わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

星宮歌

文字の大きさ
24 / 78
第三章 離れる時間

第二十四話 ギルド長への報復

しおりを挟む
 ルティアスを送り出して、わたくしはしばらくの間、ぼんやりとしていた。
 少し前までは一人で暮らしていたはずのログハウスが、急に広くなったように感じ、どこか寒々しくもある。


「わたくしは、いったい、どうしてしまったのかしら……?」


 こんな気持ちになることなど、今まで一度たりともなかった。そして、その気持ちの正体がいまいち掴めず、わたくしは一人、椅子に座ったまま悩む。


「……考えても仕方ありませんわね。それよりも、これからどうしましょうか?」


 しばらくして、思考を放棄したわたくしは、新たに、これからのことを考える。ここでやることといえば、自給自足のために獲物を狩ることくらいだけれど、正直、それは一月以上は問題ないといえるくらいに集まっている。野菜の類いは、ドラグニル竜国で買い足しておいたため、そちらも問題はない。


「……あっ、そういえば、忘れてましたわね。ギルドへの報告」


 と、そこで、本来ならばルティアスに出会った日に行う予定だったギルドへの報告をしていなかったことに気づく。伝音魔法でギルドに直接声を届けるつもりだったのが、ルティアスとの衝撃的な出会いですっかりと頭の中から抜けていたのだ。しかも、一度それを思い出して伝音魔法を使おうと思っていた時に、またルティアスが来たのだから、もう、わたくしの頭にギルドのことが思い浮かぶことはなかった。


「そうと決まれば、早速やってみましょうか」


 内容は、やはり二度目に伝音魔法で伝えようと考えていた『しつこいギルド長に愛想を尽かせたので、旅に出ます』の方が良さそうだ。何なら、今までどんなにギルド長がしつこかったかを暴露しても良い。それで、ギルドに人が居なくなろうが、今のわたくしには関係ない。


「どうせなら、あちら側でどのような混乱が起きるのか見てみたいものではありますが……国外追放をされている身ですからね。せいぜい、どのようなことが起こっているのか、想像しておきましょう」


 恐らく、端から見れば悪い笑顔を浮かべているであろうわたくしは、早速、長年お世話になってきたギルドへと伝音魔法を飛ばす。もちろん、声は『絶対者』の時のものに変えて。ついでに、拡声魔法も使って。


《おはよう。諸君。私は『絶対者』だ。この度、私はギルド長の横暴に愛想を尽かせたので、別の国へと旅立たせてもらう》


 朝のギルドは、それなりに人が多い。そんな中、こんな言葉を投げ掛ければ、ギルドは大混乱だろう。


《あぁ、ちなみに、ギルド長の横暴というのは、私が正体を隠したままであることにいちゃもんをつけて、何度も無茶な依頼を振ってきたというものだ。もしかしたら、諸君にも覚えがあるかもしれないな。他にも、私に向けて刺客を放ってきたこともあったぞ? まぁ、全て返り討ちにしたがな。諸君も、気をつけた方が良い。奴は、自分が気に入らないというだけで、他の冒険者にも手を出していたようだからな。『黒き牙城』や『氷の射手』なんかはその被害者だ、とでも言えば分かるか?》


 『黒き牙城』は、とあるパーティーの名前で、簡単な採取依頼を受けた後、何者かの襲撃を受けて、帰らぬ人となった。噂では、彼らはギルド長の交代のために動いていたらしい。そして、『氷の射手』は、一人の凄腕冒険者で、街を歩いている最中、暴漢に襲われて死亡した。彼女は、ギルド長が若い女性冒険者を食い物にしていることを知って、それを止めるように再三ギルド長へと楯突いていたらしい。
 この話は、それなりに有名なものであるため、犯人がギルド長だと知れば、ギルドに居る冒険者も考えを改めるに違いない。


《証拠は、ギルド長室、向かって左奥の角にある本棚の後ろに、隠し金庫がある。そこに、全ての暗殺の依頼書が揃っている。私はそれを確認するまでしかできなかったが、良ければ、諸君がギルド長の断罪を行ってくれると嬉しい》


 実際、わたくしはそこにあるということの確認まではできていた。しかし、わたくし一人がそれを知っていたところで、握り潰されるのは目に見えていたため、今日まで明かしてこなかったのだ。

 金庫の番号を伝え、最後に『諸君の健闘を祈る』と締め括って、わたくしは伝音魔法と拡声魔法を解除する。きっと、今頃ギルドではとんでもない大混乱が起こっていることだろう。


「仇は、これで取れると思いますわ。中途半端で申し訳ありませんが、勘弁してくださいね。クロトさん、ミュレッタさん」


 『黒き牙城』のパーティーリーダーのクロトと、『氷の射手』と呼ばれていた女性冒険者、ミュレッタは、わたくしが冒険者として動く中、数少ない友人だった。彼らが死んだ時、わたくしは必死に何が原因だったのかを調べあげ、ようやく、事の真相に辿り着いたのが卒業パーティーの前日。パーティーの日は、国外追放がなかったとしても、ギルド長の横暴を訴える準備はあった。しかし、最初の頃はまだ考えが纏まっていなかったこともあり、もしかしたら、今日宣言できたのは良かったのかもしれない。ルティアスのおかげで、レイリン王国への未練らしいものもほとんど払拭されているため、今は気分が晴れやかだ。


「あと心配なのは、残してきたシェイラのことくらい、ですからね」


 あの父親と義母親に挟まれて、シェイラが無事なのかどうか、確かめる術がない。ただ、シェイラにはいざという時、わたくしを呼べるお守りを持たせている。自分ではどうしようもない時に使うように言っているから、もし、わたくしの予想通りなら、そろそろそれが発動するかもしれない。


「心の準備だけはしておきましょう」


 レイリン王国のこれからなんて、わたくしには分からない。だから、わたくしの心配が杞憂に終わることを祈りつつ、わたくしは窓の外を見るのだった。
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

処理中です...