わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

文字の大きさ
16 / 78
第二章 ライバル

第十六話 ドラグニル竜国

しおりを挟む
 美しい褐色の石畳が敷き詰められた街道。白を基調とした大きめの建物が数多く立ち並び、遠くには巨大な時計台が見える。
 行き交う人々はどこかのんびりとした様子で、この場所だけ、ゆったりとした時間が流れているように錯覚してしまう。


「ここが、ドラグニル竜国……」

「えぇ、とりあえず、入国証はもらいましたし、行きますわよ?」


 この国には、何度か転移で来たことがあるため、わたくしはフードを被り、ルティアスを連れて、朝食後、すぐに転移して来ていた。物珍しそうに辺りを見るルティアスに、わたくしはさっさと用件を済ませようと歩き出す。


「ん? あれ? リリスさん? 竜珠殿って、お城みたいな場所なんだよね?」

「えぇ、大きな宮殿ですわね。それが何か?」

「……それらしい建物が見当たらないようなんだけど……」


 そう言われて、もしかしたら、ルティアスが所属する国では、城は縦に長いものというイメージが強いのかもしれないと思い至る。


「竜珠殿は、横に長い建物ですの。もちろん、高さがないわけではありませんが、ここでは個々の建物が大きいので、ここからだと見えないでしょうね」

「それって、他国から来た人とか、困らないかなぁ?」

「普通は案内人がつくものですから、大丈夫ですわ」


 わたくしが先導する形で歩いていくと、次第に、竜珠殿が見え出す。


「……何か、距離感がおかしくなりそうな大きさだね」

「えぇ、わたくしも、初めて見た時にはそう思いましたわ」


 街の建物が白を基調としているのに対して、竜珠殿は黒一色で造られた堅牢な建物だった。ズラリと、何本あるのか数えたくもないくらいに大量にある柵がびっしりと並び、その奥に、漆黒の建物が待ち構えている。


「……魔王城?」

「それは、ルティアスの方が本物を知っているのではなくて?」


 どうやら、ルティアスの中で、竜珠殿は魔王城らしい。確かに、わたくしも最初に見た時は同じ感想を抱いたけれど……本物の魔王城を知っているはずのルティアスにまでそう言わしめるというのは、中々にすごいことなのかもしれない。

 あまりの大きさに、距離感がおかしいような気持ちになりながらも、わたくし達は、竜珠殿の正門へと辿り着く。


「少し、声を変えますので、驚かないでください」


 正門の門番である竜人達に話しかける前に、わたくしは小声でルティアスにそう注意をして、口を開く。


「『絶対者』が来たと伝えろ」

「ははっ、少々お待ちくださいっ」


 男とも女ともつかない中性的な声で二人の門番に命じると、彼らは急いで伝音魔法を行使する。
 わたくしの声が変わったことか、それとも、この口調のことかは分からないけれど、ルティアスは少し目を見開いて、それでも黙ってわたくしの行動を見守っていてくれる。


「それと、今からは私のことは『絶対者』と呼ぶように」

「分かったよ」


 名前を呼ばれて、誰かに特定されてしまうのを避けたかったわたくしは、ルティアスにそう告げておく。
 少しすると、門番達は責任者からの伝音魔法を受けて、わたくし達の入場許可を出してくれた。

 じっと黙ったまま、玄関に居た侍女の案内に付き従う。さすがに、宮殿の中まで真っ黒ということはなく、所々に魔法の明かりが浮かぶそこは、赤い絨毯が敷かれていて、様々な調度品が展示してある。


「こちらで、陛下がお待ちです」

「あぁ、ご苦労様」


 威厳たっぷりにそう言って、わたくしはルティアスとともにその部屋へと入る。


「やぁ、『絶対者』。来てくれて嬉しいよぉ」


 ゆったりと豪華な椅子に腰かけた彼は、昨日見たばかりの、色気駄々漏れの顔で微笑んでいた。


「早速、作業に取りかかる。さっさと案内しろ」

「えぇーっ。せっかく来たんだから、もうちょっとお話しようよぉ。ほら、美味しいお茶とお菓子も用意してるんだからさぁ」

「不要だ」

「むー、可愛い小動物も取り揃えてるよ? モフモフだよ? 狼ももちろん用意してるよ?」

「…………不要だ」


 少し……いや、だいぶ悩んだけれど、ルティアスのうるうるとした視線を受けて、どうにか拒否する。


「そんなぁっ、『絶対者』はこれで必ず落ちるはずだったのにぃっ」

「ふっ」

「っ! むーっ」


 アルムの言葉に、ルティアスが鼻で笑い、アルムはそんなルティアスを睨み付ける。


(どうしてこんなに仲が悪いのかしら?)


 アルムもルティアスも、性格的には人懐っこい者同士で気が合いそうなものなのだけれど、どういうわけか、二人の仲は最悪だ。


(これが、同族嫌悪というやつかしら?)


 二人の険悪な様子を眺めながらため息を吐いたわたくしは、さっさと仕事を終わらせるべく、魔力を周囲に散りばめて、結界の損壊具合を調べ始めるのだった。
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...