度、一人で歩けます。さぁ、さっさと戻りなさいっ」
「嫌だっ」
朝からそんな口論を続けた結果、どうしても引いてくれそうにないルティアスに、わたくしの方が根負けした。
(……わたくしに守ってもらえると思っているのなら、大間違いですわ)
きっと、ルティアスはわたくしが守ってくれるから安全だと思っているのだろう。そうであれば、今回、少し脅せば自分の国に帰ってくれるかもしれない。あくまでも脅しだから、死ぬような目に遭わせるつもりはないものの、ある程度恐怖を味わってもらうこととしよう。
そう決意して、わたくしはご機嫌な様子のルティアスを横目に、森の中へと入っていく。
さすがに、この魔の森で必要以上に音を立てることが良くないということくらい理解しているルティアスは、わたくしに話しかけてくる様子はない。それを良いことにどんどん川へと向かっていたのだけれど……。
(おかしいですわね。ここまで来て、一度も魔物に遭遇しないだなんて……)
どうにも、森が静か過ぎる。いつもなら定期的に聞こえる獣の断末魔すら、今は聞こえてこない。
(引き返した方が……いえ、ですが、それだと目的が達せられませんわね)
すでに、魚のことよりもルティアスを脅すことの方が重要な目的であると認識していたわたくしは、すぐに引き返すという選択肢を退ける。
(大丈夫ですわ。わたくしなら、どんな敵が来たところで戦えますもの)
一応、この魔の森に居る魔物に負けないだけの実力はある。ルティアスという足手まといが居たとしても、戦いに不便はないだろう。
森の異変に気づいて、ピリピリと警戒をしている様子のルティアスをチラリと確認したわたくしは、それでもなお、進み続ける。そして……。
「ここです……わ……」
辿り着いた先に待っていたのは。
「グギャアァァァァァァアッ!!」
見たこともないほど、巨大な漆黒のドラゴンだった。
「っ、リリスさんっ!」
西洋系の、ずっしりと重そうな四肢を持つドラゴンを前に、一瞬、わたくしはその現実を認識できずに呆けてしまう。そして、そんなわたくしを、ルティアスは思いっきり抱き締めてジャンプする。
直後、わたくしが先程まで居た場所は、唐突にドロリと溶けた。
「何で、アシッドドラゴンがこんなところにっ!? いや、こんなところだからこそ、か?」
ドラゴンの種族は、どうやら最悪と称されるアシッドドラゴンらしい。不可視の酸の弾を飛ばして攻撃してくるアシッドドラゴンは、一匹だけでも災害級討伐対象として、国が相手取るような魔物だ。それが、あろうことか、今、目の前に居た。……しかも、二匹。
(こ、れは、さすがに予想外ですわっ)
これはダメだ。こんな災害級の敵を相手にして、ルティアスを無事なままでいさせることなんてできない。しかし、予想外はさらに起こる。
「リリスさん。ここは逃げてっ。こいつらは、僕が足止めするからっ」
わたくしより弱い癖に、ルティアスはわたくしを庇うように前に立って、剣を抜く。
「ダメですわっ。逃げるなら貴方の方ですっ。わたくしなら、こんな敵に殺られるようなことはありませんわっ」
「嫌だ。僕は、リリスさんのことを守るんだ」
(いえ、ルティアスが居ない方がわたくしとしては戦いやすいのですが!?)
しかし、ルティアスはどうにも決意を固めてしまったらしく、逃げてくれる気配がない。
「っ、足手まといは要りませんのっ」
「大丈夫。リリスさんは僕が必ず守るから」
「守ってもらわなくて結構ですわっ!」
そんな言い争いをしている間に、アシッドドラゴンは、完全にわたくし達をロックオンしたらしかった。
(っ、来る!)
不可視とはいえ、魔力感知をしていれば分かる酸の弾を見つけ、わたくしはとにかくルティアスと一緒にそれから逃げ始める。ジュウジュウと音を立てて、木々が、地面が、ドロリと溶ける様子を横目に、わたくしは剣を抜き放ち、駆ける。しかし、無数に襲いかかってくる酸の弾に、わたくしがルティアスと引き離されるのはすぐのことだった。
「くっ、ここからでは、彼を守れませんわっ」
今は、攻撃が集中しているために、ルティアスの側に行くことができない。今は、ルティアスも酸の弾を避けられているようではあったものの、基本的に、ルティアスは持久力に問題がある。このままでは、彼は遠からず攻撃を受けてしまうだろう。
「手早く決着をつけるっ」
駆けながら魔力を放出させたわたくしは、一つの大魔法を練り上げる。
「《真紅の風よ。切り裂き、抉り、絶ち斬る風よ。我が敵を絶て》っ」
『断層』と名付けられたその風魔法は、言葉の通り、赤い風となってアシッドドラゴンへと襲いかかる。
「ギャアァァァァアッ!!」
咄嗟に結界を張ったらしいアシッドドラゴンだったが、わたくしの魔法の方が一枚上手だ。その程度の結界なら、いくらでも突き破れる。
一瞬にして血の海に沈むアシッドドラゴンを見ながら、わたくしは素早くもう一体の方へと目を向ける。すると、今、まさに、酸の弾がわたくしの方へと迫っていた。
「《安寧の暗闇よ。色ある全てを呑み込み、無と帰せよ》」
結界を張っても弾かれる。そんな予感に、わたくしは咄嗟に腕を犠牲にしようとしたのだけれど、直後に聞こえたその声に、わたくしは戦慄する。
(闇の神級魔法!?)
それは、ルティアスの声で紡がれる魔法で、その発動の瞬間、森全体が何も見えない暗闇に閉ざされる。そして……。
「よ、かった……」
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